卒業論文で明治時代のかぎ括弧をテーマに選び、現段階での内容をプレゼンテーションで分かりやすく噛み砕いたものです。細かい事や出典などはこのプレゼンテーションでは省いてあります。

1. 卒業論文テーマ
明治時代の
「」(かぎ括弧)について
慶應義塾大学 文学部 国文学専攻
屋名池ゼミ所属 松岡可那子

2. 私の専攻について
国文学専攻というと、古典？とよく聞かれます。
もちろん古典も研究対象ですが、古いものから新しいものま
で、さまざまな資料から日本文化や日本の本質について考え
る専攻だと思っています。
私はその中でも、常に日本人が使ってきた日本語を
研究する日本語学を中心に学んでいます。
私たちが「日本人」であることと、「日本語」を話す
ことは深く結びついていると思うからです。

3. 私の専攻について２
現代の私たちは、江戸時代までの古い本を訓練しないと読
めませんが、明治時代以降のものなら普通に読むことが出
来ます。
それは明治時代に西洋の文化や書物が日本に大量に入って
きて、日本語に大きな影響を与え、模索しながら、現代の
日本語が生まれていったためです。
現在残されている明治時代の本には、明治という変化の激
しい時代の中で、日本を発展させるため、西洋の言語や概
念、西洋的な論理性を日本語に取り入れようと試行錯誤し
た跡が今も残っています。

4. 私の専攻について３
しかし、江戸から明治にわたる変化は、単純に「間違い」
とされ、あまり研究されてきませんでした。
特に〈。〉や〈、〉の使い方やその他の記号は様々なもの
が存在し、且つ、現在当たり前に使われているにも関わら
ず、それらの成立や詳しい研究は殆どありません。単純に
使い方が定められているだけです。
私は元々西洋と日本の言語の関わりに関心があり、膨大な
資料を一つ一つ自分の目で見なければならない代わりに誰
も研究していないところに惹かれて卒論に選びました。

5. 「」(かぎ括弧)はいつ生まれたのか？
一般の方にはあまり知られていないことですが、会話での
〈「」〉かぎ括弧は、江戸時代以前まで使われていません
でした。ただの記号としてもあまり一般的ではなかったよ
うです。
右の「安愚楽鍋」(明治4年)は
江戸時代の書式そのままで、
かぎ括弧ではなく庵点と呼ばれる
〽が用いられています。

6. 「」(かぎ括弧)はいつ生まれたのか？
近代文学館の「名著復刻全集」の作品をざっと見ただけで
も、
〈「〉があっても閉じる〈」〉はなかったり、
小説の会話という形式があっても一切〈「」〉を使わなか
ったり、
〈｟｠〉を〈「」〉の代わりに使ったり、
〈「」〉ではなく、文全体を漢文調にして「曰ク」を使っ
たり、
明治30年以降は〈『』〉が主流になったり……
数え上げたらきりがありません。

9. 現段階での結論
西洋の記号の影響を受けて、日本語で記号が盛んに使われ
るようになっただけあって、
１、明治初期の特に西洋の本の翻訳の中で様々な試みがな
されたこと、
２、明治初期には当時の人が見慣れない外国語を表すため
に記号が必要で、それに〈「」〉が使われることもあった
こと、
３、文語体の文章から口語体の文章へ変化していく中で
〈「」〉が増えていくこと、
４、一気に〈「」〉が広まったのではなく、途中で主流が
〈「」〉になったこともあったことなど。

10. 今後の課題
私が最初に調べた作品群には、重要な江戸から明治にかけ
ての混乱が激しい、明治10年代の作品がとても少なく、お
まけに
当時の人は小説作品だけでなく、新聞や雑誌などのメディ
アも見ており、〈「」〉がその中でどうなっているかを調
べていないなど、まだまだ調べなければならない文献が山
積みの状態です。
今後の調査の中で更に〈「」〉かぎ括弧を調べて行きたい
と思っています。