資本主義と金融
近未来金融システム創造プログラム
安田洋祐
大阪大学 大学院経済学研究科 准教授
Eメール: yasuda@econ.osaka-u.ac.jp
ウェブ: https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp
2017年5月 1
本日の報告の流れ
1. テキスト紹介
2. お金や利子はなぜ嫌われるのか?
– 情報の非対称性
3. なぜお金が“価値”を持つのか?
– ゲーム理論
4. 市場は格差を拡大するのか? ← 別スライド参照
– マッチング理論
5. 民意の集計はなぜ難しいのか? ← 時間があれば
2017年5月 2近未来金融システム創造プログラム
必読図書
• “単なるファイナンスのテクニカルな説明
に留まらず、それを超えた、ファイナンス
の基礎にある人間や資本主義社会に関
する本質的な理解を深めるための哲学
的思索のための本”(ⅱページ)。
• 第1章「教科書的理解」
– 財務諸表
– 資金調達
– 企業価値
• 第2章「10大概念」
– おカネ
– 利子
– 市場
• 第3章「新しい資本主義」
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 3
コーポレート・ファイナンス
講義と関連する項目(必読!)
(cf.アセット・プライシング)
推薦図書
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 4
お金や利子はなぜ嫌われるのか?
情報の非対称性
2017年5月 5近未来金融システム創造プログラム
テキストからの引用
• 「人生の悲劇は2つしかない。1つは、金のない悲劇
。もう1つは、金のある悲劇。世の中は金だ。金が悲
劇を生む」
– NHKドラマ『ハゲタカ』
• 「友情によるお金の貸し借りが、貨幣という石の女に
子供を産ませるなどということはあってはならない」
– ウィリアム・シェークスピア『ヴェニスの商人』
• 「高利貸しを行う者は地獄に落ちる。高利貸しと関
わらなかった者は貧困に陥る」
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 6
お金の積極的な意味
• 「貨幣の存在は、人間に経済の実体的構造から超
越する『自由』を与えることによって、その交換活動
の範囲を大きく拡大することになった」
– 岩井克人『経済学の宇宙』
• 「お金を使うときは、人間は身分を超えて平等になる
。これが民主主義です」
– 経済活動の選択肢の拡大
– 資本主義の原動力(←お金への無限の欲望)
– 慣習や差別への対抗
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 7
新美南吉 童話『手袋を買いに』
• 手袋のお使いのため、母狐は子狐の片手を
人間の手に変え、町に送り出す。
– 狐だとバレると手袋が買えない!(差別)
• 子狐は店で間違って狐の手で白銅貨を差し
出すが、店の主人は手袋を売ってくれる。
• なぜ? 主人が親切だった??
– お金がホンモノだった!→ 貨幣の下の平等
– 市場の匿名性が鍵?
• 完全競争市場 vs. マッチング市場
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 8
お金がもたらす人間疎外
• 賃金によって労働はモノと同一化され、労働が有す
る支払い不能な尊厳を、価値のうちに覆い隠してし
まい、人間の労働とサービスは、モノと同じように商
業的価値をもとものとみなされてしまう。
• 人間はその能力を貨幣によって評価され、経済的シ
ステムへと統合され、経済的発展のさまざまな段階
において値段をつけられる存在になってしまう。
– エマニュエル・レヴィナス『貨幣の哲学』
• 「悪魔のひき臼」(カール・ポラニー『大転換』)
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 9
10
理想的な「完全競争市場」
• 個人の最適化行動に
基づく需給分析が柱
– 効用最大化 → 需要
– 利潤最大化 → 供給
• バッテンで決まる価格
– 資本市場 → 利子
– 労働市場 → 賃金
 分析に潜む仮定は?
2017年5月
「情報の非対称性」が存在すると…
近未来金融システム創造プログラム
お金はなぜ“価値”を持つのか?
ゲーム理論
2017年5月 11近未来金融システム創造プログラム
キーワード
• 貨幣商品説 vs. 貨幣法制説
– 自己循環論法(岩井克人『貨幣論』)
• 欲求の二重の一致
– サーチ理論、ゲーム理論(清滝=ライト論文)
• 未来からの贈り物
– 世代重複モデル
• 世界の終わりが予想されると?
– バックワードインダクション
– 繰り返しゲーム理論:有限回 vs. 無限回
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 12
Kiyotaki, Nobuhiro, and Randall Wright.
"On Money as a Medium of Exchange."
Journal of Political Economy 97, 1989.
物々交換 vs. 貨幣経済
• K種類の財
– 各人はどれか一つを受け取る → K通り
– 別の特定の財と交換したい → K-1通り
• 物々交換
– K (K-1) 回
• 貨幣経済
– K+K = 2K 回
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 13
K > 3 で、物々交換が
貨幣経済を上回る(平
均的な)取引回数に!
世代重複モデル
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 14
Champ, Freeman and Haslag
“Modeling Monetary Economies”
Figure 1.1 より抜粋
物々交換の罠
• 第1世代
– 1期の財の代わりに2期の財が欲しい
• 第2世代
– 2期の財の代わりに3期の財が欲しい
• 第t世代
– t期の財の代わりにt+1期の財が欲しい
• ×欲求の二重の一致 → 取引不能!
