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キ ラ キ ラ ネ ー ム 問 題 に 対 す る 政 策 提 言
― 「 漢 字 の 読 み を 制 限 す る 案 」 を 中 心 に ―
3 年 G 組 13 番 小林拓真
指導教員:中村成里
目 次 :
第 1 章 はじめに ・・・2
第 1 節 本論文の目的 ・・・2
第 2 節 用語の定義 ・・・2
第 2 章 人名の歴史 ・・・4
第 1 節 人名漢字制定までの人名の傾向 ・・・5
第 2 節 人名に用いることのできる漢字の変遷 ・・・6
第 3 節 キラキラネームの台頭 ・・・9
第 3 章 キラキラネームによって発生した問題点 ・・・17
第 1 節 人名の持つ社会的な重要性 ・・・17
第 2 節 社会全体に生じる問題点 ・・・17
第 3 節 キラキラネームにより子どもとその周辺人物に生 じる問題 点・・・18
第 4 節 子どもに生じる問題点の深刻性 ・・・21
第 5 節 キラキラネームを減少させる必要性 ・・・22
第 4 章 キラキラネームを減少させるための具体策の提案 ・・・23
第 1 節 漢字の読みを制限する案 ・・・23
第 2 節 使用可能な漢字の数を制限する案 ・・・23
第 3 節 一定の年齢になった時点で、本人に改名権を認め る案・・ ・24
第 4 節 氏名に振り仮名をつけることを推奨する案 ・・・25
第 5 節 キラキラネームを推奨する案 ・・・26
第 6 節 5 つの案の比較 ・・・26
第 5 章 「漢字の読みを制限する案」の実現可能性 ・・・27
第 1 節 憲法 21 条への違反 ・・・27
第 2 節 憲法 13 条への違反 ・・・28
第 3 節 戸籍実務者の反対 ・・・28
第 4 節 海外での人名制限との比較 ・・・29
第 6 章 終わりに ・・・29
謝辞 ・・・30
参考文献 ・・・30
2
第 1 章 は じ め に
第 1 節 本 論 文の目的
本論文はキラキラネームを減少させるために、 人名に使 用できる 漢字の読 み方 の 制 限 へ
の提言を目的とした論文である。
人の名前を法的観点から扱う分野では、命名権 の所在や 「悪魔ち ゃん事件 」に つ い て 多
くの研究がなされてきた1。しかし、キラキラネーム そのもの に注目し た研究は まだ 少 な く 、
キラキラネームに対する政策を提言する研究は 執筆者の 調べた範 囲では見 つからな か っ た 。
まず、本論文の概略を述べる。第一にキラキラ ネームが 近年にな って発生 する よ う に な
り、その数が増加していることを 2 章で述べ、第二にキ ラキラネ ームによ る問題 点 が 人 名
制限のシステムを変えるべきと言えるほど深刻 であるこ とを 3 章で 説明する。第 三 に 、 漢
字の読み方を制限することが、他の政策と比較 したうえ で最も効 果を上げ る政策 で あ る こ
とを 4 章で、第四に 4 章で説明した政策は 、憲法に 違反する ことなく 、実 務家た ち の 反 発
も受けずに導入可能であるということ。これを 5 章で説明す る。以上の 4 点を証 明 し 、 6
章を結論とする。
第 2 節 用 語 の定義
第 1 項 キ ラ キ ラ ネ ームの 定義
キラキラネームは、近年新しく生まれた言葉で あり、明 確な定義 は存在し ない 。 本 論 文
では、川岸克己の定義した2、「漢字を見 ただけで はどの ように 読むのか 見当が つ か な い 、
たとえ読めたとしても違和感を感じる、あるい は一般的 な感覚と は異なる 感性に よ っ て つ
けられた名前」をキラキラネームとして定義す る。この 定義は、 受け手の 感受性 を キ ラ キ
ラネームであるかないかという基準としている 。
本論文中で、珍しい名前を「DQN ネーム」や「 珍奇ネー ム」と呼 ばず、「 キラ キ ラ ネ ー
ム」と呼んでいる理由についてもここで触れて おく。「DQN ネー ム」は、 名づけ ら れ た 子
やその親を蔑む意味合いの込められた呼称であ り、各種 報道機関 では、名 づけ主 の 意 思 を
尊重して「キラキラネーム」と呼ぶこと が通例 になって いる3。 また、「 珍奇ネ ー ム 」 は 、
1 命名権の所在を論じた研究には、田中実「命名 の法理」『法学研 究』37 巻 10 号、1964
年や、宮崎幹朗「戸籍法の「常用平易な文字」 と人名用 漢字の変 遷」『愛媛 法学会雑 誌』
32 巻 3,4 号、2006 年がある。「悪魔ちゃん事件」についての研究 には、澤 田省三「 命名
の法理をめぐって 「悪魔ちゃん」事件に関連して」『宮崎産業経 済大学法 学論集』 第 8
巻第 1,2 号、1996 年や、井戸田博史「出生子命名権について: 『悪魔』『琉』命 名事件」
『日本文化史研究』30 号、1999 年がある。
2川岸克己「人名における漢字使用の変化とその 誘因」『安 田女子大 学紀要』41 巻、2013
年、p.1
3 各新聞社データベースによれば、「キラキラネ ーム」が 含まれる 記事は 2013 年か ら
2010 年の間で、朝日新聞 7 件、読売新聞 10 件、毎日新聞 10 件存 在する。 対して、
「DQN ネーム」が含まれる記事は存在しない。
3
命名専門家の牧野恭仁雄が中立の立場に立った 呼称とし て推奨し ている4も のであ る が 、牧
野の著書以外で目にすることがなく、定着して いる言葉 であると は言い難 い。
以上より、本論文中では、上の定義に合う名前 を「キラ キラネー ム」と呼 称する。
第 2 項 キ ラ キ ラ ネ ームの 具体例 と分類
では、上にあげたキラキラネームの定義に該 当するよ うな名前 にはどの ような も の が あ
るか。このことを読者に知ってもらうことは、第 3 章で 説明する 問題点を イメー ジ す る う
えで大いに役立つはずである。
では、牧野恭仁雄『子供の名前が危ない 』の 分類をも とに一部 変更を加 え5、キ ラ キ ラ ネ
ームとされえるものを分析していく。
①誤った読みを使っている名前
①-1 読みの一部を読みとして誤って使っている名前 例:心愛(ここあ)、飛人(あ す と )
心の字には「こころ」という訓読みはあるが、「ここ」という 読み方は ない。同 様 に 、愛
の字に「あい」という訓はあるが「あ」という 読み方は ない。同 様に、飛 の字に は 飛 鳥 で
「あすか」という熟字訓こそあるものの、単独 で「あす 」と読む ことはで きない。
①-2 漢字の意味から読みを導いている名前 例:天使(エンジェル)、海(まりん)
天使という熟語の持つ意味から英単語の Angel を連 想し 、それを カタカナ に置 き 換 え た
名前である。日本語において、漢字には読みが 対応して いるため 、意味か ら読み を 導 く こ
とはできない。
②別の熟語などを連想させる名前
②-1 熟語として読むことのできる名前 例:類人(るいと)、達磨(たつま)
それぞれ類人猿やダルマという全く違う意味 の熟語を 想起させ る。
②-2 読み方が別の言葉に聞こえる名前 例:文恵(ふみえ)、良喜(りょうき)
それぞれ、キリスト教弾圧の手段としての「 踏み絵」 や、奇怪 なものを 好むと い う 意 味
の「猟奇」を連想させる。
③現在の日本人の名前だと即座に判別できない 名前
③-1 外国の言葉を漢字に置き換えた名前 例:里羅楠(リラックス)、新千絵(ニ ー チ ェ )
これらを見ただけ、聞いただけではそれが名前 であるこ とが理解 できない 。
③-2 アニメのキャラクターなどを用いた名前 例:光宙(ピカチュウ)、夢民(む う み ん )
アニメのキャラクターに倣った名づけは、学 校などで 周囲に違 和感を与 える。ま た 、そ の
4 牧野恭仁雄『子供の名前が危ない』ベスト新書 、2012 年、p.20
5 前掲『子供の名前が危ない』pp.27-39 を参照。牧野はキラ キラネー ムを 17 種類 に分類
している。他には「日本語、あるいは古語で特 別な言葉 にも聞こ える名」「 外国語で おか
しな連想をおこす名前」などを牧野は掲げてい るが、本 論文での 定義には 当たらな いと判
断し、本文中には採用しなかった。
4
アニメは子供が死ぬまで知られ続けているとい う保証は どこにも なく、名 前その も の が 時
代遅れとなる可能性もある。
③-3 昔の人の名のような名前 例:信長(のぶなが)、卑弥呼(ひみこ)
有名な歴史上の人物にあやかった名前は、あだ 名のよう に受け取 られがち で、 名 前 に 不
安定感を感じる。
④字が難しく口頭での説明がしにくい名前 例:賢爾(けんじ)、亨(とおる)
賢爾の「爾」の字や、「亨」は 、一般的 な語句に はあまり 登場しな い漢字で ある た め 口 頭
で説明することが難しい。漢字そのものが珍し いがため に漢字を 見ただけ ではど の よ う に
読めばよいかわからない例といえる。
ところで、この条件に当てはまる全ての名前が キラキラ ネームで あると執 筆者 は 主 張 し
ない。例えば、2012 年女の子の名前 1 位は「結衣(ゆい)」であり6、「結」の 字 に 「 ゆ 」
という読み方は存在しないため、先の分類の①-1 に 含まれる 。しか し、ラ ンキン グ の ト ッ
プであることからも市民権を得ている名前であ りキラキ ラネーム ではない とみて 差 し 支 え
ないだろう。
つまり名前がキラキラネームであるか否かとい うのは、 以上に挙 げた条件 にい く つ 当 て
はまるのかによって決まるのではなく、個人の 感覚とい う実に不 安定なも のによ っ て 決 め
られているということだ。
この線引きの難しさが、キラキラネームが減少 しない一 因と考え られる。 つま り 、 親 と
しては流行に乗った一般的な名前を付けている つもりで ある7が、名前 を見た他 人 か ら す れ
ば親の常識を疑うような名前であるという場合 である。 そのよう な場合、 親のキ ラ キ ラ ネ
ームをつけたいという意図なしに、子はキラキラ ネームを つけられ たことに なって し ま い 、
周囲からはキラキラネームと認識されてしまう のである 。
では、なぜこのようなキラキラネームが生まれ るに至っ たのか、 第 2 章で見 ていく。
第 2 章 人 名 の 歴 史
ここでは、人名に使える漢字が制限される以前 、人名漢 字の制限 以降、キ ラキ ラ ネ ー ム
の台頭の 3 つの観点に分けて、キラキラネーム が以前は 生まれて いなかっ たにも か か わ ら
ず、現代になりキラキラネームが急激に増加し た理由を 考察する 。なお、 人名の 傾 向 を 知
6 明治安田生命「名前ランキング」2012 年
(http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html)
なお、2013 年データは時間の都合により、採用できなか った。
7 星田晋五『名前の研究』星田言 編、近代文芸社、2002 年 p.161
「名というものが、末永く、しかも最も身近に つきまと うもので 、また、 みだりに 改めら
れぬものであるから、そして親としての本能的 な気持ち もあるか ら、少な くとも、 でたら
めや悪意から付けることはまれで、まず善意的 なもので あるとい えるであ ろう。」
5
るに当たっては、第 1 章第 2 節第 2 項でも用いた明 治安田生 命名前ラ ンキング( 以 下 、明
治安田調査と呼称する)を参照した。
第 1 節 人 名 漢字制限までの人名の傾向
戦後までは、人名に使える漢字の制限は存在し なかった 。具体的 にいうと 、旧 戸 籍 法 第
28 条に、「戸籍ノ記載ヲ為スニハ略字又ハ符号ヲ用ヰス 字画明瞭 ナルコト ヲ要ス 」 と の 規
定があるのみであった8。漢字の字種が定められて いる現在 と比較す れば、ほと ん ど 制 限 が
無かったとみて良いであろう。しかし、現在のよ うなキラ キラネー ムは現れ ていな か っ た 。
「現行の戸籍法の施行前には、名に使用する文 字には法 律上の制 限がなか ったた め 、 漢 字
の数がはなはだ多くその用い方も複雑であり、 子の名づ けに用い られた漢 字の中 に は 極 め
て難読難解なものが少なからずあ」ったという最 高裁判所 による指 摘もある 9が、社 会 問 題
として顕在化していなかったことから考えれば 、現在よ りはキラ キラネー ムの数 は 少 な か
ったと考えられる。
その根拠はいくつか挙げられる。
第一に、戦中から戦後すぐにかけては生きて 行くのに 精いっぱ いの時代 であり 、 名 前 を
「個性的」というコンセプトでつけるという発 想が国民 になかっ たことが 挙げられ る10。
第二に、名前の雛形が決まっていたため、独自 性の入り 込む余地 が無かっ た こと で あ る 。
女性名では和子、幸子、節子をはじめとする「 子」を止 め字とし て使う名 前が 一 般 的 で
あった。明治安田調査を参考にすれば、1926 年から 1955 年までの トップ 10 に 「 子 」 の
字で終わっていない名前は存在しない。
また、男性名では清、勇、勝などの漢字一字名 が一般的 であった 。同じく 明治 安 田 調 査
によると、1926 年から 1955 年までのトップ 10 で、漢字一字ではない名 前は、 一 男 ・ 三
郎・昭一・昭二・昭三・和夫・辰雄・勝利・幸 雄のわず か 9 種類で ある。
子という止め字に合う漢字、漢字一字で意味を なし名前 としてふ さわしい 漢字 を 使 う と
なると、おのずと使われる漢字も制限されてい たのでは ないかと 考えられ る11。
第三に、子供の名前をつける権利が親に集中 していな かったと いうこと である 。 戦 後 間
8 小野木美保「人名用漢字について」『戸籍』756 号、2004 年 、p.60
9 最高裁判所平成 15 年(許)第 37 号同年 12 月 25 日第三小法廷 決定「市 町村長の 処分
不服申し立て審判に対する抗告棄却決定に対す る許可抗 告事件」『 最高裁判 所民事判 例
集』p.2562、57 巻 11 号 p.676
10 佐藤稔『読みにくい名前はなぜ増えたか』吉川 弘文館、2007 年 、p.159
11 福田ますみ「『キラキラネーム』大研究」『新潮 45 』2012 年 7 月号、p.125
「つまり、下に子を付ける前提で上の漢字を選 ぼうとす ると、あ る程度限 定されて しま
い、結果的に同じような名前ばかりになってい た。(後略 )」(小林 教授)
6
もなくまでは、子供の名前は親族 全体で 考えた り、寺 院でつ けても らった り し て い た 12。
このことが、親の独断によってキラキラネーム をつける 可能性を 抑制して いたと い う こ と
も考えられる。
以上の 3 つの根拠により、人名用漢字制定以前におい ては、制限 がないに もか か わ ら ず
キラキラネームは存在していなかったと結論で きる。
第 2 節 人 名 に用いることのできる漢字の変遷1 3
第 1 項 当 用 漢 字 で の制限
1947 年 12 月 22 日に戸籍法が制定された14。戸籍法 五十条に は、「子の 名に は 、 常 用 平
易な文字を用いなければならない」とあった。 これが人 名に使わ れる漢字 を制限 す る 根 拠
となっていた。具体的には常用平易な漢字は、司法省 令である 戸籍法施 行規則 六 十 条 15で 、
当用漢字および片仮名又は平仮名と定められた 。漢字は それが持 つ難しさ により 、 封 建 社
会において一部の人間が知識を独占するための 道具とし て使われ た。その 反省を 生 か し 、
分かりやすく漢字を整理することで、民主的に 知識を共 有できる ようにし 、民主 化 を 推 し
進めようようと考えたのである。これが当用漢 字の制定 目的であ った16。
第 2 項 人 名 用 漢 字 の制定
では、人名に使 うこ と ので き る漢 字 が制 限 され た こ とに よ る反 発 はど う 起こ っ た か 。
1950 年 3 月に、「玖美(くみ)」という名前の出 生届を不 受理とし たことは 憲法違 反 と し て
家庭裁判所に訴えたことがはじめである17。反発 に対応し 、1951 年 3 月 24 日、衆 議 院 戸
籍法小委員会は戸籍法第 50 条 3 項に、
「市町村長は、出生の届出において子の名に前 項の範囲 外の文字 を用いて ある 場 合 に お
いては、届出人に対してその旨を注意すること ができる 。但し、 届出人が これに 従 わ な く
ともその届出を受理しなければならない。」
12 第 2 章第 3 節第 4 項「女のなまえ」アンケート参照 。
13 文化庁「これまでの漢字政策について(付:人 名用漢字 )」2008 年
(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/kanji_27/pdf/shiryo_4.pdf )
で、漢字制限の歴史を概観することができる。
14 「戸籍法(昭和二十二年十二月二十二日法律第 二百二十 四号)」 最終改正 2011 年
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html)
15 「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二十九 日司法省 令第九十 四号)」 最終改正
2013 年
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F00501000094.html)
16 円満字二郎『人名用漢字の戦後史』岩波書店、2005 年 、pp.9-10
17 牧野恭仁雄「人名用漢字・歴史と事件」『月刊 しにか』2003 年 7 月号、p.23
7
という条文を追加し、人名に使え る漢字 の制限 を廃止 しよう という 動きが 起 こ っ た 18。
この改正案は衆議院で可決され、 あわや 成立か という ところ まで進 んだ19。 し か し 、 国 語
審議会と法務省が手を結び、参議院で審議未了 に追い込 み、人名 用漢字別 表の公 布 を 決 定
にさかのぼって実施することにより、衆議院戸 籍法小委 員会によ る改正案 は廃案 と な っ た
20。人名用漢字制定の 1951 年から 1976 年に至るまでの 25 年間、人名用漢字は追 加 ・ 改
正されることはなかった。
1 第 一 次 改 定
再び名づけに使える漢字の制限緩和を求める動 きが戸籍 実務家な どから現 れた 時 、 国 語
審議会は当用漢字表の再検討を行っていた。そ こで法務 省が名づ けに使え る漢字 の 問 題 を
担当し、漢字表を独自に作成した 21。これ に国語 審議会 の追認 を得て 、人名 用 漢 字 表 を 変
更しようとした。しかし、法務大臣の私的諮問 機関であ る人名用 漢字問題 懇談会 が 提 示 し
た変更案を、法律に基づいて設置された文部大 臣の諮問 機関であ る国語審 議会は 手 続 き の
正統性が無いという面から拒否した。人名用漢 字をめぐ り、人名 用漢字制 定時に は 手 を 結
んだ文部省と法務省が民主化のための制限とい う大義名 分を失い 対立を始 めたの だ 。 結 果
として、1976 年 7 月 30 日に人名用漢字追加表という第三 の表とし て、人 名用漢 字 問 題 懇
談会が作成した漢字表が告示された22。
2 第 二 次 改 定
その後、国語審議会において当用漢字表が常用 漢字表に 変更とな ることが 決ま り 、 漢 字
表の持つ意味が制限から目安へと 変化し た23。こ の転換 に対応 し、人 名に使 う こ と の で き
る漢字を、制限から目安に変えようという動き が国語審 議会の中 から出始 めた。 さ ら に 、
人名用漢字の担当は法務省に任せるべきという 立場も現 れ、今ま での制限 を存置 し よ う と
する立場と合わせて国語審議会内 の議論 は紛糾 した24。 期限ま でに議 論はま と ま ら ず 人 名
用漢字は、文部省の管轄の国語審議会から、法 務省の管 轄の民事 行政審議 会へと 移 管 さ れ
18 読売新聞「戸籍法の改正に衆院動く」1951 年 2 月 18 日付朝 刊、2 面
19 「第010回国会 法務委員会 第14号」1951 年
(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/010/0488/01005150488014a.html )
20 日本法令索引「戸籍法の一部を改正する法律案 」
(http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=101002035 )
参議院で本会議にかけられておらず、継続審議 にもなっ ていない ため、廃 案となっ たこと
がわかる。
21 前掲『人名用漢字の戦後史』pp.115-116
22 前掲「これまでの漢字政策について(付:人名 用漢字)」
23 毎日新聞「『常用漢字』に 1945 字 国語審答申 『当用』に 95 字追加」1981 年 3 月 24
日付朝刊、1 面
24 前掲『人名用漢字の戦後史』p.129
8
ることとなった25。こうして、人名 用漢字 は「分 かりや すい日 本語の ために 、 漢 字 の 利 用
を制限する」という言語政策的役割を終え、数 を増やし ていくこ ととなっ た。戸 籍 実 務 家
の要望やコンピューター化に対応し、「無限性の ある漢字 に一定の 線引きを する」と い う 実
務的役割へと大きく方向転換したのだ。すなわち 、「言葉 の民主化」という自 由より も 、「 命
名の個性」という自由が強く求めるような時代に なった の である。結 局、この時 に は 5 4 字
を人名用漢字表に追加することで妥協した26。
また、人名用漢字別表が、内閣告示ではなく「 別表第二 」と称さ れること とな り 、 法 務
省のフリーハンドで改正を行えるようになった 27。
3 第 三 次 改 定
第三次改定は戸籍実務家が、姓の誤字・俗字を 職権で訂 正できる ようにす ると い う 規 制
に対して、懐柔策として与えられた制限緩和で ある。こ の時、姓 の誤字・ 俗字が 問 題 と な
った理由は戸籍のコンピューター化である。名 に使える 漢字をあ る程度増 やして も コ ン ピ
ューター化するうえで大きな支障を及ぼさない 。対して 、姓の誤 字・俗字 は今ま で 制 限 が
なされていない上、際限なく増加する性質のも のであっ たためコ ンピュー ター化 の 大 き な
ネックとなったのだ。
4 第 四 次 改 定
第四次改定では沖縄県に住む夫婦が命名の自由 を訴え「 琉」の一 文字のみ が、 裁 判 の 結
果を受けて審議会や委員会での検 討を経 ずに追 加され た28。こ れは、 沖縄県 が 米 軍 基 地 問
題で揺れていたという政治的な影響もあったと 考えられ ている29。
5 第 五 次 改 定
最高裁判所が「人名用漢字別表」の有無に関係 なく、家 庭裁判所 の判断で 名づ け に 用 い
てよい漢字を決めてよいとの判決を下した。こ れを受け て、法務 省により 人名用 漢 字 見 直
し案 578 字が提案された。その後、国民に意見を 募ったと ころ、「糞」「 屍」「 膿」な ど の 人
名にふさわしくないと思われる漢字を削除せよ との要請 があり3088 字を削 除し 、 1 字 を 追
加した。最終的に、488 字が新たに使用可能となった 。2004 年 9 月 27 日 に公示 ・ 施 行 さ
25 前掲『人名用漢字の戦後史』p.137
26 朝日新聞「常用漢字 来月は 1 日に告示 人名はこの 18 日生まれから」1981 年 9 月 13
日付朝刊、1 面
27 前掲『人名用漢字の戦後史』p.150
28 朝日新聞「『琉』の人名使用OK 法務省、戸籍法施行規則を改正」1997 年 12 月 04
日付朝刊、33 面
29 前掲『人名用漢字の戦後史』p.192
30 国立国語研究所「日本語ブックレット 2004:人名用漢 字」2004 年
(http://www.ninjal.ac.jp/nihongo_bt/2004/01volume/newspaper/topic02.html )
9
れた31。
6 常 用 漢 字 の再検 討
インターネットの普及な どに より日 本は 「一 億総 表現 者時 代」に 入っ た。 これ に よ り 、
国民が主体的に漢字に触れる回数が増加し「常 用平易な 漢字」が 増加した 。これ に 従 い 、
旧常用漢字表から 196 字追加、5 字削除され た新常用 漢字表 が 2010 年 11 月 30 日 に 内 閣
告示された32。
第 3 節 キ ラ キラネームの台頭
さて、本節では近年の傾向ではキラキラネーム の台頭を 踏まえ、 これが増 加す る 理 由 を
考察する。
キラキラネームが増加する理由について、小林 康正は少 なくとも 以下の六 つの 視 点 か ら
考えていかなければならないと主張している33。
① 命名技術にかかわるレベルでの変化
② 名づけの背後に控える子ども観の変化
③ 名づけに動員される背景的知識の変化
④ 名づけに関与する人物や関係の変化
⑤ 名づけに用いられる道具の変化
⑥ 社会的空間の変化
そして、小林はキラキラネームが増加した理由 を「消費 社会の拡 大と公共 空間 の 喪 失 が
進行する中で、家族という孤立した親密空間に 籠城する 端末市民 である親 たちが 、 そ の よ
うな世界にふさわしい『個性』(=差異化 )とし てのアイ デンティ ティを自 分と自 分 の 子 ど
もに与える試みだった34」と分析している。
執筆者もこの分類に依拠し、以下の項で 6 点を 明確に分 類したう えでキラ キラ ネ ー ム 台
頭の理由を考察する。
第1項 命 名 技 術 に かかわる レベル での変 化
この項では、命名者が何を重視するかという 点の変化 を考察す る。過去 と比較 し 現 在 に
31 朝日新聞「人名漢字、追加は結局488字 当初案から88字削る」2004 年 08 月 14
日付朝刊、30 面
32 文化庁「『常用漢字表(平成 22 年内閣告示第 2 号)」2010 年
(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokujikunrei_h221130.html )
33 小林康正『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』風響 社、2009
年、 pp.7-8
34 前掲『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』p.46
10
おいては、命名者は漢字の画数や音の響き、姓 とのバラ ンスを重 視する傾 向にある 。
まず、過去と現在との比較を行うため、過去 の人名の 傾向につ いて寿岳 らに よ る 先 行
研究「女のなまえ」を引用する3 5
。
ロ.名まえをつけるいわれのようなものがありま したら書 いてくだ さい。
a.意味的なもの 28 名
b.時局、新興、その他社会的環境にちなむ 22 名
c.個人的環境にちなむ 10 名
d.肉親その他の人名にあやかる 13 名
e.姓名診断 10 名
f.古典による 2 名
g.ごろあわせ 2 名
次に、現在の名づけの傾向を知るため「たまひ よ赤ちゃ んのしあ わせ名前 事典 」 に 掲 載
されているアンケート3 6
を引用する。
○名前を考える際に重視したことは?
