蘇張縦横②(蘇秦VS張儀)
- 1. 戦国篇 第 14 集
蘇張縦横②(蘇秦VS張儀)
合縦(6諸侯国連合)と連横(秦と各諸侯国の同盟)という正反対
の戦略を用いて戦う蘇秦(右)と張儀(左)
- 2. 第 14 集 蘇張縦横②(蘇秦VS張儀) -戦国篇-
―あらすじ―
蘇秦(そしん)が秦の攻撃を止めさせるため知恵を絞っていた時、張儀(ちょうぎ)の方
は、魏の都・大梁(たいりょう)の酒場で自堕落な日々を送っていた。
ある日、同じ酒場の客が、山のようなご馳走を前に杯を傾けようとしているのを見、懐の
さびしい張儀は、思わずため息をついた。と、その客は、張儀に向かって一緒に飲まないか
と言う。プライドを傷つけられた張儀は、一旦は断わるが、その客の丁重な物言いに気を良
くし、結局、お相伴になる。
その客(賈乙/かおつ)は張儀の浮かない顔を見て聞く:
「何か心配事でもあるのですか?」
張儀は、つい心を許し「実は自分は蘇秦と同門なのだが、蘇秦が趙で宰相になっているのに
対し、自分は何の官職にもつけない有様だ」と愚痴をこぼす。
すると賈乙は言う:
「いやあ、偶然だ。実は私は趙の人間で、今まで魏で商売をやっていま
したが、ちょうど帰ろうと思っていたところなのです。蘇宰相と同門であれば、一緒に趙へ
行き、宰相に就職を斡旋してもらば如何でしょう?」 それを聞いた張儀は喜び、賈乙と一緒
に趙の宰相府へ向かった。
実は、賈乙は、蘇秦の腹心の部下であった。彼は蘇秦の命を受け、巧みに張儀を誘導しよ
うとしていたのだ。そうとも知らない張儀は、すっかり賈乙にのせられ、意気揚々と宰相府
へ乗り込んで行く。
一方、蘇秦の方は、わざと張儀の
接見を許さず、なかなか宰相府へ入
れようとしない。そしてやっと入れ
た後も、姿を現さない。昼食の時間
になった。だが、張儀に食事を勧め
る者はなく、張儀はただ、宰相の食
事を運ぶ女官が、ぞろぞろと目の前
を通り過ぎるのを見るだけであっ
た。
ご馳走の器を持って張儀の前をゾ
ロゾロ通り過ぎる女官たち→
- 3. ついに頭にきた張儀は、近くにいた宰相府の家来を呼びつけ、
「自分は宰相と同門なのにど
うして一緒に食事をさせてもらえないのだ!?」と怒鳴りつける。 その家来は、
と、 「これは、
宰相からのことづかり物です」と言ってお金を渡そうとする。ますます侮辱を感じた張儀は、
その金貨を放り投げ、席を蹴って退場する。
蘇秦から与えられた金貨を手に、怒りを爆
発させる張儀
(この人、二枚目なのか、三枚目なのか、
よく分からないなぁ...)
