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教師教育改革の国際的動向：改革根拠と手法
- 1. 教師教育改革の国際的動向： 改革根拠と手法 百 合 田 真 樹 人 日本教師教育学会第26回研究大会（帝京大学）第8分科会 平成28年9月17日（土）10：50〜11：20
- 2. は じ め に 読売新聞報道件数推移 平成元年〜平成28年9月1日まで ※1. 内閣府. http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/old/publication/2005/1221/item051221_01.pdf ※2. 読売新聞データベース・ヨミダスから発表者作成 教師教育改革の新たな動向 市場原理の導入 教育改革国民会議 規制改革・民間開放推進会議 総合規制改革会議
- 3. × 教員養成教育 → ○ 教師教育 “…teachers as transformative intellectuals can work to become part of a collective effort to build and revitalize a democratic culture. Such teachers can work collectively to recject the role of the disconnected expert, specialist, or careerist and adopt in its place that of the practice of the engaged intellectual.” Giroux & McLaren (1989: 139-140) Giroux, H. A. & McLaren, P. L., eds. (1989). Critical Pedagogy, the State, and Cultural Struggle. New York: SUNY Press. Teachers as Transformative Intellectuals ｢変革する主体｣としての教師（≠教員） Occupationally assigned identity 職業的に付与された アイデンティティ Professionally attained identity 専門性の獲得・維持による アイデンティティ は じ め に
- 5. ※ "U.S. Department of Education (2002). Meeting the Highly Qualified Teachers Challenge: The Secretary's Annual Report on Teacher Quality, Office of Postsecondary Education: p. viii 機 能 不 全 の デ ィ ス コ ー ス 機能不全のディスコース 米国 教師教育機関が｢機能不全｣に陥っていると明記 教師教育改革(NCLB)の方向性を確認
- 7. ※ OECD. (2005). The Definition and Selection of Key Competencies: Executive Summary. (http://www.oecd.org/pisa/35070367.pdf) 機 能 強 化 の デ ィ ス コ ー ス 機能強化のディスコース
- 8. ※ 人間力戦略研究会. (2003). 人間力戦略研究会報告書. (http://www5.cao.go.jp/keizai1/2004/ningenryoku/0410houkoku.pdf) ※ 経済産業省. (2006). 社会人基礎力. (http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/) 機 能 強 化 の デ ィ ス コ ー ス 機能強化のディスコース 内閣府人間力戦略研究会. (2003).「人間力戦略研究会 報告書」… 社会を構成し運営するとともに、自立し た一人の人間として力強く生きていくための総合的な 力 (p.4) 社会人基礎力 … 職場や地域社会で求められる能力 (2006) 学士力 … 知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、 総合的な学習経験と創造的思考力（2008） 教師力 … 教師として必要な力（2005）
- 10. ※ ＋１については時間が許せば触れる 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ 教師教育改革動向の６タイプ＋１ • スタンダードの明確化 • 説明責任の明確化 • ITE (Initial Teacher Education) の高度化 • ITEの多様化 • 理論と実践の乖離の克服 • 教職キャリアを通貫したITE+TE ※
- 11. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ 1. スタンダードの明確化 オーストラリア (O’Meara, 2011) • ITE段階で修得すべき内容（到達目標）を定義 • ITEの体系化 欧州委員会（Vidovic & Domovic, 2013) • 教師のコンピテンシーとITEスタンダードの定義 • 他者と共同する力 • 知識/技術/情報活用の力 • 社会と/で共同する力
- 12. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ ２. 説明責任の明確化 (accountability) 管轄機関によるトップダウン式 (Wiseman, 2012) 米国： ITE機関の成果を養成した教員が指導する子どもの 学力向上によって測定し、予算措置に反映 • Race-to-the-Top政策 管轄機関との協働方式（Jensen, Hunter, Sonnemann & Burns, 2012) シンガポール： Enhanced Partnership Model • 学校現場及び管轄官庁からの恒常的なフィードバック をうけたITEカリキュラム改定の実施
- 13. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ ３. ITEの高度化 (professionalization) 教職ステータスの向上 (OECD, 2010) 1980年代以降に一般化した取り組み。 大学教育課程へのITEの取り込み＋ITEの入口統制 教師教育の学問的体系化（EC, 2013; Sykes, Bird &Kennedy, 2010) スウェーデン/アイルランド： 教師教育者の要件強化 • 教師教育者にPh.D.を要求（Ph.D.取得支援）sw • 実習指導者に実習生より高い学位を要求 il • 実証研究に依拠するITE
- 14. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ ４. ITEの多様化 (alternative pathways) 臨床的ITEを重視・既存ITE要件の緩和 (OECD, 2010) 米国・英国： 教育実践経験を重視し、大学でのITEを削減。 教師になる道筋の多様化と競争力強化 • 学校現場でのITE重視 • ITE要件の緩和 • 教科知(SCK)＞教科教育知(PCK) • Teach for America to “make sure that the ‘best and brightest’ were heading up our classrooms” (Wiseman, 2012: 88).