漢字の画数(吉数) 19%
名前の音の響き 19%
姓とのバランス 14%
漢字の意味 9%
名前に込める親の願い 9%
名前の表すイメージ 6%
呼びやすさ 6% (以下略)
かつてと比較して、現在ではこのように漢字の 意味や親 の願いよ りも、漢 字の 画 数 や 名
前の響きを重視して名前を付ける傾向がみられ る。実際 に名づけ る際の手 順で考 え れ ば 、
「ここちゃん」と呼びたいから、「ここな」という名前を 考え、後から「 ここな」と い う 音
を持ち、意味や画数の合う漢字を漢字辞典など で探し「 恋菜」と 漢字を決 めると い っ た 具
35 寿岳章子、樺島忠夫「女のなまえ」『計量国語 学』7 巻、1958 年、 p.29
調査母集団は、京都府立鴨沂高校(68 名)、大阪女 学院(ミ ッション スクール 。 63 名)、
東京都立武蔵高校(55 名)、東京都立江戸川(定時 制)高校 (33 名)であ る。
36 田宮規雄監修『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名 前事典 2011~2012 年 版』ベネ ッセコ
ーポレーション、2010 年、p.262
アンケート出典は、たまひよ読者 200 人の「名づけア ンケート より」2008 年 8 月 調査
11
合である3 7
。漢字の画数を重視 する傾 向は 姓名診 断など で昔 から重 視さ れてき たが 、 名 前
の音の響きを重視し始めたことは比較的新しい 傾向とい える。
名前の音の響きを重視し始めた理由として最も 大きいと 思われる のは、テ レビ の 普 及 で
ある。ちょうどテレビが家庭にある世代が親に なった頃 から、テ レビで聞 いた音 と 漢 字 の
持つイメージを漢字の持つ意味に関係なく組み 合わせる ことによ って、多 種多様 な 名 前 が
生まれたと牧野は指摘している3 8
。
現在、人名に使うことのできる文字は戸籍法施 行規則第 六十条に より、以 下の よ う に 定
められている3 9
。
第六十条 戸籍法第五十条第二項 の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
一 常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に 掲げる 漢字( 括弧書き が 添 え ら れ
ているものについては、括弧の外のものに限る。)
二 別表第二に掲げる漢字
三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)
このように、使用できる文字に制限はあるも のの文字 の読みに 対する制 限は加 え ら れ て
いない。このことが、第 2 項で説明する個性を 重視する 風潮や、 第 6 項で 説明す る 新 興 勢
力の層の親の存在と重なり合い、独自の響きの ある名前 を目指す 親が増加 したので ある。
第2項 名 づ け の 背 後に控え る子ど も観の 変化
この項では、特に母親が子供に対し何を求め るように なってき たかとい う観点 か ら 、 キ
ラキラネームを名付ける背景にある現象を分析 する。
1 つ目に挙げられるのは、「完ぺきな子育て症候群4 0
」で ある。子 どもを産 まない 自 由 を
手にした母親4 1
は、母親自身の ために 出産 を決意 するよ うに なった 。す なわち 人生 に お け
る他の選択を捨てた以上、子供を育てるという 選択が自 分にとっ て正しい 選択で あ っ た と
正当化しようとする。育児では失敗は許されな いのだ。 子供を完 ぺきな存 在とし て 育 て 上
げることが、自分の選択が正しいものであった と満足す るための 手段なの だ。そ し て 、 彼
女らにとって完璧な名前を付けることは完璧な 子育ての 第一歩な のである 。
完璧な子育ての第一歩として完璧な名前を付け ようとす る傾向は 、名づけ 本の チ ェ ッ ク
リストの項目の多さからもうかがえる。例えば、『 赤ちゃん のしあわ せ名前事典 2011~ 2 0 1 2
37 伊藤正明『最新版たまひよ名づけ大百科』ベネ ッセコー ポレーシ ョン、2004 年、 p.13
38 前掲『子供の名前が危ない』pp.81-82
39 前掲「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二 十九日司 法省令第 九十四号 )」
40 朝日新聞「人名狂想曲」1999 年 10 月 16 日付朝刊、37 面で使われ た言葉
41 柏木惠子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』中公新書、2001 年
12
年版』では、27 点もの注意点と 9 つのテクニックを掲げ 、名づけ において 注意す る べ き こ
とを列挙している4 2
。
2 つ目に挙げられるのは、個性を重視する風潮 である。 その高ま りは、例 えば 「 少 子 化
と教育について(中央教育審議会報告)」に、「 我が国が 21 世紀 にも引き 続き活 力 に あ ふ
れ、高い競争力を持つ社会を維持していくため に、これ を支える 個人の能 力を高 め 、 独 創
性や創造力の源泉となる個性を伸長していく必 要がある。」との 文言があ る4 3
ことか ら も 読
み取れる。子供の個性を大切にしようとの思い が他の子 と異なる 名前を付 けよう と い う 意
識につながっている。
日本では、個人名を一から作っ てい る4 4
。 名づけ 本な どはあ るもの のそ の掲載 数 は 膨 大
である。また、名前として自然な漢字の組み合 わせは無 限に存在 する。対 して、 欧 米 で は
聖人や偉人から名前を摂取するのが一般的であ る4 5
。例えば、フ ランスで は 1993 年 の 家 族
法改正までは、ジェルミナル法 1 条で「本法の 公布の日 以降、子 の出生の 確認に 関 す る 身
分証書の中においては、様々な暦の中の慣行的 な名およ び古代市 場の著名 な人物 の 名 の み
が名として受理される。公務員は、身分証書にお いて、他 の名を受 理しては ならな い 。」と
の規定があった4 6
。
以上 2 つの要因を踏まえ、キラキラネームに対 して持つ 印象につ いて質問 して い る ア ン
ケート調査を参照する。
まず、マインドシャアが 2011 年 10 月 3~10 日に母親に対して 実施し た Web ア ン ケ ー
ト47(以下「ママこえ調査」と呼称する)からの引用 である。このアン ケートか ら は 、親 の
4 割ほどはキラキラネームに抵抗を持っていないと いう結果 が見られ る。
42 前掲『赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年版』pp.26-40,pp.44-51
43 文部科学省「少子化と教育について(中央教育 審議会報 告)」2000 年の 第 3 章第 1 節
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/tou shin/1309769.
htm)
44 上野和男「名前をめぐる諸問題」『名前と社会—名づけの 家族史』 早稲田大 学出版部 、
1996 年、p.10-11 によれば、名前の種類も数もきわめて多く、家 族レベル で次々に 新し
い個人名が創作され、名前の流行変遷が激しい 社会を「 開放的体 系」と呼 んでいる 。
45 前掲「名前をめぐる諸問題」p.10 によれば、名前の 種類と数 が限定さ れ、一定 の名前
のストックが存在し、子供の名前はその子供の 出産状況 や社会的 地位にし たがって そのス
トックの中から選択して命名される社会を「閉 鎖的体系 」と呼ん でいる。
46 吉井啓子「一九九三年フランス家族法改正によ る命名・ 氏名の変 更に関す る新規定 」
『同志社法学』48 巻 6 号、1997 年、p.138
47 J-CAST モノウォッチ「子どもの名前にアニメキ ャラ、『4 割 』がアリ !」2011 年
(http://www.j-cast.com/mono/2011/10/15110063.html)
なお原典は、ママこえ「自分の子どもに『瑛磨 (エース)』など、 アニメの キャラク ター
名をとっての名づけ。これってアリ?」2011 年
(http://mamakoe.jp/pc/ranking/ranking.php?id=1153 )
であるが、原典では母集団数や調査期間が明示 されてい ないため 、より詳 細な調査 内容が
明示されている J-CAST モノウォッチの記事を引用 した。
13
母親の声を集めたランキングサイト「ママこえ」を 運営する マインド シェアは 2 0 11
年 10 月 14 日、「自分の子どもに『瑛磨(エー ス)』など 、アニメ のキャラ ク タ ー 名 を
とっての名づけ。これってアリ?」というアンケ ート結果 を発表し た。(中略 )そ こ で 、
「ママこえ」会員の母親たちに聞いたところ、「 ナシ」と 答えたのが 6 割 で 多 数 と な
り、残りの 4 割が「アリ」と答えた。(中略)アンケートは 10 月 3~10 日、「 マ マ こ
え」サイト上で実施し、287 人の回答を得た。
次に挙げるのは、「ママこえ調査」から、2 年が 経過し た 2013 年 12 月に マイ ナ ビ ニ ュ
ースが独身男女に実施した、Web アンケート48である 。
Q.キラキラネーム(当て字、外国人風、キャラクター の名前な ど)の子ど も 、 あ な
たはどんなふうに考えていますか?
自分の子にもぜひ可愛い名前をつけたい…2.3%
親の愛情が感じられれば多少変わっていてもい い…3.7%
他人のことなので特に気にならない…17.3%
最低限、読めるなら許せる…17.7%
できれば変わった名前は避けるべき…25.3%
可哀想だと思う、絶対に嫌…32.3%
その他…1.7%
このアンケート(以下「マイナビ調査」と呼称 する)に おいては 、キラキ ラネ ー ム を 許
容しているのは上位 2 つの回答を示した 6%のみであり、「マ マこえ調 査」の約 4 割 と は 大
きな開きがある。
そこで、以上 2 つのアンケートを比較すること によって 親のキラ キラネー ムに 対 す る 見
方を導き出していこう。
両者の大きな相違点は、「ママこえ調査」は 、す でに母親 となった 人を対象 とし て お り 、
対して「マイナビ調査」は、独身男女 を対象と している ことであ る。この他、「マ マ こ え 調
査」では女性のみを対象にしているが「マイナビ 調査」で は男女を 対象とし ている 点 、「 マ
イナビ調査」の方が「ママこえ調査」に比べアンケー トの実施 が 2 年遅い 点など の 違 い は
あるものの、アンケート結果に大きな違いをも たらす要 因はない と考えら れる。
48 マイナビニュース「話題のキラキラネーム、こ れから結 婚する世 代はどう 考えて
る?」2013 年
(http://news.mynavi.jp/news/2013/02/22/207/index.html)
姉妹サイト『マイナビニュース』(http://news.mynavi.jp/)に て 2012 年 12 月に Web ア
ンケート。有効回答数 300 件(マイナビニュース会員 :22 歳~34 歳の 独身男女 )
14
これを踏まえてこの結果を鑑みるに、独身で子 供を持て る状況に 無いうち はキ ラ キ ラ ネ
ームに否定的な意見を持っているが、いざ子供 を授かり 自分の子 に名づけ をする と い う 段
階になると、我が子に個性的な名前をつけてし まう傾向 や、いざ 親になる と周り に キ ラ キ
ラネームをつける親が数多くいるため許容せざ るを得な い状況が 看取でき よう。
近年に顕著な母親の子ども観とキラキラネー ムを付け てしまう 背景には 、 自ら 出 産 す る
という選択をした以上子育てに失敗は許されず 子供を個 性ある輝 かしい存 在にし よ う と 奮
闘する。そのような焦りの中で母親は冷静さを 失い、独 身時には 批判的に 見てい た キ ラ キ
ラネームを我が子につけてしまうという事情が 浮かび上 がる。
第3項 名 づ け に 動 員される 背景的 知識の 変化
この項では、名前の手本をどこに求めるよう になった かを考察 する。現 在は名 前 の 手 本
を「たまごクラブ」などの名づけ本に頼る傾向 がある。
小林康正はキラキラネームの子供が増加した要 因の一つ として、「そ の頃49、マ タ ニ テ ィ
ー雑誌の『たまごクラブ』が、子供の名前に関 する特別 付録をつ け、個性 的な名 前 を 数 多
く紹介したんです。これが大人気となり、一気 に広がる ひとつの きっかけ になり ま し た 」
と説明している50。
実際に、1999 年版の『たまひよ名づけ百科』には 、個性 的な名前 を是とす る価 値 観 を 植
え付けるような、以下の文章が掲載されている 。
西暦 2000 年、この 1000 年に 1 度の歴史的な時代の節目を超 えて 、私たち は 未 来 に
向かおうとしています。世界もさらに大きく変 貌を遂げ ていくこ とでしょ う 。 … … 私
たちの生活の中にも、さまざまな変化の波が押 し寄せて きます。 /それら の 変 化 は 、
当然赤ちゃんの名前にも反映されてくるはずで す。なぜ なら、名 前は時代 と と も に 変
遷していくものであるからです51。
このような個性的な名前を是とする価値観を 持つ名づ け本を背 景的知識 として 重 視 す る
傾向が、キラキラネームの発生に拍車をかけて いる。
第4項 名 づ け に 関 与する人 物や関 係の変 化
49 1990 年代半ば頃
50 NEWS ポストセブン「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育専門
家」2013 年
(http://www.news-postseven.com/archives/20130707_198318.html)
51 原典が手に入らなかったため、前掲『名づけの 世相史 「個性的な名前」をフィール
ドワーク』p.62-63 から孫引き。
15
この項では、命名者の変化を分析する。
まず、過去において命名する者が誰であったかを 調べるた め、本節第 1 項で用 い た 「 女
のなまえ」のアンケートを再び引用する5 2
。
イ.あなたの名前はだれがつけましたか。
京都 大阪 東京
父 21 10 44
母 3 3 1
父母 20 32 12
祖父 6 6 7
祖母 1 1 2
伯叔父 2 0 3
その他 5 4 8
不明 10 7 10
このように、父母の割合が高いものの、祖父や 祖母、伯 叔父など といった 回答 も 見 受 け
られる。また、その他と回答したものの中には 、寺社や 占い師に つけても らった も の も 含
まれているだろう。
次に、現在の命名者が誰であるか明らかにするた めに、「 たまひよ 赤ちゃん のし あ わ せ 名
前事典」に掲載されているアンケート5 3
を参照す る。
○赤ちゃんの名前をつけたのは誰ですか?
