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Augier sarasvathy 2004_1
- 1. Augier & Sarasvathy (2004) “Integrating evolution, cognition and design: extending Simonian perspectives to strategic organization“ について（前半） 赤尾充哉 東洋学園大学 Cubic Kiwi
- 2. イントロダクション • サイモン、マーチ、サイアートの行動学的な概念は、戦略的組織の問題と関連がある • Rumelt(1994)：「（戦略的）マネジメントに関する現代の思考の流れの多くは、 カーネギー学派の企業の「行動」モデルにその起源がある」 • Winter (2000)：サイモンの満足化とdynamic aspiration levelの考え方を用いて、生 態学的・進化論的な視点を提案 • March (1991, 1992)、Levinthal & March (1993)の学習の視点は、行動理論と認知科 学からのインスピレーションを取り入れている • 取引コスト理論でさえ、限定合理性に関する行動学的な視点に基づいて構築されて いる：Williamson (1999) • ダイナミック・ケイパビリティ論の学者たちは、組織能力を理解するために、行動 理論に基づく学習の視点を用いる：Teece & Pisano (1994)、Teece et al. (1997)、 Bromiley & Fleming (2002)、Bromiley & Papenhausen (2003)
- 3. • サイモンの限定合理性概念は、戦略に関する基本的な理論的アプローチを支えて いる • しかし、進化、認知、デザインを統合した最近のサイモンの研究は、取り入れら れていない。これに注目することで、私たちの研究に新たな道を開ける • 本稿では、従順性(docility)、準分解可能性(near-decomposability)、人工物 (artifacts)の意味するところを明らかにし、企業家精神と戦略的組織を結びつけ るための研究アジェンダを提案する
- 5. • 関連する文献を調べると、以下の特徴が見られる 1. 利他主義や組織のアイデンティティに関する問題に関心がある学者は、従 順性を無視している 2. 準分解可能性は、ほとんどの場合「モジュール性」と解釈される 3. デザインに関する論文のうち、人工物の科学に言及しているものはおよそ 半分 • 従順性、準分解可能性、人工物の概念が注目されない理由の１つは、現在の戦略 的経営や組織論において、個人の意思決定の役割が比較的限られていること • 戦略的組織論の研究は、進化経済学、組織生態学、産業組織論などの構造的 視点や、ネットワーク理論や社会運動論などの社会学のサブ分野によって進 められている
- 6. • しかし、サイモンは個人の心や意図が果たす役割について主張し続けた • 「組織の学習は人間の頭の中で行われる。組織学習には２つの方法しかない。 (a) 組織のメンバーの学習によって、 (b) それまで組織が持っていなかったような知識を持つ新しいメンバーを 取り込むことによって」(Simon, 1991a: 125) • サイモンは、自身がデザインした人工物を通じて、より大きな社会的・政治的・ 経済的環境を形成・創造することにおいても、個人の役割を認識していた
- 7. 従順性
- 8. 従順性 • 「「従順性」とは、選択の主要な根拠として、社会的チャネルを通じて得られる 提案、推薦、説得、情報に依存する傾向」(Simon 1993: 156) • 相互主観的な構成要素 • 互いに説得力も説得可能性も持っている、相互の影響力
- 9. 従順性の証拠の基盤： 機会主義と利他主義の二項対立と比較して • 「限定合理性ゆえに、従順性は進化的競争における人間の適合に貢献する」 • なぜなら 「(a) 社会的な影響力は一般的に「自分のためになる」アドバイスを与えて くれるから、 (b) そのアドバイスの根拠となる情報は、単独で集められる情報よりもは るかに優れているから」(Simon 1993: 157) • サイモンは、限定合理的で従順な個人の世界では知的な利他主義者が集団を支配 するようになり、ナイーブな利他主義者も機会主義者も淘汰されることを、コン ピューター・シミュレーションで示した
