Kagoshima University
コロナ禍における医療従事者の
感情コントロール
鹿児島大学 榊原良太
sakakibara@leh.kagoshima-u.ac.jp
Kagoshima University
● 医療従事者のメンタルヘルスをめぐる問題
・未曽有のパンデミックによる医療従事者のメンタルヘルス低下
(e.g., Chew et al., 2020; Schechter et al., 2020)
・感染への不安、長時間労働による疲労、環境の急激な変化 etc…
→ 日々、さまざまなネガティブ感情を経験
医療従事者の感情コントロール、メンタルヘルスを考える
Kagoshima University
● 感情コントロールとメンタルヘルス
・様々な目的に応じた日々の意図的な感情コントロール (Koole, 2009)
・効果的な感情コントロールはメンタルヘルスの維持、増進に寄与
・患者との関わりにおける肯定的再評価 (≒ポジティブ思考)の使用は
看護師のバーンアウトを低減 (榊原, 2015)
メンタルヘルス
適応的な方略
ex) 再評価・気晴らし
マインドフルネス
不適応的な方略
ex) 抑制・反芻
経験の回避
+
-
(e.g., Aldao & Nolen-Hoeksema, 2010; 榊原・北原, 2016)
Kagoshima University
● 再評価方略
・出来事や状況の解釈を頭の中で変更する方略
ex) コロナの影響により外出が制限されることに対して…
→ 「勉強する絶好の機会だ」
・様々な捉え直し方があり、感情コントロールの効果も異なる
(e.g., McRae et al., 2012; Webb et al., 2012)
「勉強する絶好の機会だ」
「何十年も続くわけではないだろう」
「仕方のないことだから受け入れよう」
「感染して大変な思いをするよりよいだろう」
外出制限
Kagoshima University
● コロナ禍での感情コントロールとその効果
・看護師における (肯定的) 再評価の使用傾向が高い
(e.g, Salopek-Žiha et al., 2021; Wang et al., 2021; Zhu et al., 2021)
一般的に適応的とされる方略が使用されている
しかし…
・(肯定的) 再評価と抑うつ・不安との関連が見られない
(e.g., Wang et al., 2021)
・なぜ(肯定的)再評価の使用がメンタルヘルスに寄与しないのか?
・なぜ(肯定的)再評価の使用傾向が高いのか?
Kagoshima University
● 強いネガティブ感情
・一般的に強いネガティブ感情は再評価でのコントロールが困難
(e.g., Sheppes et al., 2011)
・コロナ禍では平時より強いネガティブ感情を経験している可能性
- 自己・他者への感染恐怖
- 患者の死への直面
- 不確かな状況への不安
→ 再評価による感情コントロールがうまく機能しない?
Kagoshima University
● 使用できる対処方略の制限
・気晴らしは強いネガティブ感情に対しても有効 (e.g., Sheppes et al., 2011)
ex) 外出する、友人と会話する
→ コロナ禍では制限あり
・再評価のような個人内の認知的方略に頼らざるを得ない状況?
→ (肯定的)再評価の使用頻度が高い要因か?
強いネガティブ感情
…
…
気晴らし
再評価
再評価の使用が増加
→ ただし効果が
得られにくい!
Kagoshima University
● 感情労働という点での負担
・職務において求められる“適切”な感情の表出や経験
ex) 患者の前では不安な表情を見せない
・過度な感情労働はバーンアウトをもたらす
(e.g., Hülsheger & Schewe, 2011; 武井, 2006)
・職業アイデンティティへの影響 (e.g., 山田, 1997)
- 望ましい感情表出・経験への意図的な制御
→ 自然にはそれらが生じていないことの証拠
・「使命感」がバーンアウトへつながることも
(e.g., 久保, 2004; Price & Murphy, 1984)
Kagoshima University
● コロナ禍での感情コントロールの難しさ
① 強いネガティブ感情と使用できる方略の制限
→自身のメンタルヘルスの維持・向上に向けた感情コントロールが
十分にできない
② 平時よりも厳しい労働環境での感情労働
→ 意図的な感情の表出・経験の制御に伴う負担、職業アイデンティ
ティへの影響
対自・対他の2つの感情コントロールの困難さがコロナ禍での
医療従事者のメンタルヘルス低下の一因?
Kagoshima University
● 心理学ができることは?
・状況の特殊性を踏まえた上での継続的なサポート
- 平時とは何が異なり、医療従事者にいかなる影響を与えているか
- コロナ終息後の継続したサポートの必要性
・感染者を減らすための取組み
- 間接的に医療現場の負担を軽減
榊原・大薗 (2021)
- マスク着用を促す要因の検討
→ 感染者数減に向けた対策へ
マスク着用
自己・他者への
感染予防
他者への同調

日心シンポジウム2021働く人のための心理学:話題提供1