- 15. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ ５. 理論と実践の乖離の克服 理論的・抽象的カリキュラムの見直し (Jensen, Hunter, Sonnemann & Burns, 2012; Kezar & Rhoads, 2001) • 大学におけるITEカリキュラムの理論的内容の削減 • Service Learning 大学と学校現場との連携強化（OECD, 2012) 実践的ITEの導入 (Menter & Hulme, 2011) • Training Schools（オランダ） • Hub Schools（スコットランド）
- 16. 教 師 教 育 改 革 動 向 の ６ タ イ プ ６. 教職キャリアを通貫するITE + TE 教師教育の構造化 (EC, 2013) ITEからTEにかけてひとつの構造としてとらえる • インド教師教育国民会議(2009) • 香港・カナダ・オーストラリア・シンガポール・米国 • 継続的成長モデルを重視した職業誘導プログラム • OECDのTALIS/ITP調査 • 教職の魅力化による教師の資質能力向上 • ITE受講者の選別と採用・研修による選別
- 18. 教 師 教 育 改 革 動 向 の 国 際 動 向 と デ ィ ス コ ー ス 教師教育改革の国際的動向の類型 機能不全のディスコース 機能強化のディスコース ス タ ン ダ ー ド 明 確 化 説 明 責 任 の 明 確 化 教 師 教 育 ・ 研 究 の 高 度 化 教 師 教 育 の 多 様 化 理 論 と 実 践 の 接 続 養 成 ・ 研 修 の 連 続 性 Preparing a teacher as a transformative intellectuals as the raison d’être for teacher education
- 19. 参 考 文 献 一 覧 （ 代 表 ） References: • Jensen, B., Hunter, A., Sonnemann, J., & Burns, T. (2012). Catching Up; Leaning from the Best School Systems in East Asia. Melbourne: Grattan Institute. • Kezar, A., & Rhoads, R. A. (2001). The Dynamic Tensions of Service Learning in Higher Education: A Philosophical Perspective. The Journal of Higher Education, 72(2), 148- 171. • Menter, I., & Hulme, M. (2011). Teacher Education Reform in Scotland: National and Global Influences. Journal of Education for Teaching, 37(4), 387-397. • O’Meara, J. (2011). Australian Teacher Education Reforms: Reinforcing the Problem or Providing a Solution? Journal of Education for Teaching, 37(4), 423-431. • OECD. (2012). Preparing Teachers and Developing School Leaders for the 21st Century: Lessons from around the World. Paris: OECD. • Sykes, G., Bird, T. & Kennedy, M. (2010). Teacher Education: Its Problems and Some Prospects. Journal of Teacher Education, 61(5), 464-476. • Vidovic, V., & Domovic, V. (2013). Teachers in Europe: Main Trends, Issues and Challenges. Croatian Journal of Education, 15(3), 219-250. • Wiseman, D. (2012). The Intersection of Policy, Reform, and Teacher Education. Journal of Teacher Education, 63(2), 87-91.
Editor's Notes
- 読売新聞掲載記事件数の推移（平成元年度〜平成28年度9月１日まで） （次の語句を含む記事件数/年度） 教師力 (教員養成｜教員免許)＋改革 (指導力不足｜不適格)＋(教員｜教師) ITE改革は、特に小選挙区制(1994導入・1996年[H8]衆院選から実施）の実施後に顕著になっている。自民党文教族の失速と幹事長権限拡大の影響。 （小選挙区制実施前後の教育研究動向の調査を検討） 規制改革後の教師教育改革動向の特徴は、（１）市場原理・・・選択と競争と、（２）個人化 ＞ 「教師力」の文脈が示唆する点として、従来の学校の教育力から、個々の教師の資質能力への責任移管 ここでの調査結果は、教育政策及び教育研究が、Noisy MinorityによってNoisy Majorityが形成されている可能性をうかがえる。
- 「Transformative Intellectuals」としての視点が、教師教育の実践と研究とにおける自律性の維持に不可欠 ITE改革を分析・理解するさいについても、自律的な教師教育実践と研究の観点が重要！ ＜＜本研究が企図する学会への貢献＞＞ 研究者・教師教育者とが「教師教育」の研究と実践において、「変革する主体としての教師」を養成・教育するという観点から、自らが「変革する主体」としてのアイデンティティを確立する必要がある。教師教育改革の国際的動向を検討するにあたっては、現行の改革動向に批判的検討を加える視点と、新たな理解を形成する必要性に応答することを目的に、我が国の教師教育改革とその動向を相対化する視点を獲得することをねらう。
