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論文テーマ
① 産業部門 日本経済における小規模企業の果たす役割
モジュール化とブラックボックス戦略の
融合
〜小規模企業が果たす役割と発展可能性〜
〒227-0033
神奈川県横浜市青葉区鴨志田町 569 番地 1
グリーンヒル鴨志田西団地 8-402
落合 和貴(20 歳) 【代表】
[おちあい かずき]
TEL045-961-0394
昼間(携帯)090-8304-9796
立教大学 経済学部2年
小野 敦史(22 歳) [おの あつし]
大塚 文博(19 歳) [おおつか ふみひろ]
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要旨
世界のモノづくりはモジュール化が潮流となっている。しかし、日本のモノづくりは歴
史的にインテグラル型(擦り合わせ型)を得意としてきた。また、中国、韓国などの低価格な
モジュール型製品との価格競争に晒されている。このような状況下で日本のエレクトロニ
クス産業はテレビ、スマートフォン、パソコンなどの製品において海外勢にシェアを奪わ
れてしまった。加えてリーマンショック以降、製造業の小規模企業は業績の悪化、付加価
値額の減少、融資の減少など厳しい状況に立たされている。
しかし、日本の企業は内部アーキテクチャがブラックボックス化しているモジュール製
品において世界でシェアを依然として保持していることが分かった。そこで、小規模企業
のモジュール製品において内部アーキテクチャをブラックボックス化し、ほかの企業が模
倣することができないモジュール製品を構築することができれば、日本の経済が活性化す
るのではないかと考えた。本論ではヒアリング調査をもとに、小規模企業がブラックボッ
クス化を果たしているのか、また果たしているならばその要因は何かを分析し、小規模企
業の強みを明らかにしていく。
ヒアリング調査の結果、一つの分野に特化する「専門性」、顧客のニーズに柔軟に対応し
要求に応える「柔軟性」、商談の成立や決断の即時性などから短納期でも対応できる「迅速
性」を兼ね揃えた小規模企業が高い収益性を持つことが分かった。またモジュール製品自
体はオープンだが、内部アーキテクチャがブラックボックス化したモジュール製品を製造
し、知的財産権を保有していた企業はより高い競争力を有していたことが分かった。
本論では小規模企業の経営者が知的財産権についての知識を深めること、経営資源の少
ない小規模企業同士が知的財産権を共同管理することによって登録費用や維持費用を抑え
ること、そして中小企業の特徴である専門性・柔軟性・迅速性を保ち続けることが日本の
モノづくりの復活の鍵になると考えた。
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目次
 はじめに
 第 1 章 モジュール化に関する議論
1-1.モジュール化の定義
1-2.オープン・モジュールに注目する理由
1-3.オープン・モジュール化における日本企業の課題
1-4.オープン・モジュール化において競争優位の確保
 第 2 章 劣勢に立たされた日本のものづくりと海外の躍進
2-1.国内エレクトロニクス産業の現状
2-2.サムスン電子躍進の背景
2-3.劣勢の日本製造業と輸入の増加
2-4.製造業の小規模企業の現状
 第 3 章 日本の小規模企業のモジュール型ビジネス
3-1.ヒアリング先のモジュール型ビジネス
3-2.ヒアリング調査に対する考察
 第 4 章 小規模企業が支える市場とモジュール・ブラックボックス
4-1.小規模企業が支えるニッチ・モジュール市場
4-2.小規模企業によるモジュール・ブラックボックスとその可能性
 おわりに
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はじめに
現代は世界的に、テレビやスマートフォン、パソコンなどの様々な製品をモジュール型
で作ることができる時代である。しかし、歴史的にインテグラル型(擦り合せ型)のモノ
づくりを得意としてきた日本のモノづくり業は、その世界的潮流に乗じ着実に歩を進めて
きた海外モノづくり企業の台頭を阻むことができず、様々な製品においてシェアを奪われ
てしまった。特に日本の技術力の高さにより、かつて隆盛を極めたエレクトロニクスなど
の分野の現状はまさにその典型であると言える。
しかし藤本(2004)によれば、日本企業の競争力が弱っているとは一括りに言うことはで
きず、競争力を見る際には、顧客が実際にものを買う時の基準となる「価格」「ブランド」
など表の競争力と、「生産性」「生産リードタイム」といった裏の競争力の二つに分けて考
える必要があるとしている。また、日本企業はブランドなどの表の競争力が乏しく、その
