臨床疫学
-ありふれた病気の日常臨床-
名郷直樹
自己紹介
 1986年 自治医大卒
 同年 名古屋第二赤十字病院研修医
 1988年 作手村国保診療所
 1992年 自治医大地域医療学
 1995年 作手村国保診療所
 2003年 社)地域医療振興協会
東京北社会保険病院臨床研修センター
 2011年 武蔵国分寺公園クリニック
 専門領域 医者
インフルエンザの診断
迅速検査は役立つか
インフルエンザの検査が陰性
 どういう結果だと思いますか?
 隣同士で話し合ってみてください
臨床疫学による検査評価
 EBMの5つのステップ
 臨床疫学を個別の患者に役立てる手法、行動指針
 そのために必要な臨床疫学的知見
 事前確率・事後確率
 感度・特異度
 尤度比
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
Step1.問題の定式化
 Patient:どんな患者に
 Exposure:どのような治療、検査をしたら
 Comparison:どんな治療、検査と比べ
 Outcome:どうなるか
定式化の実際
 この患者の診断についての問題を
 PECOの形に定式化しよう
 個人で
 隣同士で
Step1.問題の定式化 診断編
 Patient:咳、熱の患者で
 Exposure:流行期と
 Comparison:非流行期で
 Outcome:インフルエンザの頻度はどれほどか
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
UpToDateを調べる
 流行期に咳と熱がある患者
 79%がインフルエンザ
 In a retrospective pooled analysis of signs and symptoms
in 3744 adolescents and adults with an influenza-like
illness who participated in phase II and III trials of
neuraminidase inhibitors during outbreaks [1], the best
multivariate predictor was the combination of fever and
cough within 48 hours of the development of symptoms,
which had a positive predictive value of 79 percent for
documented influenza.
 Arch Intern Med. 2000;160(21):3243.
Step1.問題の定式化 診断編
 Patient:インフルエンザを疑う患者で
 Exposure:迅速キット陽性の場合
 Comparison:陰性のときに比べ
 Outcome:インフルエンザと確定してよいか
Step1.問題の定式化 診断編
 Patient:インフルエンザを疑う患者で
 Exposure:迅速キット陰性の場合
 Comparison:陽性のときに比べ
 Outcome:インフルエンザを除外してよいか
UpToDateを調べる
 感度62% 特異度98%
 In a meta-analysis of 159 studies that evaluated rapid
influenza antigen tests, the pooled sensitivity was 62
percent (95% CI 58-67 percent) and the pooled specificity
was 98 percent (95% CI 98-99 percent) [17].
 Ann Intern Med. 2012;156(7):500.
 感度54%
 In a subsequent meta-analysis, the pooled sensitivity was
54 percent for influenza A viruses and 53 percent for
influenza B viruses [12].
 Ann Intern Med. 2017;167(6):394.
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
3つの批判的吟味
 研究方法は妥当か
 UpToDateに引用された最新のメタ分析
 結果は何か
 ここを今から説明します
 患者に役立つか
 最後にみんなで考えてみましょう
感度と特異度
疾患(+) 疾患(-)
検査(+) a b
検査(-) c d
感度=a/(a+c)
特異度=d/(b+d)
真陰性率
真陽性率
SnNoutとSpPin
 SnNout
 Sensitivityが高い検査がNegativeのときその疾患を除外
(rule out)
 感度の高い検査は除外診断に役立つ
 SpPin
 Specificityが高い検査がPositiveのときその疾患の診断を確
定(rule in)
 特異度の高い検査は確定診断につながる
迅速診断の感度・特異度
 感度は50-60%と低い
 陰性でもインフルエンザでないと診断できない
 特異度は98%と高い
 陽性の時はインフルエンザと診断できる
尤度比(陽性/陰性尤度比)
 検査所見によって疾患可能性がどれほど変化するか
 陽性の時にどれほど高まるか
 陽性尤度比 = 感度 / (1-特異度)
 陰性の時にどれほど低まるか
 陰性尤度比 = (1-感度 )/ 特異度
ベイズの定理
 事前オッズ x 尤度比 = 事後オッズ
 オッズは確率のようなもの
 事後オッズは検査後の疾患の可能性
 検査後の疾患可能性は
 事前オッズと尤度比に比例する
ベイズの定理の直感的理解
 事前オッズ x 尤度比 = 事後オッズ
 血液型を予想するときに
 どうすれば当たりますか?
 隣同士話し合ってみてください
血液型を予想する
 予知能力を高める
 性格を聞く?
 私には無理ですね
 高い事前確率を利用する
 A型ですね → 40%当たる
 AB型ですね → 10%当たる
インフルエンザを予想する
 流行期に発熱と咳 → 80%当たる
 80%インフルエンザといわれたらどう思いますか?
 隣同士話し合ってみてください
 検査を受けたいですか?
