卒論発表 梶原
- 1. 現代日本における
富士山への信仰心
環境倫理学・比較価値論研究室
09154013 梶原 美沙
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- 2. 研究の背景
現在、世界文化遺産登録を目指す取り組みが進んでいる。
登録されるには、10ある登録基準のうちの1つ以上を
満たす必要がある。
富士山は3、4、6番目の登録基準を満たす可能性があ
るとして推薦されている。
※顕著な普遍的価値を有するできごと(行事)、生きた伝統、
思想、信仰、芸術的作品、あるいは文学的作品と直接または
実質的関連がある 。
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- 4. 問題意識
江戸時代に栄えた富士講の衰退後、
「富士山への信仰心は失われた」という指摘
がある。 (出口、岩科他)
実
際
明確な体系をもった信仰が少なくなった。
地元の住民でさえ富士山の信仰の対象としての
歴史的背景をほとんど知らない人が多い。
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- 5. 研究の目的
富士山の「信仰の対象」としての価値を
問い直し、その文化を現代、未来へと受
け継いでいくことのできる信仰のあり方
を提示すること
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- 6. アプローチ方法
研究の流れ
① 富士信仰の歴史を整理
② 現代における富士山の価値を整理
③ ②の中から特に現代の信仰に関連のある価値を
抽出し分析
④ 現代日本の宗教観の整理
⑤ ③と④に基づく信仰のあり方の提示
調査方法……文献調査
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- 7. ① 富士信仰の歴史と背景
遥拝 活発な火山活動 山の神の怒りを鎮めようとする
登拝 噴火が一段落し、入山し祈りを捧げる 神仏習合
富士講 江戸を中心に庶民に広がり、爆発的に信者増加
明治以後 神仏分離令・廃仏毀釈 登山のレジャー化、観光化
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- 8. 信仰心は失われたのか?
現在では信仰心がなくなったという指摘がある
「もう信仰の旅とはいえない時代になった。」(岩科、1983)
「もう一度、富士講が培ってきたような古来の宇宙観に学び、
現代に自然信仰を呼び戻すことが必要」(出口、1985)
明確な体系をもった信仰は少なくなったが、現代を
生きる人々のなかにも富士山を心のよりどころとす
るような精神性はある。
(例)いわゆるパワースポットとして注目を浴びている。
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- 9. ② 現代人にとっての富士山の価値
景観的 富士山との直接的な
価値 かかわり(経験)を通
じて生じる。
歴史・
文化的
愛着 経済的
価値
価値
記憶
自然的
価値
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- 10. ③ トポフィリアと愛着記憶
トポフィリア(トゥアン、2008) 愛着記憶
場所との情緒的なつながり。 トポフィリアのなかでも日
過去の経験によって形成さ 常的かつ個人的な経験の蓄
れる場所への特別な感情。 積によって形成される感情。
心のよりどころとなる。
大衆 個人
浅
い
場所の経験の
垂直的構造
水平的構造
(レルフ、1991) 深
い 愛着記憶
- 11. ④ 現代日本の宗教観
現代日本の宗教観の特徴
① シンクレティズム
神棚と仏壇を拝み、正月は神社に初詣でに行き、お盆
には墓参りをし、クリスマスをお祝いするという生活を当
たり前のように行なっている。
②「無宗教」を自認している人が多い
日常的にさまざまな宗教にかかわっているにもかかわら
ず、本人は「無宗教」を自認している。
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- 12. なぜ「無宗教」なのか?
宗教行為が儀礼化している(井上、2011)
神仏を敬うことが文化的伝統になっている。
宗教教育の欠落による宗教への理解不足(阿満、1999)
宗教に関する基本的知識がない。
新興宗教団体による迷惑行為や犯罪行為
宗教団体の迷惑行為や犯罪により、負の先入観が植え付けられた。
客観的・科学的認識の絶対視
科学的根拠に基づく客観的認識を精神世界にまで持ち込もうとした。
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- 13. 二つの宗教観の比較(亀山、2003)
認識論主義の宗教観 実践としての宗教観
客観的認識を基軸とする。 生の意味付けに焦点を当てる。
実践としての宗教観は意味づけを重視する。
→目に見える信仰のみならず、精神や感情、
トポフィリアや愛着記憶に焦点が当てられる。
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- 15. 総括
時代によって信仰の形態はさまざまに変化してきた。
「無宗教」を自認しつつも超越的威力にすがる人々。
認識論主義の宗教観 転換 実践としての宗教観
明確な体系をもった信仰がなくなったとしても、人々のなか
に富士山を心のよりどころとするような精神性(=愛着記
憶)がある限り、信仰心は失われない。
人々が愛着記憶をもつことによって、富士山への
信仰心は現代、そして未来へと受け継がれていく。
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- 16. 主な参考文献
阿満利麿『人はなぜ宗教を必要とするのか』ちくま新書
222 (1999)
イー・フー・トゥアン『トポフィリア——人間と環境』小
野有五・阿部一訳 筑摩書房 (2008)
井上順孝『宗教 最新版』ナツメ社 (2011)
岩科小一郎『富士講の歴史 江戸庶民の山岳信仰』名著
出版 (1983)
エドワード・レルフ『場所の現象学』高野岳彦・阿部隆・
石山美也子訳 筑摩書房 (1991)
亀山純生『現代日本の「宗教」を問い直す——唯物論の新
しい視座から』青木書店 (2003)
出口衆太郎「富士山観気巡礼」『季刊「仏教」32 特集
=聖地』P.58-70 法藏館 (1995)
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