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アルコール
依存症
アルコール依存症の生涯有病率
男 約2%
女 0.2%
推定患者数は107万人
Osaki et al., Alcohol Alcohol. 2016 PMID:26873982
「依存症」
の代わりにDSM-5では
「使用障害」
「嗜癖」という語もほぼ同じ
し へ き
物質
行動
人間
関係
物質の依存症
•アルコール
•ニコチン 煙草
•覚せい剤
•大麻 マリファナ
•コカイン
など
飲んだぶん
酔っぱらう
酩酊
飲酒による
興奮
複雑酩酊
単純酩酊
飲んだぶん
酔っぱらう
異常酩酊
複雑酩酊 病的酩酊
飲酒による
興奮
飲酒量に
見合わない
興奮、意識障害
単純酩酊
酩酊
アル中は
アルコール依存
のことじゃない
ア ル コ ー ル 中 毒
中毒
害が生じている状態
急性アルコール中毒
慢性アルコール中毒
多量の飲酒で
生じる問題
長期の飲酒で
生じる問題
依存
やめられない状態
精神依存
身体依存
欲しくて
しょうがない
やめると
離脱症状が出る
摂取欲求
渇望
コントロールの障害
離脱症状
やめて生じる症状
耐性
酔うのに必要な
量が増える
否認
合理化
共依存
イネイブリング
飲酒を続けられる状態を作ってしまう
Alexander & Hadaway, Psychol Bull. 1982 PMID:7146233
32匹のネズミを下記2群にわける
植民地:1匹ずつ個別に金網に入れられる
楽園:16匹が広く自由な空間で、餌を好きに
食べられ、隠れたり遊んだりできる
水 と モルヒネ入り水を与えたら
植民地ネズミのモルヒネ摂取が
多かった
物質の依存性
+
苦痛(自己治療仮説)
+
素因(遺伝的な素因)
依存症