点が弱点ではあるが、裏の競争力は依然として強いままであり、その高い技術力は海外と
比較しても大きく差が開くことはないとしている。
そのような状況の中で我々は、日本の企業、特に小規模企業が日本経済に対してどのよ
うな貢献をしているのかについて注目した。
そこで、小規模企業のモジュール化という観点に焦点を当て、それらに関する既存の文
献サーベイや実際にモジュール製品を製造する小規模企業へのヒアリング調査を行い、エ
レクトロニクス産業のモジュール分野、ひいては日本経済全体における小規模企業の役割
と強み、そしてその可能性を明らかにしていく。
第1章 モジュール化に関する議論
1-1. モジュール化の定義
「モジュール化」という概念は、未だ固定化されておらず、言葉を使う者によってその
意味合いやニュアンスが異なることがある。田中(2009)によれば、モジュール化とは「あ
る目的に使う財・サービスをいくつかのユニットに分け、その組み合わせのインターフェ
ースを固定して一般にも公開すること」と定義されており、本論でもその定義に則ること
とする。また、この定義には段階があり、それらすべての段階での意味合いを含め、包括
的な定義として扱う(図表 1-1 参照)。
青木(2002)は、「ある(連結)ルールの下で独立に設計されうるサブシステム」のことを「モ
ジュール」としており、本論でもモジュール化とモジュールについては異なるものを意味
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している言葉として扱う。
この定義に基づくモジュール化は、藤本(2004)のアーキテクチャの基本タイプ上のオー
プン・モジュラー型とほぼ同じであり、本論で取り扱うモジュール化とはオープン・モジ
ュール化を基本とする(図表 1-2 参照)。
1-2. オープン・モジュール化に注目する理由
田中(2009)は、オープン・モジュール化による利点として、競争原理による効率化、多
様性の確保を指摘している。これらの利点は、インターフェースが公開されていることで、
誰でもそのモジュールユニットを生産できるためユニット市場に参加することが容易にな
ること、ユニットのユーザーのニーズを限定することなくニッチな要求も生まれやすくな
ることにつながっているのではないかと考えられる。
大企業に比べれば経営資源に乏しい小規模企業でも、インターフェースが公開されると、
ユニット単位での生産のため比較的簡単に参入が可能である。また、ニッチなニーズに応
えることを得意とする、小規模企業の特性を生かせる市場があるならば、非常に相性の良
い分野であると言え、世界でも戦える分野であり、日本のモノづくりを支えている企業が
存在するのではないかと仮定した。
1-3. オープン・モジュール化における日本企業の課題
前節で述べたように、オープン・モジュール化の市場では競争原理による効率化が進む
ことに加え、インターフェースの公開により、新規参入が容易になる。これらのことから、
仮にオープン・モジュール製品を作り、その製品の市場シェアを獲得することに成功した
としても、いずれ他企業がより安価で品質もある程度備えた、自社の製品と似た機能の製
品を作ってくる可能性が大いにある。
実際にコスト面において、日本の製造企業は中国、台湾、東南アジアなどの製造企業と
競合するのは非常に難しい。ただ製品を組み合わせるだけのものならば、必要な技術力も
低い水準で済み、技術力が低くとも人件費の安い地域において製造することが可能である
からである。近年、中国や東南アジアの国々の労働者賃金が高騰していることは確かだが、
図表 1-3 からわかるように、依然として日本の賃金水準とは大きく差があることがわかる。
人件費が安く済むことで最終製品の価格も安くなり、日本企業が争うことが困難なほどの
競争力を持つこととなる。例として、90 年代にクローズド・モジュール製品として登場し
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たDVDプレイヤーが、企業同士で業界標準を定めていった結果、DVDプレイヤーの市
場シェアの約 70%を中国の企業が占めるようになったことがあげられる(延岡 2005)。
オープン・モジュール製品において、このような市場競争はインターフェースを公開す
る以上避けられないものであり、この競争が品質や機能を改善し、価格を下げていく大き
な要因となっているため否定するべきものではない。
そこで、コスト面において不利を抱える日本の企業が、どのようにこの市場競争におい
て優位性を確保していくべきなのかを考える。
1-4. オープン・モジュール化において競争優位の確保
小川(2014)は製造業のグローバライゼーションの特徴を、技術の伝播スピードという視
点からまとめており、その中でオープン・モジュール化の競争力について触れている(図表
