2015年11月28日（土）～29日（日）に開催されたARG 第7回Webインテリジェンスとインタラクション研究会で発表した，2015年10月1日に開催された「日本酒ゴーアラウンド2015(NGA2015)」用に提供したシステムの紹介と，その時収集した利用履歴に基づくユーザの事前の詳報収集と当日の回遊行動の分析です．

1. NGA2015におけるユーザの
情報収集と回遊行動の分析
風間 一洋, 谷 直樹（和歌山大学）,
榊 剛史（ホットリンク）,
吉田 光男（豊橋技科大学）

2. 研究の目的
• 人間の回遊行動について研究中
– Twitterのジオタグ付きツイートによる分析
– 回遊行動モデルの作成
⇒現実の回遊行動との照合が困難
• 特定イベントのユーザ行動履歴を詳細に収集
– 訪問地点の位置と属性，行動時間が既知である
– スマホの位置取得特性の把握にも利用できる
• 位置の誤差，APIの多層性の影響

3. 発表内容
• 「日本酒ゴーアラウンド2015(NGA2015)」
に履歴収集のために提供したシステムを
紹介
– 制約：ユーザ負荷が高い手法は不可
– 利点：履歴収取・分析を前提に設計
• 実際に収集した履歴の妥当性を検証

4. 日本酒ゴーアラウンド
• 大阪の「日本酒卍固め」が2008
年に開始したはしご酒イベント
• 10月1日の「日本酒の日」を広
め，日本酒の楽しさを伝える
• 2015年は札幌・東京・京都・大
阪・広島・福岡で同時開催
• 「NGAナビ」を提供した
– 2015年9月24日～10月1日
– 6か所中，札幌と大阪の2カ所
– 飲食店・酒蔵の情報と移動支援
参加証のさかずきんバッジ

5. NGAナビ
• 単一コードでパソコンからスマートフォンまでサ
ポート
– サーバ側：Apache + mod_wsgi + Python
– UI：HTML 5 + CSS + JavaScript + Google Maps API
• 非継続的な位置取得
– アクセス時にのみ位置と誤差を取得
– HTML 5のGeolocation APIを利用
• Webロボットの排除・識別を意識して設計
– HTTP Cookieでクライアント識別子を割り当て
– 内部リンクはJavaScriptで実現
– HTTP POSTを利用
– robots.txtでアクセス拒否（高機能プログラム向け）

6. 情報閲覧モード
• IXモード
– 目次
• RL, RM, RIモード
– 飲食店のリスト，地図，
情報
• BL, BM, BIモード
– 酒蔵のリスト，地図，
情報
• セッション開始時は常にIXモード
• JavaScriptをサポートしている場合
に限り他に移行可能

7. ユーザの定義
• 「ユーザ」の定義
– あるクライアント識別子で2回以上アクセス
– IXモード以外へのアクセスがある
⇒HTTP CookieやJavaScriptを正しく処理でき
るWebブラウザを人間が操作しているとみ
なす
注意：同一ユーザがパソコンとiPhoneを
使った場合には，別のユーザとして扱われ
る

8. NGAナビの
飲食店関係の画面
(a) 飲食店リスト (b) 飲食店地図 (c) 飲食店情報
ユーザの位置をさまざまな形で利用

9. 履歴の記録
• JSON形式でログを記録
– クライアント識別子
– 情報閲覧モード
– アクセス時刻
– IPアドレス
– ユーザエージェント
– 緯度・経度，位置の精度
– 飲食店・酒蔵の検索条件
– 飲食店・酒蔵の情報ID

10. 履歴データの妥当性の検証
1. 分析に充分な履歴データが取得できた
か？
2. 情報収集と回遊行動が観測されたか？
3. サービスアクセス時の位置取得で充分
か？
4. システム設計の問題点は何か？

11. 飲食店の参加状況
• 開催時間：12:00～
24:00
• 参加店舗数：67軒
– 札幌：19軒
– 大阪：48軒
• 地域の傾向
– 大阪は早い時間から
– 札幌は16:00以降

12. アクセス数・ユーザ数の時間変動
• アクセス数：30,734回
• クライアント識別子
数：4,005
• ユーザ数：1,900ユーザ
• イベント前日
– 昼から深夜に顕著に増加
• イベント当日
– 二つのピーク：昼と夕方
– 一人当たりのアクセス数
に違いがある

13. 情報閲覧モードの時間変動
• 飲食店情報の閲覧（RI
モード）が全体の半
分近く
• イベント当日は飲食
店地図（RMモード）
の利用率は明確に増
加
• 回遊行動に直接関係
しない酒蔵情報の利
用率は減少
(a) 9月30日
(b) 10月1日

