「政府情報論」の試み:
教育・研究の観点から
【ウェブ公開版】
情報ネットワーク法学会
第15回研究大会・個別報告
(2015年11月29日 北九州国際会議場)
天理大学(人間学部総合教育研究センター) 古賀 崇
Takashi KOGA (Tenri University)
Email:
Web: http://researchmap.jp/T_Koga_Govinfo
1
A personal suggestion for government information
studies: with a model of education and research
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本日の内容
• はじめに
• 問題関心と研究への視点
• 大学院での授業実践:京都大学と同志社大
学での事例
• まとめと今後の課題
• 手短な問いかけ:“このような授業をやったの
ですが、図書館情報学で、あるいはその他の
領域で、どれほど応用できるでしょうか?”
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はじめに:
発表者(古賀)の研究・教育活動を
踏まえ(今回の発表に至った経緯)
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当学会とのかかわり
• 学会創立時(2002年7月)からの会員
• 第2回研究大会での発表(2002年11月、立命
館大学衣笠キャンパスにて) ※個別報告計4件
↓
• 拙稿「アメリカにおける政府情報と著作権をめ
ぐる議論」(『情報ネットワーク・ローレビュー』第
2巻<2003年11月>所収)
• 今回はそれ以来の発表…
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研究・教育のスタンス
• 自己認識:「政府情報アクセス」を中心に、図書
館、アーカイブズ、記録(文書)管理をまたにか
け、研究・執筆・翻訳・教育を行う
• 本務校では「図書館司書資格」の科目担当
• 現在の大学院での教育(非常勤として)
– 学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学
専攻:「アーカイブズ・マネジメント論研究Ⅱ(レコー
ド・マネジメント=記録管理)」担当
– 同志社大学大学院総合政策科学研究科図書館情
報学コース:「図書館情報学研究(政府情報論)」担
当
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主な研究フィールドとしての
米国連邦政府とその周辺
• 「連邦政府刊行物寄託図書館制度(FDLP)」の存在
→ 古賀が「政府情報公開」のイメージを変える契機
• 「政府刊行物」からの広がり・拡散
– ウェブサイト運営・保存
– 公文書とその電子化
– オープンデータ
• さまざまな連邦政府機関の関与
– 政府出版局(GPO)、国立公文書記録管理院(NARA)、行
政管理予算局(OMB)、総合役務庁(GSA) など
• 米国での教育体制の変化
– ライブラリー・スクールから、情報学の包括的研究・教育
を志向する「iSchool」へ
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国際図書館連盟(IFLA)での活動
• 政府情報・官庁刊行
物分科会(Committee
on Government
Information and
Official Publications)
– 古賀の常任委員任期:
2007年8月~2015年8
月
– 世界各国の政府情報
流通・アクセスの動向
が共有される
– http://www.ifla.org/gio
ps
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問題関心と研究への視点
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基本的発想
• 政府情報公開の制度・手続き論だけでなく、「政
府情報の実体」から管理・保存・アクセスのあり
方を考える
– 政府刊行物、政府ウェブサイト、公文書など
• 政府情報の公開・利用をめぐる「規範論」と「実
態論」をつなぐ
– 規範論:法学、政治学、行政学など
– 実態論:図書館情報学、記録管理学、アーカイブズ
学など
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10
「政府情報論」のイメージ(古賀, 2005より)
記
録
管
理
学
図書館情報学
規範
(特に
行政学に)
アーカイブズ学
政治学
行
政
学
規範
(全領域に)
記録を刊行物に再編成
(例:年次報告書,広報)
・歴史的視点
・保存への関心
人・組織の行動様
式が記録に反映
(人からモノへ)
法学
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日本の政府情報をめぐる最近の動向
• 公文書管理法(2009年制定)の理念と実態の乖
離
– 2016年に英語での共著書の古賀担当分として提示
予定
• 政府など公的機関のウェブサイトの保存
– 「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業
(WARP)」でどれだけカバーできているか
• http://warp.ndl.go.jp/ 政府機関の「5年前(2010年)の
URLは60%がなくなっている」
– Internet Archive(Wayback Machine)との関係はどう
か
• https://archive.org/
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政府情報の形態の多様化
• 電子化の進行
– 「一次情報」としての公文書と、それを政府の外の
人々に向けて加工した「二次情報」の双方について
– 「保存と長期的利用」をめぐる課題
• 「一次・二次情報」の境界をまたぐような形での
情報の生成・流通
– 「オープンデータ」の世界的潮流=誰でも自由に入
手、加工、利用、再配布などを行えるように公開さ
れた、テキストやCSVなどのデータ
→ 「情報公開の規範」に変化をもたらす可能性
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最近の議論より(1):
電子(ウェブ)公開しても「使える」のか?
