政策現場のための行動経済学入門
意思決定のバイアスとナッジ 前編
佐々木 周作
HP: https://ssasaki.weebly.com/profile-jp.html
Twitter: https://twitter.com/Shusaku_SASAKI
行動経済学とは?
• 行動経済学とは、心理学や社会学、脳科学の成果を経済学
に取り入れた、経済学の一分野。
• 失敗したり、後悔したりする現実的な人間像を前提にして、
経済や社会問題を分析する。
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行動経済学とは?
• 大抵の人間は、行動経済学的な意思決定のクセ(=バイ
アス)を持つ。
• 「将来の自分にとって、そして、社会全体にとっても望
ましい選択」を自力で実行することはなかなか難しい。
– 望ましい選択を認識しているのに、自制心が弱いなど
の理由から実行できない。
– 望ましい選択と競合する選択が存在するために、実行
できない。
– そもそも望ましい選択を認識していないために、実行
できない。 等々
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政策現場×行動経済学
• 政策担当者は、人々の意思決定のクセをよく理解して、
コミュニケーションの取り方を工夫する必要がある。
• 行動経済学を政策に活用する動き:
– 海外:英国の Behavioral Insights Team など
– 日本:環境省主催の日本版ナッジユニット BEST,
横浜市の YBiT など
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資料の構成
1. 意思決定のバイアス
2. ナッジ
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「先延ばし」
• 私たちは、やらねばならないということは理解しているが、
しんどいことの実行を先延ばししがち。
– 「明日になったらやる」と約束できる。
– しかし、いざ明日になると、その実行を先延ばしする。
• 先延ばしの背後には、「現在バイアス」という行動経済学
の意思決定のクセがある。
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現在と少し先の選択
質問①:
どちらを選びますか?
1. 今日、1万円もらう。
2. 1週間後、1万100円もらう。
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遠い将来同士の選択
質問②:
どちらを選びますか?
1. 1年後、1万円もらう。
2. 1年と1週間後、1万100円もらう。
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質問①と質問②の解説
• 大抵、質問①では「1」を選ぶ。
– 現在と少し先の将来の選択では、我慢しきれない。
– 100円の利益を放棄して、今日1万円受け取る。
• 逆に、質問②では「2」を選ぶ。
– 遠い将来の選択では、我慢強くなる。
– 1万100円を受け取る。
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「先延ばし」
• このような傾向を持つ人を、「現在バイアス」が強い人と
呼び、大事だけれどシンドイことを先延ばししがち。
– 遠い将来については理想的な選択を約束できるが、直近
のことだと誘惑に負けてしまう。
– 時間が経って「遠い将来」が「今」になると、理想的な
選択を先延ばしして実行できない。
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出典:『今日から使える行動経済学』(山根・黒川・佐々木・高阪 2019)
あなたの「先延ばし」傾向は?
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子どもの頃、夏休みの宿題をいつ終わらせたか?
1 夏休みが始まると最初のころ
2 どちらかというと最初のころ
3 毎日ほぼ均等
4 どちらかというと終わりのころ
5 夏休みの終わりごろ
「先延ばし」と健康行動
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男性** 女性* 全体***
34.54%
23.91%
30.53%
28.02%
18.75%
22.90%
現在バイアス(宿題後回し傾向)と肥満者比率
後回し傾向強 弱
出典:大阪大学アンケート調査(2005)
「損失回避」
• わたしたちは “損失” を極端に嫌う。
• 物価上昇率が5%のもとで賃金の3%上昇に賛成しても、
物価上昇率が0%のもとで賃金の1%カットには拒否反応
を示す。
(前者は、実質的に賃金の2%カット)
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お金をもらえるクジ
質問①:
どちらのクジを選びますか?
あなたの現在の所持金は0円です。
1. コインを投げて表が出たら2万円もらい、裏が出
たら何ももらわない。
2. 確実に1万円もらう。
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お金を失うクジ
質問②:
どちらのクジを選びますか?
あなたの現在の所持金は2万円です。
3. コインを投げて表が出たら2万円支払い、裏が出
たら何も支払わない。
4. 確実に1万円支払う。
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質問①の解説
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質問①の平均的な利得を計算してみよう!
くじ1の期待値 =
1
2
× 20,000 +
1
2
× 0 = 𝟏𝟎, 𝟎𝟎𝟎
くじ2の期待値 = 1 × 10,000 = 𝟏𝟎, 𝟎𝟎𝟎
50%の確率で2万円もらう
100%の確率で1万円もらう
くじ1・くじ2で、平均的な利得は同じなのに、
多くの人が、よりリスクの小さいくじ2を好む。
=「リスク回避的」
質問②の解説
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質問②の平均的な損失を計算してみよう!
くじ3の期待値 =
1
2
× −20,000 +
1
2
× 0 = −𝟏𝟎, 𝟎𝟎𝟎
くじ4の期待値 = 1 × −10,000 = −𝟏𝟎, 𝟎𝟎𝟎
50%の確率で2万円支払う
100%の確率で1万円支払う
くじ3・くじ4で、平均的な損失は同じなのに、
多くの人が、よりリスクの大きいくじ3を好む。
=「リスク愛好的」
リスクへの態度
□所持金0円を基準にして、「~円もらう」と
利得フレームで表現されるとき、
人の意思決定はリスク回避的になり、
よりリスクの小さい選択肢を好む。
□所持金2万円を基準に、「~円支払う」と
損失フレームで表現されるとき、
人の意思決定はリスク愛好的になり、
よりリスクの大きい選択肢を好む。
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リスクへの態度
□当初の所持金を考慮すると、くじを引いた後の平均的な
所持金は、質問①と質問②で変わらない。
– 質問①では、当初0円で平均的に1万円得る。
– 質問②では、当初2万円で平均的に1万円失い、結果と
して平均的に1万円残る。
□しかし、リスクへの態度は正反対。
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出典:『今日から使える行動経済学』(山根・黒川・佐々木・高阪 2019)
□人は、利得よりも損失を2.5倍くらい大きく感じる。
☞「損失回避」
留意点
色々な意思決定の特性やバイアスがあります。
22出典:『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹・平井 2018)

【前編:バイアス】政策現場のための行動経済学入門