Luigi Marengo (2020)“Organizational politics and complexity: Coase vs. Arrow, March, and Simon“(1. Introduction)について 赤尾充哉　東洋学園大学 准教授　Cubic Kiwi CCO

1. LUIGI MARENGO (2020)
“ORGANIZATIONAL POLITICS AND COMPLEXITY:
COASE VS. ARROW, MARCH, AND SIMON“
(1. INTRODUCTION)
について
赤尾充哉
東洋学園大学 准教授
CUBIC KIWI CCO

2. 概要
• 活動間の相互関係の複雑さ、
特にエージェントの対立や利害の相違によって生じる複雑さ
の結果を、
取引コストアプローチは軽視
• 階層化は、必ずしも取引コストの存在に対する対策ではなく、
永続的な組織的対立のなかで一時的な均衡を提供する方法

3. １．イントロダクション

4. 競争市場
• 経済理論は、市場と非市場の調整の間のジレンマに焦点を当てて、
経済組織の問題に取り組んできた
• 競争市場は、最大限に効率的な調整装置
情報の必要性を最小限に抑える
中央のAUTHORITYに収集される必要のないローカルの知識の利用を最適化する
個々のエージェントや組織が、その貢献の価値を上回る総剰余のシェアを得る可能性を
最小限に抑える
（HAYEK, 1945)

5. 取引コスト（１）
• もし市場が最適性をもっているなら、
なぜ現実世界で観察される共同統治の手段が市場だけではないのか、
なぜヒエラルキーがこれほど広く普及し成功している組織形態なのか
• 現実の市場は、必然的にいくつかの摩擦コスト（探索・情報・交渉のコスト）を伴うため、
決して完全ではない
(COASE, 1937)
• 摩擦コストは取引に関わるエージェントの限定合理性や機会主義的な行動によって発生し、
情報の非対称性やインセンティブ問題に契約が効率的に対処することを妨げる
• いくつかの状況ではそうした摩擦コストが非常に高く、市場はその最適性を失うため、
AUTHORITYのような代替的な調整方法は現実の市場よりも効率的
(WILLIAMSON, 1975, 1985)

6. 取引コスト(２)
• 外部性を管理するための競争市場が存在すれば、外部性の問題は最適に解決される
（外部性を相互依存性に置き換えれば、全ての相互依存性は
相互依存する要素間での直接的な情報や知識の交換を必要とせず、
価格という集約的なシグナルのみを利用する調整メカニズムによって解決できる
：MARENGOの解釈）
• これは摩擦のない世界でのみ成り立つものであり、現実にはそうした市場は見当たらない
(COASE, 1960)
• 限定合理性と機会主義がなければ、
すべての経済的交換は契約によって効果的に組織することができる
(WILLIAMSON, 1981)

7. 準分解可能性（１）
• 完全分解可能性：可能な限り小さなモジュールに分解でき、
個々のモジュールは完全競争市場のメカニズムを通じて相互作用できる
• 完全分解可能性は稀であり、
複雑なシステムは通常、準分解可能な階層構造をもっている
(SIMON, 1981)
各構成要素の行動は他の構成要素の行動に対して、
短期的には独立しているが、長期的には集合的に依存
報告者補足

8. 準分解可能性（２）
• この用語法を用いれば、
取引コスト経済学では、摩擦のない経済システムは、
完全分解可能なシステムとみなされているといえる
• コースの定理は、二人のエージェントと一つの相互依存という
最も単純なケースにおいてのみ、何の追加条件もなしに成立する
• エージェントの数と相互依存性の数を増やすと、
コースの定理の有効性を保証するには、
長期拘束力のある契約を結ぶことができ、
しかもエージェントがそれを指示すると仮定する必要がある
完全分解的な
個々の取引では解決できない
報告者補足

9. アローの不可能性定理
• このことはアローの不可能性定理(ARROW, 1951)と関わる
• 意思決定タスクを最大限に分解して異なる個人に割り当て、
あるエージェントの決定が他のエージェントの効用に影響を与える（外部性を持つ）
とすると、社会的に最適な集団的意思決定は存在しない
２つの公理：
a) 社会的選好の完全性 b) 社会的選好の推移性
を満たすならば、社会的選好は合理的
４つの条件：
a) 定義域（各人の選好）の無制約性 b) パレート効率性 c) 無関係な選択からの独立性 d) 非独裁制
を満たすならば、民主主義的に公正
しかし、2人以上の投票者と3つ以上の選択肢があるとき、
これら2公理と4条件を同時に満たす社会的厚生関数は存在しない
典型例：コンドルセ・サイクル（答えの出ない無限のサイクルに陥る）
報告者補足

10. 未解決の対立
• 一貫した優先順位を持つ基本ユニットが、
システムのリソースに関して相互に矛盾しているとき、対立が起こる
• 対立を管理する手段はあるけれども、未解決の対立こそが組織における遍在的な状態である
(MARCH, 1962)
• 組織ルーティンが進行中の組織対立における一種の休戦を表すとみなす
NELSON AND WINTER (1982)も、MARCHと類似の見解
• 取引コストが無い世界を想定したとしても、広範な相互依存性の存在下では、
すべての対立が解決されるパレート効率的な均衡を達成することはできない
• 取引コストアプローチが見落としている複雑性と対立の問題を議論すべき

11. 以降では、意思決定モデルによるシミュレーションをもとに議論が進められますが、
イントロダクションだけでもなかなかのボリュームだったので、
今回のスライドはここまでにさせていただきます。
続きはまたの機会に。
赤尾