More Related Content
Similar to 認知神経心理学 2002 (20)
More from TeruKamogashira
More from TeruKamogashira (20)
認知神経心理学 2002
- 3. たことにはならない。(b の立場に相当?)
これがもし仮に、人間が音を聴いたら必ずある種の反応を示す単純な化学物質であるとすれば(このような b 的な見
方を採用すれば)この反応の方を確認すれば音を聴いたことを確認したことになるだろう。
つまり、どんなに a 的手法が発達しても臨床医学として、あるいは一般社会にその成果を還元する学問としては聴こ
えているかどうかを報告するとき b 的立場なしではいられないのか?
以上の精神と物質の関係をめぐる哲学的論争にかかわる両極端の態度の間のどこかに位置して、神経生物学と心理学の
境界では多様な研究実践が日々展開されている。医学者に限らず、意識して言葉を選んで考え、発信している人間なら 、
古代からその危険性に気付いていた難所であるが、重要な区別はおそらく、研究対象とした認知活動なり脳活動なりの
領域に応じてどのような研究手法をとるかという問題に帰着する。
認知的諸機能が脳でいかに表現されているか理解するというのが重要なことは誰にも異論がないので、この目的達成の
最良の手法をめぐって学派が分かれる。
感覚を扱う科学ならどんなジャンルでも、その立場を明確に設定しておかないと堂々巡りに陥ってしまう恐れがある。
「中枢性聴覚障害」の場合、聴覚に加えて言語がその対象になってくるので、よりいっそうの注意が必要である。
生物学的制約のアプリオリな導入を拒否することについて、神経心理学では、マーの提唱した説明レベルの自立性とい
う考え方に依拠して正当化することが多い。彼は情報処理理論が分析レベルにおいて三つに区別されうると述べた。
最も高次のレベル、つまり機能レベル(マーは計算論レベルと呼んだ)はある課題が達成されるためにシステムがで
きなければならないことの手続きを問題とするものである。このレベルではシステムの可能な入力の集合に対して出力
の集合の写像関係を形式的に記述する。ここでは何に対して(どの目的のために)どの手段や処理が適切かが記述され
る。視覚の領域で例をあげれば、光のパタンを変換して、その後の行動を導く環境情報とするような、視知覚の諸機能
はこのレベルで定義されることになる。
① 第一に単純にプログラムがどんな機能(関数)を実現するかということで、入力と出力を結ぶ関係の記述にかかわる
問題である。
たとえば刺激の物理的変化と反応の変化との対応関係を調べ(これは精神物理学が扱うテーマである)、両者の関係を
抽象的、定量的に表そうとすることがある。一例をあげれば、感覚的刺激音の強度を組織的に変化させ、これに応じて
被験者の強度知覚がどう変化するかを測定して、刺激の物理的変化と反応特性という心理的変化との間に成り立つ法則
- 19. ABR や蝸電図といった電気生理学的検査や PET などの画像診断によって患者が聴こえているかどうかを他者も判別でき
るようになったとも思える(a から b への方向)が、こう言えるのは感覚を扱う科学が扱う危うさに目をつぶっての上で
の話である。
また、脳の損傷が認知の細分された領域の選択的欠陥を生みだしうるという仮定は、中枢神経系における機能の独立的
組織化を前提にしなければ主張しえない。こうして、心的過程と脳機能との関係が認知神経心理学の最重要問題ではな
いとしても、脳機能の解剖・生理学的な明示化はどのみち必要にはなるのである。ところで、コスリンとファン・クリ
ーク(一九九〇)が言うように、認知諸機能は広範に分布する非特殊的な神経回路網の活性化によって支えられている 、
ということもありえないことではない。しかしながら、カラマッツァが強調したように、こうした異論は理論上または
仮説上のものにとどまり、事実の上では、脳損傷が認知の選択的障害を引き起こす例しか観察されておらず、こんにち
までのところ依然として機能的特殊化の仮説はもっともらしさを失っていないのである。
神経心理学では脳機能それ自体は、分子、細胞、神経回路網、など、いくつかの異なったレベルで記述することがで
き、それゆえ構造と機能の広範な視野での比較が必要なことがいつも強調されてきた。この見解は過っていないが、マ
ーの示した分析レベルの自立性ということを充分に考慮にいれたものとは思われず、心理学的説明のレベルから脳機能
分析のさまざまなレベルへの橋渡しが想像以上に複雑になることを強調しているにすぎない。
さらに、この論議にはコネクショニズムもかかわってきている、ある研究者たちは認知の計算論的規則を理解するた
めに回路網を構成している。また別の研究者たちは、コネクショニズムの回路網で、実際の脳の神経回路網がどのよう
に機能するか、そしてどのように行動を産出するかを理解できると考えている。この新しい分野は神経模倣学と呼びう
るものである。
#「診断とは何か」の変化が技術の進歩に促されているように見えるが、実は逆に、技術の進歩の背景には、認知機能