Roger Frantz (2003)“Herbert Simon. Artificial intelligence as a framework for understanding intuition“について 赤尾充哉 東洋学園大学 Cubic Kiwi

1. Roger Frantz (2003)
“Herbert Simon. Artificial intelligence as
a framework for understanding intuition“
について
赤尾充哉
東洋学園大学
Cubic Kiwi

2. 1. イントロダクション
• サイモンが人間の直観を潜在的なパターン認識として理解するように
なったのは、彼が「考える」機械の開発に携わった後のことである
• その結果、サイモンは直観を魔法や神秘主義と結びつける必要がないこと
を示した
• また、「直観は分析から独立して機能するプロセスではなく、
この２つのプロセスは効果的な意思決定システムの本質的な補完関係に
ある」 (Simon & Gilmartin, 1973：33)ということも示した

3. 2. 直観：「問題」の説明
• バーナードの直観
• 潜在意識の中で行われる非論理的プロセス
• 知性の表現であり有用なものだが、合理的ではなく知的でない
• 短い時間軸で質の低いデータを扱う場合に適している
• バーナードは「管理の意思決定における『直観的な』要素について、
興味深いけれども、過剰に楽観的かもしれない見方をしている」
(Simon, 1965: 60)とサイモンは述べる
• サイモンの直観
• 潜在的なパターン認識
• 非合理的ではなく、合理的である
• しかし意識的な分析ではない (Simon, 1987)

4. 3. 合理性
• オーソドックスな経済学における合理性
→ 主観的な期待効用の実質的に合理的な最大化を行なう人：経済人
• サイモンいわく、
経済人が実質的に合理的であるのは、以下のものを持っていると
想定されるからだが、現実にはそれらの証拠は無い
• 環境のすべての関連する側面に関する十分な量の情報
• 利用可能な代替行動の利益と費用を計算する能力
• 選択した各行動の各結果の確立に関する情報
• 現在および将来の利用可能な代替案をすべて理解し同時に検討する
意思と能力
• サイモンは、限定合理性、手続き的合理性、満足化という概念を提唱して、
合理性の定義に関する経済学の正当性に挑戦した

5. 3.1. 実質的合理性 vs 限定合理性、手続き合理性
• 限定合理的な人は
• 不確実性、意図しない結果、計算能力の限界が多い世界に住む
• 認識している環境は、意思決定が行われる「リアルな」環境のほんの
一部に過ぎない
• 可能性のある選択肢は膨大で、それらを検討することはできない
• 最善かつ唯一の実現可能な方法は、満足のいく解決策を見つけること
→「満足化」：
「願望レベルを設定し、願望レベルの基準で満足できる代替案が
見つかるまで探索し、その代替案を選択する問題解決や意思決定」
(Simon, 1982j: 415)

6. 3.1. 実質的合理性 vs 限定合理性、手続き合理性
• 知覚や認知は、環境全体のごく一部だけを受動的にフィルタリングし
て意識に伝えるのではない
• 限られた合理性の上で最善の意思決定を行なうためのプロセスが重要
• 適切な熟考プロセスの結果行なわれた行動は、手続き的に合理的
であり、衝動的にとられた行動は、手続き的に非合理的である
(Simon, 1982d, 426)

7. 3.2. 合理性とチェス
• 40手のチェスゲームでは、約10120の偶発性がある
• チェスの名人が見ているのは100以下の偶発性（１つの手とその応答に存
在する可能性のうち10%）(Simon, 1982j)
• チェスの名人の一手は「慎重な分析」の産物ではない(Simon, 1983: 133)
• 直観とは「あるプロセスを表すラベルであって、その説明ではない」
(Simon, 1982h: 105)
• そのプロセスとは、記憶の中に保存され必要な時に取り出される経験
に基づいた、無意識のパターン認識である
• 長期記憶（情報が相互参照される、精巧な索引を持つ百科事典）から、
短期記憶（比較的少量の情報しか保存できない）に呼び出す
• 人間でも機械でも、チェスでもそれ以外でも、
専門家は潜在的なパターン認識の能力を持っている

8. 4. 人工知能
• 人間の思考も情報処理プログラムも、3つの似たような作業を行っている。
すなわち、データをスキャンしてパターンを探し、そのパターンを記憶し、
そのパターンを応用して推論や外挿する
• 問題解決は2つの一般化を含む
• ヒューリスティクス（選択的な試行錯誤による探索）
• ミーンズ・エンド分析（目標と現状の違いを分析し、
現状を目標に近づける）
• 知能とは、人間であれ機械であれ限られた処理能力を持つ有機体が、
効率的な探索手順を用いて可能性のある解決策を生成し、
最も可能性の高い解決策を探索プロセスの初期段階で生成することを
可能にするものである(Newell & Simon, 1990)

9. 4.1. 「考える」機械
• ID3（1979年キンランが提案した教師あり学習アルゴリズム）は、
人間が発見できなかったデータのパターンを発見したり、
チェスの名人が知らなかったチェスの戦略を発見したりしている
• サイモンのマシンは、パターンを認識し、意思決定において
「if-then」のルールを適用する点で思考する
• 世界初のAIであるLTはサイモンらが1956年に開発
• 目標に関する情報を利用して、「後ろ向き」に作業し、
多くの経路を試すことなく排除する
• LTによってサイモンは、試行錯誤（科学の手順）と
洞察（明白な不連続性、謎）が互いに補完し合うものである
ことを示した

10. 5. 直観：初期と後期のサイモンの見方
• 『経営行動』第2版(Simon, 1965)：
• 経験は人的資本となり、習慣は無意識・自動的な反射行動として
内面化される
• 経験と習慣は、意思決定における効果的な手順の一部となる
• (a)「人間の合理性は、意思決定に必要なときに記憶のストアに
アクセスできるようにする心理的・人工的な連想装置と
索引装置に大きく依存する」(Simon, 1965: 87)
• (b) 経験と習慣によって「反復的な状況の側面を意識的思考の領域
から引き出すことで、精神的努力を節約することができ」、
適切な行動をもたらすための決定を意識的に再考する必要なく、
同様の反応や応答を与えることを可能にする(Simon, 1965: 88)

11. • Simon (1996)：
• 上述の(a)の記憶の連想装置と索引装置を直観と呼ぶ
• 『経営行動』第4版(Simon, 1997)：
• 上述の(b)を直観と呼ぶ
• 直観は実は分析的思考であり、「習慣や、慣れ親しんだ種類の
状況を認識することによる迅速な対応能力に氷結される」
(Simon, 1997: 139)
• 直観と分析は相互に補完し合うものであり、
科学者を含む人間の意思決定には必ず存在する

12. 5.1. 直観的合理性
• 直観は有用であり、限定合理性のサブセットである
• 考える機械を作ることで、サイモンは直観という人間らしい現象を
「説明」した

13. 6. まとめと結論
• サイモンは、人間の合理性には限界があるという仮説を立て、
経済理論に疑問を投げかけた
• この限定合理性の概念は、彼の組織に関する研究や、人間の意思決定、
問題解決、科学的発見などに関連している
• サイモンは、経済学への挑戦とAIへの取り組みから、
人間の思考を情報処理の一例として捉えた
• そして人間や人工知能は、パターン認識につながる情報処理に依存
していると考えるようになった
• そして人間の直観とは、無意識のうちに行なわれるパターン認識のため
の情報処理であるという理解に至った
• 直観は、人間の計算能力や記憶を利用する能力を拡張し、
合理的な行動をとる能力の境界を拡張し、
したがって手続き的合理性能力を高めることになる