- ITE（初期教師教育）改革の背景にあるディスコースを２つに分類
- 2006年中教審答申「今後の教員養成・免許制度のあり方について」では、「教員に対する揺るぎない信頼を確立するための総合的な改革」の方針が示される。 （１）課程認定の厳格化・・・教職課程の質的水準の向上（信頼の回復） （２）教職大学院制度の創設 （３）教員免許更新制の導入 これらの改革を進めたディスコースは、「教員及び教員養成への不信」を背景にした機能不全のディスコースがある。
- コンピテンシー概念： OECDが提示する視点は、多くの場合「機能不全」にもとづかず、「能力向上」「機能強化」に基づく傾向。 これはOECDが国際機関であること、さらに各国の政策立案に寄与することを目的としているためであり、各国の政策を「機能不全」として否定することを目的としていないためだろう。
- OECDが示すコンピテンシーの考え方は、わが国ではどのように受け取られ、展開されたか。 「力」を付与する＜機能＞を期待する改革として発露 ※ わが国では、「個人化」の方向に展開・・・新自由主義的展開 社会基盤の機能不全を批判し、個人的対応を志向する新自由主義的(Neo Liberalism)なディスコースとの結びつきがみられ、個々人の「力」を強化することによる課題対応の傾向がみられる。「生きる力」も、社会的な性として捉えられるものでは必ずしもなく、個々人の市場原理主義的社会においての「生存する能力」として認識される傾向
- 「機能不全」と「機能強化」のディスコースは、必ずしも単体で存在しない。多くの改革において、これらの二つのディスコースが、ともに背景として存在する。 換言すれば、改革によって改善を図る問題の設定について、それぞれのディスコースは共通している場合がある。しかし、それぞれのディスコースが牽引する改革の方向性は異なる。このため、教師教育改革を検討するさいは、改革背景となるディスコースを明確にし、それぞれがどのように改革を位置づけ、改革をどの方向に牽引するのかを見極めることが必要。 特に我が国の近年の改革動向は「新自由主義的方向性」をみせているが、この動向の背景には、既存の教師教育の普遍性や一般性を「機能不全」のディスコースで批判し、学習者や教員個々人の資質能力強化を「機能強化」のディスコースで推進する特徴がみられる。 教師教育に限らず、学校教育においても、競争と選択を強調する市場原理主義的傾向がみられる。 「共生と寛容の方向性」は、多くの先進諸国で見られる方向性であるが、こちらは時間があれば触れる。
- これらの改革のそれぞれについて、＜機能不全＞と＜機能強化＞のディスコースが存在する ここで提示する６タイプは、それぞれが新自由主義（NeoLiberalism)的な改革動向と、それに反する改革動向とが拮抗するものである。 「教育」に市場主義的な効率主義と功利主義を取り込んだ観点からの批判に対して、新自由主義的な市場原理主義に対抗するディスコースを積極的に批判する「社会正義」のディスコースが提示されており、これを「プラス・ワン」としている。
- オーストラリア： ITE体系化・・・は、全国共通カリキュラム等への展開が同時に見られる。2007年の教育省出身の首相による主導の役割が大きい ITE段階での到達目標については、教職の魅力化とのつながりもうかがえる 欧州委員会： コンピテンシー概念（OECDのDeSeCoプロジェクト）に基づく ITEが形成する教師の資質能力を明示する取り組み
- 競争と選別・・・「機能不全」のディスコースを背景にしたアメリカの教育改革の傾向 シンガポールの取り組みは、教員養成教育から教育理論等を削減するという改革の方向性を示し、教員養成教育のカリキュラム形成に関わって、市場の声を取り入れるものになっている。これは、わが国でも「経験不足」を理由にした実習拡大、インターンシップの導入等の改革の方向性に類似する。
- 入口統制は、教員養成課程に入ってくる学生のコントロールを図る取り組み。 オーストラリアでは、入口統制の検討に必要なデータ収集が行われている。 また、ITEの実践と結果についての実証研究を重視し、ITEの有効性および有意性を実証的に示す研究を進める必要性が議論されている AERAやCIESなどの学会での基調講演等
- 一方で、こちらは既存のITEへの不信と改善の難しさから、教師になる道筋を多様化する改革の方向性。 特徴としては、学問的専門知（教科知）を持つものは、効果的な指導とその実践に関わる知識（PCK)を有するという認識に基づいた改革の方向性が強い。 ただし、OECDなどでは、従来のITEの枠組みとは異なる過程を経た教師が、どの程度有意であるのかについての関心を持って調査をおこなっている。
- カリキュラムの理論的内容の削減は、先ほどのシンガポールの事例にもある。 Training Schools, Hub Schools, Professional Development Schools…日本でいう附属学校に類似している。ただし、他国では大学の教員養成課程につながっている学校は、選抜されており、そもそも設置段階から教育学部附属となっているものではないようである。
- 「変革する主体」としての教師に求められるものは何か・・・教師教育実践と研究の共通基盤としてのディスコースが別に存在する。 「社会正義」を追求し、市場原理主義的改革やポピュリスト的外圧から「教師教育」の軸を維持しようとするディスコース。・・・教師教育の存在意義（レーゾン・デートル： raison d’etre)としての社会正義の追求と実現 そのために・・・ Independence, critical thinking, logical & rational reasoning, political commitment for social justice… : agent for change