ママ&パパ 2人で考えた 55%
パパが考えた名前をつけた 21%
ママが考えた名前をつけた 15%
親に相談し、親につけてもらった 3%
神社の神主、お寺の住職 1%
占い師に相談 1%
その他 4%
このように、現在は子供の名前を母や父という ごく狭い 範囲で命 名を行う 割合 が 9 割 に
も及んでいる。
52 前掲「女のなまえ」p.29
53 前掲『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年 版』p.262
16
このように、狭い範囲で命名が行われるように なった理 由には核 家族化の 影響 が 考 え ら
れる。今までは、親戚一族で相談しながら名前 を決定し ていたが 、核家族 化や親 戚 関 係 が
疎遠になったことにより夫婦のみにより名前を 決定する 傾向が強 くなった のでは な い だ ろ
うか。さらに、祖父母が名づけに関して何か口 出ししよ うものな ら「お母 さん・ お 父 さ ん
の子供じゃないでしょ」と反発するという5 4
例 もある 。また 、寺院 などで名 前をつけ る 風 習
も縮小傾向にある。
命名に関わる人が少なくなればなるほど、キラ キラネー ムに対す るチェッ ク機 能 が 働 か
なくなるということは自明であろう。
第5項 名 づ け に 用 いられる 道具の 変化
近年、新たに名づけに用いられるようになって きた道具 としては 、インタ ーネ ッ ト と 名
づけ本の存在が挙げられる。
名づけ本が与えた影響については本節第 3 項で 説明した ので、こ こではイ ンタ ー ネ ッ ト
が与えた影響について詳述する。インターネッ トが名づ けに与え た影響は 音を重 視 す る 傾
向と情報の氾濫に大別できる。
コンピューター の持 つ 変換 機 能は さ まざ ま な漢 字 が 名前 に 使え る 可能 性 を示 す よ う に
なった。例えば、たかし君と呼びたい人が「た かし」を コンピュ ーターの 変換機 能 に か け
れば、「隆」「貴志」「孝司」「敬」「崇史」な ど、100 以上 もの様々 な変換を 手軽に 表 示 す る
ことが出来る。つまり、音や響きによって名前 を考えた 後で画数 や意味が 良さそ う な 漢 字
を調べることが今まで以上に容易になったので ある。
次に、情報の氾濫である。インターネットの普 及は情報 の氾濫に 拍車をか け5 5
、「 完 璧 な
子ども症候群」にかかった親にとっては、全て の条件を 満たさな くてはと 躍起に な り 、 名
前に対する冷静さを失わせる原因にもなったと 考えられ る。
第6項 社 会 的 空 間 の変化
本項では、社会の二極化という観点から社会 的空間の 変化につ いて説明 する。
現代社会は親の持つ教養や育った環境・階級な どにより 社会構造 が保守的 富裕 層 と 新 興
勢力の層(=革新的貧困層)に二極化している 5 6
。
保守的富裕層は従来通りの伝統的な文化を享受 できる。 それに対 して、新 興勢 力 の 層 は
「個性的」というマークを刻印することで、保 守的富裕 層に社会 から存在 価値を 認 め て も
54 前掲『子供の名前が危ない』p.42
55 例えば、「子ども 命名」と検索すれば(2013 年 12 月 23 日 Yahoo! JAPAN)、
姓名判断をしてくれるサイト(http://akachan-meimei.com/)、
名前の付け方をレクチャーするサイト(http://www.kona mae.com/)、
キラキラネームを紹介するサイト(http://www.baby-name.jp/)等が数多く ヒットす る。
56 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.184
17
らおうとしているのである5 7
。この傾向が子供の 命名にも 表れてい るのだ。
久山も述べているように、子供の名前はコスト が抑えら れる割に 表現の幅 が広 く 手 軽 に
行える親の自己表現の場として使うことが可能 である58。
小 括
以上 6 つに分けて、キラキラネーム増加の背景を探っ てきた。こ こから明 らか に な っ た
ことは、キラキラネームの増加は、核家族化や 少子化、 インター ネットの 普及、 社 会 の 二
極化など、全て一過性とは言えない要因に起因 している というこ とである 。
従って、キラキラネームは今後も増加の一途を たどるこ と、そし てキラキ ラネ ー ム 増 加
の要因を取り除くことによってキラキラネーム を減少さ せること は不可能 である こ と が 結
論づけられる。
第 3 章 キ ラ キ ラ ネ ームに よって 発生し た問題 点
第 1 節 人 名 の持つ社会的な重要性
本節では、人名の持つ重要な役割について説明 する。
名前には社会的な役割がある。パスポート・住 民票・健 康保険証 と、いわ ゆる 身 分 証 明
書には名前が記載されているし、生まれてから 他人から 一度も名 前を呼ば れたこ と が な い
という人はいないだろう。
まず、名前に求められることは、誰もが正しく 読み書き 判別する ことがで き、 個 人 を 弁
別できる機能が備わっていることである59。
しかしながら、キラキラネームを「誰もが正し く読み書 き判別す ることが でき 、 個 人 を
弁別できる」かどうかというと大きな疑問が 残る。キラキラ ネームの 定義に戻 れば 、「 漢 字
を見ただけではどのように読むのか見当がつか ない名前 」をキラ キラネー ムと定 義 し て い
るため、正しく読み書き判別することはできな い、つま りキラキ ラネーム は名前 と し て の
最低限の役割すら果たせていない名前であると 考えてよ いだろう 。
第 2 節 社 会 全体に生じる問題点
キラキラネームは、個人にのみかかわる問題 ではない 。なぜな ら、キラ キラネ ー ム に よ
57 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.184
58 久山健太「S.Lieberson の個人名研究と日 本におけ る発展可 能性」『年 報人間科 学』33
号、2012 年、p.3
59 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.21 では、 この点に 関し、「 制度や管 理を公的
な立場で徹底させるためには、社会を構成して いるメン バーを正 確に押さ えていな ければ
ならない。そのためには個人の名前にはある種 の機能が 必要であ る。それ は、名前 がある
個人を確実に弁別し、他人に紛れることがない ようにす るための システム を持たな ければ
ならないことを意味する。」と述べられている。
18
る誤った読み方の蔓延が名前以外 の場で も漢字 の読み を揺る がす危 険性が あ る 60か ら で あ
る。
例えば、2007 年 8 月 25 日付『産経新聞』の「 公共財を 毀損する『感字 』」とい う 記 事 で
は、陽翔(ハルト)や大翔(ツバサ)といった キラキラ ネームを 挙げて、 文字を 個 々 人 が
恣意的に読んでしまったら、文字の持つコミュ ニケーシ ョン機能 が損なわ れてし ま う と 懸
念している61。しかし、ここでは子 に発生 する問 題点を 中心に 論じる ためこ の 点 に 関 し て
深入りはしない。
第 3 節 キ ラ キラネームにより子どもとその周辺人物に生じる問題点
第 1 項 イ メ ー ジ に よる差 別
A) 就職差別
キラキラネームの学生は就職の場で不平等な 扱いを受 ける可能 性が高く なる。
キラキラネームの就活生を見る採用担当者は、 まず感情 的な面で そのよう な就 活 生 を 落
としたがる。「そのような 名前 を付 ける よう な常識 のな い親 に育 てら れて きた人 を 採 用 し
たら、何をしでかすかわからない」という心理 である。 ニュース ポストセ ブンの 記 事 に よ
れば、「ある大手メーカー役員は、『いいにくいこ とだが』と前置き し、『そ ういう 名 前 を 付
ける親御さんの“常識”はどうしても本人に影響 してしま うからね』 と語った 。」と あ る 62
ように、名前の持つイメージが就職活動に影響 している ことは明 らかであ る。
また、エントリーシートや書類選考の段階でキ ラキラネ ームによ って第一 印象 が 下 が り
無意識のうちにそのような就活生を落としてし まうとい うことも あるかも しれな い 。 こ れ
は本章第 1 節で示したように、名前が社会的に 重要なも のである からこそ 発生す る 問 題 点
である。
さらに、企業がキラキラネームを持つ人物を 採用した くないと 考えるこ とは、 感 情 的 な
問題だけではない。キラキラネームによって仕 事の上で 混乱が生 じたり、 取引先 か ら の イ
メージが低下したりといった、具体的かつ深刻 な問題が 発生する 原因にも なりか ね な い の
だ63。
また、キラキラネームを理由とした就職差別が 行われた としても 、現行法 上、 法 律 違 反
になることはない。なぜなら、「自己の営業のため に労働者 を雇傭( こよう)するに あ た り 、
いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこ れを雇う かについ て、法律 その他 に よ る 特
別の制限がない限り、原則として自由にこれを 決定する ことがで きる」と いう雇 用 主 に 採
60 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.180
61 前掲『子供の名前が危ない』p.133 より孫引き
62 NEWS ポストセブン「大手企業役員 『正直キラキラネームの学生の採用ためら
う』」2012 年
(http://m.news-postseven.com/archives/20120626_123476.html)
63 前掲『子供の名前が危ない』p.54
19
用の自由を定めた最高裁判所の判例64があるから だ。
アンケートによっても、キラキラネームの学生 を忌避す る傾向に あること は明 ら か で あ
る。ライフネット生命保険が 2012 年に採用担当者に 対して 行ったア ンケー ト 調 査 65に よ
れば、採用時に「古風な名前が有利」と答えた のは 14.5%、「 キラキラ ネームが 有 利 」と 答
えたのは 3.3%であった。
米国でもかねてから個性 的な 名前は 社会 的に 不利 に働 くこ とがあ ると 指摘 され て い る 。
昨年 2 月に豪メルボルン大学がアメリカ人弁護士 500 人 を対象に 行なった 調査で は 、個 性
のないシンプルな名前ほど出世が早いという統 計結果が 出ている 66。
B) 入試差別
入試の場でも、キラキラネームを持つ子供は不 利に扱わ れる。特 に私立学 校にお い て は 、
キラキラネームによる入試差別が行われたとし ても、そ れをとが めること はでき な い 。 仮
にキラキラネームを理由 として 入試 差別 を行 って いたと して も、「キ ラキ ラネー ム の 生 徒
は名前が原因でいじめを受け、名前にコンプレ ックスを 持ってい るために 集団行 動 に な じ
めない恐れがある」などと、どのようにでもキ ラキラネ ームによ る門前払 いを正 当 化 す る
ことは可能なのである。
実際に私立小学校ではキラキラネ ームを 持つ児 童がほ とんど いない 67こと か ら 、 入 試 の
際にキラキラネームの児童を淘汰している可能 性が高い といえる 。
C) 結婚差別
結婚は、人生における重要な節目である。しか し、キラ キラネー ムを付け るよ う な 非 常
識な親の子を自分の息子や娘の結婚相手にはし たくない という結 婚相手の 親の強 い 反 対 に
64 最高裁判所昭和 43 年(オ)第 932 号同 48 年 12 月 12 日大法廷判決 「労働契 約関係存
在確認請求」『最高裁判所民事判例集』27 巻 11 号 p.1536
65 ライフネット生命保険株式会社「新卒採用関係 者の意識 調査」2013 年
(http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4568.html#anchor8 )
■ 調査タイトル 新卒採用関係者の意識調査
■ 調査対象 ネットエイジアリサーチのモバイルモニター会員を 母集団と する新卒 採用
を実施する組織の採用関係者
■ 調査期間 2012 年 10 月 26 日〜11 月 2 日
■ 調査方法 モバイルリサーチ
■ 調査地域 全国
■ 有効回答数 1,000 サンプル
■ 実施機関 ネットエイジア株式会社
66 NEWS ポストセブン「私学関係者『個性的な名 前は入学 試験でチ ェック対 象にな
る』」2012 年
(http://m.news-postseven.com/archives/20120627_124003.html)
67 前掲 「私学関係者『個性的な名前は入学試験でチェッ ク対象に なる』」
20
よって、結婚がかなわない場合がある68。
第 2 項 読 ま れ な い ことに よる心 理的負 担
A) 引きこもり・いじめの誘発
また、キラキラネームであることがいじめを誘 発するケ ースもあ る。安倍 首相 の 講 演 で
も、キラキラネームといじめの問題は取り沙汰 されてい る69。
仮に引きこもり・いじめににまで至らなかった としても からかい や奇異の 目で 見 ら れ る
ことによる心的な負担が一般的な名を持つ人間 より多い というこ とは明ら かであろ う。
B) 自尊心の低下
キラキラネームをつけられた子供が珍しい名 前を恥ず かしがる 気持ちか ら自己 嫌 悪 に 陥
り、日常生活を送れなくなる可能性も考えられる 70。例えば、名 前を呼ば れるこ と を 嫌 い 、
入学式や卒業式に参加しなかったり、他人に名 前を教え たがらな かったり するこ と は 日 常
生活に大きな支障をもたらす。
C) 親のノイローゼ
キラキラネームをつけてしまったことに責任を 感じ、ノ イローゼ になって しま う 親 も い
る。牧野によれば、「自己嫌悪におちいって 毎日の食 事もおい しくなく なり 、家に こ も る こ
とが多くなりました71。」という例が報告されてい る。
第 3 項 読 め な い こ とによ る実害
A) 患者取り違えの可能性上昇
救急外来で受診するキラキラネームの患者は、 医療機関 での治療 時に取り 違え ら れ て し
まう危険性が増す。なぜなら患者がキラキラネ ームであ ると、119 番の第 一報が 来 た 時 に
作る ID を作り間違え、後で正確な名前が把握でき てから 2 つ 目の ID を作 るケー ス が あ る
ためである。
とはいえ、実際には患者取り違えは起こってい ないとい うことか ら、現時 点で は そ の 危
険性が高まっているのみでとどまっている。な ぜなら、 生年月日 や住所に よる照 ら し 合 わ
せを行い、取り違えの減少に努めているからだ 72。
68 前掲 「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育専門家 」
69 朝日新聞「発言録 15日」2012 年 11 月 16 日付朝刊、4 面
70 前掲『子供の名前が危ない』p.51-52
71 前掲「子供の名前が危ない」p.58
72 J-CAST ニュース「『キラキラネーム』で患者取り 違えの恐 れ? 救命医のツイッター
苦言に賛否両論」2013 年(http://www.j-cast.com/2013/08/01180677.html)
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現段階で発生する可能性は極めて低いものの、 今後キラ キラネー ムが増加 した 場 合 に 起
こらないとは言い切れない。間違えた場合には命 の危険に も関わっ てくる問 題であ る た め 、
深刻性はかなり高いといえよう。
B) 教員・保育士の負担増加
教員は仕事の一部として名前を間違えずに呼ぶ ことが求 められる 。毎年毎 年、 数 百 人 の
児童・園児の名前を逐一覚え直す苦労は計り知 れない。
さらに、名簿作成時の負担も考えられる。キラ キラネー ムの多く は正しい 読み を 使 っ て
いないため、名前を入力する場合、漢字を 1 文 字 1 文字 変換して 名簿を作 り上げ な け れ ば
ならない。数回ならまだしも、何百人分の名 前を漢 字 1 文字 1 文 字変換す ること に よ る 事
務作業の負担は、授業・学級運営・生徒指導・ 部活動の 指導と多 様な仕事 を抱え る 教 員 に
とってかなり大きなものであろう。
第 4 節 子 ど もに生じる問題点の深刻性
第 1 項 被 害 者 と 責 任者の 乖離
子は自分自身の名付けには関与できない。責任 の所在と 被害の所 在が違う にも か か わ ら
ず、親は子がキラキラネームによって被害を受 けた場合 にも責任 を取る義 務を負 っ て い な
い。よって親は熟慮や冷静な判断を失い、いと も簡単に キラキラ ネームを つけて し ま う の
である。
第 2 項 回 復 不 可 能 性
仮にキラキラネームを減らすための政策とし て人名に 使える漢 字の規則 が変更 さ れ た 場
合でも、その効力は遡って生じないと考えられ る。
なぜなら、「当用漢字表にないためやむをえず子 の名に用 いなかつ た文字が 、そ の 後 人 名
用漢字別表に掲げられ、戸籍法施行規則の改正 により戸 籍法第五 十条の子 の名に 用 い る べ
き常用平易な文字として扱われることになつた としても 、ただそ れだけの 理由で 名 の 変 更
につき戸籍法第百七条第二項にいう『正当な事由』にあ たらない。」と いう決 定 73が 過 去 に
あり、またその決定理由は、「人名用漢字の 追加は 使用文字 の範囲の 拡大を意 味する だ け で 、
その名が使用できなかったために他の文字を用 いてつけ た名に変 更の必要 性と正 当 性 を 与
えるものではない。」というものであるからであ る74。
この決定から類推解釈すれば、人名について の規則が 変更され た場合に おいて も 、 そ の
変更は今までにつけられた名前を変更する必要 性と正当 性を与え るもので はない と い う こ
73 大阪高等裁判所昭和 26 年(ラ)第 27 号同 27 年 10 月 31 日決定「 名の変更 申立却下
決定に対する抗告事件」『高等裁判所民事判例集 』p.553、5 巻 11 号 p.105
74 前掲 「名の変更申立却下決定に対する抗告事件」p.555
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とが結論付けられる。
つまり、キラキラネームから別の名前に変える た めには、改名しか 手段がな いの で あ る 。
第 3 項 困 難 な 改 名
しかし、改名も決して簡単な手続きではない。改名が認 められる ためには 、「正当 な 事 由 」
が必要である75。主要な「正当な事由」として川 添圭弁護 士は以下 の例を挙 げている 76。
(1)営業上の目的で襲名を行うとき
(2)親族に同姓同名者があるとき
(3)珍奇・難解・難読で社会生活上著しく支障があると き
(4)日本に帰化した者が日本風に名前を改める必要があ るとき
(5)いわゆる永年使用(長期間にわたり通称名を使用し ている場 合)
つまり、多くのキラキラネームの場合、(3)の条件を満た さない限 り改名は 認め ら れ な い
のである。そして、(3)の条件を満たすハードルはかなり高いも のである。篠田恵 里 香 は そ
のハードルの高さに関して次のように述べてい る77。
本人がイヤがっているというだけで変更が認め られてし まいます と、無制 限 に 変 更
が可能となってしまい、裁判所の許可を必要す るとした 法律の狙 いをダメ に し て し ま
うことになります。そのため、“イヤだ”という 主観的理 由のみで は、変更 は 許 可 さ れ
ないでしょう。
繰り返しになるが、改名には正当な事由が必要 であり、 キラキラ ネームで ある と い う 理
由や自分の名前が嫌だという理由だけでは改名 は許可さ れない。 珍奇・難 解・難 読 で 社 会
生活上の著しい支障が生じるということを具体 的に立証 する必要 があるの である。
また、仮に改名が認められたとしても、改名の 申し出や 改名にか かる事務 手続 き や 周 囲
の人間への改名報告、改名による本人のイメー ジ低下な どはキラ キラネー ムをつ け ら れ た
子が負わなければならない。
75 戸籍法 107 条の 2
76 マイナビニュース「『こんなキラキラネームは いやだ! 』 子供による『改名』が認め
られる条件は?」2013 年
(http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/bengo4/2013/02/post-141.html)
77篠田恵里香「弁護士に聞く!「キラキラネーム の改名」 はどこま で可能か 」2013 年
(http://wooris.jp/archives/60022)
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第 5 節 キ ラ キ ラ ネ ームを 減少さ せる必 要性
以上のように、キラキラネームによって様々な問 題 が生じ ているこ とが分か った 。で は 、
以上の問題点の中で最も深刻な問題点は果たし てどれで あろうか 。被害の 大きさ か ら 鑑 み
れば、イメージによる差別が最も深刻な問題点 であると 考えられ る。
なぜなら、他人からの評価、すなわち名前の持 つイメー ジによっ て人生に おけ る 重 要 な
場面で差別が行われているからだ。
このことから、一つの結論が導きだせる。キラ キラネー ムとは、 名前が読 めな い ・ 書 け
ないことのみによって、問題が発生していると いう性質 のもので はなく、 むしろ キ ラ キ ラ
ネームの持つ違和感の方が問題を誘発している という性 質のもの だという ことであ る。
よって、どのような政策をとるか検討する場合 には、キ ラキラネ ームの持 つ違 和 感 を い
かに縮小できるかという観点で政策を検討しな ければな らない。
この立場に立って、次章で 5 つの案を挙げ、どの案が最 も違和感 を縮小で きる か 考 え て
いく。
第 4 章 キ ラ キ ラ ネ ームを 減少さ せるた めの具 体策の 提案
ここでは、キラキラネームを減少させるための 案を 5 つ提 案する。
1 案:漢字の読みを制限する案
2 案:使用可能な漢字の数を制限する案
3 案:一定の年齢になった時点で、本人に改名権を 認める案
4 案:氏名に振り仮名をつけることを推奨する案
5 案:キラキラネームを推奨する案
第 1 節 漢 字 の読みを制限する案
漢字の読みを制限すれば、キラキラネームを 減少させ ることが 可能であ る。な ぜ な ら 、
キラキラネームは特殊な読みや当て字化によっ て発生し ているも のがほと んどで あ る か ら
である78。ただし、この案では外国 の言葉 を漢字 に置き 換えた 名前や 昔の人 名 の よ う な 名
前、字が難しく口頭での説明がしにくい名前は 制限する ことがで きない。
読みを制限する場合には、現在の常用漢字表に 入ってい る呼び方 のみなら ず、 一 般 的 な
漢和辞典に載っている名乗り79も網羅した、「人名用漢 字音訓名 乗り表」を新 設 し 、そ れ に
含まれている読みのみを使用可能とすることが 必要とな ろう。
1 字が 1 音を表す漢字をいくつか「人名用漢字音訓名 乗り表」 に取り入 れれば 、 万 葉 仮
78 第 1 章第 2 節第 2 項に挙げたキラキラネームの例を 参照。
79牧野久仁雄「漢字の名のり(人名に使える読み 方)」2010 年によ れば、
(http://allabout.co.jp/gm/gc/373355/)
名乗りとは、人の名前に限って慣習的に使われ てきた読 み方。
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名風の名前80を付けたいとい う親 や個 性的な 添え 字81を 使い たい という 親の 要 望 に も 対 応
できると考えられる。
この案に対しては、親の命名権の侵害であると の主張が 考えられ る。しか し、 使 え る 漢
字の数は減っていないこと。もともと命名にお ける規則 で「漢字 を音・訓 ・名乗 り の ど の
読み方にも含まれない読み方で使う自由」は認 めていな いこと。 さらに、 親の命 名 権 と 子
の基本的人権を比較した場合、子の受ける影響 のほうが 大きいこ とを勘案 して、 命 名 権 は
制限されても仕方がないといえる。この批判に ついて は第 5 章で もう一度 具体的 に 検 討 す
る。
第 2 節 使 用 可能な漢字の数を制限する案
この案は一見するとキラキラネームを減らすた めに効果 が導けそ うである 。し か し 、 ど
のような漢字を制限するかという点で大きな問 題が生ま れる。第 1 章 第 2 節第 2 項 に 挙 げ
た例を見返してもらいたい。キラキラネームに 使われる 漢字は難 解でその 漢字自 体 の 利 用
頻度が低いという漢字ではない82。 むしろ 、一般 的で良 く使わ れる漢 字の組 み 合 わ せ を 工
夫することによって、キラキラネームを作り出 している 。よって 、キラキ ラネー ム に 良 く
使われる名前を人名に使えないことにすると、 キラキラ ネームで はない名 前に対 し て も 名
づけの自由を侵害してしまう危険性が考えられ る。
以上のことから使用可能な漢字を制限すること によって 、一般的 な名前に は影 響 を 与 え
ない範囲でキラキラネームを減少させることは 不可能で あるとの 結論が導 ける。
第 3 節 一 定 の年齢になった時点で、本人に改名権を認める案
これは、生まれてきた子供全員に 10 歳程度に なった段 階で名前 を変える 機会 を 認 め 、
キラキラネームをつけられた子の権利回復を目 指すとい うもので ある。こ の案は 評 論 家 の
宮崎哲弥も推奨している案である83。
一定の年齢になった時点で改名権を与える案、 全体に言 える問題 点が 2 つあ る。