憤慨しながら宿屋に戻った張儀、そこへ宿屋の主人が来て「滞納している宿賃を払って下
さい」と言う。しかし、もともと裕福でない張儀に払える金がない。ついに宿屋の主と大喧
嘩をして飛び出してしまう。と、例の賈乙にバッタリ出くわす。賈乙は張儀の代わりに宿賃
を払ってやり、災難に遭った張儀を慰める。そして、「自分は今から秦へ商売に行きますが、
一緒に来ませんか?」と誘う。
蘇秦の仕打ちを苦々しく思い、仕返しをしてやろうと考えていた張儀は、大喜び。早速、
秦に向けて出発する。こうして、もともと遊説の才に長けていた張儀は、奮起して秦恵王に
説き、見事、秦の客卿に納まることになる。
客卿になった張儀は、今までさんざん世話になった賈乙に恩返しをしようと考える。と、
賈乙は張儀に「ある人物に会って下さい」と言う。賈乙に連れられて、とある屋敷に入ると、
そこには何と蘇秦がいた。驚く張儀。が、勘のよい彼は、とっさに今までの経緯を理解する。
そして蘇秦に聞く:「一体、この私に何をしろというのです?」
最初は言い渋っていた蘇秦もついに本音を言う:
「二つの事をお願いしたい。一つは、しば
らくの間、秦の趙への攻撃を控えてもらいたい。もう一つは、秦が斉に派遣した使者を帰国
させ、秦と斉が帝号を名乗るという計画を止めてもらいたのだ」
それを聞いた張儀は即座に承知する。が、彼は言う:
「分かりました。おっしゃる通りにや
りましょう。ただし、その後は、お互い『貸し借り無し』という事でお願いします」
- 4. 蘇秦(左)の策に、まんまとはめられ、知ら
ぬうちに賄賂を受け取ってしまった張儀
(右)、蘇秦の要求をのまざるを得ない
張儀との取引に成功した蘇秦は、その後、斉の都・臨淄(りんし)へ行き、斉・宣王に言
う:「宣王様は、秦王と共に帝号を称されるご予定とお聞きしましたが、これは、六国(斉、
燕、趙、魏、韓、楚)を分裂させようとする秦の陰謀であります。もし斉が帝号を称せば、
あとの五国は嫉妬し、その結果、斉は五国に攻められることになります。また、もし五国に
打ち勝ったとしても、強秦には逆らえず、秦の属国になり下がるでしょう」
その話を聞いた宣王、思い当たるふしがあったのか、急に丁重な態度をとり、
「では、斉は
今後どうすればよいのか?」と尋ねる。そこで蘇秦は持論の合縦(がっしょう)策を持ち出
すと、宣王は大いに喜んでそれを受け入れる。
BC 333 年、六国の君主達は趙に集まり、蘇秦が主張する合縦の盟約を結ぶ。
趙国で一同に会した六
国の君主たち
- 5. そして蘇秦は、盟約を司る者として、また六国の宰相として盟約文を読み上げる。曰く:
「秦
王は、もともと馬の世話をする卑賤な出身であった。しかし今では、堅固な函谷関を頼みに
し、六国の領土を侵略している。今、六国は盟約し、兄弟としての契りを結び、力を合わせ
て強秦に立ち向かうことを誓う。もし、一国がこの誓いに背けば、残りの五国がこれを討つ
ものとする」
六国が合縦したという噂はたちまち秦に伝わり、秦の恵王は家臣らを集め、対抗策を講じ
させる。まず、公孫衍(こうそんえん)が言う:
「合縦策を主導しているのは趙国です。です
から我々は先ず趙を攻撃することによって、この合縦をつぶしましょう」
一方、張儀は言う:
「今、六国は合縦を結んだばかりで、興に乗っているはず。この時に趙
を攻めれば、他の五国も趙に協力して戦うでしょう。もし、秦が負ければ、六国の士気は上
がり、合縦のメリットを享受することになります。ですから今は、むやみに動かないのが上
策です。そうすれば、六国の警戒心は緩み、六国の君主達のそれぞれの思わくが出てきます。
そうなれば、放っておいても内部崩壊するでしょう」
秦の恵王および大臣た
