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経営分析論Ⅱ⑭
企業価値の測定Ⅱ

企業価値を測る
企業価値の考え方
• 配当割引モデル(Dividend Discount Model):基本式

将来投資家が得る配当金の合計を期待収益率で割り引き,現在価値を

算出することで,株式の理論株価を求める手法

→ 重要な前提:利益の全額が配当に回される。
1 2 3 4 t
D
÷(1+r)
1
…
D D D D
÷(1+r)
2
÷(1+r)
3
÷(1+r)
4
÷(1+r)
D
(1+r)
1
D
(1+r)
2
D
(1+r)
3
D
(1+r)
4
D
(1+r)
t
配当の現在価値を全て足す
Σ
D
(1+r)
t
企業価値の考え方
• 配当割引モデル(Dividend Discount Model)

〔計算式〕
理論株価

(純資産理論時価)
=
配当金の合計
資本コスト(利子率)
→ 配当金が一定であると仮定できれば,テキストp.165に示された

  証明によって上記の計算式が算出できる。
• 例題:毎年の予想配当金が200円,期待収益率が10%のとき,理論株価は

   いくらになるか?
2,000円=
200
10%
企業価値の考え方
• 配当割引モデル:成長を考慮する

利益の一部を留保し,翌期以降の成長の源泉とするような場合,

順調に行けば増収増益となり,配当金は増加していくと予想される。
〔イメージ〕

 0年度末の純資産1,000の会社が,毎期期末ROE25%,配当性向33.33%

とした場合の利益,配当,内部留保の変化は以下のようになる。
200 10%
0 1,000 ROE 25%
33.33%
企業価値の考え方
• 配当割引モデル:成長を考慮する(つづき)

つまり,純資産で見た企業成長率は毎期20%となる。このように企業が

成長していくことを仮定においた場合,理論株価は以下の計算式で

算出される。
理論株価 =
配当
資本コスト − 成長率
• 例題:毎年の予想配当金が200円,期待収益率が10%,配当の成長率が5%

   のとき,理論株価はいくらになるか?
4,000円=
200
10% − 5%
企業価値の考え方
• 割引キャッシュフロー法(Discount Cash Flow Model)

正味現在価値法は将来発生するであろうキャッシュフローの現在価値を

算出し,その現在価値の和が投資額を上回るか否かで投資判断を下す

手法である。

→ 将来キャッシュフローの現在価値は,そのプロジェクトから生まれる

  価値を意味している。

ここで,ある企業が毎年一定のキャッシュフローを生み出すと仮定した
時,その企業の価値はどのように算出すれば良いのであろうか?
割引キャッシュフロー法 Discount Cash Flow Model DCF
1 正味現在価値法
現在価値の和が投資額を上回るか否
か
1
1 2 3 4 t
CF1
÷(1+r)
1
…
CF2 CF3 CF4 CFt
÷(1+r)
2
÷(1+r)
3
÷(1+r)
4
÷(1+r)
t
CF1
(1+r)
1
CF2
(1+r)
2
CF3
(1+r)
3
CF4
(1+r)
4
CFt
(1+r)
t
FCFの現在価値を全て足す
Σ
CFt
(1+r)
t
設備投資の経済性計算
• 正味現在価値(net present value : NPV)法
資本コストを定めて回収額の現在価値を決め,これが
原投資額より大きいかどうかで投資の可否を決定する。
企業価値の考え方
• 例題:毎年300のキャッシュフローを生み出す企業があるとする。この

   企業の資本コストが10%のとき,当該企業の企業価値はいくらに

   なるか?また,この企業に1,500の負債があるとした場合,その

   株式価値はいくらになるか?
企業価値
3,000=
300
10%
株式価値
Copy Right, 2012, TOBITA Tsutomu
1 2 3 4 t
CF1
÷(1+r)
1
…
CF2 CF3 CF4 CFt
÷(1+r)
2
÷(1+r)
3
÷(1+r)
4
÷(1+r)
t
CF1
(1+r)
1
CF2
(1+r)
2
CF3
(1+r)
3
CF4
(1+r)
4
CFt
(1+r)
t
FCFの現在価値を全て足す
Σ
CFt
(1+r)
t
正味現在価値
−)総投資額
> 0 ,< 0 どっち???
原投資額より大きいかどうかで投資の可否を決定する。
300
10%
1,500
応用編:企業価値評価をどう使う?
• ある企業ないしは投資家が,

① 現在の経営者よりも企業価値向上の良いシナリオを持っており,

  資産を有効活用できる場合

② この企業を買収することによってシナジー効果がある企業が

  この企業をM&Aすることによって多くのキャッシュフローを生み出す

  ことが期待できる場合

この企業に対してプレミアムをつけても買収しようとする可能性があ
る。
• 例題:毎年300のキャッシュフローを生み出す企業があるとする。この

   企業に将来性を感じ,買収によって毎期さらに100のキャッシュ

   フローを追加的に生み出せると考える経営者がいるとして,この

   企業の資本コストが10%のとき,当該企業はいくらであれば買収

   可能であろうか?また,この企業に1,500の負債があるとした

   場合,その企業の株式価値はいくらになるか?
企業価値
4,000=
300 + 100
10%
つまり,4,000支払えば当該企業を買収できる。

ただし,一般的にはプレミアムを支払って購入することになるので,

それ以上の価格で買収することになる。
株式価値
4,000 − 1,500 = 2,500
負債抜きであれば,2,500以上を支払えば

購入することができる。
p.2
M&A
300
100
10%
1,500
1,800
2012 10 2 1
応用編:企業価値評価をどう使う?

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