第一に、一定の年齢になるまでキラキラネー ムの子は 改名がで きないの である か ら 、 そ
れまでの時間に受けた被害は回復不可能である という点 。第二に 、国民全 員が改 名 を 行 う
わけではないのだから、改名を行ったというこ とそのも のが奇異 の目で見 られ、 現 状 と 同
80前掲『最新版たまひよ名づけ大百科』p.23 によれば 、
「万葉仮名風の名前とは、「亜紗美」(あさみ) のように 1 字が 1 音を 表す名前 の事」
81 前掲『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年 版』p.44,360 によれ ば、
添え字とは「健太(けんた)」の「太」、「夕奈( ゆうな)」の「菜 」などの こと。あ らかじ
め使いたい字や読みが決まっていて他の字を添 えること で名前を 作りたい ときに用 いる。
82 第 1 章第 2 節第 2 項の④字が難しく口頭での説明が しにくい 名前 は例外である。
83 前掲『子どもの名前が危ない』p.50 に、宮崎哲弥氏 が「週刊 文春」で 上記のよ うな発
言をしたとの記述がある。
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様に差別が行われることも考えられるのではな いかとい う点であ る。
ここで、一定の年齢を 10 歳と 20 歳と仮に決定し 、効果 がどの程 度出るの か確 認 し て い
こう。
A) 10 歳になった時点で改名権を認める案
10 歳になった時点で改名権を認めた場合、3 つの問 題に直面 する。
第一に、親による干渉によりキラキラネームを 変更させ てもらえ ない危険 があ る 。 第 2
章第 3 節第 6 項で見てきたように、キラキラネー ムをつけ る親は 、保守的 富裕層 に 社 会 か
ら存在価値を認めてもらうことを目的としてキ ラキラネ ームを付 けている 。我が 子 に キ ラ
キラネームから改名することを認めれば、存在 価値を認 めてもら うチャン スを失 っ て し ま
うのだ。そのため、このプランで救おうと考え ているキ ラキラネ ームの子 供の改 名 は う ま
くいかないのではなかろうか。
第二に、一般名を改名の機に自らキラキラネー ムに変更 してしま う可能性 があ る 。 3 つ
目の問題点でも述べるが、10 歳という年齢は、長期的な 視点から 物事を考 えるに は 未 熟 で
ある年代である。例えば、その当時はまってい たアニメ などの影 響を強く 受け、 そ の ア ニ
メの主人公の名前を自分の名前として改名して しまうと いう可能 性は、想 像に難く ない。
第三に、10 歳に自己決定権を認めていいものか という権 利能力に 関する問 題も 考 え ら れ
る。現行法で、自己決定権に関する規定で最も下限 年齢が低 いのは、遺 言が 15 歳 か ら 可 能
というものである84。自己決定権を行使できる年 齢を 5 歳も引 き下げる ことが 果 た し て 適
切なのか、このことについても別に検討が必要 であろう 。
B) 20 歳になった時点で改名権を認める案
20 歳になると、本節のはじめに述べた改名を認めるに は手遅れ であると いう問 題 点 が 、
きわめて顕著になる。既に 20 歳では高校入試 ・大学入 試といっ た人生の 節目と な る 過 ぎ
ており、それまでに受けた差別は取り返しがつ かない。 さらに、 改名が自 分の周 囲 の 人 間
に与える影響も大きくなる。
このように、一定の年齢になった時点で改名権 を与える 案は、改 名権を与 える 年 齢 を 低
くすれば自己決定の能力の低さから、自らキラ キラネー ムへと改 名してし まう可 能 性 や 親
が改名に干渉し、望むような改名ができない可 能性が考 えられる 。逆に、 年齢を 高 く す れ
ば、改名以前のキラキラネームによる悪影響を 被らなけ ればなら ない。つ まり間 を と っ て
改名の年齢を 15 歳にすればよいという性質の欠点で はないの である。
また、A,B で発生した問題を解決するべく「出 生から自 ら命名を する適切 な年 齢 に な る
までは、親の名前や番号で子供を管理する」と いう案も 考えられ る。しか しなが ら 、 子 供
自身の自我の発達が妨げられる恐れがある点や 、子ども の権利条 約第 7 条85「1. 児童は、
84 民法第 961 条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる 。
85 ユニセフ「子供の権利条約」1989 年国連総会採択、1994 年か ら国内で 効力が発 生
(http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html)
26
出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時 から氏名 を有する 権利及び 国籍を 取 得 す る
権利を有するものとし(後略)」に違反する点か らこの案 も導入に はふさわ しくない 。
以上により、この案も妥当な政策であるとは言 えない。
第 4 節 氏 名 に振り仮名をつけることを推奨する案
この案は、キラキラネームを正しく読むことが できると いう点で は一定の 効果 を 上 げ る
であろう。例えば、第 3 章第 3 節第 3 項 B で説明 した、キラキラ ネーム間 違えず に 読 む こ
とが求められていた教員や保育士の負担は大き く減少す るであろ う。この 案は佐 藤 稔 が 提
唱している86。
しかし、キラキラネームで頻繁に使われる読み 方が正当 化され始 め、逆に 漢字 の 読 み 方
が揺らぎ始める危険性がある。例えば、「本気 」と書 いて「マ ジ」と 読むよう になっ た の は 、
幾度となく「本気」という漢字の上に「マジ」 という振 り仮名が 振ってあ る様子 を 漫 画 な
どで目にしたからだろう。同様に、「大翔 」と 書いて「ひろと 」と いう読み 方を幾 度 と な く
国民が読むようになったら、それが慣例読みと して誤用 がはびこ る危険性 も十分 考 え ら れ
るだろう。
このように氏名に振り仮名を振ることは、あく まで応急 処置的な 措置であ り、 根 本 的 な
問題の解決にはなっていない。また、氏名に振 り仮名を つけるよ うになっ ても、 最 も 深 刻
な問題であるイメージによる差別は、子がキラ キラネー ムを持つ 限り続く であろう 。
第 5 節 キ ラ キラネームを推奨する案
これは、キラキラネームを推奨し、キラキラネ ームが増 加してい くことで 、キ ラ キ ラ ネ
ームがむしろスタンダードな名前になっていく というも のである 。
例えば、女子の名前の終わりに子をつける傾向 を例にと ってみよ う。明治 安田 調 査 を 参
照すると、昭和 40 年代は、子のつかない名前が非常に珍し かった。しか し現在で は 、必 ず
しも女子の名前に子をつけることがスタンダー ドである とは言え なくなっ ている 。 こ の よ
うに、名前は流行により変化するものであり、 キラキラ ネームも 何十年か 経った 後 に は ス
タンダードな名前として定着していくのではな いかとい う考え方 である。
しかし、この案には致命的な欠点が 3 つある。
第一に、キラキラネームを推奨する理由を政 府が説明 できない ことであ る。大 き な 政 策
をとる以上、国民からはその政策をとる説明責 任を求め られる。 政府は「 キラキ ラ ネ ー ム
の子供たちを救うためにキラキラネームを増や すのだ」 と説明し たいとこ ろだが 、 政 府 が
国民を名前で差別するわけにはいかないので、 そのよう な説明は 口が裂け てもでき ない。
第二に、政府はキラキラネームを増やしたがら ないこと である。 キラキラ ネー ム は 学 校
86 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.186
27
や保育所の何十倍もの名前を扱う役所仕事にと って、い わば時間 食い虫な のであ る 。 よ っ
て、政策を採択するのが政府である以上、どん なに効果 があった としても 実際に は 採 択 さ
れない。
第三に、キラキラネームを推奨したとしても 、期待さ れるほど の効果を 上げら れ る か 分
からないということである。なぜなら、政府が 名づけに まで干渉 すること はでき な い か ら
である。
以上のことから、第 2 案と同様に効果はともかくとし て、政策と して実現 する こ と が 不
可能に近いのではないかと結論できる。
第 6 節 5 つ の 案の比較
以上の検討により、2 案・5 案は実現が難しいという点 、3 案は改 名を認め る年 齢 を ど の
ように設定してもそれぞれ年齢で新たな悪影響 が生じて しまう点 、4 案は 応急処 置 的 な 措
置であるという点より導入は不適当であるとい うことが 明らかと なった。 よって 、 現 段 階
では、1 案が最も有力な案であるということが言え る。
第 5 章 「 漢 字 の 読 みを制 限する 案」の 実現可 能性
第 5 章までの検討で、漢字の読みを制限する 案( 以下 1 案と 呼称する )が キラ キ ラ ネ ー
ムを減少させるための手段として有力であると の結論が 出つつあ る。本章 では、 1 案 が 憲
法に違反せず、市民などの強固な反対を受けず に実現可 能である というこ とを説明 する。
第 1 節 憲 法 21 条への違反
まず考えられるのは、1 案が憲法 21 条8 7
に違反 するので はないか との批判 である 。 実 際
に、人名に使える漢字が当用漢字のみに制限された 年には、当用 漢字に含 まれない「 瑛 美 」
という名の出生届を受理しない こと は憲法 違反 だとす る訴訟 が起 こって いる 8 8
。し か し 、
この主張は「公共の福祉のために必要な制限を 加えるの は憲法に 反するも のでは な い 」 と
いう判決理由により退けられている8 9
。
この判決により、1 案をとる場合に憲法違反か どうかは 、人名に 使える読 みの 制 限 が 公
共の福祉のために必要な制限であるかという点 に集約さ れる。
「悪魔ちゃん事件9 0
」といわれる審判では、
87 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現 の自由は 、これを 保障する 。」
88 東京高等裁判所 昭和 26 年(ラ)第 7 号
89 牧野恭仁雄『人名用漢字・歴史と事件』「月刊 しにか」2003 年 7 月号 p.23
90前掲「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」p.109 によれば、子の
名を「悪魔」とする出生届を受付した後に、そ の名を戸 籍から抹 消した行 政行為の 妥当性
を争った事件。
①「悪魔」なる名を付した出生届では受理され るべきか どうか
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「例外的には、親権(命名権)の濫用に亙るよ うな場合 や社会通 念上明ら かに 名 と し て
不適当とみられるとき、一般の常識から著しく 逸脱して いるとき 、または 、名の 持 つ 本 来
の機能を著しく損なうような場合には、戸籍事 務管掌者 (当該市 町村長) におい て そ の 審
査権を発動し、ときには名前の受理を拒否する ことも許 されると 解される 9 1
」
と、例外的ではありながら戸籍実務管掌者に 名前の受 理を拒否 する権利 を認めて いる。
本論文で定義したキラキ ラネ ームは 、「 漢字 を見 ただけ では どの よう に読 むの か 見 当 が
つかない名前」であり、そのような名前は 第 3 章第 1 節 で説明し たように 正しく 読 み 書 き
できないという理由から、「名の持つ本来の機 能を著し く損なう 」名前 であり 、仮 に そ う で
はなくても「一般の常識から著しく逸脱してい る」名前 である。
以上のことから判例に照 らし 合わせ て考 えて も、 人名 に使 える読 みを 制限 する こ と は 、
公共の福祉のために必要な制限であり、憲法 21 条に は違反し ていない と結論で きる。
つまり、現状でもキラキラネームを不受理とす る権利は 認められ ているの であ る 。 し か
し、実際には多くのキラキラネームが受理され ている。 その理由 に関して 、弁護 士 法 人 は
るか所属の弁護士は次のように述べている9 2
。
「キラキラネーム」といわれる読み方が難しい 名前も増 えていま すが、出 生 届 を 受
ける役所が、届け出された名前について一つ一 つ、命名 権の濫用 に該当す る か ど う か
の判断を行うことができるのかといえば、難し いといわ ざるをえ ません。 審 査 の 画 一
性を欠き、制度的に困難を伴うばかりか、行政 による過 度の介入 を招くこ と も つ な が
り、適切ではありません。
現在、不受理とする場合の障害になっている「① 審査の画 一性を欠 」くとい う問 題 や「 ②
行政による過度の介入を招く」という問題は、 1 案を導 入すれば 、①「人 名用漢 字 音 訓 名
乗り表」に載っている読みか否かという統一の 基準が設 定される ため審査 の画一 性 は 保 た
れる。②国会での審理を経た政策として 1 案を 導入する ため行政 による過 度の介 入 に は 当
たらない。ということになり、問題が解決する 。
第 2 節 憲 法 13 条への違反
②その場合の市町村長の審査権をどう考えるべ きか
③本件では「受理」は完了していると解するべ きか
④③の問題と関連して一旦戸籍に記載された「 名」を抹 消した処 分の適否
等がおもな問題点として挙げられている。
91 呉〔イク〕宗「戸籍・行政・法--「悪魔ちゃん命名事 件」から の省思」『宮城学 院女子
大学研究論文集』86 号、1997 年、pp.46-47
92 弁護士法人はるか所属弁護士「子供の命名権に ついて」2013 年
(http://www.law-haruka-aomori.com/850/850988/)
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次に考えられるのは、1 案が憲法 13 条9 3
で保障している 幸福追求 権の侵害 でない か と い
う批判である。しかし、この批判は当たらない 。なぜな ら、昭 和 58 年の 判示が あ る か ら
だ。その決定では、「戸籍法 50 条の規定が子の 名につき 制限を課 している ことを も つ て 個
人の氏名選択の自由を制限し、憲法 13 条に違反する 」もので はないと 判示して いる94。
このことから考えれば、1 案の導入は憲法 13 条に違反 しないと 結論でき る。
第 3 節 戸籍実務家の反対
戸籍実務家の声が人名用漢字の緩和を強力に後 押してき たことは 、第 2 章 第 2 節 で 見 た
通りである。つまり、再び人名用漢字に制限を かけると なれば、 戸籍実務 家の強 い 反 発 が
あるのではないかという懸念がある。特に今 回の場合 は、「人 名用漢字 音訓名乗 り 表 」と の
照らし合わせ作業という手間が増えるのである からなお さらであ る。
しかしこの反論に対しては、本章第 1 節で引用 した弁護 士法人は るかの資 料を 参 照 し て
頂きたい。今まではキラキラネームかと疑わし いような 名前に対 しても、 行政の 過 度 の 介
入を防ぐという観点から、どのような名前なら ば出生届 の受け取 りを拒否 できる の か と い
う線引きが難しかった。しかし、1 案を導入す れば「人 名用漢字 音訓名乗 り表」 と い う 明
確な線引きをもってキラキラネームの出生届の 受け取り を拒否で きるよう になるの で あ る 。
つまり実務上の難しい判断に対して一つの基準 を作るの がこの政 策の意味 である。よ っ て 、
戸籍実務家にとっても 1 案は有益性がある政策 であり、 反対は起 こらない と考えら れる。
第 4 節 海 外 での人名制限との比較
ところで、1 案による制限は、海外の制限と比 較して突 出した性 格のもの だろ う か 。 海
外でも名前としてふさわしくないものは、戸籍 に登録し ないこと を示す9 5
。
① 英国(イングランド及びウェールズ)
子の将来に不利益となるような名(汚い名、呪 わしい名 )は、出 生の登録 を 拒 否 さ
れる。
② フランス
子が軽蔑されるような名、ばかばかしい名、○×△の ような符 号による 名 、擬 音 を
表す名、政治的事件を思い出させる名、性格を 表す名 の一部(「 勇気のあ る 人 」 な
お、「謙譲な人」は認められる。)は認められな い。
93 「すべて国民は、個人として尊重される。生命 、自由及 び幸福追 求に対す る国民の 権
利については、公共の福祉に反しない限り、立 法その他 の国政の 上で、最 大の尊重 を必要
とする。」
94 前掲「出生子命名権について:『悪魔』『琉』命 名事件」p.15
95 前掲「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」pp.106-107
30
③ イタリア
不吉な名、不道徳な名のほか、慣習上男女反対 の性の名 とされて いるもの は 認 め ら
れない。
④ アルゼンティン
「氏名に関する法律」(1969 年)により、習慣に反する もの、こ っけいな も の 、 奇
怪なもの又は政治的イデ オロ ギー 等を 意味 する もの 及び ほか の性 別に 相 当 す る も
のは、一般的に認められない。
このように、海外でもヨーロッパを中心に、人 名の制限 は人名と して適切 かど う か と い
う観点でなされており、1 案は諸外国と比較して も決して 飛躍した 政策では ないと い え る 。
第 6 章 終 わ り に
以上の考察により、キラキラネームの増加が著 しくその 増加が一 過性のも ので は な い こ
と、キラキラネームが深刻な問題であること、「漢字 の読みを 制限する 案」がキラ キ ラ ネ ー
ムを減少させるための手段として有効であるこ と、「漢字 の読みを 制限する 案」が 実 現 可 能
な政策であるということが明らかになった。以 上のこと から、執 筆者は「 漢字の 読 み を 制
限する案」を導入すべきであると提言する。
謝 辞
本論文を作成するにあたり、指導教員の中村成 里先生か ら、丁寧 かつ熱心 なご 指 導 を 賜
りました。また、参考文献に挙げた文章の著者 からは多 くの知識 を頂きま した。 こ こ に 感
謝の意を表します。
参 考 文献
J-CAST ニュース「『キラキラネーム』で患者取り違えの 恐れ? 救命医のツイッター 苦 言
に賛否両論」2013 年(http://www.j-cast.com/2013/08/01180677.html)
J-CAST モノウォッチ「子どもの名前にアニメキャ ラ、「4 割 」がアリ !」2011 年
(http://www.j-cast.com/mono/2011/10/15110063.html)
NEWS ポストセブン「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育 専 門 家 」
2013 年
(http://www.news-postseven.com/archives/20130707_198318.html)
NEWS ポストセブン「私学関係者「個性的な名前 は入学試 験でチェ ック対象 になる」」2 0 1 2
年
(http://m.news-postseven.com/archives/20120627_124003.html)
NEWS ポストセブン「大手企業役員 『正直キラキラネームの学生の採用ためらう』」2 0 1 2
31
年
(http://m.news-postseven.com/archives/20120626_123476.html)
朝日新聞「発言録 15日」2012 年 11 月 16 日付朝刊、4 面
朝日新聞「人名狂想曲」1999 年 10 月 16 日付朝刊、37 面
朝日新聞「『琉』の人名使用OK 法務省、戸籍法施行規則を改正」1997 年 12 月 0 4 日 付
朝刊、33 面
朝日新聞「常用漢字 来月は 1 日に告示 人名はこの 18 日生まれから」1981 年 9 月 13 日
付朝刊、1 面
伊藤正明『最新版たまひよ名づけ大百科』ベネ ッセコー ポレーシ ョン、2004 年
井戸田博史「出生子命名権について:『悪 魔』『琉 』命名事 件」『 日本文化 史研究 』 3 0 号 、
1999 年
上野和男、森謙二 編『名前と社会—名づけの家族史』早稲田大学 出版部、1996 年
円満字二郎『人名用漢字の戦後史』岩波書店、2005 年
大阪高等裁判所昭和 26 年(ラ)第 27 号同 27 年 10 月 31 日決定 「名の変 更申立 却 下 決 定
に対する抗告事件」『高等裁判所民事判例集』p.553、5 巻 11 号 p.105
小野木美保「人名用漢字について」『戸籍』756 号、2004 年
柏木惠子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』中公新書、2001 年
川岸克己「人名における漢字使用の変化とその誘 因」『安田 女子大学 紀要』41 巻、2 0 1 3 年
憲法 13 条,21 条
呉〔イク〕宗「戸籍・行政・法--「悪魔ちゃん命名事件」からの省思」『宮城学院 女 子 大 学
研究論文集』86 号、1997 年
国立国語研究所「日本語ブックレット 2004:人名用漢字 」2004 年
(http://www.ninjal.ac.jp/nihongo_bt/2004/01volume/newspaper/topic02.html )
小林康正『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』風響社 、2009 年
最高裁判所平成 15 年(許)第 37 号同年 12 月 25 日第三小法廷決 定「市町 村長の 処 分 不 服
申 し 立 て 審 判 に 対 す る 抗 告 棄 却 決 定 に 対 す る 許 可 抗 告 事 件 」『 最 高 裁 判所 民 事 判 例集』
p.2562、57 巻 11 号 p.676
最高裁判所昭和 43 年(オ)第 932 号同 48 年 12 月 12 日大法廷判決「労働契約 関 係 存 在
確認請求」『最高裁判所民事判例集』 27 巻 11 号 p.1536
佐藤稔『読みにくい名前はなぜ増えたか』吉川 弘文館、2007 年
澤田省三「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」『宮崎産業経 済 大 学 法
学論集』第 8 巻第 1,2 号、1996 年
篠田恵里香「弁護士に聞く!「キラキラネーム の改名」 はどこま で可能か 」2013 年
(http://wooris.jp/archives/60022)
寿岳章子、樺島忠夫「女のなまえ」『計量国語学 』7 巻、1958 年
32
田代有嗣「戸籍届出に対する市町村長の審査権 (完)」『 民事研修 』175 号、1971 年
田中実「命名の法理」『法学研究』37 巻 10 号、1964 年
田宮規雄監修『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名 前事典 2011 ~2012 年版』 ベネッ セ コ ー ポ
レーション、2010 年、p.262
日本法令索引「戸籍法の一部を改正する法律案 」
(http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=101002035 )
久山健太「S.Lieberson の個人名研究と日本 における 発展可能 性」『年報 人間科学 』3 3 号 、
2012 年
福田ますみ「『キラキラネーム』大研究」『新潮 45』2012 年 7 月号
文化庁「『常用漢字表』(平成 22 年内閣告示第 2 号)」2010 年
(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokujikunrei_h221130.ht ml)
文化庁「これまでの漢字政策について(付:人 名用漢字)」2008 年
(http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/kanji_27/pdf/shiryo_4.pdf )
弁護士法人はるか所属弁護士「子供の命名権に ついて」2013 年
(http://www.law-haruka-aomori.com/850/850988/)
星田晋五『名前の研究』星田言 編、近代文芸社、2002 年
マイナビニュース「話題のキラキラネーム、これから結 婚する世 代はどう 考えてる ?」2 0 1 3
年
(http://news.mynavi.jp/news/2013/02/22/207/index.html)
マイナビニュース「『こんなキラキラネームはい やだ!』 子供による『改名』が認め ら れ
る条件は?」2013 年
(http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/bengo4/2013/02/post-141.html)
毎日新聞「『常用漢字』に 1945 字 国語審答申 『当用』に 95 字追加」1981 年 3 月 2 4 日
付朝刊、1 面
牧野恭仁雄『子供の名前が危ない』ベスト新書 、2012 年
牧野恭仁雄「人名用漢字・歴史と事件」『月刊し にか』2003 年 7 月 号
ママこえ「自分の子どもに「瑛磨(エ ース)」など 、アニ メのキャ ラクター 名をと っ て の 名
づけ。これってアリ?」2011 年
(http://mamakoe.jp/pc/ranking/ranking.php?id=1153)
宮崎幹朗「戸籍法の「常用平易な文字 」と人名 用漢字の 変遷」『愛媛法 学会雑誌 』32 巻 3 ,4
号、2006 年
民法 961 条
文部科学省「少子化と教育について(中央教育 審議会報 告)」2000 年
(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/tou shin/1309769.
