趙雲・張飛の豪胆、諸葛亮の三寸不爛の舌
- 2. 第 30 集 舌戦群儒(孔明、呉の参謀達との舌戦に挑む)2009.6.04 更新
―「3 時間で~」第 32、33、34 話参照
チャプター① 阿斗を抱いた趙雲、馬を走らせ劉備の許へまっしぐら~
チャプター② そこへ曹操軍が現れ、激しい戦闘が繰り広げられる~
チャプター③ 血だらけになって駆け戻る趙雲、橋の上にいる張飛に助けを求める~
チャプター④ 呉の大勢の参謀達に囲まれて座る孔明。先ず参謀の長老・張昭が口火を切
る~
チャプター⑤ やはり孫権の参謀である巌峻が孔明に「今まで一体どんな古典を勉強して
きたのか?」と問い詰める~
~孫権の老武将・黄蓋に連れられて出て行く孔明。言い負かされた参謀た
ち、口々に悪口を投げつける。
④⑤は舌戦の全貌である。呉の 7 人の論者の論旨と、それに対する孔明の対応を以下にま
とめてみた:
論者名 呉の論者の論旨 孔明の対応
⑴張昭 孔明殿は自分を楽殻や管仲になぞ 劉備殿の軍勢は少なく、基盤も弱い。曹操の大軍と戦
らえているが、荊州も取れず、曹 えば破れて当然。しかし博望坡や新野では部分的勝利
( 画 像① 操軍に撃破される有様。とても彼 を収めた。当陽での敗戦の原因は、難民を連れていた
参照↓) らに及ばないのではないか? から。これは劉備殿の仁義の表れ。かつて漢の高祖・
劉邦は連敗した挙句、参謀・韓信の智略によって天下
を統一した例もある。
⑵虞翻 曹操は、 万の軍を擁して迫って
100 劉備軍は仁義の軍隊とは言え、100 万の曹操軍と戦っ
いる。敗れた劉備軍の軍師である て敗れるのは当たり前。それでも劉備軍は一歩も引か
孔明殿が「曹操軍、恐れるに足ら ず、最後まで死闘を繰り広げる覚悟だ。それに比べ呉
ず」と言うのは詭弁ではないか? は、精兵と豊かな兵糧、長江という天然の要害を持ち
ながら、孫権殿に投降を勧める家臣たちがいる。劉備
軍と大違いだ。
⑶歩隲 孔明殿は昔の説客・蘇秦、張儀に 蘇秦、張儀は単なる説客とは違う。二人は救国の英雄
( 画 像② な ら っ て 呉に 遊 説 に 来ら れ た の であり、「強きを恐れ禍を避けて逃げ回る貴公たち」
参照↓) か? と大違い。曹操軍の前で恐れをなしている貴公たち
に、彼らを笑う資格があるのか?
- 3. ⑷薛綜 孔明殿は曹操を「漢の逆賊」と言 曹操は代々漢王朝の家臣であるのに、忠誠心を失い簒
( 画 像③ うが、漢の命運はもう尽きており、 奪を図っている。その曹操のお先棒を担ぐ貴公も、ま
参照↓) 曹操こそが天下人となるべき人物 た忠孝心のない人間。そんな人と議論する余地はな
ではないか? い。
⑸陸積 曹操は相国・曹参の末裔である。 曹操は確かに漢王朝の家臣だが、簒奪を図っている以
劉備殿は中山靖王の子孫と自称し 上、漢の乱臣であり、曹家の裏切り者でもある。それ
(画像④ ているが、確かな証拠もなく、か に比べ劉備殿の方は、天子自ら系図を調べ皇叔と呼ば
参照↓) つてムシロを織り、靴を売ってい れた。これでも証拠がないと言うのか?しかも漢の高
た人間。とても曹操と戦う資格な 祖も、元々一介の亭長だった。ムシロや靴を売る事の
ど無いではないか。 どこが悪いというのか?
⑹巌峻 孔明殿は今までにどの様な典籍を 文章を借りたり典籍を引用するのは、腐れ儒者のする
読まれてきたのか? 事。これは国を興す大業とは関係がなく、自分は興味
がない。だいたい昔の賢人たち(伊尹や太公望)も典籍
を学んで大業を成し遂げた訳ではない。今の書生たち
は、やれ典籍だ古訓だと言っているが、これは文章を
もてあそんでいるだけだ。
⑺程秉 孔明殿は口が達者だが、それは真 「儒者」という言葉が出たが、儒者には、君子と小人
の学問とは言えない。こんなこと がいることをご存知か? 君子の儒者とは、公正で忠
では天下の儒者の笑いものだ。 君愛国を旨とし、この世に益をもたらし、後世に名を
残すものである。一方小人の儒者は、文章にこだわり、
権威や前例を重んじ、詩作に明け暮れ名文を書くが、
天下国家はどこふく風といった有様。程秉殿も忠君愛
国に励まれ、くれぐれも小人の儒者となられぬよう
に。
この舌戦、よくよく見れば「呉の論者の議論」と「孔明の回答」がかみ合っていない点が
随所にある。このことから、孔明はかなり強引な論法でもって、話を自分の有利な方にも
っていったことが分かる。ところが、この様に表に書いて客観的に分析しない限り、その
点がクローズアップされてこない。全く巧みな論法である。