1-4)。
小川によれば、インターフェースがオープン標準化されると、技術の伝播スピードと他
国への定着のスピードが 10 倍以上にもなり、誰でもその市場へと参入してくる。そのため
企業は、モジュールの内部構造をブラックボックス化することによって、その製品の内部
アーキテクチャの違いを作り出し、競争力を保つことが必要である。
前節で例として挙げた DVD プレイヤーに関して言えば、最終製品としての DVD プレ
イヤーのシェアは中国が約 70%を占めているが、その内部で使われている精密モーターや
光学レーザー系、記録材料などのモジュール製品については、依然として日本企業が圧倒
的なシェアを獲得している。これは、「内部アーキテクチャがブラックボックス化されて技
術が伝播しにくいだけでなく、たとえ伝播しても他国に着床しにくいからである。」(小川
2014 p63)の一文にあるように、外部のオープン・モジュール化と内部のブラックボック
ス化、その二つの両立が果たされているからであると言える。
本論では、実際に日本の小規模企業がオープン・モジュール化の世界で内部アーキテク
チャのブラックボックス化を果たしているのか、また果たしているならばその要因は何か
をヒアリング調査から分析し、日本のモノづくりが停滞しているといわれる時代において
も、小規模企業が保持している強みを明らかにしていくことを最終目標とする。
第 2 章 劣勢に立たされた日本のモノづくりと海外の躍進
2-1. 国内エレクトロニクス産業の現状
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日本のエレクトロニクス企業の不振が様々な形で取り上げられているが、その内容を述
べていくにあたり、まず半導体産業をみていく。湯之上(2013)によれば、半導体は PC、ス
マートフォン、テレビなどのデジタル家電製品や自動車に組み込まれ、その製品の機能を
実現する働きを持つとしている。1980 年代より半導体産業は日本のお家芸とも呼べるまで
発展していき、そしてピークの 1989 年には世界の売り上げの上位 3 社を日系企業が占め
ていた (図表 2-1 参照)。しかし 2000 年代から厳しい状況に立たされ、2013 年現在はかろ
うじて東芝が 6 位、ルネサス・エレクトロニクスが 10 位に入るのみとなっている。
その理由として湯之上は、低コストで作る技術力を向上させなかったため、ニーズに合
わない高品質な製品ばかりを作ってしまったためなどの理由を挙げている。
次にスマートフォンの世界シェアをみていく(図表 2-2 参照)。米 Strategy Analytics の調
査によると、2014 年第 2 四半期の世界シェアの上位 6 社に日系企業は含まれておらず、
スマートフォンのシェアはサムスンとアップル、そして中国勢の争いとなっていることが
見て取れる。日系企業のシェアは公開されていなかったため正確な数字は不明だが、全体
の 5%を下回っているということは推測できる。シェアを獲得できなかった理由には、サ
ムスン等の会社のように莫大な投資をすることが出来なかったため、日本の従来のガラパ
ゴス型と呼ばれる携帯電話は、日本国内のみをターゲットにしていたので世界向けのスマ
ートフォンを作ることが困難だったため等の理由が考えられる。
2-2. サムスン電子躍進の背景
日本モノづくりとは対照的に、海外モノづくりはモジュール化の流れに巧みに対応し、
躍進を遂げた。そこで前述したようにスマートフォンの世界シェア第一位のサムスン電子
を例にあげ、その背景を考察する。
石井(2013)によれば、サムスン電子が台頭した要因は大きく分けると図表 2-3 のように
なるとしている。特にモノづくりでは、オープン・イノベーションを推進することで、基
礎研究を外部と共同研究ないしは委託研究で行い、それによって基礎研究から行うことの
リスクを軽減し、企画から商品化までをスピーディに行うことができる。この点は、基礎
研究から商品化まで時間をかけて行う日本企業とは異なる点である。
次に危機意識づくりに注目すると、サムスン電子ではアジア通貨危機やリーマンショッ
クといった経済危機に対し、組織体制の変更を柔軟に行い対応すると同時に、役員の大幅
なリストラや、配置転換など、大胆でスピーディな組織改革を行っている。このように組
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織を流動的に動かすことで、社員の危機意識を常に醸成し、組織全体の意識改革を行って
いると考えられる。
一方「内閣府 年次経済財政報告」(2006)では、日本企業は、個々の企業が大胆なリス
ク・テイク行動や他企業と差別化された行動を示すことが比較的少ないこと、企業内訓練