htm)
33
明治安田生命「名前ランキング」2012 年
(http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html)
ユニセフ「子供の権利条約」1989 年国連総会採択、1994 年から 国内で効 力が発生
(http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html)
吉井啓子「一九九三年フランス家族法改正に よる命名・氏名 の変更に 関する新 規定 」『 同 志
社法学』48 巻 6 号、1997 年
読売新聞「戸籍法の改正に衆院動く」1951 年 2 月 18 日付朝刊 、2 面
ライフネット生命保険株式会社「新卒採用関係 者の意識 調査」2013 年
(http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4568.html#anchor8 )
「赤ちゃんの名づけ命名 無料の姓名診断と人気名前ランキング」2014 年
(http://akachan-meimei.com/)
「赤ちゃん命名辞典」(発行年不明)(http://www.baby-name.jp/)
「戸籍法(昭和二十二年十二月二十二日法律第 二百二十 四号)」最 終改正 2011 年
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html)
「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二十 九日司法 省令第九 十四号)」最 終改正 2 0 1 3 年
(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F00501000094.html)
「子供の名前に願いを★」2008 年(http://www.konamae.com/)
「第010回国会 法務委員会 第14号」1951 年
(http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/010/0488/01005150488014a.html )
なお、Web サイトの最終アクセス日時は全て 2014 年 1 月 7 日 。

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キラキラネーム問題に対する政策提言

  • 1. 1 キ ラ キ ラ ネ ー ム 問 題 に 対 す る 政 策 提 言 ― 「 漢 字 の 読 み を 制 限 す る 案 」 を 中 心 に ― 3 年 G 組 13 番 小林拓真 指導教員:中村成里 目 次 : 第 1 章 はじめに ・・・2 第 1 節 本論文の目的 ・・・2 第 2 節 用語の定義 ・・・2 第 2 章 人名の歴史 ・・・4 第 1 節 人名漢字制定までの人名の傾向 ・・・5 第 2 節 人名に用いることのできる漢字の変遷 ・・・6 第 3 節 キラキラネームの台頭 ・・・9 第 3 章 キラキラネームによって発生した問題点 ・・・17 第 1 節 人名の持つ社会的な重要性 ・・・17 第 2 節 社会全体に生じる問題点 ・・・17 第 3 節 キラキラネームにより子どもとその周辺人物に生 じる問題 点・・・18 第 4 節 子どもに生じる問題点の深刻性 ・・・21 第 5 節 キラキラネームを減少させる必要性 ・・・22 第 4 章 キラキラネームを減少させるための具体策の提案 ・・・23 第 1 節 漢字の読みを制限する案 ・・・23 第 2 節 使用可能な漢字の数を制限する案 ・・・23 第 3 節 一定の年齢になった時点で、本人に改名権を認め る案・・ ・24 第 4 節 氏名に振り仮名をつけることを推奨する案 ・・・25 第 5 節 キラキラネームを推奨する案 ・・・26 第 6 節 5 つの案の比較 ・・・26 第 5 章 「漢字の読みを制限する案」の実現可能性 ・・・27 第 1 節 憲法 21 条への違反 ・・・27 第 2 節 憲法 13 条への違反 ・・・28 第 3 節 戸籍実務者の反対 ・・・28 第 4 節 海外での人名制限との比較 ・・・29 第 6 章 終わりに ・・・29 謝辞 ・・・30 参考文献 ・・・30
  • 2. 2 第 1 章 は じ め に 第 1 節 本 論 文の目的 本論文はキラキラネームを減少させるために、 人名に使 用できる 漢字の読 み方 の 制 限 へ の提言を目的とした論文である。 人の名前を法的観点から扱う分野では、命名権 の所在や 「悪魔ち ゃん事件 」に つ い て 多 くの研究がなされてきた1。しかし、キラキラネーム そのもの に注目し た研究は まだ 少 な く 、 キラキラネームに対する政策を提言する研究は 執筆者の 調べた範 囲では見 つからな か っ た 。 まず、本論文の概略を述べる。第一にキラキラ ネームが 近年にな って発生 する よ う に な り、その数が増加していることを 2 章で述べ、第二にキ ラキラネ ームによ る問題 点 が 人 名 制限のシステムを変えるべきと言えるほど深刻 であるこ とを 3 章で 説明する。第 三 に 、 漢 字の読み方を制限することが、他の政策と比較 したうえ で最も効 果を上げ る政策 で あ る こ とを 4 章で、第四に 4 章で説明した政策は 、憲法に 違反する ことなく 、実 務家た ち の 反 発 も受けずに導入可能であるということ。これを 5 章で説明す る。以上の 4 点を証 明 し 、 6 章を結論とする。 第 2 節 用 語 の定義 第 1 項 キ ラ キ ラ ネ ームの 定義 キラキラネームは、近年新しく生まれた言葉で あり、明 確な定義 は存在し ない 。 本 論 文 では、川岸克己の定義した2、「漢字を見 ただけで はどの ように 読むのか 見当が つ か な い 、 たとえ読めたとしても違和感を感じる、あるい は一般的 な感覚と は異なる 感性に よ っ て つ けられた名前」をキラキラネームとして定義す る。この 定義は、 受け手の 感受性 を キ ラ キ ラネームであるかないかという基準としている 。 本論文中で、珍しい名前を「DQN ネーム」や「 珍奇ネー ム」と呼 ばず、「 キラ キ ラ ネ ー ム」と呼んでいる理由についてもここで触れて おく。「DQN ネー ム」は、 名づけ ら れ た 子 やその親を蔑む意味合いの込められた呼称であ り、各種 報道機関 では、名 づけ主 の 意 思 を 尊重して「キラキラネーム」と呼ぶこと が通例 になって いる3。 また、「 珍奇ネ ー ム 」 は 、 1 命名権の所在を論じた研究には、田中実「命名 の法理」『法学研 究』37 巻 10 号、1964 年や、宮崎幹朗「戸籍法の「常用平易な文字」 と人名用 漢字の変 遷」『愛媛 法学会雑 誌』 32 巻 3,4 号、2006 年がある。「悪魔ちゃん事件」についての研究 には、澤 田省三「 命名 の法理をめぐって 「悪魔ちゃん」事件に関連して」『宮崎産業経 済大学法 学論集』 第 8 巻第 1,2 号、1996 年や、井戸田博史「出生子命名権について: 『悪魔』『琉』命 名事件」 『日本文化史研究』30 号、1999 年がある。 2川岸克己「人名における漢字使用の変化とその 誘因」『安 田女子大 学紀要』41 巻、2013 年、p.1 3 各新聞社データベースによれば、「キラキラネ ーム」が 含まれる 記事は 2013 年か ら 2010 年の間で、朝日新聞 7 件、読売新聞 10 件、毎日新聞 10 件存 在する。 対して、 「DQN ネーム」が含まれる記事は存在しない。
  • 3. 3 命名専門家の牧野恭仁雄が中立の立場に立った 呼称とし て推奨し ている4も のであ る が 、牧 野の著書以外で目にすることがなく、定着して いる言葉 であると は言い難 い。 以上より、本論文中では、上の定義に合う名前 を「キラ キラネー ム」と呼 称する。 第 2 項 キ ラ キ ラ ネ ームの 具体例 と分類 では、上にあげたキラキラネームの定義に該 当するよ うな名前 にはどの ような も の が あ るか。このことを読者に知ってもらうことは、第 3 章で 説明する 問題点を イメー ジ す る う えで大いに役立つはずである。 では、牧野恭仁雄『子供の名前が危ない 』の 分類をも とに一部 変更を加 え5、キ ラ キ ラ ネ ームとされえるものを分析していく。 ①誤った読みを使っている名前 ①-1 読みの一部を読みとして誤って使っている名前 例:心愛(ここあ)、飛人(あ す と ) 心の字には「こころ」という訓読みはあるが、「ここ」という 読み方は ない。同 様 に 、愛 の字に「あい」という訓はあるが「あ」という 読み方は ない。同 様に、飛 の字に は 飛 鳥 で 「あすか」という熟字訓こそあるものの、単独 で「あす 」と読む ことはで きない。 ①-2 漢字の意味から読みを導いている名前 例:天使(エンジェル)、海(まりん) 天使という熟語の持つ意味から英単語の Angel を連 想し 、それを カタカナ に置 き 換 え た 名前である。日本語において、漢字には読みが 対応して いるため 、意味か ら読み を 導 く こ とはできない。 ②別の熟語などを連想させる名前 ②-1 熟語として読むことのできる名前 例:類人(るいと)、達磨(たつま) それぞれ類人猿やダルマという全く違う意味 の熟語を 想起させ る。 ②-2 読み方が別の言葉に聞こえる名前 例:文恵(ふみえ)、良喜(りょうき) それぞれ、キリスト教弾圧の手段としての「 踏み絵」 や、奇怪 なものを 好むと い う 意 味 の「猟奇」を連想させる。 ③現在の日本人の名前だと即座に判別できない 名前 ③-1 外国の言葉を漢字に置き換えた名前 例:里羅楠(リラックス)、新千絵(ニ ー チ ェ ) これらを見ただけ、聞いただけではそれが名前 であるこ とが理解 できない 。 ③-2 アニメのキャラクターなどを用いた名前 例:光宙(ピカチュウ)、夢民(む う み ん ) アニメのキャラクターに倣った名づけは、学 校などで 周囲に違 和感を与 える。ま た 、そ の 4 牧野恭仁雄『子供の名前が危ない』ベスト新書 、2012 年、p.20 5 前掲『子供の名前が危ない』pp.27-39 を参照。牧野はキラ キラネー ムを 17 種類 に分類 している。他には「日本語、あるいは古語で特 別な言葉 にも聞こ える名」「 外国語で おか しな連想をおこす名前」などを牧野は掲げてい るが、本 論文での 定義には 当たらな いと判 断し、本文中には採用しなかった。
  • 4. 4 アニメは子供が死ぬまで知られ続けているとい う保証は どこにも なく、名 前その も の が 時 代遅れとなる可能性もある。 ③-3 昔の人の名のような名前 例:信長(のぶなが)、卑弥呼(ひみこ) 有名な歴史上の人物にあやかった名前は、あだ 名のよう に受け取 られがち で、 名 前 に 不 安定感を感じる。 ④字が難しく口頭での説明がしにくい名前 例:賢爾(けんじ)、亨(とおる) 賢爾の「爾」の字や、「亨」は 、一般的 な語句に はあまり 登場しな い漢字で ある た め 口 頭 で説明することが難しい。漢字そのものが珍し いがため に漢字を 見ただけ ではど の よ う に 読めばよいかわからない例といえる。 ところで、この条件に当てはまる全ての名前が キラキラ ネームで あると執 筆者 は 主 張 し ない。例えば、2012 年女の子の名前 1 位は「結衣(ゆい)」であり6、「結」の 字 に 「 ゆ 」 という読み方は存在しないため、先の分類の①-1 に 含まれる 。しか し、ラ ンキン グ の ト ッ プであることからも市民権を得ている名前であ りキラキ ラネーム ではない とみて 差 し 支 え ないだろう。 つまり名前がキラキラネームであるか否かとい うのは、 以上に挙 げた条件 にい く つ 当 て はまるのかによって決まるのではなく、個人の 感覚とい う実に不 安定なも のによ っ て 決 め られているということだ。 この線引きの難しさが、キラキラネームが減少 しない一 因と考え られる。 つま り 、 親 と しては流行に乗った一般的な名前を付けている つもりで ある7が、名前 を見た他 人 か ら す れ ば親の常識を疑うような名前であるという場合 である。 そのよう な場合、 親のキ ラ キ ラ ネ ームをつけたいという意図なしに、子はキラキラ ネームを つけられ たことに なって し ま い 、 周囲からはキラキラネームと認識されてしまう のである 。 では、なぜこのようなキラキラネームが生まれ るに至っ たのか、 第 2 章で見 ていく。 第 2 章 人 名 の 歴 史 ここでは、人名に使える漢字が制限される以前 、人名漢 字の制限 以降、キ ラキ ラ ネ ー ム の台頭の 3 つの観点に分けて、キラキラネーム が以前は 生まれて いなかっ たにも か か わ ら ず、現代になりキラキラネームが急激に増加し た理由を 考察する 。なお、 人名の 傾 向 を 知 6 明治安田生命「名前ランキング」2012 年 (http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html) なお、2013 年データは時間の都合により、採用できなか った。 7 星田晋五『名前の研究』星田言 編、近代文芸社、2002 年 p.161 「名というものが、末永く、しかも最も身近に つきまと うもので 、また、 みだりに 改めら れぬものであるから、そして親としての本能的 な気持ち もあるか ら、少な くとも、 でたら めや悪意から付けることはまれで、まず善意的 なもので あるとい えるであ ろう。」
  • 5. 5 るに当たっては、第 1 章第 2 節第 2 項でも用いた明 治安田生 命名前ラ ンキング( 以 下 、明 治安田調査と呼称する)を参照した。 第 1 節 人 名 漢字制限までの人名の傾向 戦後までは、人名に使える漢字の制限は存在し なかった 。具体的 にいうと 、旧 戸 籍 法 第 28 条に、「戸籍ノ記載ヲ為スニハ略字又ハ符号ヲ用ヰス 字画明瞭 ナルコト ヲ要ス 」 と の 規 定があるのみであった8。漢字の字種が定められて いる現在 と比較す れば、ほと ん ど 制 限 が 無かったとみて良いであろう。しかし、現在のよ うなキラ キラネー ムは現れ ていな か っ た 。 「現行の戸籍法の施行前には、名に使用する文 字には法 律上の制 限がなか ったた め 、 漢 字 の数がはなはだ多くその用い方も複雑であり、 子の名づ けに用い られた漢 字の中 に は 極 め て難読難解なものが少なからずあ」ったという最 高裁判所 による指 摘もある 9が、社 会 問 題 として顕在化していなかったことから考えれば 、現在よ りはキラ キラネー ムの数 は 少 な か ったと考えられる。 その根拠はいくつか挙げられる。 第一に、戦中から戦後すぐにかけては生きて 行くのに 精いっぱ いの時代 であり 、 名 前 を 「個性的」というコンセプトでつけるという発 想が国民 になかっ たことが 挙げられ る10。 第二に、名前の雛形が決まっていたため、独自 性の入り 込む余地 が無かっ た こと で あ る 。 女性名では和子、幸子、節子をはじめとする「 子」を止 め字とし て使う名 前が 一 般 的 で あった。明治安田調査を参考にすれば、1926 年から 1955 年までの トップ 10 に 「 子 」 の 字で終わっていない名前は存在しない。 また、男性名では清、勇、勝などの漢字一字名 が一般的 であった 。同じく 明治 安 田 調 査 によると、1926 年から 1955 年までのトップ 10 で、漢字一字ではない名 前は、 一 男 ・ 三 郎・昭一・昭二・昭三・和夫・辰雄・勝利・幸 雄のわず か 9 種類で ある。 子という止め字に合う漢字、漢字一字で意味を なし名前 としてふ さわしい 漢字 を 使 う と なると、おのずと使われる漢字も制限されてい たのでは ないかと 考えられ る11。 第三に、子供の名前をつける権利が親に集中 していな かったと いうこと である 。 戦 後 間 8 小野木美保「人名用漢字について」『戸籍』756 号、2004 年 、p.60 9 最高裁判所平成 15 年(許)第 37 号同年 12 月 25 日第三小法廷 決定「市 町村長の 処分 不服申し立て審判に対する抗告棄却決定に対す る許可抗 告事件」『 最高裁判 所民事判 例 集』p.2562、57 巻 11 号 p.676 10 佐藤稔『読みにくい名前はなぜ増えたか』吉川 弘文館、2007 年 、p.159 11 福田ますみ「『キラキラネーム』大研究」『新潮 45 』2012 年 7 月号、p.125 「つまり、下に子を付ける前提で上の漢字を選 ぼうとす ると、あ る程度限 定されて しま い、結果的に同じような名前ばかりになってい た。(後略 )」(小林 教授)
  • 6. 6 もなくまでは、子供の名前は親族 全体で 考えた り、寺 院でつ けても らった り し て い た 12。 このことが、親の独断によってキラキラネーム をつける 可能性を 抑制して いたと い う こ と も考えられる。 以上の 3 つの根拠により、人名用漢字制定以前におい ては、制限 がないに もか か わ ら ず キラキラネームは存在していなかったと結論で きる。 第 2 節 人 名 に用いることのできる漢字の変遷1 3 第 1 項 当 用 漢 字 で の制限 1947 年 12 月 22 日に戸籍法が制定された14。戸籍法 五十条に は、「子の 名に は 、 常 用 平 易な文字を用いなければならない」とあった。 これが人 名に使わ れる漢字 を制限 す る 根 拠 となっていた。具体的には常用平易な漢字は、司法省 令である 戸籍法施 行規則 六 十 条 15で 、 当用漢字および片仮名又は平仮名と定められた 。漢字は それが持 つ難しさ により 、 封 建 社 会において一部の人間が知識を独占するための 道具とし て使われ た。その 反省を 生 か し 、 分かりやすく漢字を整理することで、民主的に 知識を共 有できる ようにし 、民主 化 を 推 し 進めようようと考えたのである。これが当用漢 字の制定 目的であ った16。 第 2 項 人 名 用 漢 字 の制定 では、人名に使 うこ と ので き る漢 字 が制 限 され た こ とに よ る反 発 はど う 起こ っ た か 。 1950 年 3 月に、「玖美(くみ)」という名前の出 生届を不 受理とし たことは 憲法違 反 と し て 家庭裁判所に訴えたことがはじめである17。反発 に対応し 、1951 年 3 月 24 日、衆 議 院 戸 籍法小委員会は戸籍法第 50 条 3 項に、 「市町村長は、出生の届出において子の名に前 項の範囲 外の文字 を用いて ある 場 合 に お いては、届出人に対してその旨を注意すること ができる 。但し、 届出人が これに 従 わ な く ともその届出を受理しなければならない。」 12 第 2 章第 3 節第 4 項「女のなまえ」アンケート参照 。 13 文化庁「これまでの漢字政策について(付:人 名用漢字 )」2008 年 (http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/kanji_27/pdf/shiryo_4.pdf ) で、漢字制限の歴史を概観することができる。 14 「戸籍法(昭和二十二年十二月二十二日法律第 二百二十 四号)」 最終改正 2011 年 (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html) 15 「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二十九 日司法省 令第九十 四号)」 最終改正 2013 年 (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F00501000094.html) 16 円満字二郎『人名用漢字の戦後史』岩波書店、2005 年 、pp.9-10 17 牧野恭仁雄「人名用漢字・歴史と事件」『月刊 しにか』2003 年 7 月号、p.23
  • 7. 7 という条文を追加し、人名に使え る漢字 の制限 を廃止 しよう という 動きが 起 こ っ た 18。 この改正案は衆議院で可決され、 あわや 成立か という ところ まで進 んだ19。 し か し 、 国 語 審議会と法務省が手を結び、参議院で審議未了 に追い込 み、人名 用漢字別 表の公 布 を 決 定 にさかのぼって実施することにより、衆議院戸 籍法小委 員会によ る改正案 は廃案 と な っ た 20。人名用漢字制定の 1951 年から 1976 年に至るまでの 25 年間、人名用漢字は追 加 ・ 改 正されることはなかった。 1 第 一 次 改 定 再び名づけに使える漢字の制限緩和を求める動 きが戸籍 実務家な どから現 れた 時 、 国 語 審議会は当用漢字表の再検討を行っていた。そ こで法務 省が名づ けに使え る漢字 の 問 題 を 担当し、漢字表を独自に作成した 21。これ に国語 審議会 の追認 を得て 、人名 用 漢 字 表 を 変 更しようとした。しかし、法務大臣の私的諮問 機関であ る人名用 漢字問題 懇談会 が 提 示 し た変更案を、法律に基づいて設置された文部大 臣の諮問 機関であ る国語審 議会は 手 続 き の 正統性が無いという面から拒否した。人名用漢 字をめぐ り、人名 用漢字制 定時に は 手 を 結 んだ文部省と法務省が民主化のための制限とい う大義名 分を失い 対立を始 めたの だ 。 結 果 として、1976 年 7 月 30 日に人名用漢字追加表という第三 の表とし て、人 名用漢 字 問 題 懇 談会が作成した漢字表が告示された22。 2 第 二 次 改 定 その後、国語審議会において当用漢字表が常用 漢字表に 変更とな ることが 決ま り 、 漢 字 表の持つ意味が制限から目安へと 変化し た23。こ の転換 に対応 し、人 名に使 う こ と の で き る漢字を、制限から目安に変えようという動き が国語審 議会の中 から出始 めた。 さ ら に 、 人名用漢字の担当は法務省に任せるべきという 立場も現 れ、今ま での制限 を存置 し よ う と する立場と合わせて国語審議会内 の議論 は紛糾 した24。 期限ま でに議 論はま と ま ら ず 人 名 用漢字は、文部省の管轄の国語審議会から、法 務省の管 轄の民事 行政審議 会へと 移 管 さ れ 18 読売新聞「戸籍法の改正に衆院動く」1951 年 2 月 18 日付朝 刊、2 面 19 「第010回国会 法務委員会 第14号」1951 年 (http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/010/0488/01005150488014a.html ) 20 日本法令索引「戸籍法の一部を改正する法律案 」 (http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=101002035 ) 参議院で本会議にかけられておらず、継続審議 にもなっ ていない ため、廃 案となっ たこと がわかる。 21 前掲『人名用漢字の戦後史』pp.115-116 22 前掲「これまでの漢字政策について(付:人名 用漢字)」 23 毎日新聞「『常用漢字』に 1945 字 国語審答申 『当用』に 95 字追加」1981 年 3 月 24 日付朝刊、1 面 24 前掲『人名用漢字の戦後史』p.129