- 10. • 自己利益について、経験的な証拠は以下のことを示唆する 1. 人は、利己的であるだけではなく、利他的でもない 2. 同一人物が、ある時は利他的であり、ある時は機会主義である場合がある 3. ある領域で機会主義的な人は、別の領域では同時に利他主義者であるかも しれない • 機会主義を前提とすることも、信頼のネットワークを組み込むことも、人間関係 の理論を構築するための普遍的な基盤とはなりえない • 進化的適合性の観点に従順性は当てはまるが、富は進化的適合性に結びつかない 命題１ 人間は、機会主義、利他主義、信頼主義など、動機には違いがあるかもしれな いが、基本的には従順な行動をとる。つまり、ほとんどの人間は、助言を求め、 助言を与え、さらに、他者からの助言を自分の選択や行動の根拠とする。
- 11. • 「社会レベルでは、文化的特性の段階的な変化と選択が、社会の構成員の平均的な 適性を高める情報、助言、その結果としての行動のパターンを生み出す」 • 「また、従順であるがゆえに、社会的進化はしばしば個人に利他的な行動を誘発し、 それが社会の平均的な適性にとって純然たる利点になっている」 • 「利他主義には、他の人が利他的に行動するように影響を与えることも含まれる」 （Simon 1993: 157) 命題２A 強いアイデンティティの感覚を生成・維持している組織では、メンバーは知的利他 主義的な行動をとる傾向がある。これには、契約や信頼のネットワークが無い場合 の行動も含まれる。 命題２B 強いアイデンティティの感覚を生成・維持しようとする組織では、公式な契約やメ ンバー行動の緊密の監視といった機会主義を防ぎ克服するためのメカニズムに投資 するよりも、従順性や知的利他主義を前提とし育む手順・方針を作り上げる。
- 12. 準分解可能性
- 13. 準分解可能性 • 長期的に生き残る傾向のある組織構造は、重要な構造的特徴である準分解可能性 を含んでいる(Simon, 1962, 2002) • 準分解可能性： 1. 各サブシステムの短期的な（高頻度の）行動は、そのレベルで他のサブシ ステムからほぼ独立している 2. 長期的には、サブシステムの（低頻度の）行動は、ほぼ集約的な方法での み、構成要素の行動に依存している ⇒ 各構成要素が、他の構成要素の細部で起こる変化にはほとんど依存すること なく、より高い適合性に向かって進化することができる
- 14. 準分解可能性の要素（モジュール性と比較して） 構造：漸進か激変か • モジュール性の研究では準分解可能性は、一方が完全な分解性、他方が完全な同 一性から成る連続体の中間に位置付けられる（漸進主義）(e.g. Schilling, 2000) • サイモン自身が、準分解可能性をマトリックスで例示しているが、そのせいで、 準分解可能性は程度の問題であり、モジュール性とほぼ交換可能な概念である ように見える • しかし、システムの相互作用が徐々に変化が新しい行動レジームへの突然シフト を導き、システムがあるものから別のものへとジャンプすることがある（激変主 義:saltationist) • サイモンは準分解可能性を動的に特有のものと捉えており、激変主義の考え だったとみなせる
- 15. 準分解可能性の要素（モジュール性と比較して） 機能：分解と組み換えの非対称性 • 戦略的経営の研究におけるモジュール性の議論では暗黙的に、「分解可能性」と 「結合可能性」の間に対称性があるとみなしている（e.g. Langlois, 2002) • たとえば、レゴ • 準分解可能システムでは、分解可能性は必要条件だが、再結合可能性は必要条件 ではない • たとえば、マクドナルドのフランチャイズ：フランチャイズに分解可能で、 各地域の環境に合わせてカスタマイズできるが、個人商店の集合がマクドナ ルドになるわけではない。 • それは、マクドナルドのアイデンティティが、ここの店舗や組織の存続や健 全性にさまざまな形で関わっているから • すべての準分解可能システムは、複数の方法で異なるピースに分解されうるし、 設計者はそれを全体に再構成できる。統一された組織のアイデンティティという 概念は、準分解可能システムの設計者にとって重要。
- 17. 準分解可能性の証拠の基盤 （モジュール性と比較して） • 準分解可能性の構造的特性は、複雑なシステムの進化に対して２つの意味を持つ 1. 安定した組み合わせを形成できるような単純な要素の集合から始めて、そう して形成された結合系がさらに大きなシステムに結合できるとすれば、この プロセスがしばらく続いた後に観測される複雑なシステムは、ほとんどすべ てが準分解可能システムになる 2. 同じくらいの複雑さを持つシステムの集団から始めて、その中に準分解可能 システムとそうでないシステムがあり、すべての突然変異の頻度が同じくら いである場合、準分解可能システムは進化の過程で他のシステムよりもはる かに早く適合性を高め、やがて集団全体を支配するようになる 命題4 準分解可能な構造と強いアイデンティティを持つ組織は、これらの特徴のいずれか または両方を欠いている組織よりも早く成長し、長く存続する。