閉経時に女性の喉頭に形態的な変化が生じ、それに伴う症状が現れる

1. 性ホルモンと喉頭
The menopause and the female larynx, clinical aspects and therapeutic options: A literature review
Maturitas 64(2009) 27-32
閉経時に女性の喉頭に形態的な変化が生じ、それに伴う症状が現れる
喉頭鏡、ストロボの所見
Abitbol:
閉経に伴い１００人中１７人の女性に dysphonia が生じた。
８人で一側性、９人で両側性に以下の変化：
声帯筋の委縮、声帯粘膜が薄くなる、発声時の振幅が小さくなる、声帯の白みがなくなる、微細な
静脈瘤、cricoarytenoid joint の可動性低下
Schneider:
声帯の浮腫、粘膜表面が粘ちょうになる
Smear の所見
Abitbol, Caruso:
Vocal smear は cervical smear と同じ細胞診の所見だった：
Mucosal subatrophy with basophils and a reduction of glandular cells
喉頭は子宮頸部粘膜と同様エストロゲンの標的である。
音声の評価
閉経に伴い、声帯の浮腫が生じ、声の基本周波数が低くなるという報告もあるが、加齢変化と区別
できていない。
閉経と逆流性食道炎は関連が強いので、声の変化はそのせいかもしれない。
Hormone replacement therapy
Caruso:
Hormone replacement therapy を行うと、声帯のスメアも膣スメアと同様な変化を示す。
Lindholm:
エストロゲン＋プロゲステロンの投与よりも、エストロゲン単独の投与の方が、声が低くなるこ
とを防ぐ効果が高い。
Firat:
エストロゲン内服よりもエストロゲン点鼻の方が、声が低くなることを防ぐ効果が高い。閉経後
の professional voice user には価値がある。
性ホルモンの喉頭への影響

2. エストロゲン：
粘膜に対して hypertrophic and proliferative effect を持つ。
表面の desquamation（落屑）を抑制し、脂肪細胞を成熟させる。
毛細血管の透過性を上げる。
腺細胞からの分泌を促進する。
横紋筋には影響しない。
プロゲステロン：
Antiproliferative effect
desquamation（落屑）を促進。
腺からの分泌を減らす。
毛細血管の透過性を抑制して、組織をうっ血させる。
アンドロゲン：
骨格筋の hypertrophy と脂肪細胞の減少を起こすことは知られているが、喉頭の筋で起きている
かどうかは不明。
動物の喉頭に性ホルモンのリセプタはあるか？
Aufdemorte, Holt:
ヒヒの声帯筋、固有層、軟骨、軟骨膜にエストロゲンリセプタあり。
Wu:
カエルの喉頭筋にエストロゲンリセプタあり。
狩野・近藤:
モルモットの軟骨に腱が付着するところにアンドロゲンリセプタあり。
ヒトの喉頭に性ホルモンのリセプタはあるか？
Newman:
ヒトの喉頭において、腺細胞の細胞質にアンドロゲンリセプタが、表皮細胞の細胞質にエストロ
ゲンリセプタが見つかったと報告。
Schneider:
ヒトの声帯において、エストロゲンリセプタ(ERα)、プロゲステロンリセプタ、アンドロゲンリセ
プタのいずれも見つからなかった。性ホルモンリセプタは核にあるはずだから、Newman の結果
は false positive であると批判。
今後何をすべきか
Higgins：性ホルモンの喉頭への影響は neurotransmitter の量の調節を介してという説がある。
プロゲステロンは neuromuscular junction (NMJ)からの Ach の分泌を増やした(Meiri, 1986)。
ラットの骨格筋ではアンドロゲンリセプタは NMJ の近傍にある(Monks, 2004)。
内喉頭筋における NMJ の分布を調べて、その周辺のアンドロゲンリセプタを探す。