  • 8. 8 ることとなった25。こうして、人名 用漢字 は「分 かりや すい日 本語の ために 、 漢 字 の 利 用 を制限する」という言語政策的役割を終え、数 を増やし ていくこ ととなっ た。戸 籍 実 務 家 の要望やコンピューター化に対応し、「無限性の ある漢字 に一定の 線引きを する」と い う 実 務的役割へと大きく方向転換したのだ。すなわち 、「言葉 の民主化」という自 由より も 、「 命 名の個性」という自由が強く求めるような時代に なった の である。結 局、この時 に は 5 4 字 を人名用漢字表に追加することで妥協した26。 また、人名用漢字別表が、内閣告示ではなく「 別表第二 」と称さ れること とな り 、 法 務 省のフリーハンドで改正を行えるようになった 27。 3 第 三 次 改 定 第三次改定は戸籍実務家が、姓の誤字・俗字を 職権で訂 正できる ようにす ると い う 規 制 に対して、懐柔策として与えられた制限緩和で ある。こ の時、姓 の誤字・ 俗字が 問 題 と な った理由は戸籍のコンピューター化である。名 に使える 漢字をあ る程度増 やして も コ ン ピ ューター化するうえで大きな支障を及ぼさない 。対して 、姓の誤 字・俗字 は今ま で 制 限 が なされていない上、際限なく増加する性質のも のであっ たためコ ンピュー ター化 の 大 き な ネックとなったのだ。 4 第 四 次 改 定 第四次改定では沖縄県に住む夫婦が命名の自由 を訴え「 琉」の一 文字のみ が、 裁 判 の 結 果を受けて審議会や委員会での検 討を経 ずに追 加され た28。こ れは、 沖縄県 が 米 軍 基 地 問 題で揺れていたという政治的な影響もあったと 考えられ ている29。 5 第 五 次 改 定 最高裁判所が「人名用漢字別表」の有無に関係 なく、家 庭裁判所 の判断で 名づ け に 用 い てよい漢字を決めてよいとの判決を下した。こ れを受け て、法務 省により 人名用 漢 字 見 直 し案 578 字が提案された。その後、国民に意見を 募ったと ころ、「糞」「 屍」「 膿」な ど の 人 名にふさわしくないと思われる漢字を削除せよ との要請 があり3088 字を削 除し 、 1 字 を 追 加した。最終的に、488 字が新たに使用可能となった 。2004 年 9 月 27 日 に公示 ・ 施 行 さ 25 前掲『人名用漢字の戦後史』p.137 26 朝日新聞「常用漢字 来月は 1 日に告示 人名はこの 18 日生まれから」1981 年 9 月 13 日付朝刊、1 面 27 前掲『人名用漢字の戦後史』p.150 28 朝日新聞「『琉』の人名使用OK 法務省、戸籍法施行規則を改正」1997 年 12 月 04 日付朝刊、33 面 29 前掲『人名用漢字の戦後史』p.192 30 国立国語研究所「日本語ブックレット 2004:人名用漢 字」2004 年 (http://www.ninjal.ac.jp/nihongo_bt/2004/01volume/newspaper/topic02.html )
  • 9. 9 れた31。 6 常 用 漢 字 の再検 討 インターネットの普及な どに より日 本は 「一 億総 表現 者時 代」に 入っ た。 これ に よ り 、 国民が主体的に漢字に触れる回数が増加し「常 用平易な 漢字」が 増加した 。これ に 従 い 、 旧常用漢字表から 196 字追加、5 字削除され た新常用 漢字表 が 2010 年 11 月 30 日 に 内 閣 告示された32。 第 3 節 キ ラ キラネームの台頭 さて、本節では近年の傾向ではキラキラネーム の台頭を 踏まえ、 これが増 加す る 理 由 を 考察する。 キラキラネームが増加する理由について、小林 康正は少 なくとも 以下の六 つの 視 点 か ら 考えていかなければならないと主張している33。 ① 命名技術にかかわるレベルでの変化 ② 名づけの背後に控える子ども観の変化 ③ 名づけに動員される背景的知識の変化 ④ 名づけに関与する人物や関係の変化 ⑤ 名づけに用いられる道具の変化 ⑥ 社会的空間の変化 そして、小林はキラキラネームが増加した理由 を「消費 社会の拡 大と公共 空間 の 喪 失 が 進行する中で、家族という孤立した親密空間に 籠城する 端末市民 である親 たちが 、 そ の よ うな世界にふさわしい『個性』(=差異化 )とし てのアイ デンティ ティを自 分と自 分 の 子 ど もに与える試みだった34」と分析している。 執筆者もこの分類に依拠し、以下の項で 6 点を 明確に分 類したう えでキラ キラ ネ ー ム 台 頭の理由を考察する。 第1項 命 名 技 術 に かかわる レベル での変 化 この項では、命名者が何を重視するかという 点の変化 を考察す る。過去 と比較 し 現 在 に 31 朝日新聞「人名漢字、追加は結局488字 当初案から88字削る」2004 年 08 月 14 日付朝刊、30 面 32 文化庁「『常用漢字表(平成 22 年内閣告示第 2 号)」2010 年 (http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokujikunrei_h221130.html ) 33 小林康正『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』風響 社、2009 年、 pp.7-8 34 前掲『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』p.46
  • 10. 10 おいては、命名者は漢字の画数や音の響き、姓 とのバラ ンスを重 視する傾 向にある 。 まず、過去と現在との比較を行うため、過去 の人名の 傾向につ いて寿岳 らに よ る 先 行 研究「女のなまえ」を引用する3 5 。 ロ.名まえをつけるいわれのようなものがありま したら書 いてくだ さい。 a.意味的なもの 28 名 b.時局、新興、その他社会的環境にちなむ 22 名 c.個人的環境にちなむ 10 名 d.肉親その他の人名にあやかる 13 名 e.姓名診断 10 名 f.古典による 2 名 g.ごろあわせ 2 名 次に、現在の名づけの傾向を知るため「たまひ よ赤ちゃ んのしあ わせ名前 事典 」 に 掲 載 されているアンケート3 6 を引用する。 ○名前を考える際に重視したことは? 漢字の画数(吉数) 19% 名前の音の響き 19% 姓とのバランス 14% 漢字の意味 9% 名前に込める親の願い 9% 名前の表すイメージ 6% 呼びやすさ 6% (以下略) かつてと比較して、現在ではこのように漢字の 意味や親 の願いよ りも、漢 字の 画 数 や 名 前の響きを重視して名前を付ける傾向がみられ る。実際 に名づけ る際の手 順で考 え れ ば 、 「ここちゃん」と呼びたいから、「ここな」という名前を 考え、後から「 ここな」と い う 音 を持ち、意味や画数の合う漢字を漢字辞典など で探し「 恋菜」と 漢字を決 めると い っ た 具 35 寿岳章子、樺島忠夫「女のなまえ」『計量国語 学』7 巻、1958 年、 p.29 調査母集団は、京都府立鴨沂高校(68 名)、大阪女 学院(ミ ッション スクール 。 63 名)、 東京都立武蔵高校(55 名)、東京都立江戸川(定時 制)高校 (33 名)であ る。 36 田宮規雄監修『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名 前事典 2011~2012 年 版』ベネ ッセコ ーポレーション、2010 年、p.262 アンケート出典は、たまひよ読者 200 人の「名づけア ンケート より」2008 年 8 月 調査
  • 11. 11 合である3 7 。漢字の画数を重視 する傾 向は 姓名診 断など で昔 から重 視さ れてき たが 、 名 前 の音の響きを重視し始めたことは比較的新しい 傾向とい える。 名前の音の響きを重視し始めた理由として最も 大きいと 思われる のは、テ レビ の 普 及 で ある。ちょうどテレビが家庭にある世代が親に なった頃 から、テ レビで聞 いた音 と 漢 字 の 持つイメージを漢字の持つ意味に関係なく組み 合わせる ことによ って、多 種多様 な 名 前 が 生まれたと牧野は指摘している3 8 。 現在、人名に使うことのできる文字は戸籍法施 行規則第 六十条に より、以 下の よ う に 定 められている3 9 。 第六十条 戸籍法第五十条第二項 の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。 一 常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に 掲げる 漢字( 括弧書き が 添 え ら れ ているものについては、括弧の外のものに限る。) 二 別表第二に掲げる漢字 三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。) このように、使用できる文字に制限はあるも のの文字 の読みに 対する制 限は加 え ら れ て いない。このことが、第 2 項で説明する個性を 重視する 風潮や、 第 6 項で 説明す る 新 興 勢 力の層の親の存在と重なり合い、独自の響きの ある名前 を目指す 親が増加 したので ある。 第2項 名 づ け の 背 後に控え る子ど も観の 変化 この項では、特に母親が子供に対し何を求め るように なってき たかとい う観点 か ら 、 キ ラキラネームを名付ける背景にある現象を分析 する。 1 つ目に挙げられるのは、「完ぺきな子育て症候群4 0 」で ある。子 どもを産 まない 自 由 を 手にした母親4 1 は、母親自身の ために 出産 を決意 するよ うに なった 。す なわち 人生 に お け る他の選択を捨てた以上、子供を育てるという 選択が自 分にとっ て正しい 選択で あ っ た と 正当化しようとする。育児では失敗は許されな いのだ。 子供を完 ぺきな存 在とし て 育 て 上 げることが、自分の選択が正しいものであった と満足す るための 手段なの だ。そ し て 、 彼 女らにとって完璧な名前を付けることは完璧な 子育ての 第一歩な のである 。 完璧な子育ての第一歩として完璧な名前を付け ようとす る傾向は 、名づけ 本の チ ェ ッ ク リストの項目の多さからもうかがえる。例えば、『 赤ちゃん のしあわ せ名前事典 2011~ 2 0 1 2 37 伊藤正明『最新版たまひよ名づけ大百科』ベネ ッセコー ポレーシ ョン、2004 年、 p.13 38 前掲『子供の名前が危ない』pp.81-82 39 前掲「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二 十九日司 法省令第 九十四号 )」 40 朝日新聞「人名狂想曲」1999 年 10 月 16 日付朝刊、37 面で使われ た言葉 41 柏木惠子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』中公新書、2001 年
  • 12. 12 年版』では、27 点もの注意点と 9 つのテクニックを掲げ 、名づけ において 注意す る べ き こ とを列挙している4 2 。 2 つ目に挙げられるのは、個性を重視する風潮 である。 その高ま りは、例 えば 「 少 子 化 と教育について(中央教育審議会報告)」に、「 我が国が 21 世紀 にも引き 続き活 力 に あ ふ れ、高い競争力を持つ社会を維持していくため に、これ を支える 個人の能 力を高 め 、 独 創 性や創造力の源泉となる個性を伸長していく必 要がある。」との 文言があ る4 3 ことか ら も 読 み取れる。子供の個性を大切にしようとの思い が他の子 と異なる 名前を付 けよう と い う 意 識につながっている。 日本では、個人名を一から作っ てい る4 4 。 名づけ 本な どはあ るもの のそ の掲載 数 は 膨 大 である。また、名前として自然な漢字の組み合 わせは無 限に存在 する。対 して、 欧 米 で は 聖人や偉人から名前を摂取するのが一般的であ る4 5 。例えば、フ ランスで は 1993 年 の 家 族 法改正までは、ジェルミナル法 1 条で「本法の 公布の日 以降、子 の出生の 確認に 関 す る 身 分証書の中においては、様々な暦の中の慣行的 な名およ び古代市 場の著名 な人物 の 名 の み が名として受理される。公務員は、身分証書にお いて、他 の名を受 理しては ならな い 。」と の規定があった4 6 。 以上 2 つの要因を踏まえ、キラキラネームに対 して持つ 印象につ いて質問 して い る ア ン ケート調査を参照する。 まず、マインドシャアが 2011 年 10 月 3~10 日に母親に対して 実施し た Web ア ン ケ ー ト47(以下「ママこえ調査」と呼称する)からの引用 である。このアン ケートか ら は 、親 の 4 割ほどはキラキラネームに抵抗を持っていないと いう結果 が見られ る。 42 前掲『赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年版』pp.26-40,pp.44-51 43 文部科学省「少子化と教育について(中央教育 審議会報 告)」2000 年の 第 3 章第 1 節 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/tou shin/1309769. htm) 44 上野和男「名前をめぐる諸問題」『名前と社会—名づけの 家族史』 早稲田大 学出版部 、 1996 年、p.10-11 によれば、名前の種類も数もきわめて多く、家 族レベル で次々に 新し い個人名が創作され、名前の流行変遷が激しい 社会を「 開放的体 系」と呼 んでいる 。 45 前掲「名前をめぐる諸問題」p.10 によれば、名前の 種類と数 が限定さ れ、一定 の名前 のストックが存在し、子供の名前はその子供の 出産状況 や社会的 地位にし たがって そのス トックの中から選択して命名される社会を「閉 鎖的体系 」と呼ん でいる。 46 吉井啓子「一九九三年フランス家族法改正によ る命名・ 氏名の変 更に関す る新規定 」 『同志社法学』48 巻 6 号、1997 年、p.138 47 J-CAST モノウォッチ「子どもの名前にアニメキ ャラ、『4 割 』がアリ !」2011 年 (http://www.j-cast.com/mono/2011/10/15110063.html) なお原典は、ママこえ「自分の子どもに『瑛磨 (エース)』など、 アニメの キャラク ター 名をとっての名づけ。これってアリ?」2011 年 (http://mamakoe.jp/pc/ranking/ranking.php?id=1153 ) であるが、原典では母集団数や調査期間が明示 されてい ないため 、より詳 細な調査 内容が 明示されている J-CAST モノウォッチの記事を引用 した。
  • 13. 13 母親の声を集めたランキングサイト「ママこえ」を 運営する マインド シェアは 2 0 11 年 10 月 14 日、「自分の子どもに『瑛磨(エー ス)』など 、アニメ のキャラ ク タ ー 名 を とっての名づけ。これってアリ?」というアンケ ート結果 を発表し た。(中略 )そ こ で 、 「ママこえ」会員の母親たちに聞いたところ、「 ナシ」と 答えたのが 6 割 で 多 数 と な り、残りの 4 割が「アリ」と答えた。(中略)アンケートは 10 月 3~10 日、「 マ マ こ え」サイト上で実施し、287 人の回答を得た。 次に挙げるのは、「ママこえ調査」から、2 年が 経過し た 2013 年 12 月に マイ ナ ビ ニ ュ ースが独身男女に実施した、Web アンケート48である 。 Q.キラキラネーム(当て字、外国人風、キャラクター の名前な ど)の子ど も 、 あ な たはどんなふうに考えていますか? 自分の子にもぜひ可愛い名前をつけたい…2.3% 親の愛情が感じられれば多少変わっていてもい い…3.7% 他人のことなので特に気にならない…17.3% 最低限、読めるなら許せる…17.7% できれば変わった名前は避けるべき…25.3% 可哀想だと思う、絶対に嫌…32.3% その他…1.7% このアンケート(以下「マイナビ調査」と呼称 する)に おいては 、キラキ ラネ ー ム を 許 容しているのは上位 2 つの回答を示した 6%のみであり、「マ マこえ調 査」の約 4 割 と は 大 きな開きがある。 そこで、以上 2 つのアンケートを比較すること によって 親のキラ キラネー ムに 対 す る 見 方を導き出していこう。 両者の大きな相違点は、「ママこえ調査」は 、す でに母親 となった 人を対象 とし て お り 、 対して「マイナビ調査」は、独身男女 を対象と している ことであ る。この他、「マ マ こ え 調 査」では女性のみを対象にしているが「マイナビ 調査」で は男女を 対象とし ている 点 、「 マ イナビ調査」の方が「ママこえ調査」に比べアンケー トの実施 が 2 年遅い 点など の 違 い は あるものの、アンケート結果に大きな違いをも たらす要 因はない と考えら れる。 48 マイナビニュース「話題のキラキラネーム、こ れから結 婚する世 代はどう 考えて る?」2013 年 (http://news.mynavi.jp/news/2013/02/22/207/index.html) 姉妹サイト『マイナビニュース』(http://news.mynavi.jp/)に て 2012 年 12 月に Web ア ンケート。有効回答数 300 件(マイナビニュース会員 :22 歳~34 歳の 独身男女 )
  • 14. 14 これを踏まえてこの結果を鑑みるに、独身で子 供を持て る状況に 無いうち はキ ラ キ ラ ネ ームに否定的な意見を持っているが、いざ子供 を授かり 自分の子 に名づけ をする と い う 段 階になると、我が子に個性的な名前をつけてし まう傾向 や、いざ 親になる と周り に キ ラ キ ラネームをつける親が数多くいるため許容せざ るを得な い状況が 看取でき よう。 近年に顕著な母親の子ども観とキラキラネー ムを付け てしまう 背景には 、 自ら 出 産 す る という選択をした以上子育てに失敗は許されず 子供を個 性ある輝 かしい存 在にし よ う と 奮 闘する。そのような焦りの中で母親は冷静さを 失い、独 身時には 批判的に 見てい た キ ラ キ ラネームを我が子につけてしまうという事情が 浮かび上 がる。 第3項 名 づ け に 動 員される 背景的 知識の 変化 この項では、名前の手本をどこに求めるよう になった かを考察 する。現 在は名 前 の 手 本 を「たまごクラブ」などの名づけ本に頼る傾向 がある。 小林康正はキラキラネームの子供が増加した要 因の一つ として、「そ の頃49、マ タ ニ テ ィ ー雑誌の『たまごクラブ』が、子供の名前に関 する特別 付録をつ け、個性 的な名 前 を 数 多 く紹介したんです。これが大人気となり、一気 に広がる ひとつの きっかけ になり ま し た 」 と説明している50。 実際に、1999 年版の『たまひよ名づけ百科』には 、個性 的な名前 を是とす る価 値 観 を 植 え付けるような、以下の文章が掲載されている 。 西暦 2000 年、この 1000 年に 1 度の歴史的な時代の節目を超 えて 、私たち は 未 来 に 向かおうとしています。世界もさらに大きく変 貌を遂げ ていくこ とでしょ う 。 … … 私 たちの生活の中にも、さまざまな変化の波が押 し寄せて きます。 /それら の 変 化 は 、 当然赤ちゃんの名前にも反映されてくるはずで す。なぜ なら、名 前は時代 と と も に 変 遷していくものであるからです51。 このような個性的な名前を是とする価値観を 持つ名づ け本を背 景的知識 として 重 視 す る 傾向が、キラキラネームの発生に拍車をかけて いる。 第4項 名 づ け に 関 与する人 物や関 係の変 化 49 1990 年代半ば頃 50 NEWS ポストセブン「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育専門 家」2013 年 (http://www.news-postseven.com/archives/20130707_198318.html) 51 原典が手に入らなかったため、前掲『名づけの 世相史 「個性的な名前」をフィール ドワーク』p.62-63 から孫引き。
  • 15. 15 この項では、命名者の変化を分析する。 まず、過去において命名する者が誰であったかを 調べるた め、本節第 1 項で用 い た 「 女 のなまえ」のアンケートを再び引用する5 2 。 イ.あなたの名前はだれがつけましたか。 京都 大阪 東京 父 21 10 44 母 3 3 1 父母 20 32 12 祖父 6 6 7 祖母 1 1 2 伯叔父 2 0 3 その他 5 4 8 不明 10 7 10 このように、父母の割合が高いものの、祖父や 祖母、伯 叔父など といった 回答 も 見 受 け られる。また、その他と回答したものの中には 、寺社や 占い師に つけても らった も の も 含 まれているだろう。 次に、現在の命名者が誰であるか明らかにするた めに、「 たまひよ 赤ちゃん のし あ わ せ 名 前事典」に掲載されているアンケート5 3 を参照す る。 ○赤ちゃんの名前をつけたのは誰ですか? ママ&パパ 2人で考えた 55% パパが考えた名前をつけた 21% ママが考えた名前をつけた 15% 親に相談し、親につけてもらった 3% 神社の神主、お寺の住職 1% 占い師に相談 1% その他 4% このように、現在は子供の名前を母や父という ごく狭い 範囲で命 名を行う 割合 が 9 割 に も及んでいる。 52 前掲「女のなまえ」p.29 53 前掲『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年 版』p.262
  • 16. 16 このように、狭い範囲で命名が行われるように なった理 由には核 家族化の 影響 が 考 え ら れる。今までは、親戚一族で相談しながら名前 を決定し ていたが 、核家族 化や親 戚 関 係 が 疎遠になったことにより夫婦のみにより名前を 決定する 傾向が強 くなった のでは な い だ ろ うか。さらに、祖父母が名づけに関して何か口 出ししよ うものな ら「お母 さん・ お 父 さ ん の子供じゃないでしょ」と反発するという5 4 例 もある 。また 、寺院 などで名 前をつけ る 風 習 も縮小傾向にある。 命名に関わる人が少なくなればなるほど、キラ キラネー ムに対す るチェッ ク機 能 が 働 か なくなるということは自明であろう。 第5項 名 づ け に 用 いられる 道具の 変化 近年、新たに名づけに用いられるようになって きた道具 としては 、インタ ーネ ッ ト と 名 づけ本の存在が挙げられる。 名づけ本が与えた影響については本節第 3 項で 説明した ので、こ こではイ ンタ ー ネ ッ ト が与えた影響について詳述する。インターネッ トが名づ けに与え た影響は 音を重 視 す る 傾 向と情報の氾濫に大別できる。 コンピューター の持 つ 変換 機 能は さ まざ ま な漢 字 が 名前 に 使え る 可能 性 を示 す よ う に なった。例えば、たかし君と呼びたい人が「た かし」を コンピュ ーターの 変換機 能 に か け れば、「隆」「貴志」「孝司」「敬」「崇史」な ど、100 以上 もの様々 な変換を 手軽に 表 示 す る ことが出来る。つまり、音や響きによって名前 を考えた 後で画数 や意味が 良さそ う な 漢 字 を調べることが今まで以上に容易になったので ある。 次に、情報の氾濫である。インターネットの普 及は情報 の氾濫に 拍車をか け5 5 、「 完 璧 な 子ども症候群」にかかった親にとっては、全て の条件を 満たさな くてはと 躍起に な り 、 名 前に対する冷静さを失わせる原因にもなったと 考えられ る。 第6項 社 会 的 空 間 の変化 本項では、社会の二極化という観点から社会 的空間の 変化につ いて説明 する。 現代社会は親の持つ教養や育った環境・階級な どにより 社会構造 が保守的 富裕 層 と 新 興 勢力の層(=革新的貧困層)に二極化している 5 6 。 保守的富裕層は従来通りの伝統的な文化を享受 できる。 それに対 して、新 興勢 力 の 層 は 「個性的」というマークを刻印することで、保 守的富裕 層に社会 から存在 価値を 認 め て も 54 前掲『子供の名前が危ない』p.42 55 例えば、「子ども 命名」と検索すれば(2013 年 12 月 23 日 Yahoo! JAPAN)、 姓名判断をしてくれるサイト(http://akachan-meimei.com/)、 名前の付け方をレクチャーするサイト(http://www.kona mae.com/)、 キラキラネームを紹介するサイト(http://www.baby-name.jp/)等が数多く ヒットす る。 56 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.184