等を通じて人的資本投資を多く行なっているため、訓練費用が埋没費用となり、経済ショ
ックに対して容易に労働者を解雇せず賃金による調整を行う傾向があることが弱点として
指摘されており、この点でも大きな違いが見られる。
2-3. 劣勢の日本製造業と輸入の増加
以上のように、革新的な戦略により急成長した海外企業に日本の製造業は遅れを取るこ
とになった。特に前述した図表(図表 2-1,図表 2-2)の通り、半導体部門では日本企業は厳し
い状況に立たされており、スマートフォンのシェアでも海外シェアの半数以上は韓国、中
国の企業である。また海外製品の輸入が増加したことが一因となり、国内における電子部
品等の生産量も減少傾向にあることが図表 2-4 から読み取れる。
以上のことから、日本の製造業が劣勢に立たされている背景として、革新的且つ思い切
りの良い技術や経営戦略により台頭した海外企業の存在があり、それにより輸入の増加、
国内生産の減少が起こったものと考えられる。
2.4 製造業の小規模企業の現状
製造業の小規模企業における状況を述べるにあたり、まずは開業率と廃業率をみていく
(図表 2-5 参照)。60 年代から 70 年代では開業率が廃業率を大きく上回っているが、90 年
代初頭から廃業率が上回るようになり、現在では廃業率が開業率を大きく上回ってしまっ
ている。
次に付加価値額をみる(図表 2-6 参照)。これは従業員数(10~29 人)の製造業の付加価値の
総額である。2003 年から 2007 年にかけて付加価値額が上昇していることが分かるが、
2009 年のリーマンショックで大幅に数字が落ち込んでいることが分かる。その後も以前の
ような水準まで回復しておらず、2012 年はむしろ微減している。
このように、製造業の中小企業、とりわけ小規模事業者は現在厳しい状況にたたされて
いることが分かる。
第 3 章 日本の小規模企業のモジュール型ビジネス
3-1. ヒアリング先のモジュール型ビジネス
A)マイクロモジュールテクノロジー株式会社 神奈川県
同社は資本金 1200 万円、従業員数 24 人の企業で、主な事業としては小型実装モジュー
ル、とりわけ半導体の開発・試作・生産を行っており、同社は大手にはできない小回り、
スピード、柔軟性を活かしてモジュール開発による商品の小型化・薄型化、コストダウン
に強みを持っている。半導体という狭い業界のため特殊な営業活動は行っておらず、口コ
ミや信用によって業界での知名度が高い。また、大手半導体メーカーなど多数の企業と取
引を行い、東京大学や横浜国立大学、慶応義塾大学などとも連携して開発を行っており、
さらに同社は中国や台湾、タイといったアジア諸国やアメリカ、ドイツなどの欧米諸国と
も積極的に取引を行っている。加えて、同社の開発したイメージセンサーは大手企業と知
的財産権の共同管理を行っている。
B)特殊電気株式会社 東京都
同社は資本金 2000 万円、従業員数 18 人の企業で、主な事業としてはマイナスイオン・
オゾン発生装置、工事用ランプなどに使われる高圧電源モジュールの開発、試作、販売を
行っている。同社の高圧モジュールの特徴としては、モジュールの心臓部である電源のト
ランスの品質が非常に高く、他社では模倣できないものとなっている。また同社では工場
を持たず、ファブレスとして国内 10 社ほどの外注先で生産を行っており、コスト削減を
実現している。同社の強みは顧客のニーズにできるだけ答えることであり、中小企業なら
ではの俊敏性、柔軟性を活かした短期での納品、顧客の要望に沿った価格や品質での生産
を行っている。
さらに、同社はモジュール製品を作るだけで終わらず、それを活かしたイノベーション
ができるのではないかと提案しており、現在は電流を流すことでキノコの発芽を促す研究
を行い、農業分野との連携を目指している。
C)株式会社エル・アンド・エフ 東京都
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同社は資本金 1000 万円、従業員数8人の企業で、主な事業としては USB モジュール、
LAN モジュール、開発用ソフトウェア等の開発、製造、販売を行っている。こちらの会
社でも工場は持たずファブレスとして国内に 5 社ほどの提携工場がある。同社の強みは中
小企業の特徴を最大限に活かした事業を行っていることである。例えば、中小企業ならで
はの小回りを活かして大企業が間に合わないような納期の速さを実現しているといったこ
とである。さらに他の小規模企業などと協業することで、互いを補完し合い、大手に対抗
している。
同社の特徴のひとつに、出来るだけ国内での競合を避けるためにニッチな分野でモノづ
くりを行っていくという方針がある。これは後追いでは値段の勝負になってしまうため、
お互いに疲弊してしまうからだと考えられる。
3-2. ヒアリング調査に対する考察