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 15
世界の終わりでお金は紙くずに?
2017年5月 16
もしも世界がT期後に終わるとすると…
1. T期 → 次の期が無いので誰もお金を受け取らない
2. T-1期 → お金を受け取っても来期は絶対使えない
– 実質的に今期が最終期 → 誰もお金を受け取らない
3. T-2期 → お金を受け取っても将来に使うことは無理
– やはり誰もお金を受け取ろうとしない
– 以下、1期にさかのぼるまでこの議論は続く…
4. 世界の終わりが分かった瞬間に紙幣は紙くずに!?
近未来金融システム創造プログラム
バックワードインダクションの罠
2017年5月 17
• Tはどんなに大きい数でも構わない
– いつかこの世界(人類の歴史)は終わる → Tは有限
– 疑問) だとすると、今すぐお金が使えなくなるのでは?
• 「有限の長さでゲームが終わる」のと「T期でゲームが終わる
ことが確実に分かっている」のは全く異なる状況
– ゲームを後ろから解くためには、プレーヤーたちがいつゲームが終わ
るのかをお互いに正確に知っている必要がある
– 知らない場合には、常に将来の可能性を考慮するはず!
• 例) 今期裏切ったら、将来お仕置きされるかもしれない…
• (可能性として)「無限に続くゲーム」と見る方が適切!
近未来金融システム創造プログラム
将来の価値を「割り引く」
2017年5月 18
• 無限に続くゲームでは、将来の利得を「割り引く」
– 来期の利得は、今期と比べて小さく(δ倍で)評価される
• この(1より小さい)δを「割引因子」(discount factor)と呼ぶ
– 割引因子が大きい = 将来を重視(忍耐強い)
– 割引因子が小さい = 現在を重視(刹那的?)
• さまざまな理由によって将来は割り引かれる
– 利子の存在: 金銭リターンは利回りで調整して評価する
– 主観的割引: 今すぐもらえる利得を将来の利得より重視する
– ゲーム終了リスク: ゲームが終わる危険性を考慮する
近未来金融システム創造プログラム
市場は格差を拡大するのか?
マッチング理論 別スライド(リンク)参照
2017年5月 19近未来金融システム創造プログラム
投票問題を考えよう
民意の集計はなぜ難しいのか? (以下のネタ本は慶應大学の坂井教
授による『多数決を疑う』。名著です!)
2017年5月 20近未来金融システム創造プログラム
投票のパラドックス
- 意見の“集約”はすごく難しい
• 有権者の好みから多数決で社会全体の好みを求めると…
– XとYを比べると → Xの勝ち(2対1)
– YとZを比べると → Yの勝ち(2対1)
– ZとXを比べると → Zの勝ち(2対1)
• 社会全体で首尾一貫した好みが求まらない
2017年5月 21
有権者1 有権者2 有権者3
1位 X Y Z
2位 Y Z X
3位 Z X Y
近未来金融システム創造プログラム
多数決を疑う
- 「ペア敗者」を選ぶ危険性
• 単純多数決で1位を選ぶと「A」に
– AとBを比べると → Bの勝ち(8対13)
– AとCを比べると → Cの勝ち(8対13)
– BとCによる票の割れがなければAは勝てなかった…
• ペアごとの多数決で最も弱い者を選んでしまう
2017年5月 22
4人 4人 7人 6人
1位 A A B C
2位 B C C B
3位 C B A A
近未来金融システム創造プログラム
ボルダルール
- 票の割れに強い仕組み
• 1位に3点、2位に2点、3位に1点で合計点を計算
– Aの得点 → 37点(3×8+1×13)
– Bの得点 → 45点(3×7+2×10+1×4)
– Cの得点 → 44点(3×6+2×11+1×4)
• 「ペア敗者」ではないBが選ばれる!
2017年5月 23
4人 4人 7人 6人
1位 A A B C
2位 B C C B
3位 C B A A
近未来金融システム創造プログラム
ボルダルールの落とし穴
- 「ペア勝者」が負ける危険性
• 1位に3点、2位に2点、3位に1点で合計点を計算
– Aの得点 → 19点(3×3+2×4+1×2)
– Bの得点 → 20点(3×4+2×3+1×2)
– Cの得点 → 15点(3×2+2×2+1×5)
• 「ペア勝者」のAが選ばれない!
2017年5月 24
3人 2人 2人 2人
1位 A C B B
2位 B A A C
3位 C B C A
近未来金融システム創造プログラム
オストロゴルスキーのパラドックス
- 代表(間接)民主制の限界
有権者 財政 外交 環境 支持政党
1 X X Y X
2 X Y X X
3 Y X X X
4 Y Y Y Y
5 Y Y Y Y
多数決 Y Y Y X
2017年5月 25近未来金融システム創造プログラム
参考文献 (1)
- ファイナンスの代表的テキスト
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 26
参考文献 (2)
- 情報の経済学の代表的テキスト
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 27
参考文献 (3)
- ゲーム理論の代表的テキスト
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 28
参考文献 (4)
- マッチング理論の代表的テキスト
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 29
参考文献 (5)
- 社会選択理論の代表的テキスト
2017年5月 近未来金融システム創造プログラム 30

資本主義と金融