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Department of Neurology, Shonan Kamakura General Hospital
Daisuke Yamamoto
Diagnostic table for Brain infarctions
まずはここから!
脳梗塞の臨床病型診断入門
Introduction
このスライドは、脳梗塞の3大病型診断を行うための
診断ストラテジーを学ぶためのものです。
3大病型とは、
ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症
です。
これら病型診断は、論理的に行うことができます。
病型そのものが病態を理解する上で重要です。
本スライドの内容を理解すると、
ポイントを押さえた病歴聴取、診察が可能になります。
古典的内容ですが、非常に重要なテーマです。
病型分類診断ができると、治療が決まります。
例えば、脳梗塞の再発予防薬は、
ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞 →抗血小板薬
心原性脳塞栓症 →抗凝固薬
となります。
そして、それぞれ初期治療のアプローチも当然異なります。
まずは病型分類を行うことが、
脳梗塞診療の第1歩になります。
初期評価・コンサルテーションにおいて
ポイントを抑えた病歴聴取を
可能にするためのスライドです。
病型分類の診断表
次に示す診断表を埋めることで、
病型分類ができます。
診断表を理解するための要素を
一つずつ説明していきます。
※アテローム(血)→血栓性機序のアテローム
※アテローム(塞)→動脈原性塞栓症 (A-to-A embolism)
症状進行 皮質症状発症機序 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
塞栓性
血栓性
血栓性
塞栓性
重症
軽症
中等症
中等症
病型一つ一つの概要を
説明していきます。
まずは、三つの
臨床病型について。
ラクナ梗塞 アテローム血栓性脳梗塞心原性脳塞栓症
代表的臨床病型は以下の三つ。
心原性脳塞栓症
最も防ぐべき、重要な病型。
心原性脳塞栓症
一言で言うと・・・心臓の中に血栓ができ
て、脳の血管に詰まる。血栓は大きい。
心臓が悪い人に起こる脳梗塞。
「心房細動」があると、心腔内の
血流のよどみができる。
心房細動がヒント。
動脈血栓よりも巨大血栓ができる。
脳血管にとぶと、
被害は甚大である。
血液のよどみができると、心臓内
に血栓ができる。心腔内の血栓が
脳血管に塞栓を来たして発症。
低心機能でも心腔内血栓はできる。
心不全でも血栓ができうる。
心臓が悪い人の脳梗塞と理解。
心原性脳塞栓症の
画像的特徴
くさび形(点線)02
比較的大きい!03
大脳皮質を含む(実線)01
ラクナ梗塞
特徴的な症候群があり、
イメージしやすい。
ラクナ梗塞
一言で言うと・・・細い血管の脳梗塞。
ラクナ症候群という特徴的な症状に
なる。
ラクナ症候群という症状パターン
を呈する。
細い血管=穿通枝 の脳梗塞。
「麻痺だけの脳梗塞」と
考えてもよい。
ラクナ症候群
ラクナ梗塞では、以下の特徴的な臨床像を呈する。
I. Puremotor hemiparesis 純粋な片麻痺症状
II. Ataxic hemiparesis 失調様の片麻痺症状
III. Dysarthria-clumsy hund synd. 構音障害と上肢の巧緻運動障害
IV. Pure sensory stroke 純粋な半身の感覚症状
大雑把には、「麻痺だけ脳梗塞」(Ⅰ~Ⅲ)なら、
ラクナ梗塞を考える。といってもよい。
頻度は少ないが、「半身の感覚障害だけの脳梗塞」(Ⅳ)もある。
アテローム血栓性
脳梗塞
やや複雑。
太い血管が細くなる場合の脳梗塞。
アテローム血栓性脳梗塞
一言で言うと・・・太い血管の脳梗塞。動
脈硬化の進行による血管狭窄が原因。
血栓性機序と塞栓性機序、両方の発症
機序があるのがポイント。
太い血管とは、MRAで見えるレベルの
血管と理解してよい。
血栓性機序以外の梗塞パターンとして、
塞栓性機序も起こりうる。これが難しい。
動脈壁にあるプラークがとんで
詰まることも。これを動脈原性塞栓症
という。(塞栓性機序)
太い血管の脳梗塞。ラクナ梗塞は細い血管。
血管狭窄があれば、
それより以遠の血流障害が起こることは
イメージしやすい。(血栓性機序)
アテローム
血栓性機序
アテローム血栓性脳梗塞の定義は、「虚血病巣を還流する血
管に50%以上の狭窄がある」です。血管狭窄による血流障害
が、梗塞の原因である場合、『血栓性機序』の脳梗塞と言い
ます。これに対比される発症機序が『塞栓性機序』です。アテ
ロームには二つの発症機序があり得ます。
50%以上の
狭窄病変がある。
アテローム
塞栓性機序
(A-to-A embolism)
塞栓性機序の脳梗塞の場合、どこから血栓がとんできたの
か?が問題になります。心腔内血栓の可能性が高いわけです
が、動脈壁のプラークが塞栓源になることもあります。これを
動脈原性塞栓症(artery to artery embolism)といいます。心原
性脳塞栓症との鑑別が重要になります。
発症機序が大切。
血栓性? or 塞栓性?
