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eポートフォリオと電子バッジが問う“発信力”の定義
立命館大学 生命科学部 生命情報学科 准教授
木村修平
1. “発信力”をどう定義するか?
kimuras@fc.ritsumei.ac.jp
@syuhei
プロジェクト発信型英語プログラム、9年間の試みから見えるもの
参考文献
 株式会社学研教育出版. (2012).平成23年度 文部科学省委託事業「ICTの活用による生涯学習支援事業」. http://jouhouka.mext.go.jp/lifetime/pdf/gakken-itc_houkoku.pdf
 三木訓子. 大賀まゆみ. (2015, December 19). [口頭発表] 動画によるプレゼンテーションの振り返り効果の一考察. メソドロジー研究会 2015年度第3回研究会, 大阪.
 森本康彦. (2011). 高等教育におけるeポートフォリオの最前線(ICTを活用した教育・学習支援のトレンド). システム/制御/情報 : システム制御情報学会誌, 55(10), 425–431.
 エスメ・グロワート (鈴木秀幸訳). (1999).教師と子供のポートフォリオ評価―総合的学習・科学編.東京: 論創社.
 Love, D., McKean, G., & Gathercoal, P. (2004). Portfolios to webfolios and beyond: Levels of maturation. Educause Quarterly, 27(2), 24-38.
 Barrett, H. C. (2013). My “Online Portfolio Adventure” (Versions of my online portfolios developed using different systems or online publishing tools). Retrieved January 28, 2017, from
http://electronicportfolios.org/myportfolio/versions.html#category
 舞田敏彦. (2016, December 20).創作物の発信頻度の国際比較. データえっせい. Retrieved January 28, 2017, from http://tmaita77.blogspot.jp/2016/12/blog-post_20.html
立命館大学では従来の英語教育に新たな刷新をも
たらす方法論として、2008年に開学した生命科学
部・薬学部を皮切りに「プロジェクト発信型英語プ
ログラム」(Project-based English Program、以下
PEPと略す)を必修カリキュラムとして導入し、アク
テイブラーニング型の英語教育改革を開始した。
2017年現在、PEPはスポーツ健康科学部(2010年開学)、総合心
理学部(2016年開学)にも採用され、今や14学部中4学部で実践され
る、立命館大学を代表する特徴的な英語教育となりつつある(詳細は
pep-rg.jpを参照)。
PEPでは学生は自身の興味・関心に基づいてプロジェクト活動を行
い、アカデミックフォーマットにのっとった形式で英語による成果発
表を行う。PEPのすべての授業で重点が置かれるのは学生の「発信力
の向上」であるとされるが、そもそも発信力とはなにか?21世紀型ス
キルの構成要素としてもしばしば目にする発信力(株式会社学研教育
出版, 2012, p. 14)、それはどのように定義、育成、表現、活用され
るのか?という疑問がPEPの教員間で生まれ、研究テーマとして立ち
上がってきた。
3. 学習エビデンスと学習ポートフォリオ
GOEN Summit 2017: Reunite, Revitalize & React (28/Feb/2017)
PEPの授業風景(左:パネルディスカッション、右:ポスター発表)
教育パラダイムの変遷により、学習のコンテクストや成果に真正性
(authenticity)が求められるようになり、それを適切に評価するた
めに学習の内容、進捗、履歴をエビデンスとして記録する必要性が生
まれた(森本, 2011, p. 425)。そのソリューションのひとつが学習
ポートフォリオという形態であり、一般的に以下のように定義される。
学習活動において児童生徒が作成した作文、レポート、作品、テ
スト、活動の様子が分かる写真やVTRなどをファイルに入れて保
存する方法(グロワート, 1999, p. 8)
ポートフォリオとはもともと右図のような紙
挟み式の書類入れを意味する。学習ポートフォ
リオのメディアも、収められるデータの種類や
複雑さにあわせて、すなわち初等教育から高等
教育に進むにつれて、一般的に紙媒体から電子
媒体に移行する傾向がある(Love, McKean &
Gathercoal, 2004, p. 25)。
5. 電子バッジによる学習成果の可視化
6. “発信力”、大人が範を示すべきでは?