ちの前で合縦を崩壊さ
せる策を説く張儀(中)
しかし、秦の恵王はそんな消極的な策が気に入らない。と、張儀は言う:
「それならば、秦
の皇女を燕国(秦から一番遠い国)に嫁がせ、魏国(秦に一番近い国)に秦の使者を派遣な
さいませ。そうすれば、きっと内部崩壊が加速されます」
こうして燕の易王は秦の皇女を迎え入れることを受諾し、魏は秦から襄陵七邑を譲り受け
る代わりに秦と友好関係を結ぶことに同意する。
- 6. その噂を聞いた趙の粛侯(しゅくこう)は、怒って蘇秦を呼びつけて言う:
「合縦同盟を結
んで、まだ秦との戦争も始まらないうちに、燕と魏は秦に付いてしまった。お前は合縦の長
として、一体どういう責任を取るつもりなのだ!?」
恐縮した蘇秦は言う:
「魏は襄陵七邑という利につられて秦と手を組んでいますが、秦はそ
う簡単に襄陵七邑を渡さないでしょう。ですから、魏が秦から離れるのは時間の問題です。
そして燕の方は、私が出向いて秦との婚約を破棄するよう説得いたしましょう」
そう言って蘇秦は趙を離れ、燕に赴く。ところが、燕では、また別の事件が起こっていた。
それは、蘇秦を取り立ててくれた燕の文侯が亡くなり、その葬儀のドサクサに紛れて隣国の
斉が燕の十城を攻め取ってしまったのだ。怒った燕の新王・易王は蘇秦に向かって言う:
「合
縦同盟を結んで間もない今、斉は我が十城を奪った。合縦の長として、どんな責任をとって
くれるのか?」
「斉が燕の 10 城を奪った
責任はお前にある!」と蘇
秦を責める燕の易王
蘇秦はまた恐縮して斉に赴く。
一方、秦の使者として魏に赴いていた張儀に、魏の襄王は言う:
「襄陵七邑は、一体いつに
なったら魏に割譲するのか?」それに対して張儀は、
「襄陵七邑はもともと秦の土地でありま
す」とか、
「割譲を約束したのは自分であって秦王ではありません」などとうそぶく。ついに
頭にきた襄王が張儀を殺そうとした時、魏の伝令がやって来て言う:
「ただ今、秦の軍勢が我
が国の蒲陽(ほよう)城を攻撃しております」
驚き恐れる襄王。すると張儀は言う:
「蒲陽城はもう間もなく落ちるでしょう。それでもま
だ私を殺して襄陵七邑を要求するおつもりですか?」すると襄王は折れて「いや、襄陵七邑
- 7. はもう要らぬ。だが、蒲陽城だけは勘弁してくれ」と言う。そこで張儀は使いの者をやり、
秦軍がこれ以上蒲陽を攻めないよう命を下す。
一転して張儀にペコペコする襄王。だが、張儀はそんなチャンスを逃さず、更に襄王を追
いつめる:
「要害である蒲陽城をすんなり魏に返してくれた秦王にお礼をするべきではありま
せんか?」「お礼とは?」と襄王。張儀は言う:「秦王は何よりも土地を贈られるのがお好き
です。秦に一番近い土地をお譲りなさい」 そこで襄王は仕方なく少梁(しょうりょう)の土
地を秦に割譲することになる。
急に高ぴしゃな
態度に出た張儀
(左)に対し、しぶ
しぶ少梁割譲の
約束をする魏襄
王(右)
その噂は、たちまち東の斉に伝わった。斉の宣王は「魏が秦の属国になれば、残りの五国
も危ない」と言って眉をしかめる。と、横から蘇秦が口をはさむ:
「秦魏同盟だけでなく、斉
の北隣の燕国も加われば更に大変です。燕は斉から十城を奪われたばかりに秦と婚姻関係を
結んだのですから。もし、秦魏燕の三国が斉に攻め入り、防ぎきれない場合、斉は魏の二の
舞となり、秦に土地を割譲せざるを得なくなります」
それを聞いた宣王は真っ青になり、結局、燕に十城を返すことになる。こうして蘇秦は斉
と燕を和解させ、さらに魏も引き入れて、二度目の合縦同盟を成立さる。
一方、その噂を聞いた張儀は、再度、合縦を崩すべく、蘇秦のいる燕国に出発する。
(→「蘇張縦横③」につづく)