• 井上真琴氏(同志社大学学習支援・教育開発センター)
からの事例紹介(出典:「シンポジウム「見たことのない図
書館を考える」」『同志社大学図書館学年報』40号, 2015, p.
58.)
https://doors.doshisha.ac.jp/duar/repository/ir/17069/?lang
=0&mode=0&opkey=R144791445731976
– スウェーデンの中学校教師の給与に関する調査 →「“文
部科学省”“委託調査”を検索語にして、“filetype:pdf”で
絞り込んで検索してみて」
– 日本の政府の報告書は「ウェブに置いてあるだけ」で見
つけづらい → メタデータを付与し、「国立国会図書館
サーチ」などから容易に探し出せるようにする必要があ
る
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http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyuyo/07061801/003.pdf
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最近の議論より(2):
情報技術を法律などの表現・表記に
もっと活用できないか?
• 榎並利博「立法爆発とオープンガバメントに関する
研究:法令文書における「オープンコーディング」の
提案」『研究レポート』(富士通総研 経済研究所)
No.419, 2015, 86p.
http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/2015/report-
419.html
– 「立法爆発(立法のインフレ)」のもとでの「立法ミス」の多
発、「法令工学(正規表現の処理など)」の限界
– 「オープンコーディング」=「透明性・参加・協働という基
本理念の下で、多くの人や機械が法律の制定や改正に
関わり、かつ促進させることができるような社会基盤」の
提案
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大学院での授業実践:
京都大学と同志社大学での事例
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京都大学での実践
• 「図書館情報学特論Ⅲ」(2010年度前期)
– 大学院教育学研究科の科目(学部科目と合同)
• 当時の司書資格科目「図書館特論」を兼ねる
– 内容は「政府情報論」の講義
• 授業資料は「京都大学学術情報リポジトリ
“KURENAI”」で公開
http://hdl.handle.net/2433/189712
– よろしければ他科目の授業資料もあわせてご覧下
さい
• 古賀のウェブサイト → 「授業・研究資料など」
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古賀のウェブサイト(researchmap)より
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同志社大学での実践
• 2015年4月に大学院総合政策科学研究科に「図
書館情報学コース」(現状は博士前期課程のみ)を
新設
– http://www.slis.doshisha.ac.jp/grad/
• 古賀は嘱託講師(非常勤)として「図書館情報学
研究(政府情報論)」を担当
– 京都大学での内容を基本としつつ、特定秘密保護法
やオープンデータなど最新の動向を取り入れる
– 授業の終盤では、履修者にとって身近な自治体での
ウェブサイトの発信状況を調査し、発表してもらう
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同志社大
(院)・図書館
情報学コー
スの現行カ
リキュラム
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http://www.
slis.doshisha.