4. eポートフォリオの台頭と進化
電子化されたポートフォリオはeポートフォリオ(ePortfolio)と呼
ばれ、高等教育機関への導入は、アメリカでは1990年代後半ごろから、
日本では2010年ごろから、その先駆的事例を確認できる。
2. PEPでの学生の発信支援の試み
PEPの授業ですべての学生に求められるのは、自らのプロジェクト
の成果を英語で発信するスキルであり、その形態も様々である。下記
は、1〜3回生の各学期における主な発信携帯の例である。
 スライドを用いた5分程度のセルフアピール(1回生前期)
 5パラグラフ程度の英文エッセイと口頭発表(1回生後期)
 グループによるパネルディスカッション(2回生前期)
 1,500〜2,000語程度のリサーチペーパーと口頭発表(2回生後期)
 A0ポスターを前にした口頭発表(3回生前期)
 プロジェクト成果に基づく6分程度の動画制作(3回生後期)
PEPでは、ICTを活用することで学生の学習や発信を支援している。
プロジェクトや発表に関わるデータを蓄積する場として、PEPでは
全学的に導入されているLMSである「manaba+R」(朝日ネット)を
活用している。口頭発表は原則としてすべてデジカムで撮影し、動画
データをGoogle Drive上に保存している。
動画の記録と保存は、もともとは成績の
疑義照会に備えて始められたものだった
が、近年では一部のPEP教員により振り
返り学習にも活用されている(三木&大
賀, 2015)。また、優秀な口頭発表は本
人の許諾を得た上でYouTubeにアップ
ロードし、誰でも視聴できるようになっ
ている。
PEPのようなプロジェクト型教育では、
学びに関わる様々なデータが生まれやす
く、それらを学習エビデンスとしてポー
トフォリオ的に記録、活用する強いイン
センティブが内在していると言える。
eポートフォリオの作成に用いられるツールや
システムは、Office系ソフトウェアなどの他用途
なオーサリングツールまで含むと膨大な数になる。
Barrett(2013)は、英語圏で利用できるツール
を2004〜2013年の間に40以上分類している。
2000年以降は欧米を中心にクラウド型のeポー
トフォリオシステムを開発、運用する企業が次々
に誕生し、急速に成長している。たとえば
Portfoliumは2014年に創業したばかりだが、高
校・短大・大学など100以上の教育機関に導入さ
れている。日本でも朝日ネットのmanabaシリー
ズが積極的な展開を見せている。
ゲーミフィケーションの手法であ
るバッジの獲得と収集を教育分野で
活用する動きが欧米の教育機関を中
心に広がっている。バッジの収集を
外発的な動機とした能動性の向上、
学習行動の誘発が期待されるだけな
く、eポートフォリオや電子履歴書に
バッジを付加することでキャリア開
発に繋げられる可能性もある。
電子バッジの規格はMozillaにより標準化されており、OpenBadges
と呼ばれる。2016年からはMozFest内に分科会が起ち上げられた
発信力の涵養をミッションとするPEPにとって、先進的なeポート
フォリオも電子バッジも有用なツールとして活用を検討していきたい。
その一方で、過日発表されたPISA 2015では日本の15歳は「自分で
作ったコンテンツを共有するためにアップロードする(音楽、詩、ビ
デオ、コンピュータ・プログラムなど)」という項目において44ヵ国
中最下位という現実もある(舞田, 2016)。子供たちに発信力を求め
る大人たちは、まず範を示すために、自分たちが情報発信の主体とな
り、評価の対象となる必要があるのではないだろうか?

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eポートフォリオと電子バッジが問う“発信力”の定義 −プロジェクト発信型英語プログラム、9年間の試みから見えるもの−

  • 1. eポートフォリオと電子バッジが問う“発信力”の定義 立命館大学 生命科学部 生命情報学科 准教授 木村修平 1. “発信力”をどう定義するか? kimuras@fc.ritsumei.ac.jp @syuhei プロジェクト発信型英語プログラム、9年間の試みから見えるもの 参考文献  株式会社学研教育出版. (2012).平成23年度 文部科学省委託事業「ICTの活用による生涯学習支援事業」. http://jouhouka.mext.go.jp/lifetime/pdf/gakken-itc_houkoku.pdf  三木訓子. 大賀まゆみ. (2015, December 19). [口頭発表] 動画によるプレゼンテーションの振り返り効果の一考察. メソドロジー研究会 2015年度第3回研究会, 大阪.  森本康彦. (2011). 高等教育におけるeポートフォリオの最前線(ICTを活用した教育・学習支援のトレンド). システム/制御/情報 : システム制御情報学会誌, 55(10), 425–431.  エスメ・グロワート (鈴木秀幸訳). (1999).教師と子供のポートフォリオ評価―総合的学習・科学編.東京: 論創社.  Love, D., McKean, G., & Gathercoal, P. (2004). Portfolios to webfolios and beyond: Levels of maturation. Educause Quarterly, 27(2), 24-38.  Barrett, H. C. (2013). My “Online Portfolio Adventure” (Versions of my online portfolios developed using different systems or online publishing tools). Retrieved January 28, 2017, from http://electronicportfolios.org/myportfolio/versions.html#category  舞田敏彦. (2016, December 20).