ゼミ論文
- 1. 錯誤無効の要件に関する諸問題
11331400256 岡本 翼
目次
第1章 はじめに
第2章 民法典における定義
第 1 節 民法典における錯誤
第 2 節 錯誤制度の体系とその種類
第 3 節 条文理解に関する問題点
第3章 錯誤無効の要件
第4章 動機の錯誤の扱いに関する思考法
第 1 節 二元論
第 2 節 一元論
第 3 節 新二元論
第5章 私見
第 6 章 おわりに
第1章 はじめに
たとえどんな天才であっても、生まれて死ぬまで一度も誤解をしない、または他人に誤解
させない者はいないだろう。とはいえ、いつでもそれが許されて良い訳では無いだろう。な
ぜなら人の誤解は時に自分、もしくは他人に損害を与えてしまう結果になることがあるか
らだ。民法においては、このような場合を錯誤として取り扱っている。本稿では法理論の観
点から、このような錯誤に対して、どのような処置を行うべきなのか、主にその判断基準に
ついて考察していく。
第2章 民法典における定義と問題点
第 1 節 民法典における錯誤
民法典上では、錯誤は民法 101 条1項に記述においては心裡留保、虚偽表示と共に「意
志の不存在」の一つに分類されている。心裡留保や虚偽表示とは、当人が意志の不一致を自
覚していない点で異なり1、第三者保護ではなく表意者保護を念頭に置かれた民法全体で見
ても比較的珍しい条文となっている。民法 95 条では、「意志表示は、法律行為の要素に錯誤
があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自
らその無効を主張することができない」とされているのみで、錯誤無効が認められるための
具体的な認定条件の設定などは解釈に任されていると考えられる。起草者が、錯誤による意
- 3. による無効を認めるべきだとされることがあった。
そこで、判例では民法 95 条の解釈を工夫することによってこの問題を乗り越えてきた。
まず、条文によれば、錯誤による無効が認められる為には、そもそも錯誤の存在は必要不可
欠である。これは条文そのままの意味で受け取るべきであろう。
判例では、条文にある「法律行為の要素」とは一体どのようなものを指す言葉なのか、と
いった点を問題とした。
以上を踏まえて第 3 章では、錯誤無効の為に必要な要件を挙げ、そのなかでも特に重要
な要素である「法律行為の要素」という言葉を、判例がどのような解釈を行なったかについ
ての考察を行う。
第 3 章 錯誤無効の要件
まず、条文によれば、錯誤による無効が認められる為には、そもそも錯誤の存在は必要不
可欠であろう。これは錯誤が条文の核なっていることを考える条文に記載されている言葉
のそのままの意味で受け取るべきであろう。もちろん、この錯誤という言葉の範囲について
は、先述した通り争いがある7。また、民法 95 条に記載のある「要素の錯誤」とはその錯誤
が無ければ契約をしなかったであろうと考えられるほどの重大な錯誤であること8、つまり
は「因果関係」そして「重要性」、この二つを備えていることが必要である。
判例大判大正 7・3・民録 24 輯 1852 頁には「法律行為ノ要素トハ法律行為ノ主要部分ヲ
指称スルモノニシテ9」とある。この判例の解釈によると、この「法律行為の要素」とは意
思表示の内容のうち重要な部分のことである。
この判例の解釈では「『意思表示の』内容のうち」、といった規定がなされているため、先
述した動機の錯誤はやはり錯誤による無効を主張するための要件を満たしていないことに
なるであろう。しかし、判例では、動機が何らかの形で表示された場合それは「意思表示」
の内容と考えることができる場合もある、といった解釈を行っている。
この、動機が意思表示であることを認めるということは、動機の錯誤を認めることに直結
することを考慮すると、最大限の配慮を持ってして基準を定めることが必要になってくる。
これは、動機の錯誤による無効が簡単に認められると、この制度の甘さを利用し、動機の錯
誤による無効の制度が乱用、または悪用されることによって、取引の安全が脅かされ、取引
の相手側に損害をきたす危険性が発生しかねない、といった理由からのものである。
そこで次章では、動機の錯誤の扱いについての二つの主な説である、従来の考え方である
二元論と近年の通説・判例の立場である一元論、そして、それらに代わる新たな視点から生
まれた考え方による新二元論・新一元論について触れたいと思う。
第 4 章 動機の錯誤の扱いに関する思考法
第1節 二元論
この、従来からの通説、判例において採用されてきた考え方であるといえる二元説では、