ヒアリングを行った上記三社の小規模企業がなぜモジュールによるビジネスを行うこと
ができるのか、考察していく。
まず生産方法という観点から考えていくと、マイクロモジュールテクノロジー社は少量
なら自社で、大量なら他社に委託して生産を行っているが、特殊電気社とエル・アンド・
エフ社は自社で工場を持たず、ファブレスとして国内の取引先工場にて生産を行ってい
る。この二社だけではなく、他にも我々がヒアリングを行った中小企業においてファブレ
スを行っている企業があった。このことから経営資源の限られている小規模企業がモジュ
ール製品を作るためには、固定費用のかかる工場を無理に持たずに協業、分業を行うこと
でコストを削減していくことが有効な手段であるということが考えられる。
次に三社それぞれの強みを考察していく。マイクロモジュールテクノロジーはモジュー
ル部品を小型化、薄型化をすることができる技術力を持っているため原材料費を低く抑え
ている。また、知的財産権を他社と共同管理することによって、それを活かした高付加価
値な部品を作ることを可能にしている。特殊電気ではモジュール製品で顧客のニーズに最
大限応えることでさまざまな企業と取引を行っている。エル・アンド・エフは大企業では
実現することが出来ない納期の短さ、他社との協業を強みにしている。以上のことから、
三社は中小企業の専門性、柔軟性、迅速性を十分に活かしていると言える。
最後に、3社の共通点として挙げられる「他社がやっていないことをやる」ということ
が、小規模企業でもモジュールで顧客を獲得することができるポイントではないかと考え
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た。マイクロモジュールテクノロジーは半導体、特殊電気は高圧モジュール、エル・アン
ド・エフは USB や LAN モジュールといった他社があまり製造しない製品を作ることによ
ってシェアを獲得していた。また他にヒアリングを行った企業では Bluetooth モジュール
などニッチな製品を生産している企業があり、シェアを獲得していた。
第 4 章 小規模企業が支える市場とモジュール・ブラックボックス
4-1. 小規模企業が支えるニッチ・モジュール市場
前章で考察したように、小規模企業は自身が持つ特徴を十分に生かした経営戦略で市場
のシェアを獲得していた。その特徴とは、自社の技術や製品に注力し一つの分野に特化す
る「専門性」、顧客のニーズに柔軟に対応し要求を満たすことができる「柔軟性」、商談の
成立や決断の即時性などから短納期でも対応できる「迅速性」である。図表 4-1 のよう
に、これらを実施することで、自社のモジュール製品に高付加価値を持たせ収益を獲得す
ることに成功していた。
加えて、それぞれの小規模企業が、需要はあるが大企業では採算が合わせづらい所謂ニ
ッチな分野において個々の技術を発揮しシェアの獲得へとつなげている。中小企業の中で
考えても、中規模企業はより需要の大きい市場に参入している企業があることと比較し
て、小規模企業はよりニッチな市場の需要を満たしていると考えられる。
また、モジュール製品の内部にその企業独自の技術を落とし込み、組み立てや検査とい
った企業が持つ独自の長年培ったノウハウによって、モジュール製品の外側はモジュール
化に対応したオープンなものだが、モジュール製品の内部に関してはほかの企業が模倣す
ることができない「ブラックボックス」を構築することに成功し、高い品質や信頼を獲得
している小規模企業もあった。
つまり、小規模企業はモジュール製品の分野において、その小規模性という特徴を経営
戦略へとつなげることで大企業とは差別化を図り、保有する独自の技術やノウハウを「モ
ジュールのブラックボックス化」へとつなげ、需要は確かにあり小規模だからこそ参入す
ることができるニッチな市場において活躍し、日本経済の一端を担っているのである。
これらをまとめた図表 4-2 にあるように、我々は小規模企業がモジュールという分野に
おいてニッチ・モジュール市場にその役割を果たしており、それぞれが保有する独自の技
術やノウハウを生かしたブラックボックスな分野において強みを発揮していると考える。
この図表での「オープン」とは図表 1-2 における業界標準という意味ではなく、モジュー
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ル内部のアーキテクチャが一般に公開されているということを意味しており、モジュール
内部のブラックボックス化との比較をしている。
また小規模のなかでも、ニッチな市場だけではなく、より大きなマスな市場でもニッチ
な市場と同じように小規模企業の特徴を発揮し、シェアを獲得することに成功している企
業もあった。その理由は、知的財産を管理し経営戦略のうちに組み込み、マスな市場に存