  • 17. 17 らおうとしているのである5 7 。この傾向が子供の 命名にも 表れてい るのだ。 久山も述べているように、子供の名前はコスト が抑えら れる割に 表現の幅 が広 く 手 軽 に 行える親の自己表現の場として使うことが可能 である58。 小 括 以上 6 つに分けて、キラキラネーム増加の背景を探っ てきた。こ こから明 らか に な っ た ことは、キラキラネームの増加は、核家族化や 少子化、 インター ネットの 普及、 社 会 の 二 極化など、全て一過性とは言えない要因に起因 している というこ とである 。 従って、キラキラネームは今後も増加の一途を たどるこ と、そし てキラキ ラネ ー ム 増 加 の要因を取り除くことによってキラキラネーム を減少さ せること は不可能 である こ と が 結 論づけられる。 第 3 章 キ ラ キ ラ ネ ームに よって 発生し た問題 点 第 1 節 人 名 の持つ社会的な重要性 本節では、人名の持つ重要な役割について説明 する。 名前には社会的な役割がある。パスポート・住 民票・健 康保険証 と、いわ ゆる 身 分 証 明 書には名前が記載されているし、生まれてから 他人から 一度も名 前を呼ば れたこ と が な い という人はいないだろう。 まず、名前に求められることは、誰もが正しく 読み書き 判別する ことがで き、 個 人 を 弁 別できる機能が備わっていることである59。 しかしながら、キラキラネームを「誰もが正し く読み書 き判別す ることが でき 、 個 人 を 弁別できる」かどうかというと大きな疑問が 残る。キラキラ ネームの 定義に戻 れば 、「 漢 字 を見ただけではどのように読むのか見当がつか ない名前 」をキラ キラネー ムと定 義 し て い るため、正しく読み書き判別することはできな い、つま りキラキ ラネーム は名前 と し て の 最低限の役割すら果たせていない名前であると 考えてよ いだろう 。 第 2 節 社 会 全体に生じる問題点 キラキラネームは、個人にのみかかわる問題 ではない 。なぜな ら、キラ キラネ ー ム に よ 57 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.184 58 久山健太「S.Lieberson の個人名研究と日 本におけ る発展可 能性」『年 報人間科 学』33 号、2012 年、p.3 59 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.21 では、 この点に 関し、「 制度や管 理を公的 な立場で徹底させるためには、社会を構成して いるメン バーを正 確に押さ えていな ければ ならない。そのためには個人の名前にはある種 の機能が 必要であ る。それ は、名前 がある 個人を確実に弁別し、他人に紛れることがない ようにす るための システム を持たな ければ ならないことを意味する。」と述べられている。
  • 18. 18 る誤った読み方の蔓延が名前以外 の場で も漢字 の読み を揺る がす危 険性が あ る 60か ら で あ る。 例えば、2007 年 8 月 25 日付『産経新聞』の「 公共財を 毀損する『感字 』」とい う 記 事 で は、陽翔(ハルト)や大翔(ツバサ)といった キラキラ ネームを 挙げて、 文字を 個 々 人 が 恣意的に読んでしまったら、文字の持つコミュ ニケーシ ョン機能 が損なわ れてし ま う と 懸 念している61。しかし、ここでは子 に発生 する問 題点を 中心に 論じる ためこ の 点 に 関 し て 深入りはしない。 第 3 節 キ ラ キラネームにより子どもとその周辺人物に生じる問題点 第 1 項 イ メ ー ジ に よる差 別 A) 就職差別 キラキラネームの学生は就職の場で不平等な 扱いを受 ける可能 性が高く なる。 キラキラネームの就活生を見る採用担当者は、 まず感情 的な面で そのよう な就 活 生 を 落 としたがる。「そのような 名前 を付 ける よう な常識 のな い親 に育 てら れて きた人 を 採 用 し たら、何をしでかすかわからない」という心理 である。 ニュース ポストセ ブンの 記 事 に よ れば、「ある大手メーカー役員は、『いいにくいこ とだが』と前置き し、『そ ういう 名 前 を 付 ける親御さんの“常識”はどうしても本人に影響 してしま うからね』 と語った 。」と あ る 62 ように、名前の持つイメージが就職活動に影響 している ことは明 らかであ る。 また、エントリーシートや書類選考の段階でキ ラキラネ ームによ って第一 印象 が 下 が り 無意識のうちにそのような就活生を落としてし まうとい うことも あるかも しれな い 。 こ れ は本章第 1 節で示したように、名前が社会的に 重要なも のである からこそ 発生す る 問 題 点 である。 さらに、企業がキラキラネームを持つ人物を 採用した くないと 考えるこ とは、 感 情 的 な 問題だけではない。キラキラネームによって仕 事の上で 混乱が生 じたり、 取引先 か ら の イ メージが低下したりといった、具体的かつ深刻 な問題が 発生する 原因にも なりか ね な い の だ63。 また、キラキラネームを理由とした就職差別が 行われた としても 、現行法 上、 法 律 違 反 になることはない。なぜなら、「自己の営業のため に労働者 を雇傭( こよう)するに あ た り 、 いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこ れを雇う かについ て、法律 その他 に よ る 特 別の制限がない限り、原則として自由にこれを 決定する ことがで きる」と いう雇 用 主 に 採 60 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.180 61 前掲『子供の名前が危ない』p.133 より孫引き 62 NEWS ポストセブン「大手企業役員 『正直キラキラネームの学生の採用ためら う』」2012 年 (http://m.news-postseven.com/archives/20120626_123476.html) 63 前掲『子供の名前が危ない』p.54
  • 19. 19 用の自由を定めた最高裁判所の判例64があるから だ。 アンケートによっても、キラキラネームの学生 を忌避す る傾向に あること は明 ら か で あ る。ライフネット生命保険が 2012 年に採用担当者に 対して 行ったア ンケー ト 調 査 65に よ れば、採用時に「古風な名前が有利」と答えた のは 14.5%、「 キラキラ ネームが 有 利 」と 答 えたのは 3.3%であった。 米国でもかねてから個性 的な 名前は 社会 的に 不利 に働 くこ とがあ ると 指摘 され て い る 。 昨年 2 月に豪メルボルン大学がアメリカ人弁護士 500 人 を対象に 行なった 調査で は 、個 性 のないシンプルな名前ほど出世が早いという統 計結果が 出ている 66。 B) 入試差別 入試の場でも、キラキラネームを持つ子供は不 利に扱わ れる。特 に私立学 校にお い て は 、 キラキラネームによる入試差別が行われたとし ても、そ れをとが めること はでき な い 。 仮 にキラキラネームを理由 として 入試 差別 を行 って いたと して も、「キ ラキ ラネー ム の 生 徒 は名前が原因でいじめを受け、名前にコンプレ ックスを 持ってい るために 集団行 動 に な じ めない恐れがある」などと、どのようにでもキ ラキラネ ームによ る門前払 いを正 当 化 す る ことは可能なのである。 実際に私立小学校ではキラキラネ ームを 持つ児 童がほ とんど いない 67こと か ら 、 入 試 の 際にキラキラネームの児童を淘汰している可能 性が高い といえる 。 C) 結婚差別 結婚は、人生における重要な節目である。しか し、キラ キラネー ムを付け るよ う な 非 常 識な親の子を自分の息子や娘の結婚相手にはし たくない という結 婚相手の 親の強 い 反 対 に 64 最高裁判所昭和 43 年(オ)第 932 号同 48 年 12 月 12 日大法廷判決 「労働契 約関係存 在確認請求」『最高裁判所民事判例集』27 巻 11 号 p.1536 65 ライフネット生命保険株式会社「新卒採用関係 者の意識 調査」2013 年 (http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4568.html#anchor8 ) ■ 調査タイトル 新卒採用関係者の意識調査 ■ 調査対象 ネットエイジアリサーチのモバイルモニター会員を 母集団と する新卒 採用 を実施する組織の採用関係者 ■ 調査期間 2012 年 10 月 26 日〜11 月 2 日 ■ 調査方法 モバイルリサーチ ■ 調査地域 全国 ■ 有効回答数 1,000 サンプル ■ 実施機関 ネットエイジア株式会社 66 NEWS ポストセブン「私学関係者『個性的な名 前は入学 試験でチ ェック対 象にな る』」2012 年 (http://m.news-postseven.com/archives/20120627_124003.html) 67 前掲 「私学関係者『個性的な名前は入学試験でチェッ ク対象に なる』」
  • 20. 20 よって、結婚がかなわない場合がある68。 第 2 項 読 ま れ な い ことに よる心 理的負 担 A) 引きこもり・いじめの誘発 また、キラキラネームであることがいじめを誘 発するケ ースもあ る。安倍 首相 の 講 演 で も、キラキラネームといじめの問題は取り沙汰 されてい る69。 仮に引きこもり・いじめににまで至らなかった としても からかい や奇異の 目で 見 ら れ る ことによる心的な負担が一般的な名を持つ人間 より多い というこ とは明ら かであろ う。 B) 自尊心の低下 キラキラネームをつけられた子供が珍しい名 前を恥ず かしがる 気持ちか ら自己 嫌 悪 に 陥 り、日常生活を送れなくなる可能性も考えられる 70。例えば、名 前を呼ば れるこ と を 嫌 い 、 入学式や卒業式に参加しなかったり、他人に名 前を教え たがらな かったり するこ と は 日 常 生活に大きな支障をもたらす。 C) 親のノイローゼ キラキラネームをつけてしまったことに責任を 感じ、ノ イローゼ になって しま う 親 も い る。牧野によれば、「自己嫌悪におちいって 毎日の食 事もおい しくなく なり 、家に こ も る こ とが多くなりました71。」という例が報告されてい る。 第 3 項 読 め な い こ とによ る実害 A) 患者取り違えの可能性上昇 救急外来で受診するキラキラネームの患者は、 医療機関 での治療 時に取り 違え ら れ て し まう危険性が増す。なぜなら患者がキラキラネ ームであ ると、119 番の第 一報が 来 た 時 に 作る ID を作り間違え、後で正確な名前が把握でき てから 2 つ 目の ID を作 るケー ス が あ る ためである。 とはいえ、実際には患者取り違えは起こってい ないとい うことか ら、現時 点で は そ の 危 険性が高まっているのみでとどまっている。な ぜなら、 生年月日 や住所に よる照 ら し 合 わ せを行い、取り違えの減少に努めているからだ 72。 68 前掲 「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育専門家 」 69 朝日新聞「発言録 15日」2012 年 11 月 16 日付朝刊、4 面 70 前掲『子供の名前が危ない』p.51-52 71 前掲「子供の名前が危ない」p.58 72 J-CAST ニュース「『キラキラネーム』で患者取り 違えの恐 れ? 救命医のツイッター 苦言に賛否両論」2013 年(http://www.j-cast.com/2013/08/01180677.html)
  • 21. 21 現段階で発生する可能性は極めて低いものの、 今後キラ キラネー ムが増加 した 場 合 に 起 こらないとは言い切れない。間違えた場合には命 の危険に も関わっ てくる問 題であ る た め 、 深刻性はかなり高いといえよう。 B) 教員・保育士の負担増加 教員は仕事の一部として名前を間違えずに呼ぶ ことが求 められる 。毎年毎 年、 数 百 人 の 児童・園児の名前を逐一覚え直す苦労は計り知 れない。 さらに、名簿作成時の負担も考えられる。キラ キラネー ムの多く は正しい 読み を 使 っ て いないため、名前を入力する場合、漢字を 1 文 字 1 文字 変換して 名簿を作 り上げ な け れ ば ならない。数回ならまだしも、何百人分の名 前を漢 字 1 文字 1 文 字変換す ること に よ る 事 務作業の負担は、授業・学級運営・生徒指導・ 部活動の 指導と多 様な仕事 を抱え る 教 員 に とってかなり大きなものであろう。 第 4 節 子 ど もに生じる問題点の深刻性 第 1 項 被 害 者 と 責 任者の 乖離 子は自分自身の名付けには関与できない。責任 の所在と 被害の所 在が違う にも か か わ ら ず、親は子がキラキラネームによって被害を受 けた場合 にも責任 を取る義 務を負 っ て い な い。よって親は熟慮や冷静な判断を失い、いと も簡単に キラキラ ネームを つけて し ま う の である。 第 2 項 回 復 不 可 能 性 仮にキラキラネームを減らすための政策とし て人名に 使える漢 字の規則 が変更 さ れ た 場 合でも、その効力は遡って生じないと考えられ る。 なぜなら、「当用漢字表にないためやむをえず子 の名に用 いなかつ た文字が 、そ の 後 人 名 用漢字別表に掲げられ、戸籍法施行規則の改正 により戸 籍法第五 十条の子 の名に 用 い る べ き常用平易な文字として扱われることになつた としても 、ただそ れだけの 理由で 名 の 変 更 につき戸籍法第百七条第二項にいう『正当な事由』にあ たらない。」と いう決 定 73が 過 去 に あり、またその決定理由は、「人名用漢字の 追加は 使用文字 の範囲の 拡大を意 味する だ け で 、 その名が使用できなかったために他の文字を用 いてつけ た名に変 更の必要 性と正 当 性 を 与 えるものではない。」というものであるからであ る74。 この決定から類推解釈すれば、人名について の規則が 変更され た場合に おいて も 、 そ の 変更は今までにつけられた名前を変更する必要 性と正当 性を与え るもので はない と い う こ 73 大阪高等裁判所昭和 26 年(ラ)第 27 号同 27 年 10 月 31 日決定「 名の変更 申立却下 決定に対する抗告事件」『高等裁判所民事判例集 』p.553、5 巻 11 号 p.105 74 前掲 「名の変更申立却下決定に対する抗告事件」p.555
  • 22. 22 とが結論付けられる。 つまり、キラキラネームから別の名前に変える た めには、改名しか 手段がな いの で あ る 。 第 3 項 困 難 な 改 名 しかし、改名も決して簡単な手続きではない。改名が認 められる ためには 、「正当 な 事 由 」 が必要である75。主要な「正当な事由」として川 添圭弁護 士は以下 の例を挙 げている 76。 (1)営業上の目的で襲名を行うとき (2)親族に同姓同名者があるとき (3)珍奇・難解・難読で社会生活上著しく支障があると き (4)日本に帰化した者が日本風に名前を改める必要があ るとき (5)いわゆる永年使用(長期間にわたり通称名を使用し ている場 合) つまり、多くのキラキラネームの場合、(3)の条件を満た さない限 り改名は 認め ら れ な い のである。そして、(3)の条件を満たすハードルはかなり高いも のである。篠田恵 里 香 は そ のハードルの高さに関して次のように述べてい る77。 本人がイヤがっているというだけで変更が認め られてし まいます と、無制 限 に 変 更 が可能となってしまい、裁判所の許可を必要す るとした 法律の狙 いをダメ に し て し ま うことになります。そのため、“イヤだ”という 主観的理 由のみで は、変更 は 許 可 さ れ ないでしょう。 繰り返しになるが、改名には正当な事由が必要 であり、 キラキラ ネームで ある と い う 理 由や自分の名前が嫌だという理由だけでは改名 は許可さ れない。 珍奇・難 解・難 読 で 社 会 生活上の著しい支障が生じるということを具体 的に立証 する必要 があるの である。 また、仮に改名が認められたとしても、改名の 申し出や 改名にか かる事務 手続 き や 周 囲 の人間への改名報告、改名による本人のイメー ジ低下な どはキラ キラネー ムをつ け ら れ た 子が負わなければならない。 75 戸籍法 107 条の 2 76 マイナビニュース「『こんなキラキラネームは いやだ! 』 子供による『改名』が認め られる条件は?」2013 年 (http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/bengo4/2013/02/post-141.html) 77篠田恵里香「弁護士に聞く!「キラキラネーム の改名」 はどこま で可能か 」2013 年 (http://wooris.jp/archives/60022)
  • 23. 23 第 5 節 キ ラ キ ラ ネ ームを 減少さ せる必 要性 以上のように、キラキラネームによって様々な問 題 が生じ ているこ とが分か った 。で は 、 以上の問題点の中で最も深刻な問題点は果たし てどれで あろうか 。被害の 大きさ か ら 鑑 み れば、イメージによる差別が最も深刻な問題点 であると 考えられ る。 なぜなら、他人からの評価、すなわち名前の持 つイメー ジによっ て人生に おけ る 重 要 な 場面で差別が行われているからだ。 このことから、一つの結論が導きだせる。キラ キラネー ムとは、 名前が読 めな い ・ 書 け ないことのみによって、問題が発生していると いう性質 のもので はなく、 むしろ キ ラ キ ラ ネームの持つ違和感の方が問題を誘発している という性 質のもの だという ことであ る。 よって、どのような政策をとるか検討する場合 には、キ ラキラネ ームの持 つ違 和 感 を い かに縮小できるかという観点で政策を検討しな ければな らない。 この立場に立って、次章で 5 つの案を挙げ、どの案が最 も違和感 を縮小で きる か 考 え て いく。 第 4 章 キ ラ キ ラ ネ ームを 減少さ せるた めの具 体策の 提案 ここでは、キラキラネームを減少させるための 案を 5 つ提 案する。 1 案:漢字の読みを制限する案 2 案:使用可能な漢字の数を制限する案 3 案:一定の年齢になった時点で、本人に改名権を 認める案 4 案:氏名に振り仮名をつけることを推奨する案 5 案:キラキラネームを推奨する案 第 1 節 漢 字 の読みを制限する案 漢字の読みを制限すれば、キラキラネームを 減少させ ることが 可能であ る。な ぜ な ら 、 キラキラネームは特殊な読みや当て字化によっ て発生し ているも のがほと んどで あ る か ら である78。ただし、この案では外国 の言葉 を漢字 に置き 換えた 名前や 昔の人 名 の よ う な 名 前、字が難しく口頭での説明がしにくい名前は 制限する ことがで きない。 読みを制限する場合には、現在の常用漢字表に 入ってい る呼び方 のみなら ず、 一 般 的 な 漢和辞典に載っている名乗り79も網羅した、「人名用漢 字音訓名 乗り表」を新 設 し 、そ れ に 含まれている読みのみを使用可能とすることが 必要とな ろう。 1 字が 1 音を表す漢字をいくつか「人名用漢字音訓名 乗り表」 に取り入 れれば 、 万 葉 仮 78 第 1 章第 2 節第 2 項に挙げたキラキラネームの例を 参照。 79牧野久仁雄「漢字の名のり(人名に使える読み 方)」2010 年によ れば、 (http://allabout.co.jp/gm/gc/373355/) 名乗りとは、人の名前に限って慣習的に使われ てきた読 み方。
  • 24. 24 名風の名前80を付けたいとい う親 や個 性的な 添え 字81を 使い たい という 親の 要 望 に も 対 応 できると考えられる。 この案に対しては、親の命名権の侵害であると の主張が 考えられ る。しか し、 使 え る 漢 字の数は減っていないこと。もともと命名にお ける規則 で「漢字 を音・訓 ・名乗 り の ど の 読み方にも含まれない読み方で使う自由」は認 めていな いこと。 さらに、 親の命 名 権 と 子 の基本的人権を比較した場合、子の受ける影響 のほうが 大きいこ とを勘案 して、 命 名 権 は 制限されても仕方がないといえる。この批判に ついて は第 5 章で もう一度 具体的 に 検 討 す る。 第 2 節 使 用 可能な漢字の数を制限する案 この案は一見するとキラキラネームを減らすた めに効果 が導けそ うである 。し か し 、 ど のような漢字を制限するかという点で大きな問 題が生ま れる。第 1 章 第 2 節第 2 項 に 挙 げ た例を見返してもらいたい。キラキラネームに 使われる 漢字は難 解でその 漢字自 体 の 利 用 頻度が低いという漢字ではない82。 むしろ 、一般 的で良 く使わ れる漢 字の組 み 合 わ せ を 工 夫することによって、キラキラネームを作り出 している 。よって 、キラキ ラネー ム に 良 く 使われる名前を人名に使えないことにすると、 キラキラ ネームで はない名 前に対 し て も 名 づけの自由を侵害してしまう危険性が考えられ る。 以上のことから使用可能な漢字を制限すること によって 、一般的 な名前に は影 響 を 与 え ない範囲でキラキラネームを減少させることは 不可能で あるとの 結論が導 ける。 第 3 節 一 定 の年齢になった時点で、本人に改名権を認める案 これは、生まれてきた子供全員に 10 歳程度に なった段 階で名前 を変える 機会 を 認 め 、 キラキラネームをつけられた子の権利回復を目 指すとい うもので ある。こ の案は 評 論 家 の 宮崎哲弥も推奨している案である83。 一定の年齢になった時点で改名権を与える案、 全体に言 える問題 点が 2 つあ る。 第一に、一定の年齢になるまでキラキラネー ムの子は 改名がで きないの である か ら 、 そ れまでの時間に受けた被害は回復不可能である という点 。第二に 、国民全 員が改 名 を 行 う わけではないのだから、改名を行ったというこ とそのも のが奇異 の目で見 られ、 現 状 と 同 80前掲『最新版たまひよ名づけ大百科』p.23 によれば 、 「万葉仮名風の名前とは、「亜紗美」(あさみ) のように 1 字が 1 音を 表す名前 の事」 81 前掲『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名前事典 2011~2012 年 版』p.44,360 によれ ば、 添え字とは「健太(けんた)」の「太」、「夕奈( ゆうな)」の「菜 」などの こと。あ らかじ め使いたい字や読みが決まっていて他の字を添 えること で名前を 作りたい ときに用 いる。 82 第 1 章第 2 節第 2 項の④字が難しく口頭での説明が しにくい 名前 は例外である。 83 前掲『子どもの名前が危ない』p.50 に、宮崎哲弥氏 が「週刊 文春」で 上記のよ うな発 言をしたとの記述がある。
  • 25. 25 様に差別が行われることも考えられるのではな いかとい う点であ る。 ここで、一定の年齢を 10 歳と 20 歳と仮に決定し 、効果 がどの程 度出るの か確 認 し て い こう。 A) 10 歳になった時点で改名権を認める案 10 歳になった時点で改名権を認めた場合、3 つの問 題に直面 する。 第一に、親による干渉によりキラキラネームを 変更させ てもらえ ない危険 があ る 。 第 2 章第 3 節第 6 項で見てきたように、キラキラネー ムをつけ る親は 、保守的 富裕層 に 社 会 か ら存在価値を認めてもらうことを目的としてキ ラキラネ ームを付 けている 。我が 子 に キ ラ キラネームから改名することを認めれば、存在 価値を認 めてもら うチャン スを失 っ て し ま うのだ。そのため、このプランで救おうと考え ているキ ラキラネ ームの子 供の改 名 は う ま くいかないのではなかろうか。 第二に、一般名を改名の機に自らキラキラネー ムに変更 してしま う可能性 があ る 。 3 つ 目の問題点でも述べるが、10 歳という年齢は、長期的な 視点から 物事を考 えるに は 未 熟 で ある年代である。例えば、その当時はまってい たアニメ などの影 響を強く 受け、 そ の ア ニ メの主人公の名前を自分の名前として改名して しまうと いう可能 性は、想 像に難く ない。 第三に、10 歳に自己決定権を認めていいものか という権 利能力に 関する問 題も 考 え ら れ る。現行法で、自己決定権に関する規定で最も下限 年齢が低 いのは、遺 言が 15 歳 か ら 可 能 というものである84。自己決定権を行使できる年 齢を 5 歳も引 き下げる ことが 果 た し て 適 切なのか、このことについても別に検討が必要 であろう 。 B) 20 歳になった時点で改名権を認める案 20 歳になると、本節のはじめに述べた改名を認めるに は手遅れ であると いう問 題 点 が 、 きわめて顕著になる。既に 20 歳では高校入試 ・大学入 試といっ た人生の 節目と な る 過 ぎ ており、それまでに受けた差別は取り返しがつ かない。 さらに、 改名が自 分の周 囲 の 人 間 に与える影響も大きくなる。 このように、一定の年齢になった時点で改名権 を与える 案は、改 名権を与 える 年 齢 を 低 くすれば自己決定の能力の低さから、自らキラ キラネー ムへと改 名してし まう可 能 性 や 親 が改名に干渉し、望むような改名ができない可 能性が考 えられる 。逆に、 年齢を 高 く す れ ば、改名以前のキラキラネームによる悪影響を 被らなけ ればなら ない。つ まり間 を と っ て 改名の年齢を 15 歳にすればよいという性質の欠点で はないの である。 また、A,B で発生した問題を解決するべく「出 生から自 ら命名を する適切 な年 齢 に な る までは、親の名前や番号で子供を管理する」と いう案も 考えられ る。しか しなが ら 、 子 供 自身の自我の発達が妨げられる恐れがある点や 、子ども の権利条 約第 7 条85「1. 児童は、 84 民法第 961 条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる 。 85 ユニセフ「子供の権利条約」1989 年国連総会採択、1994 年か ら国内で 効力が発 生 (http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html)
