1. 長谷川ゼミ後期発表課題
2016年12月20日
池田伊央理
贈与と書面
最高裁昭和60年11月29日第二小法廷判決
(昭和57年(オ)第942号:所有権移転登記抹消登記手続請求事件)
(民集39巻7号1719頁,判時1180号55頁,判タ582号64頁)
【事実の概要】
A は昭和42年6月27日に72歳で死亡し、この X ら5名(原告・被控訴人=控
訴人・上告人)が A を相続した。A は死亡前の同年2月から5月にかけて、複数の土
地や数口の預金債権を次々と Y(被告・控訴人=被控訴人・被上告人)に贈与してい
た。土地の贈与については、1筆の宅地(以下、「本件土地」という」を除き、A から
Y への所有権移転登記または所有権移転請求権の移転付記登記がなされ、預金債権に
ついてはすべて贈与証書が作成された。
Y は戸籍上 A の子であるが、実際は A の亡妻と他男との子である。Y および A は X
らと生活を共にしてきたが、X らの1人や A との間にトラブルが生じ家を出た。しか
し、A と同居していた女性が昭和41年3月に A 方を出た後は、近くに住む Y が A の
世話などをしていた。
X らは、A から Y への各贈与は存在しないとして、対象である各土地の所有権およ
び各預金債権につき相続した旨を主張してその確認を求め、また各土地につきなされ
た登記の抹消登記手続を求めて訴えた。また、各贈与があったとしても当時 A に意思
能力はなかったとして効力を争い、仮に有効としても本件土地の贈与は書面によらな
い贈与であり取り消した(平成16年改正前の民法550条は「撤回」ではなく「取
消」の語を用いる。以下、主張および判旨は当時の用語による)と主張した。なお、
予備的請求として遺留分減殺に基づく権利の確認を求めた。
Y は、本件土地の贈与につき、A から本件土地の前主 B に宛てた内容証明郵便が贈
与の書面にあたると主張。これは、A が B から本件土地を購入し代金も完済したが登
記を経ていなかったため、A が司法書士 C に依頼し、本件土地を Y に譲渡したから B
から Y に対し直接所有権移転登記をするよう求めた書面を作成して B 宛に差し出した
ものである。
第一審はこの書面を民法550条にいう書面とは認めず、X らによる本件土地の贈
与の取消しを認めたが、原審は書面による贈与として取消しを認めず、予備的請求の
みを認容した。X ら上告。