在する大企業や中規模企業などとも対等となれるほどの競争力を維持しているためであっ
た。
我々は、この知的財産を有効に活用することができれば、モジュールのブラックボック
スはより強固なものとなり、小規模企業のモジュール化が大きい市場で活躍する可能性が
あるのではないかと考え、実現のための一つの方法を提示する。
4-2. 小規模企業によるモジュール・ブラックボックスとその可能性
モジュール内部のブラックボックス化を強固にするために、小規模企業は知的財産につ
いての知識を付けなればならない。しかし、大企業と比べて人材も資金も乏しい小規模企
業では、知的財産を管理する余裕を持つことは困難である。そこで、我々は小規模企業の
「経営者」が知的財産について知識を深めること、小規模企業同士の協業と知的財産の共
同保有による登録費用や管理費用の分担・削減をすることが有効なのではないかと考え
る。
規模が小さい企業では、経営者の考えや行動が企業全体の進むべき方向性へと大きな影
響を及ぼす。故に、経営者が知的財産権について理解を深めることが、企業全体として製
品に対して知的財産を有効に活用することができることに繋がる。そのために、国や自治
体、日本弁理士会の説明会などに積極的に経営者が参加することが肝要である。また、国
や自治体は仕事で多忙な経営者のためにも情報発信の場を頻繁に設ける必要性があると考
えられる。
また、小規模性とその専門性、柔軟性を生かして、他の小規模企業、または大規模企業
や中規模企業、あるいは海外の企業と協業し共同研究を行い、知的財産権を共同保有する
ことが重要であると考える。小規模企業単体では開発困難な技術を生み出し、その技術を
共同保有の形で知的財産として管理することで、登録費や管理費など様々なコストを削減
することができる。ここでも、協業先の選定や知的財産の共同管理方法などに関して助言
し、指導する役割として国や自治体の存在が需要であると考えられる。例えば、地方自治
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体がその地域にある小規模企業と他の企業とのマッチングを積極的に仲介し、スムーズな
協業を行えるような体系づくりをすることなどが挙げられる。
これらの方法で、小規模企業が知的財産をより積極的に経営戦略の中に組み込み、競争
力を高められるようになれば、小規模企業はより大きな市場でもシェアを拡大していくこ
とができる。
加えて、登録することで条件付きではあるが公開される知的財産権だけではなく、製品
の組み立ての技術や検査技術などの知的財産では管理することのできない、その企業独自
のノウハウにおいて、日本の小規模企業は今なお高い水準のものを維持している。「知的
財産」と「ノウハウ」、その二つの強みをモジュールの内部へと落とし込むことで、より
モジュール内部のブラックボックス化は強化され、小規模企業がより大きな市場において
もその小規模性の特徴である「専門性」、「柔軟性」、「迅速性」を失うことなく、競争優位
を維持し続けることができるはずであると考えられる。
終わりに
本論では、モジュール化市場において日本企業が競争優位を確保するために内部の「ブ
ラックボックス化」が重要だと論じた。またブラックボックスをより強固なものにするた
めの手段として、中小企業がその企業独自の技術などの「ノウハウ」を活かすことや、「知
的財産」を管理しそれを経営戦略などに有効活用することを提案し、それによって高い競
争力を維持することができるのではないかと論じた。
また実際にヒアリングした企業の中だけでも、特殊電気株式会社のようにモジュール製
品によるイノベーションを志向する企業が存在しており、他にも我々の主張と同様あるい
はそれに近い考えを持つ企業が存在する可能性は十分にあると考えた。
以上のことから、本論において提示した方法は実現可能性が十分にあると断言すること
はできないが、ある程度は的を射ているのではないかと考えられる。本論でも論じた通り、
日本経済は海外企業の台頭や海外移転による空洞化などにより、中小製造業の存立を厳し
いものとしている。しかし、そのような状況においても、ニッチ市場の中で日本経済の一
端を担い、支えている小規模企業が、モジュール化とブラックボックスを融合したニッチ
戦略により多く取り組むことによって日本経済に活力を与えることができるだろうと考え
る。
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[図表リスト]
図表 1-1
定義1 相互作用の小さいユニットへの分割
例: 複雑な製品はほとんど
利点:開発や保守・管理の容易さ
定義2 インターフェースの固定
例: 家電、一部の自動車
利点:規模の経済
定義3 インターフェースの固定・公開
例: パソコン、インターネット