  • 26. 26 出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時 から氏名 を有する 権利及び 国籍を 取 得 す る 権利を有するものとし(後略)」に違反する点か らこの案 も導入に はふさわ しくない 。 以上により、この案も妥当な政策であるとは言 えない。 第 4 節 氏 名 に振り仮名をつけることを推奨する案 この案は、キラキラネームを正しく読むことが できると いう点で は一定の 効果 を 上 げ る であろう。例えば、第 3 章第 3 節第 3 項 B で説明 した、キラキラ ネーム間 違えず に 読 む こ とが求められていた教員や保育士の負担は大き く減少す るであろ う。この 案は佐 藤 稔 が 提 唱している86。 しかし、キラキラネームで頻繁に使われる読み 方が正当 化され始 め、逆に 漢字 の 読 み 方 が揺らぎ始める危険性がある。例えば、「本気 」と書 いて「マ ジ」と 読むよう になっ た の は 、 幾度となく「本気」という漢字の上に「マジ」 という振 り仮名が 振ってあ る様子 を 漫 画 な どで目にしたからだろう。同様に、「大翔 」と 書いて「ひろと 」と いう読み 方を幾 度 と な く 国民が読むようになったら、それが慣例読みと して誤用 がはびこ る危険性 も十分 考 え ら れ るだろう。 このように氏名に振り仮名を振ることは、あく まで応急 処置的な 措置であ り、 根 本 的 な 問題の解決にはなっていない。また、氏名に振 り仮名を つけるよ うになっ ても、 最 も 深 刻 な問題であるイメージによる差別は、子がキラ キラネー ムを持つ 限り続く であろう 。 第 5 節 キ ラ キラネームを推奨する案 これは、キラキラネームを推奨し、キラキラネ ームが増 加してい くことで 、キ ラ キ ラ ネ ームがむしろスタンダードな名前になっていく というも のである 。 例えば、女子の名前の終わりに子をつける傾向 を例にと ってみよ う。明治 安田 調 査 を 参 照すると、昭和 40 年代は、子のつかない名前が非常に珍し かった。しか し現在で は 、必 ず しも女子の名前に子をつけることがスタンダー ドである とは言え なくなっ ている 。 こ の よ うに、名前は流行により変化するものであり、 キラキラ ネームも 何十年か 経った 後 に は ス タンダードな名前として定着していくのではな いかとい う考え方 である。 しかし、この案には致命的な欠点が 3 つある。 第一に、キラキラネームを推奨する理由を政 府が説明 できない ことであ る。大 き な 政 策 をとる以上、国民からはその政策をとる説明責 任を求め られる。 政府は「 キラキ ラ ネ ー ム の子供たちを救うためにキラキラネームを増や すのだ」 と説明し たいとこ ろだが 、 政 府 が 国民を名前で差別するわけにはいかないので、 そのよう な説明は 口が裂け てもでき ない。 第二に、政府はキラキラネームを増やしたがら ないこと である。 キラキラ ネー ム は 学 校 86 前掲『読みにくい名前はなぜ増えたか』p.186
  • 27. 27 や保育所の何十倍もの名前を扱う役所仕事にと って、い わば時間 食い虫な のであ る 。 よ っ て、政策を採択するのが政府である以上、どん なに効果 があった としても 実際に は 採 択 さ れない。 第三に、キラキラネームを推奨したとしても 、期待さ れるほど の効果を 上げら れ る か 分 からないということである。なぜなら、政府が 名づけに まで干渉 すること はでき な い か ら である。 以上のことから、第 2 案と同様に効果はともかくとし て、政策と して実現 する こ と が 不 可能に近いのではないかと結論できる。 第 6 節 5 つ の 案の比較 以上の検討により、2 案・5 案は実現が難しいという点 、3 案は改 名を認め る年 齢 を ど の ように設定してもそれぞれ年齢で新たな悪影響 が生じて しまう点 、4 案は 応急処 置 的 な 措 置であるという点より導入は不適当であるとい うことが 明らかと なった。 よって 、 現 段 階 では、1 案が最も有力な案であるということが言え る。 第 5 章 「 漢 字 の 読 みを制 限する 案」の 実現可 能性 第 5 章までの検討で、漢字の読みを制限する 案( 以下 1 案と 呼称する )が キラ キ ラ ネ ー ムを減少させるための手段として有力であると の結論が 出つつあ る。本章 では、 1 案 が 憲 法に違反せず、市民などの強固な反対を受けず に実現可 能である というこ とを説明 する。 第 1 節 憲 法 21 条への違反 まず考えられるのは、1 案が憲法 21 条8 7 に違反 するので はないか との批判 である 。 実 際 に、人名に使える漢字が当用漢字のみに制限された 年には、当用 漢字に含 まれない「 瑛 美 」 という名の出生届を受理しない こと は憲法 違反 だとす る訴訟 が起 こって いる 8 8 。し か し 、 この主張は「公共の福祉のために必要な制限を 加えるの は憲法に 反するも のでは な い 」 と いう判決理由により退けられている8 9 。 この判決により、1 案をとる場合に憲法違反か どうかは 、人名に 使える読 みの 制 限 が 公 共の福祉のために必要な制限であるかという点 に集約さ れる。 「悪魔ちゃん事件9 0 」といわれる審判では、 87 「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現 の自由は 、これを 保障する 。」 88 東京高等裁判所 昭和 26 年(ラ)第 7 号 89 牧野恭仁雄『人名用漢字・歴史と事件』「月刊 しにか」2003 年 7 月号 p.23 90前掲「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」p.109 によれば、子の 名を「悪魔」とする出生届を受付した後に、そ の名を戸 籍から抹 消した行 政行為の 妥当性 を争った事件。 ①「悪魔」なる名を付した出生届では受理され るべきか どうか
  • 28. 28 「例外的には、親権(命名権)の濫用に亙るよ うな場合 や社会通 念上明ら かに 名 と し て 不適当とみられるとき、一般の常識から著しく 逸脱して いるとき 、または 、名の 持 つ 本 来 の機能を著しく損なうような場合には、戸籍事 務管掌者 (当該市 町村長) におい て そ の 審 査権を発動し、ときには名前の受理を拒否する ことも許 されると 解される 9 1 」 と、例外的ではありながら戸籍実務管掌者に 名前の受 理を拒否 する権利 を認めて いる。 本論文で定義したキラキ ラネ ームは 、「 漢字 を見 ただけ では どの よう に読 むの か 見 当 が つかない名前」であり、そのような名前は 第 3 章第 1 節 で説明し たように 正しく 読 み 書 き できないという理由から、「名の持つ本来の機 能を著し く損なう 」名前 であり 、仮 に そ う で はなくても「一般の常識から著しく逸脱してい る」名前 である。 以上のことから判例に照 らし 合わせ て考 えて も、 人名 に使 える読 みを 制限 する こ と は 、 公共の福祉のために必要な制限であり、憲法 21 条に は違反し ていない と結論で きる。 つまり、現状でもキラキラネームを不受理とす る権利は 認められ ているの であ る 。 し か し、実際には多くのキラキラネームが受理され ている。 その理由 に関して 、弁護 士 法 人 は るか所属の弁護士は次のように述べている9 2 。 「キラキラネーム」といわれる読み方が難しい 名前も増 えていま すが、出 生 届 を 受 ける役所が、届け出された名前について一つ一 つ、命名 権の濫用 に該当す る か ど う か の判断を行うことができるのかといえば、難し いといわ ざるをえ ません。 審 査 の 画 一 性を欠き、制度的に困難を伴うばかりか、行政 による過 度の介入 を招くこ と も つ な が り、適切ではありません。 現在、不受理とする場合の障害になっている「① 審査の画 一性を欠 」くとい う問 題 や「 ② 行政による過度の介入を招く」という問題は、 1 案を導 入すれば 、①「人 名用漢 字 音 訓 名 乗り表」に載っている読みか否かという統一の 基準が設 定される ため審査 の画一 性 は 保 た れる。②国会での審理を経た政策として 1 案を 導入する ため行政 による過 度の介 入 に は 当 たらない。ということになり、問題が解決する 。 第 2 節 憲 法 13 条への違反 ②その場合の市町村長の審査権をどう考えるべ きか ③本件では「受理」は完了していると解するべ きか ④③の問題と関連して一旦戸籍に記載された「 名」を抹 消した処 分の適否 等がおもな問題点として挙げられている。 91 呉〔イク〕宗「戸籍・行政・法--「悪魔ちゃん命名事 件」から の省思」『宮城学 院女子 大学研究論文集』86 号、1997 年、pp.46-47 92 弁護士法人はるか所属弁護士「子供の命名権に ついて」2013 年 (http://www.law-haruka-aomori.com/850/850988/)
  • 29. 29 次に考えられるのは、1 案が憲法 13 条9 3 で保障している 幸福追求 権の侵害 でない か と い う批判である。しかし、この批判は当たらない 。なぜな ら、昭 和 58 年の 判示が あ る か ら だ。その決定では、「戸籍法 50 条の規定が子の 名につき 制限を課 している ことを も つ て 個 人の氏名選択の自由を制限し、憲法 13 条に違反する 」もので はないと 判示して いる94。 このことから考えれば、1 案の導入は憲法 13 条に違反 しないと 結論でき る。 第 3 節 戸籍実務家の反対 戸籍実務家の声が人名用漢字の緩和を強力に後 押してき たことは 、第 2 章 第 2 節 で 見 た 通りである。つまり、再び人名用漢字に制限を かけると なれば、 戸籍実務 家の強 い 反 発 が あるのではないかという懸念がある。特に今 回の場合 は、「人 名用漢字 音訓名乗 り 表 」と の 照らし合わせ作業という手間が増えるのである からなお さらであ る。 しかしこの反論に対しては、本章第 1 節で引用 した弁護 士法人は るかの資 料を 参 照 し て 頂きたい。今まではキラキラネームかと疑わし いような 名前に対 しても、 行政の 過 度 の 介 入を防ぐという観点から、どのような名前なら ば出生届 の受け取 りを拒否 できる の か と い う線引きが難しかった。しかし、1 案を導入す れば「人 名用漢字 音訓名乗 り表」 と い う 明 確な線引きをもってキラキラネームの出生届の 受け取り を拒否で きるよう になるの で あ る 。 つまり実務上の難しい判断に対して一つの基準 を作るの がこの政 策の意味 である。よ っ て 、 戸籍実務家にとっても 1 案は有益性がある政策 であり、 反対は起 こらない と考えら れる。 第 4 節 海 外 での人名制限との比較 ところで、1 案による制限は、海外の制限と比 較して突 出した性 格のもの だろ う か 。 海 外でも名前としてふさわしくないものは、戸籍 に登録し ないこと を示す9 5 。 ① 英国(イングランド及びウェールズ) 子の将来に不利益となるような名(汚い名、呪 わしい名 )は、出 生の登録 を 拒 否 さ れる。 ② フランス 子が軽蔑されるような名、ばかばかしい名、○×△の ような符 号による 名 、擬 音 を 表す名、政治的事件を思い出させる名、性格を 表す名 の一部(「 勇気のあ る 人 」 な お、「謙譲な人」は認められる。)は認められな い。 93 「すべて国民は、個人として尊重される。生命 、自由及 び幸福追 求に対す る国民の 権 利については、公共の福祉に反しない限り、立 法その他 の国政の 上で、最 大の尊重 を必要 とする。」 94 前掲「出生子命名権について:『悪魔』『琉』命 名事件」p.15 95 前掲「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」pp.106-107
  • 30. 30 ③ イタリア 不吉な名、不道徳な名のほか、慣習上男女反対 の性の名 とされて いるもの は 認 め ら れない。 ④ アルゼンティン 「氏名に関する法律」(1969 年)により、習慣に反する もの、こ っけいな も の 、 奇 怪なもの又は政治的イデ オロ ギー 等を 意味 する もの 及び ほか の性 別に 相 当 す る も のは、一般的に認められない。 このように、海外でもヨーロッパを中心に、人 名の制限 は人名と して適切 かど う か と い う観点でなされており、1 案は諸外国と比較して も決して 飛躍した 政策では ないと い え る 。 第 6 章 終 わ り に 以上の考察により、キラキラネームの増加が著 しくその 増加が一 過性のも ので は な い こ と、キラキラネームが深刻な問題であること、「漢字 の読みを 制限する 案」がキラ キ ラ ネ ー ムを減少させるための手段として有効であるこ と、「漢字 の読みを 制限する 案」が 実 現 可 能 な政策であるということが明らかになった。以 上のこと から、執 筆者は「 漢字の 読 み を 制 限する案」を導入すべきであると提言する。 謝 辞 本論文を作成するにあたり、指導教員の中村成 里先生か ら、丁寧 かつ熱心 なご 指 導 を 賜 りました。また、参考文献に挙げた文章の著者 からは多 くの知識 を頂きま した。 こ こ に 感 謝の意を表します。 参 考 文献 J-CAST ニュース「『キラキラネーム』で患者取り違えの 恐れ? 救命医のツイッター 苦 言 に賛否両論」2013 年(http://www.j-cast.com/2013/08/01180677.html) J-CAST モノウォッチ「子どもの名前にアニメキャ ラ、「4 割 」がアリ !」2011 年 (http://www.j-cast.com/mono/2011/10/15110063.html) NEWS ポストセブン「キラキラネーム 誕生きっかけは『たまごクラブ』と教育 専 門 家 」 2013 年 (http://www.news-postseven.com/archives/20130707_198318.html) NEWS ポストセブン「私学関係者「個性的な名前 は入学試 験でチェ ック対象 になる」」2 0 1 2 年 (http://m.news-postseven.com/archives/20120627_124003.html) NEWS ポストセブン「大手企業役員 『正直キラキラネームの学生の採用ためらう』」2 0 1 2
  • 31. 31 年 (http://m.news-postseven.com/archives/20120626_123476.html) 朝日新聞「発言録 15日」2012 年 11 月 16 日付朝刊、4 面 朝日新聞「人名狂想曲」1999 年 10 月 16 日付朝刊、37 面 朝日新聞「『琉』の人名使用OK 法務省、戸籍法施行規則を改正」1997 年 12 月 0 4 日 付 朝刊、33 面 朝日新聞「常用漢字 来月は 1 日に告示 人名はこの 18 日生まれから」1981 年 9 月 13 日 付朝刊、1 面 伊藤正明『最新版たまひよ名づけ大百科』ベネ ッセコー ポレーシ ョン、2004 年 井戸田博史「出生子命名権について:『悪 魔』『琉 』命名事 件」『 日本文化 史研究 』 3 0 号 、 1999 年 上野和男、森謙二 編『名前と社会—名づけの家族史』早稲田大学 出版部、1996 年 円満字二郎『人名用漢字の戦後史』岩波書店、2005 年 大阪高等裁判所昭和 26 年(ラ)第 27 号同 27 年 10 月 31 日決定 「名の変 更申立 却 下 決 定 に対する抗告事件」『高等裁判所民事判例集』p.553、5 巻 11 号 p.105 小野木美保「人名用漢字について」『戸籍』756 号、2004 年 柏木惠子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』中公新書、2001 年 川岸克己「人名における漢字使用の変化とその誘 因」『安田 女子大学 紀要』41 巻、2 0 1 3 年 憲法 13 条,21 条 呉〔イク〕宗「戸籍・行政・法--「悪魔ちゃん命名事件」からの省思」『宮城学院 女 子 大 学 研究論文集』86 号、1997 年 国立国語研究所「日本語ブックレット 2004:人名用漢字 」2004 年 (http://www.ninjal.ac.jp/nihongo_bt/2004/01volume/newspaper/topic02.html ) 小林康正『名づけの世相史 「個性的な名前」をフィールドワーク』風響社 、2009 年 最高裁判所平成 15 年(許)第 37 号同年 12 月 25 日第三小法廷決 定「市町 村長の 処 分 不 服 申 し 立 て 審 判 に 対 す る 抗 告 棄 却 決 定 に 対 す る 許 可 抗 告 事 件 」『 最 高 裁 判所 民 事 判 例集』 p.2562、57 巻 11 号 p.676 最高裁判所昭和 43 年(オ)第 932 号同 48 年 12 月 12 日大法廷判決「労働契約 関 係 存 在 確認請求」『最高裁判所民事判例集』 27 巻 11 号 p.1536 佐藤稔『読みにくい名前はなぜ増えたか』吉川 弘文館、2007 年 澤田省三「命名の法理をめぐって 『悪魔ちゃん』事件に関連して」『宮崎産業経 済 大 学 法 学論集』第 8 巻第 1,2 号、1996 年 篠田恵里香「弁護士に聞く!「キラキラネーム の改名」 はどこま で可能か 」2013 年 (http://wooris.jp/archives/60022) 寿岳章子、樺島忠夫「女のなまえ」『計量国語学 』7 巻、1958 年
  • 32. 32 田代有嗣「戸籍届出に対する市町村長の審査権 (完)」『 民事研修 』175 号、1971 年 田中実「命名の法理」『法学研究』37 巻 10 号、1964 年 田宮規雄監修『たまひよ赤ちゃんのしあわせ名 前事典 2011 ~2012 年版』 ベネッ セ コ ー ポ レーション、2010 年、p.262 日本法令索引「戸籍法の一部を改正する法律案 」 (http://hourei.ndl.go.jp/SearchSys/viewShingi.do?i=101002035 ) 久山健太「S.Lieberson の個人名研究と日本 における 発展可能 性」『年報 人間科学 』3 3 号 、 2012 年 福田ますみ「『キラキラネーム』大研究」『新潮 45』2012 年 7 月号 文化庁「『常用漢字表』(平成 22 年内閣告示第 2 号)」2010 年 (http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/kokujikunrei_h221130.ht ml) 文化庁「これまでの漢字政策について(付:人 名用漢字)」2008 年 (http://www.bunka.go.jp/kokugo_nihongo/bunkasingi/kanji_27/pdf/shiryo_4.pdf ) 弁護士法人はるか所属弁護士「子供の命名権に ついて」2013 年 (http://www.law-haruka-aomori.com/850/850988/) 星田晋五『名前の研究』星田言 編、近代文芸社、2002 年 マイナビニュース「話題のキラキラネーム、これから結 婚する世 代はどう 考えてる ?」2 0 1 3 年 (http://news.mynavi.jp/news/2013/02/22/207/index.html) マイナビニュース「『こんなキラキラネームはい やだ!』 子供による『改名』が認め ら れ る条件は?」2013 年 (http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/bengo4/2013/02/post-141.html) 毎日新聞「『常用漢字』に 1945 字 国語審答申 『当用』に 95 字追加」1981 年 3 月 2 4 日 付朝刊、1 面 牧野恭仁雄『子供の名前が危ない』ベスト新書 、2012 年 牧野恭仁雄「人名用漢字・歴史と事件」『月刊し にか』2003 年 7 月 号 ママこえ「自分の子どもに「瑛磨(エ ース)」など 、アニ メのキャ ラクター 名をと っ て の 名 づけ。これってアリ?」2011 年 (http://mamakoe.jp/pc/ranking/ranking.php?id=1153) 宮崎幹朗「戸籍法の「常用平易な文字 」と人名 用漢字の 変遷」『愛媛法 学会雑誌 』32 巻 3 ,4 号、2006 年 民法 961 条 文部科学省「少子化と教育について(中央教育 審議会報 告)」2000 年 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/old_chukyo/old_chukyo_index/tou shin/1309769. htm)
  • 33. 33 明治安田生命「名前ランキング」2012 年 (http://www.meijiyasuda.co.jp/enjoy/ranking/index.html) ユニセフ「子供の権利条約」1989 年国連総会採択、1994 年から 国内で効 力が発生 (http://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig_all.html) 吉井啓子「一九九三年フランス家族法改正に よる命名・氏名 の変更に 関する新 規定 」『 同 志 社法学』48 巻 6 号、1997 年 読売新聞「戸籍法の改正に衆院動く」1951 年 2 月 18 日付朝刊 、2 面 ライフネット生命保険株式会社「新卒採用関係 者の意識 調査」2013 年 (http://www.lifenet-seimei.co.jp/newsrelease/2013/4568.html#anchor8 ) 「赤ちゃんの名づけ命名 無料の姓名診断と人気名前ランキング」2014 年 (http://akachan-meimei.com/) 「赤ちゃん命名辞典」(発行年不明)(http://www.baby-name.jp/) 「戸籍法(昭和二十二年十二月二十二日法律第 二百二十 四号)」最 終改正 2011 年 (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html) 「戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二十 九日司法 省令第九 十四号)」最 終改正 2 0 1 3 年 (http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F00501000094.html) 「子供の名前に願いを★」2008 年(http://www.konamae.com/) 「第010回国会 法務委員会 第14号」1951 年 (http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/010/0488/01005150488014a.html ) なお、Web サイトの最終アクセス日時は全て 2014 年 1 月 7 日 。