14. デバイス利用の時間変動
• イベント前日
– Androidが20.4%，iPhoneが
32.4%に対してWindowsは
40%と多い
• イベント当日
– AndroidとiPhoneが逆転
– 18時以降の6時間はAndroid
が27.0%，iPhoneが59.0%に
対してWindowsは3.3%
• 回遊中はモバイルデバイ
スに切り替えている
• Webロボットの影響を排
除できている
(a) 9月30日
(b) 10月1日

15. 位置情報の分析
• 当日のAndroid・iPhoneユーザの位置付与率を調査
• iPhone
– 449ユーザ中187ユーザ（41.7%）
• Android
– 307ユーザ中59ユーザ（19.2%），
• 合計
– 756ユーザ中246ユーザ（32.54%）
• 比較的低い理由
– 2回表示される位置取得許可のダイアログで拒否
– 位置情報を有効にする利点が正しく理解されていな
かった

16. 位置情報付与ユーザの
アクセス数分布
• 縦軸はそのアクセス
数以上である累積分
布関数
• 5回以上：57.5%
• 10回以上：29.8%

17. ユーザと情報閲覧した飲食店間の
距離の時間変動
• イベント開催直後
– 右斜め上に向かう直線
状の分布⇒近い順に表
示される検索結果を順
番に閲覧
• 18時以降
– 比較的近い少数の飲食
店に絞って閲覧
– 100m以内は少ない

18. ユーザと最も近い飲食店間の
距離の時間変動
• 8時～18時
– 水平の直線状の分布⇒同
一場所からの集中的なア
クセス
• 18時以降
– 飲食店の近傍からアクセ
ス
• 100m以内のアクセス
– 12時以降から
– 18時以降は飲食店との距
離が全体的に短くなる

19. ヒートマップ（ 10月1日）
• 誤差100m以内の
Android・iPhoneユーザ
の大阪のアクセス位置
• Yahoo! Open Local
Platform APIのヒート
マップで可視化
• 大阪中心部
– 飲食店内またはその周辺
におけるアクセスが多い
• 中心部から離れた地域
– 飲食店酒辺からのアクセ
スがほとんどないことも
ある
赤い丸印：飲食店の位置

20. 飲食店情報の閲覧ユーザ数
• 横軸：飲食店をイベ
ント当日の閲覧数で
順位付けした順位
• 48位までは大阪，49
位以下は札幌の飲食
店と明確に分離
• 前日と当日の閲覧
ユーザ数は中程度の
相関
– 相関係数：0.728

21. 重回帰分析
• 分析対象をユーザが活発な大阪に限定してR
のステップワイズ法で重回帰分析
• 目的変数
– 回遊行動を反映しているイベント当日の閲覧数：
𝑦
• 説明変数
– 事前の情報収集時の人気度を反映しているイベン
ト前日の閲覧数：𝑥1
– 1km以内に存在する飲食店数：𝑥2
– 営業時間：𝑥3
– 営業時間中の営業飲食店数の平均値：𝑥4

22. 重回帰分析の結果
• 比較的高い精度
– 決定係数𝑅2
：0.7015
– 自由度調整済みの決定係数𝑅∗2
：0.6882
• 当日の回遊行動は，事前の人気度に加えて，近傍
にすぐ行くことができるような他の飲食店が存在
するかどうかも大きく影響する
– これがイベント前日と当日の閲覧順位の差に繋がる
回帰係数 標準誤差 𝒕値 𝒑値
定数項 12.2006 5.4827 2.225 0.03118
𝑥1 1.1820 0.1701 6.949 1.21e-08
𝑥2 1.6422 0.3226 5.090 6.82e-06

23. 考察
• 情報閲覧時と回遊行動時ではアクセスパターンや
利用デバイス，位置関係に固有の特徴が現れた
• 回遊行動中はGPSを備えたスマートフォンの使用
率が高い
– 位置取得を拒否しているユーザが多い
– 店舗外からのアクセスも多い
• 回遊行動には，事前の人気度に加えて，飲食店の
地理的関係も影響
– 情報閲覧時の人気度から，当日の訪問に適した店舗
を推定できそう
– ユーザの嗜好に合っているが地理的に離れている飲
食店への適切な誘導が必要になる

24. まとめ
• NGA 2015のために運用したNGAナビの利
用履歴について分析
– 事前の情報収集と当日の回遊行動を示す特徴
や関係を確認
– 位置取得に関しては対処が必要

25. 今後の課題
• 2016年10月1日は土曜日
– 今年以上の参加者と長時間の回遊履歴が見込
まれる
• 今後の課題
– より詳細な分析
– 位置情報付与率の向上と店舗訪問の確実な把
握
– 前日までの人気度と滞在位置に基づく推薦
– ツイート分析を併用した混雑推定

26. Special Thanks to
• 大阪エリア
– 日本酒卍固め
– 蔵朱・大西正哉氏
• 札幌エリア
– kome Ezo酒事務局
– 酒井啓氏