利点:競争原理の効率性、多様性
(出所) 田中辰雄(2009)P.11 より引用
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図表 1-2
インテグラル(擦り合わせ) モジュラー(組み合わせ)
クローズド・インテグラル型
自動車
オートバイ
軽薄短小型家電
ゲームソフト 他
クローズド・モジュラー型
メインフレーム
工作機械
レゴ 他
オープン・モジュラー型
パソコン・システム
パソコン本体
インターネット製品
自転車
ある種の新金融商品 他
ク
ロ
ー
ズ
ド
(
囲
い
込
み
)
オ
ー
プ
ン
(
業
界
標
準
)
(出所) 藤本隆宏(2004) P.132 より引用
16
図表 1-3 2013 年アジア各国主要都市 労働者賃金
(出所)JETRO 「第 24 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較」
を基に筆者作成
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図表 1-4 製造業のグローバライゼーションのモジュール化における競争優位の確保
製
造
業
の
グ
ロ
ー
バ
ラ
イ
ゼ
ー
シ
ョ
ン
の
特
徴
①ソフトウェアが製品設計・システム設計に深く介在して製品アーキテクチャ
が技術モジュールの組み合わせ型(積木細工型)になること
②技術モジュール相互の結合インターフェースがオープン標準化され、あるい
は業界標準となり、技術伝播スピードで他国へ着床するスピードが、それ以前
の 1-倍以上に加速して瞬時に国境を超えるようになること
⇒インターフェース情報が公開されれば、技術モジュールの単純結合によって
誰でも製品が作れるようになる
③内部構造がブラックボックス化された技術モジュールであれば伝播・着床ス
ピードが極端に遅くなって国境を越えにくいので、日本企業の競争力を保つこ
とができる
⇒その製品(あるいは技術モジュール)の内部アーキテクチャの違いが競争力に
大きな影響を与える
(出所)小川紘一(2014) P.62-63 を基に筆者作成
18
図表 2-1 半導体世界売り上げ上位 10 社
(出
所)
米
ガー
トナ
ー社
HP
より
筆者
作成
図表 2-2
(出所) 米 Strategy AnalyticsHP より筆者作成
図表 2-3 サムスン躍進の原動力
25.20%
11.90%
6.80%
5.40%5.10%
4.90%
40.60%
スマートフォン世界シェア2014年(4月~6月)
サムスン(韓)
アップル(米)
ファーウェイ
(中)
レノボ(中)
シャオミ(中)
LG(韓)
順位 1989 年 1995 年 2000 年 2005 年 2010 年 2013 年
1 N E C (日) イ ンテル(米) イ ンテル(米) イ ンテル(米) イ ンテル(米) イ ンテル(米)
2 東 芝 (日) N E C (日) 東 芝 (日) サ ムスン(韓) サ ムスン(韓) サ ムスン(韓)
3 日 立 (日) 東 芝 (日) N E C (日) T I (米) 東 芝 (日) ク アルコム(米)
4 モ トローラ(米) 日 立 (日) サ ムスン(韓) 東 芝 (日) T I (米) SK ハイニックス(韓)
5 T I (米) モ トローラ(米) T I (米) ST マイクロ(欧) ル ネサス (日 ) マ イクロン(米)
6 富 士通(日) サ ムスン(韓) ST マ イ クロ(欧 ) ル ネサス(日) ハ イ ニ ックス (韓) 東 芝 (日)
7 三 菱電機(日) T I (米) モ ト ロ ーラ(米 ) イ ン フィニオン(欧) ST マ イ クロ(欧 ) T I (米)
8 イ ンテル(米) 富 士通(日) 日 立 (日) フ ィ リ ップス (欧) マ イクロン(米) ST マ イクロ(欧)
9 松 下電工(日) 三 菱電機(日) イ ン フィニオン(欧) ハ イ ニ ックス (韓) ク ア ル コム(米 ) ブ ロ ー ドコム (米)
10 フ ィ リ ップス (欧) ヒ ュンダイ(韓) マ イ ク ロン(米 ) N E C (日) イ ン フィニオン(欧) ル ネサス(日)
19
(出所) 石田賢(2013) p.p50 を基に筆者作成
図表 2-4
20
(出所) e-stat 政府の総合窓口 2014 「中小企業製造工業生産指数」年度時系列デー
タを基に筆者作成
80.0
90.0
100.0
110.0
120.0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
電子部品・デバイス工業 生産指数(2003~2013)
生産指数
21
図表 2-5
(出所)中小企業白書(2014 年版)付属統計資料より筆者作成