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アルコール依存症の基本

Editor's Notes

  1. アルコール依存症を知らない人はいないでしょう。
  2. DSM-5では、「依存症」の代わりに「使用障害」という言葉が用いられています。使用障害と依存症は、ほぼ同じ概念と思っていいでしょう。嗜癖という言葉もよく用いられますが、これもほぼ同じ意味と思っていいでしょう。
  3. 依存=嗜癖では、物質、行動、人間関係が扱われることがあります。行動とはギャンブルや買い物、万引きなどが扱われ、人間関係については精神医学として扱われることはまれですが、たとえば今回の話にも出てくる「共依存」が一例ですし、ホスト・キャバクラにはまるのも含まれるのではないでしょうか。そして、物質というのが今回のテーマであるアルコール依存症。
  4. 物質の依存症としては、アルコール、煙草、覚せい剤、大麻、コカインなど様々なものが対象となりえます。依存症としての性質は、どれも共通したものがあります。
  5. アルコールで酔っ払う話から。酔っ払う状態のことを酩酊といいます。普通に飲んで普通に酔っ払うのが「単純酩酊」というもの。「飲んでトラになる」などと呼ばれるお酒を飲んで興奮してしまうものが単純ではない「複雑酩酊」というものです。
  6. そして、飲んで興奮するにしても、たいして飲んでないのに興奮しちゃうとしたら病的ですよね。お酒に弱いのとはまた別に、普通に飲んでたと思ったらすぐ意識を失ってしまうようなのも病的。これらは病的酩酊と呼ばれます。
  7. よく「アル中」という言葉が用いられますが、アルコール中毒は、アルコール依存とは別の言葉です。
  8. アルコール中毒とは、アルコールによって害が生じている状態のことをさします。
  9. 急性アルコール中毒は、一度に多量の飲酒で意識障害などの問題が生じることであり、しばしば一気飲みなどで死んでしまう人がいるのが問題になりますよね。慢性アルコール中毒は、長期間の飲酒で問題が生じることであり、長年の飲酒で肝硬変になったり肝がんになったり食道がんになったりするのが慢性アルコール中毒です。
  10. そして、依存とは、やめられない状態のことをさします。これにも分類があります。
  11. 精神依存と身体依存があります。精神依存とは、欲しくてしょうがなくてやめられないもの。身体依存とは、やめると離脱症状が出てやめられないものです。
  12. 精神依存をもたらす「ほしくてしょうがない状態」は、医学的には摂取欲求や渇望という言葉で呼ばれます。依存性の物質は脳の「報酬系」に作用して依存を形成します。
  13. アルコール依存症になると、コントロールの障害が生じます。自分でも酒を飲んじゃいけないと思っても飲まずにいられなくなり、飲まずにいるうちがまだよくて、1杯だけにしておこうと思いつつ2杯になり、2杯だけと思いつつ4杯、4杯までと思いつつ8杯……と制御できないのが問題です。
  14. 長期間の飲酒が続いていると、これを止めたときに禁断症状とも呼ばれる離脱症状が生じます。アルコール依存の人って手が震えてるイメージがないですか?あれは離脱で手が震えるんです。酒を止めたときに手が震えたり、眠れなくなったり、ソワソワしたり、ひどいと幻覚が出たり、意識障害が生じたりします。離脱症状が出るのであれば身体依存が生じているといえるでしょう。
  15. アルコールなどでは耐性が生じます。最初は少し飲んだだけで酔っ払っていたのに、飲んでるうちに徐々に酔うのに必要な量が増えていく、酒に強くなるのが耐性です。アルコールの場合は、肝臓が強くなりますが、同時に脳も酒に鈍感になってくるんです。
  16. 専門家はよく「依存症は否認の病だ」といいます。依存症の人は「私は依存症じゃない」と自らのことを思うようにしてるんです。どこか自分でもわかってはいるんだけど、依存症であることから目をそむけずにはいられない状態。「自分は好きで飲んでるだけでアルコール依存症なんかじゃない」「自分はそれほど飲んでない」「やめようと思えばいつだって止められるんであって依存症じゃない」などと言わずにいられないんです。
  17. そして、防衛機制のひとつに「合理化」というのがありました。依存症の人はしばしば飲酒を続けることにつき「酒は百薬の長っていうんだ」「酒を止めてストレスをためる方がかえって健康によくないんだ」などといって、依存で飲まずにいられないアルコールについて合理化します。
  18. 専門家の中には「アルコール依存症は家族の病だ」なんて言う人もいます。この言葉は気をつけないと、アルコール依存症の家族に苦しんでる人に責任を押し付けるように聞こえることには注意が必要です。ただ、「共依存」という概念は重要で、これはアルコール依存症の人が家族にいることで、その生活に巻き込まれてその生活を支え、自分の人生を送らず依存症の人の対応を中心にした人生を送ってしまい、そこから抜け出せなくなっている対人関係障害のひとつ。
  19. 共依存関係の中で、アルコール依存症の人の、アルコールを飲む生活を結果的に支えてしまっていることをイネイブリングといいます。飲酒しちゃってる夫が酒を飲み続けるため車で酒を買いに行ったら完全にイネイブリングですし、二日酔いで出勤できない夫のため妻が代わりに会社に「夫が風邪ひいちゃってて、今日は休みます」と電話したとしたらそれもイネイブリング。飲酒が問題で生活がままならなくなってる夫のために妻が生活費を稼ぐのも広く言えばイネイブリングといえます。
  20. 松本俊彦, 人はなぜ依存症になるのか, ストレス科学, 2020, 34(3),154-160 で紹介されいていた文献。内容は未確認 Alexander & Hadaway, Psychol Bull. 1982 PMID:7146233
  21. アルコールなどの物質の性質として依存が生じやすい物があり、苦痛があったときに依存症が生じやすく、そんな状況と物がある中で依存が生じやすい素因があって、それらが関係して依存症が生じていると考えられます。素因については、お父さんやお母さんや親せきに依存症の人がいれば要注意だとわかりますが、一般的には自分にその素因があるかどうかはわからないもの。「誰にでも起こりうる病気」と思っておくべきでしょう。