ac.jp/grad/c
urriculum/
履修者からの発表に際して
古賀から提示したポイントの例
• 自治体の公式ウェブサイト全体の印象
– デザイン面で見やすいものになっているか、発信情報の分
類・整理に関する工夫は見られるか、など
• 自治体の広報誌はどのような内容か
• 自治体の現状などに関する基本情報や統計情報がどの
程度ウェブ上に掲載されているか
– 合併があればその情報も
• 条例や規則類はどのような形で発信されているか
• 当該自治体の議会の情報はどこまで充実しているか
– 議事録の公開も含め
• ウェブサイトの内容面、あるいは発信形態の面で何か特
色や工夫は見られるか
– 例:ブログ、ツイッター、オープンデータの利用
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授業内容として考えたこと
• 前提:もともと政府刊行物・政府情報は、司書資
格科目の中では「図書館情報資源概論(旧:図
書館資料論)」の一部として扱われる
• 「電子化・ネットワーク化のなかで多様化する政
府情報」への意識
– 「図書館情報学」を基盤としつつ、図書館以外の取
り組みも視野に
• 「実態論」を中心としつつ、「規範論」にも留意
– (例)著作権:オープンデータの利用にもかかわる
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同志社大(院)
「図書館情報学研究(政府情報論)」
授業内容(2015年度前期)
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回・
日付
テーマ 扱った文献等(★はウェブで無料閲
覧可能)
#1(4/13) オリエンテーション ----------------
#2(4/20) 「政府情報」の概要 大竹晴日虎. 政府情報の流通:公開と流通を支
えているもの. 現代の図書館. 2009, vol. 47, no.
3, p. 188-196.
#3(4/27) 政府情報の流通・アクセ
ス
★古賀崇. “米国における政府情報アクセスに
関する動向:連邦政府刊行物寄託図書館制度を
中心に”. 米国の図書館事情2007(図書館研究
シリーズ No. 40). 国立国会図書館, 2008, p.
200-204.
★古賀崇. 米国の公共図書館における政府情
報・電子政府関連サービスの実情:公共図書館
の価値への期待と政府業務の縮小とのはざまで
. 現代の図書館. 2009, vol. 47, no. 3, p. 180-
187.
#4(5/11) 政府情報のウェブ・アー
カイブ
★武田和也. 海外動向との対比からみた日本の
Webアーカイビングの課題と展望:国立国会図
書館の取り組みを通して. 情報の科学と技術.
2008, vol. 58, no. 8, p. 394-400.
前田直俊. インターネット資料収集保存事業
(WARP)(ごぞんじですか? 第89 回). 専
門図書館. 2013, no. 261, p. 40-45.
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#5(5/18) 公文書館の活動 (ビデオ)史料管理の達人 第2巻:これか
らの史料管理. 紀伊國屋書店, 1996.
#6(5/25) 情報公開をめぐる論点 ★後藤仁. (続)情報公開・記録史料・公文書
館. 神奈川県立公文書館紀要. 2008, no. 6, p.
1-40.
★湯淺墾道. 自治体の情報公開制度の現状と
課題. 九州国際大学法学論集. 2012, vol. 18,
no. 3, p. 155-187.
#7(6/1) 公文書管理法への道 ★早川和宏. 公文書管理法制の現状と課題.桃
山法学. 2014, no. 24, p. 131-171.
#8(6/8) 公文書管理と特定秘密保
護法
★碇建人・柳瀬翔央. 特定秘密保護法の制定
と今後の検討課題. 立法と調査(参議院事務
局)2014, no. 350, p. 70-85.
★松岡資明. 特定秘密保護法が浮き彫りにす
る公文書管理の新たな課題. 国文学研究資料
館紀要アーカイブズ研究篇. 2015, no.11, p.
107-124.
#9(6/15) 政府情報と著作権 古賀崇. アメリカにおける政府情報と著作
権をめぐる議論. 情報ネットワーク・ローレ
ビュー, 2003, no. 2, p. 1-19.
“『日本人の海外活動に関する歴史的調査』復
刻刊行差し止め”. 図書館の自由に関する事
例33選. 日本図書館協会, 1997, p. 12-15.
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#10(6/22) 政府のオープンデータ
をめぐる論点
古賀崇. オープンデータ時代における政府情報
ア ク セ ス の 変 容 を め ぐ る 試 論 : Frank
Upwardらの「レコードキーピング情報学」を
意識しつつ. レコード・マネジメント. 2014,
no. 67, p. 104-115.