0
1
2
3
4
5
6
7
8
%
年
製造業の開業率・廃業率
開業率
廃業率
22
図表 2-6
(出所)経済産業省「平成 24 年工業統計速報」より筆者作成
図表 4-1 小規模企業のモジュール製品と小規模性の融合
(出所)ヒアリング調査を基に筆者作成
60
65
70
75
80
85
90
95
100
105
110
2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年
兆
円
小規模製造業 付加価値総額
23
図表 4-2 市場規模と内部オープン度による分類と小規模企業の市場
[出所]ヒアリング調査から筆者作成
24
[参考文献]
 青木雅彦 安藤晴彦 (2002) 『モジュール化 新しい産業アーキテクチャの本質
第 1 部 モジュール化とは何か』 東洋経済
 石田賢(2013) 『サムスン式国際戦略 サムスン躍進の原動力』文眞堂 pp50
 太田智之、辻隆司(2008)「中堅・中小企業の価格交渉力と標準化・モジュール化」
『みずほ総研論集』2008 年Ⅲ号
 小川紘一(2014) 『オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件』翔泳社
 小川正博(2012)「オープンなモジュール化の進展と中小企業経営」『CUC
view&vision34』pp.21-26
 田中辰雄(2009) 『モジュール化の終焉 統合への回帰』 NTT出版
 藤本隆宏(2004) 『日本のもの造り哲学』 日本経済新聞社
 丸島儀一(2011) 『知的財産戦略 技術で事業を強くするために』 ダイヤモンド社
 湯之上隆(2013)『日本型モノづくりの敗北』 文藝春秋
25
[参考 URL]
 ガートナー・ジャパン HP
http://www.gartner.co.jp (2014/9/2/アクセス)
 経済産業省「平成 24 年工業統計速報」
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kougyo/result-2/h24/sokuho/pdf/h24s-hb.pdf
(2014/9/2 アクセス)
 総務省 2012「平成 24 年版情報通信白書 第 1 部 特集 ICT が導く震災復興・日
本再生の道筋」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc113220.html
(2014/10/7/アクセス)
 中小企業庁「中小企業白書(2014 年版)」付属統計資料
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/PDF/18Hakusyo_huzokutouke
i.pdf (2014/9/7 アクセス)
 延岡 健太郎(2005) 『RIETI-モジュラー型製品における日本企業の競争力――中
国情報家電企業における組み合わせ能力の限界』
http://www.rieti.go.jp/jp/papers/journal/0507/bs01.html (2014/9/27/アクセス)
 e-stat 政府の総合窓口 2014 「中小企業製造工業生産指数」年度時系列データ
http://www.e-
stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&listID=000001127353&reque
stSender=dsearch(2014/10/12/アクセス)
 JETRO 「第 24 回 アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較」
http://www.jetro.go.jp/jfile/report/07001721/07001721d.pdf (2014/9/27/アクセス)
 Strategy Analytics HP
http://www.strategyanalytics.com (2014/9/3 アクセス)
26
【ヒアリング調査先】
2014/8/22 センチュリーマイクロ株式会社 東京都品川区
2014/8/27 日本フォーミング株式会社 東京都葛飾区
2014/8/28 エイディーシーテクノロジー株式会社 東京都千代田区
2014/8/29 マイクロモジュールテクノロジー株式会社 神奈川県横浜市
2014/8/29 株式会社メイクリーン・ジロテック事業部 神奈川県横浜市
2014/9/2 サトウ電機株式会社 東京都足立区
2014/9/3 特殊電気株式会社 東京都稲城市
2014/9/8 元会社経営者 S 氏 神奈川県茅ヶ崎市
2014/9/11 株式会社エル・アンド・エフ 東京都板橋区

中小企業懸賞論文「モジュール化とブラックボックス戦略の融合」