 隣同士話し合ってみてください
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
流行期のインフルエンザ診断
 咳と熱があれば検査はしない
 80%インフルエンザ、残りの20%はかぜ
 20%のかぜもインフルエンザとして対処
 でも検査することもあります
 どういうときですか?
 隣同士話し合ってみてください
 残り2割は本当にかぜ?
ベイズの定理
 事前オッズ x 尤度比 = 事後オッズ
 検査が陰性の時の診断確率が計算できる
 尤度比は感度・特異度から求められる
 UpToDateから感度54%、特異度98%
 陰性尤度比=(1-感度)/特異度)=46/98=0.47
 事前オッズは事前確率から求められる
 流行期は咳、熱で79%
 オッズは?
オッズと確率
 確率
 ある事象 / 全事象
 オッズ
 ある事象 / そうでない事象
 例:3人のうち、1人がインフルエンザ
 確率は 1/3
 2人はインフルエンザでなく、 1人がインフルエンザ
 オッズは 1/2
確率からオッズを求める練習
 確率が 1/2
 オッズは 1/1
確率が 1/10
 オッズは 1/9
確率が 1/100
 オッズは 1/99
オッズから確率を求める練習
 オッズが3
 確率は3/4
 オッズ 1/2
 確率は 1/3
 オッズが 1/100
 確率は 1/101
検査陰性時の事後確率
 UpToDateのデータ
 事前確率79% おおよそ 80% → 80/100
 事前オッズ 80/20=4
 感度 54
 特異度 98
 陰性尤度比 0.47 → おおよそ 0.5
 事後確率を計算してみましょう
 事後オッズ=事前オッズ×陰性尤度比=4×0.5=2
 事後確率=2/(1+2)=67%
 検査陰性でも、7割はインフルエンザ!
検査陽性時の事後確率
 UpToDateのデータ
 事前確率79% おおよそ 80% → 80/100
 事前オッズ 80/20=4
 感度 54
 特異度 98
 陽性尤度比 54/2 → 27
 事後オッズ=事前オッズ×陽性尤度比=4×27=108
 事後確率=108/(1+108)=99%
 検査陽性ならインフルエンザ!
ノモグラムを使う
 左の列が事前確率
 真ん中が尤度比
 2点を結んで
 右の列との交点が事後確率
 事前確率 80%
 尤度比 0.5
 事後確率 70%
EBMの5つのステップ
1. 問題の定式化
2. 問題についての情報収集
3. 得られた情報の批判的吟味
4. 情報の患者への適用
5. 1-4のステップの評価
もしあなただったら
 もしあなたがインフルエンザ流行期に咳や熱が出たら
 インフルエンザの迅速検査を受けるかどうか
 しばし考えてみてください
 隣同士話し合ってみてください
検査する前の状況再考
 インフルエンザの可能性 80%
 残りの20%がかぜなら問題なし
 検査せずにインフルエンザとして対応
 そこに見逃すと危険な病気の可能性があるとき
 検査して陽性ならインフルエンザならそれとして対応
 陰性ならインフルエンザ以外の可能性が20から30%に増加
 危険な病気の可能性が増したと考え、さらに次の検査
具体的には
 咳が軽く、腎盂腎炎の既往がある女性
 腎盂腎炎を見逃してはいけない
 陰性なら尿検査
 咳がひどく、呼吸数が多く、肺雑音がある
 肺炎を見逃してはいけない
 陰性なら胸部X線写真
迅速検査の適切な利用
 陰性時に次の検査が必要となると考えるときのみ
 流行時でも迅速検査を行う
 そうでなければ迅速検査は行わない
 陰性でもインフルエンザと考えるなら
 陰性でも危険な疾患の除外が必要でないなら
 検査しないほうがいい
 それでも検査する
 やぶの証明
まとめ
 流行期のインフルエンザの事前確率は80%
 迅速検査の陽性尤度比は27
 陰性尤度比は0.5
 検査陽性ならインフルエンザ
 検査陰性でも70%はインフルエンザ
 陰性の時に引き続き検査が必要なときのみ検査
 陰性で次の検査が不要と考えるなら検査しない
臨床疫学と実臨床での診断
 診断に関する臨床疫学をマスターせずに実臨床を行
うことはできない
 しかし
 私の年代では臨床疫学をきちんと学んでいる医師は
ほとんどいない
 ここ10年は国家試験に必ず出題される
 しかし試験問題は解けるが、実際の臨床に生かして
いる医師はまだまだ少ない
EBMについて勉強したい
 EBMを武器に都市部の地域医療に賭ける
日々のリアルなEBMの実践
 EBMの実践は
 臨床家の必須技能
薬剤師向けの教科書
 構造主義医療
 ベイズ統計学的検討
一般向けに

インフルエンザの診断2018