https://www.watney.co.jp/course?wix-vod-video-id=90dffbb1370a4e7ba839a7b5375affcf&wix-vod-comp-id=comp-jfnqv23o# 大阪大学大学院経済学研究科 中川功一 准教授 WEB経営学講座 WATNEY（ワトニー） https://watney.co.jp/

1. 大阪大学大学院経済学研究科
中川功一
Allegro_assai@hotmail.com
国際経営
(7)
ものづくりの国際拠点展開

2. 思考作業の大前提１
生産拠点の役割は、①顧客の望む製品を、②優れた品
質・低コストで生産し、③必要なタイミングで必要な量だ
け販売拠点に供給すること。
なぜ海外生産するのか
単位：％，n = 661.
出所：日本政策投資銀行（2012）
①
②
③

3. 思考作業の大前提２
生産拠点は「知識の集積体」
※他の拠点タイプ以上に、「知識」の移転が問われる

4. 生産拠点の国際化マネジメントとは
Ⅰ．単一海外拠点の設立マネジメント
Ⅱ．国際生産ネットワークのマネジメント
①ニーズ適合製品を、高品質・低コスト・適切納期で
供給するための仕組み作り
②拠点間での「知識の移転、分散、連結、維持、発
展」のマネジメント

5. Ⅰ 単一生産拠点のマネジメント
海外生産拠点の設立から稼働、閉鎖まで
１．設立候補地選定
２．工場建設と知識移転
３．稼働開始、拠点の育成

6. 設立候補地選定：feasibility study：F/S
表1 海外生産拠点設立の調査項目（例）
○製品市場
生産拠点から消費地への輸送コスト・時間
補修やメンテナンス、サービス等の顧客対応の容易さ
顧客情報収集の容易さ
○労働市場と技術力
マネジャー、製品技術者、生産技術者、ワーカーの質・量は十分か。人件費は妥当か。
労働者の定着率は良いか
労使関係、組合の状況、ストライキの頻度や激しさ
○部材調達
安く原材料にアクセスできるか
優れた部材生産企業がいるか
部材の輸入が認可されているか、関税率は低いか
○現地政府・法制度・インフラ・対日関係
政府認可が出るか
税制優遇・輸出優遇等の有無
土地・建物・電気・水の取得・借用可能性
対日関係は良好か
○現地の社会・文化・気候
本国との社会・文化ギャップがもたらしうる潜在的課題
災害やテロ、犯罪に巻き込まれる可能性

7. 拠点設立 知識移転の重要性
進出先が決定したならば、次は工場建設と知識移転である。工場
建設は地元or国内大手建設業と共同で行うことになるが、より問
題となるのは、出来上がった箱に入れる「もの」＝知識である。
知識のタイプと移転困難性
移転が容易
（形式知的）
移転が困難
（暗黙知的）
部品・材料・
設備
情 報 シ ス
テム
文 書 ・ 設 計 図
面・映像
設備等の使
い方
熟練技能
チームとして
の連携行動
組織文化
文書や図面、
メール電話など
で伝える
モノやソフトに
体化させて送る
直接対話や指
導訓練を行う

8. 稼働開始後 拠点は育つ
育成プランの重要性
海外生産拠点の育成計画例
技能定着 改善定着
改善技術習得 ライン立上げ技術
量産化設計 新製品開発製品技術者
生産技術者
製造部
0ヵ月
拠点
設立
6ヵ月
量産
開始
12ヵ月
本国から新
製品移転、
量産
18ヵ月
自 力 で 新
製 品 ラ イ
ン立上げ
24ヵ月
独自製品開
発開始
育成のしやすさ、そして「どこまで育成するか」を念頭に置いた拠点設立・運営が必要と
なる。→ワーカー層の技能や文化、エンジニア層の充実度、マネジャー層の能力の事前
チェックと維持管理

9. Ⅱ 国際生産ネットワーク
１．配置問題：分散化か集中化か
２．拠点間の「繋ぎ方」：マザー工場制

10. 配置問題：集中配置と分散配置
配置タイプ 集中配置 分散配置
少数の拠点が広範囲に世界市
場をカバーする
多数拠点で少しずつ世界市場
をカバーする
特徴 ○効率性
・もっとも良質な立地だけを選
択し、重複投資なく生産できる
・規模の経済を活かせる
・拠点での学習が働きやすい
・拠点管理の容易さ
○地域対応力
・各エリア事情に合わせた拠点
設計ができる
・現地状況変化へ素早く対応で
きる
○リスク削減
・特定の拠点がトラブルになっ
たとき、他の拠点でカバーしや
すい
拠点
拠点の
対象市場

11. 21世紀初頭の日本企業には「分散」が有効だった
2007年時点の国際配置
本国のみ
エリア数=0
集中配置
エリア数
=1,2
中間配置
エリア数
=3,4
分散配置
エリア数
=5,6
1997年時
点の国際
配置
本国のみ
エリア数
=0
26.0%
5.26%
51
57.2%
8.20%
45
61.6%
8.34%
17
105.6%
5.52%
1
集中配置
エリア数
=1,2
58.5%
11.34%
6
38.5%
6.68%
51
61.9%
7.08%
57
107.5%
10.26%
18
中間配置
エリア数
=3,4
-54.7%
-4.13%
1
31.6%
2.62%
10
68.7%
8.39%
44
86.7%
11.17%
18
分散配置
エリア数
=5,6
-
-
0
11.1%
4.88%
3
47.2%
4.21%
10
78.9%
9.40%
24
各セルの数値は上段から順に売上高成長率、利益成長率、サンプル数。
出所 中川（2012）、上場製造業企業441社の分析。
製造拠点の1997年・2007年国際配置別の売上高成長と利益成長

12. 21世紀初頭は「多極化」の時代だった
結果より、21世紀初頭の大手日系製造業企業にとっては、集中
による効率性と統制よりも、分散による柔軟性・リスクヘッジの
ほうが望ましかったといえる。
この背景には、世界経済の急速な多極化がある。
・1997年からの10年間、世界名目GDPは約30兆ドル
から約60兆ドルへと2倍に
・その伸びは、中国などアジア圏を中心とした新興
国が大きな内訳を占める
・新興国の成長は、経済的・文化的・社会的多様性
を維持したまま進展した
・結果としてこの10年でバラエティ豊かな多極化の時
代を迎えた。

13. 拠点間のつなぎ：マザー工場制について
上記の役割を果たすために、マザー工場には以下が求められる
１）上流から下流までの全ての技術を保有し発展させる仕組み
２）継続的に海外へと移転・支援していくための常態的な仕組み。
①自社の製品・工程の基本形を確立し、それを海外に移転
する（製品開発力、工程開発力）
②海外向けに改良あるいは新規開発された製品・工程を生
み出し、それを海外に移転する（移転能力A）
③海外拠点の開発・生産の能力構築のために、エンジニア
やワーカーの技術・技能育成を行う（移転能力B）
④海外工場の操業をモニタリングし、トラブル時には解決す
る（生産・開発の問題解決力）
この4つのいずれかまたは全てを担う製造拠点

14. 整理
単一生産拠点の
マネジメント
○進出先の選定：F/S
○知識移転策
○拠点育成プラン
国際生産ネットワークの
マネジメント
○集中か分散か
○拠点間分業体制
○本国拠点の役割：
マザー工場
①ニーズ適合製品を、高品質・低コスト・適切納期で供給する
ための仕組み作り
②拠点間での「知識の移転、分散、連結、維持、発展」の
マネジメント