★大向一輝. オープンデータと図書館. カレン
トアウェアネス. 2014, no. 320, p. 14-16.
福島幸宏. 文化資源活用の次のステージへ.
DHjp. 2014, no. 4, p. 43-47.
#11(6/29) 「政府情報論」の枠組
み
★古賀崇. 「Continuumとしての政府情報」と
記録管理:「政府情報論」の構築に向けての
試論. レコード・マネジメント. 2005, no. 49,
p. 57-73.
#12(7/6) 政 府 情 報 と 「 デ ジ タ
ル・アーカイブ」
岡本真・柳与志夫(編著). デジタル・アーカ
イブとは何か. 勉誠出版, 2015 より:
・ 江上敏哲“「誰でも」とは誰か:デジタ
ル・アーカイブのユーザを考える”p. 27-
47.
・ 古賀崇“デジタル・アーカイブの可能性と
課題”p. 49-69.
#13(7/13) 履 修 者 か ら の 発 表
(前)
京都府、京都市の事例
#14(7/20) 履 修 者 か ら の 発 表
(後)
五條市、橋本市の事例
#15(7/27) まとめ ----------------
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まとめと今後の課題
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これまでの授業実践を
どこまで応用・敷衍できるか
• 今回紹介した授業内容は、あくまで「図書館情
報学」の枠組みを前提としたもの
• 例えば「政策系カリキュラム」の中では、ウェイト
も異なるだろう
– 「規範論」「実体論」の双方への目配りが必要として
も
• 前掲の表に示したような内容につき、ぜひご批
評をお願い致します
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方向性1:「政府情報リテラシー」へ
• 「多様化する政府情報をいかに読み解き、活用
し、検証・批判につなげるか」
• 前述・井上氏が示すような「検索の実践から、よ
り円滑な利用への提言へ」ということも視野に
– オープンアクセスをめぐる実践・提言も含まれうる
• 規範的側面も意識しつつ
– 国民から同意を得ての政府・自治体運営
– 「政府・自治体の価値」「政府・自治体による国民の
同意獲得過程の操作」に対する批判的検証
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方向性2:「政府情報論」の、
より精緻な体系化?
• 本学会などで取り組まれている「法情報学」の
取り組みも参照しつつ
• 多方面の研究領域および実践に寄与できる体
系化を目指す
– 規範論・実践論の双方のカバー
– 「政府情報の多様化」への対応
– 「ガバナンス(統治)の過去・現在・未来」を踏まえ
• これは現代アーカイブズ学の主要テーマでもある
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主要参考文献
(前掲の表<同志社大での授業>での
各文献等も参照)
• 古賀崇, 2005. 「Continuumとしての政府情報」と
記録管理:「政府情報論」の構築に向けての試
論. レコード・マネジメント, no. 49, p. 57-73.
• 古賀崇, 2014. オープンデータ時代における政府
情報アクセスの変容をめぐる試論:Frank Upward
らの「レコードキーピング情報学」を意識しつつ.
レコード・マネジメント, no. 67, p. 104-115.
• 古賀崇, 2015. 米国連邦政府におけるウェブ上
の情報の多様化とその管理・保存をめぐる現状
と課題:オープンデータの扱いを中心に. レコー
ド・マネジメント, no. 69, 刊行予定.
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ありがとうございました
• 本発表は下記助成に
よる研究成果の一部
です。平成25-27年度
科学研究費助成事業
(JSPS)若手研究(B)
「オープン・ガバメント
時代の政府情報アク
セス制度・政策と図書
館・文書館等の役割」
(課題番号25730191、
研究代表者:古賀崇)
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↑米国国立公文書記
録管理院(NARA)新
館(メリーランド)
→米国政府出版局
(GPO)(ワシントン
DC)
(ともに2015年2月訪
問)

「政府情報論」の試み:教育・研究の観点から(古賀崇)