創作物の発信頻度の国際比較. データえっせい. Retrieved January 28, 2017, from http://tmaita77.blogspot.jp/2016/12/blog-post_20.html 立命館大学では従来の英語教育に新たな刷新をも たらす方法論として、2008年に開学した生命科学 部・薬学部を皮切りに「プロジェクト発信型英語プ ログラム」(Project-based English Program、以下 PEPと略す)を必修カリキュラムとして導入し、アク テイブラーニング型の英語教育改革を開始した。 2017年現在、PEPはスポーツ健康科学部(2010年開学)、総合心 理学部(2016年開学)にも採用され、今や14学部中4学部で実践され る、立命館大学を代表する特徴的な英語教育となりつつある(詳細は pep-rg.jpを参照)。 PEPでは学生は自身の興味・関心に基づいてプロジェクト活動を行 い、アカデミックフォーマットにのっとった形式で英語による成果発 表を行う。PEPのすべての授業で重点が置かれるのは学生の「発信力 の向上」であるとされるが、そもそも発信力とはなにか?21世紀型ス キルの構成要素としてもしばしば目にする発信力(株式会社学研教育 出版, 2012, p. 14)、それはどのように定義、育成、表現、活用され るのか?という疑問がPEPの教員間で生まれ、研究テーマとして立ち 上がってきた。 3. 学習エビデンスと学習ポートフォリオ GOEN Summit 2017: Reunite, Revitalize & React (28/Feb/2017) PEPの授業風景(左:パネルディスカッション、右:ポスター発表) 教育パラダイムの変遷により、学習のコンテクストや成果に真正性 (authenticity)が求められるようになり、それを適切に評価するた めに学習の内容、進捗、履歴をエビデンスとして記録する必要性が生 まれた(森本, 2011, p. 425)。そのソリューションのひとつが学習 ポートフォリオという形態であり、一般的に以下のように定義される。 学習活動において児童生徒が作成した作文、レポート、作品、テ スト、活動の様子が分かる写真やVTRなどをファイルに入れて保 存する方法(グロワート, 1999, p. 8) ポートフォリオとはもともと右図のような紙 挟み式の書類入れを意味する。学習ポートフォ リオのメディアも、収められるデータの種類や 複雑さにあわせて、すなわち初等教育から高等 教育に進むにつれて、一般的に紙媒体から電子 媒体に移行する傾向がある(Love, McKean & Gathercoal, 2004, p. 25)。 5. 電子バッジによる学習成果の可視化 6. “発信力”、大人が範を示すべきでは? 4. eポートフォリオの台頭と進化 電子化されたポートフォリオはeポートフォリオ(ePortfolio)と呼 ばれ、高等教育機関への導入は、アメリカでは1990年代後半ごろから、 日本では2010年ごろから、その先駆的事例を確認できる。 2. PEPでの学生の発信支援の試み PEPの授業ですべての学生に求められるのは、自らのプロジェクト の成果を英語で発信するスキルであり、その形態も様々である。下記 は、1〜3回生の各学期における主な発信携帯の例である。  スライドを用いた5分程度のセルフアピール(1回生前期)  5パラグラフ程度の英文エッセイと口頭発表(1回生後期)  グループによるパネルディスカッション(2回生前期)  1,500〜2,000語程度のリサーチペーパーと口頭発表(2回生後期)  A0ポスターを前にした口頭発表(3回生前期)  プロジェクト成果に基づく6分程度の動画制作(3回生後期) PEPでは、ICTを活用することで学生の学習や発信を支援している。 プロジェクトや発表に関わるデータを蓄積する場として、PEPでは 全学的に導入されているLMSである「manaba+R」(朝日ネット)を 活用している。口頭発表は原則としてすべてデジカムで撮影し、動画 データをGoogle Drive上に保存している。 動画の記録と保存は、もともとは成績の 疑義照会に備えて始められたものだった が、近年では一部のPEP教員により振り 返り学習にも活用されている(三木&大 賀, 2015)。また、優秀な口頭発表は本 人の許諾を得た上でYouTubeにアップ ロードし、誰でも視聴できるようになっ ている。 PEPのようなプロジェクト型教育では、 学びに関わる様々なデータが生まれやす く、それらを学習エビデンスとしてポー トフォリオ的に記録、活用する強いイン センティブが内在していると言える。 eポートフォリオの作成に用いられるツールや システムは、Office系ソフトウェアなどの他用途 なオーサリングツールまで含むと膨大な数になる。 Barrett(2013)は、英語圏で利用できるツール を2004〜2013年の間に40以上分類している。 2000年以降は欧米を中心にクラウド型のeポー トフォリオシステムを開発、運用する企業が次々 に誕生し、急速に成長している。たとえば Portfoliumは2014年に創業したばかりだが、高 校・短大・大学など100以上の教育機関に導入さ れている。日本でも朝日ネットのmanabaシリー ズが積極的な展開を見せている。 ゲーミフィケーションの手法であ るバッジの獲得と収集を教育分野で 活用する動きが欧米の教育機関を中 心に広がっている。バッジの収集を 外発的な動機とした能動性の向上、 学習行動の誘発が期待されるだけな く、eポートフォリオや電子履歴書に バッジを付加することでキャリア開 発に繋げられる可能性もある。 電子バッジの規格はMozillaにより標準化されており、OpenBadges と呼ばれる。2016年からはMozFest内に分科会が起ち上げられた 発信力の涵養をミッションとするPEPにとって、先進的なeポート フォリオも電子バッジも有用なツールとして活用を検討していきたい。 その一方で、過日発表されたPISA 2015では日本の15歳は「自分で 作ったコンテンツを共有するためにアップロードする(音楽、詩、ビ デオ、コンピュータ・プログラムなど)」という項目において44ヵ国 中最下位という現実もある(舞田, 2016)。子供たちに発信力を求め る大人たちは、まず範を示すために、自分たちが情報発信の主体とな り、評価の対象となる必要があるのではないだろうか?