発症機序で、
臨床病型を分けられます。
血栓がとんできて、
血管閉塞を起こす。
それが塞栓性機序
である。
塞栓性機序の特徴
を示す。
塞栓性機序
塞栓性
活動時発症!
何かしているときに発症!02
突発完成!
進行なく、一度きり!03
突発発症!
急に症状が出現する!01
「起床時は特に問題がなかった。
9時25分に、立ち上がった瞬間に、急に、意識障害と右片麻痺を発症した。
症状は進行なし。
家人によって救急要請され、救急搬送されてきた。」
【要素抽出】→活動時、突発発症、突発完成型エピソードで症状進行なし。
このような病歴から、塞栓性機序で脳梗塞を発症した。と推測しよう。
塞栓性機序の
具体的病歴。
動脈硬化により、
細くなった血管が
血流障害により
梗塞を来たす。
血栓性機序の特徴
を示す。
血栓性機序
血栓性
症状動揺性!
良くなったり悪くなったり!02
動脈硬化リスクの有無も評価。03
進行性増悪!だんだん悪くなる!01
「ONSETははっきりしないが、朝食時に箸が持ちにくかった。
しばらくしたら良くなった。 そのまま様子をみていたが、
だんだん右手の使いにくさが顕在化した
下肢の運動障害も指摘されたため、walk inでERを受診した。」
【要素抽出】 → 症状進行性、症状動揺性、階段状増悪。
このような病歴から、血栓性機序で脳梗塞を発症した。と推測しよう。
血栓性機序の
具体的病歴。
※アテローム(血)→血栓性機序のアテローム
※アテローム(塞)→動脈原性塞栓症 (A-to-A embolism)
発症機序
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
塞栓性
血栓性
血栓性
塞栓性
塞栓性機序か血栓性機序か、
いずれかがわかると、
病型分類は半分に絞れます。
血管が細くて脳梗塞になったのか
はたまた、
血栓がとんで脳梗塞になったのか
この二つの機序の区別は、病態を考える上で
、治療方針を考えうる上で、重要です。
ただし、塞栓性機序の場合、心原性脳塞栓症
なのか?動脈原性塞栓症なのか?この区別
が難しい症例もあります。
皮質症状の有無?
大脳皮質まで障害が至ると、
「皮質症状」が出現する。
これの有無の確認も重要。
左大脳の皮質症状は、「失語」と「失行」。右大脳の皮質症状は「失認」。
左右いずれかでも皮質障害で、意識障害を認める。ここは丸暗記で!
※皮質障害以外でも意識障害を来たしうるが、ここでは単純化して
理解するために、意識障害→皮質症状として理解してください。
皮質症状は、細かいことはさておき、丸暗記で!
失認(RT)
意識障害
失語(LT)
失行(LT)
皮質症状 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
重症
軽症
中等症
中等症
ラクナ梗塞は
皮質まで至らない。
心原性、アテロームは
皮質まで至る。
重症度?
この項目は参考まで。
皮質症状がある病態をより重症
に、梗塞範囲が大きい病態をより
重症として記載しています。
※アテローム(血)→血栓性機序のアテローム
※アテローム(塞)→動脈原性塞栓症 (A-to-A embolism)
皮質症状 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
重症
軽症
中等症
中等症
心原性 :重症
ラクナ :軽症
アテローム :中等症
で表現しました。
ここまでの知識で
実際にケースの評価を
してみよう
23時頃バタンと音がしたので家人が見に行くと床に倒れていた。意識障害、右
片麻痺あり。救急搬送。既往は慢性心不全。初診時所見は眼球は左共同偏倚、
自発語なし、失語あり。右片麻痺は完全であった。
case1
81歳女性、主訴 意識障害
23時頃バタンと音がしたので家人が見に行くと床に倒れていた。意識障害、右
片麻痺あり。救急搬送。既往は慢性心不全。初診時所見は眼球は左共同偏倚、
自発語なし、失語あり。右片麻痺は完全であった。
case1
81歳女性、主訴 意識障害
【要素抽出】
突発発症
左皮質症状
心臓×
重症
皮質症状
塞栓性機序
症状進行 皮質症状発症機序 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
塞栓性
血栓性
血栓性
塞栓性
重症
軽症
中等症
中等症
活動時突発発症で→塞栓性機序。失語・意識障害あり→皮質症状あり。
意識障害強く重症度→重症。
23時頃バタンと音がしたので家人が見に行くと床に倒れていた。意識障害、右
片麻痺あり。救急搬送。既往は慢性心不全。初診時所見は眼球は左共同偏倚、
自発語なし、失語あり。右片麻痺は完全であった。
case1
81歳女性、主訴 意識障害
34Eureka Presentation
23時頃バタンと音がしたので家人が見に行くと床に倒れていた。意識障害、右
片麻痺あり。救急搬送。既往は慢性心不全。初診時所見は眼球は左共同偏倚、
自発語なし、失語あり。右片麻痺は完全であった。
case1
81歳女性、主訴 意識障害診断:心原性脳塞栓症
左中大脳動脈が閉塞している。
X-rayでは心拡大著明である。
病歴・所見で診断に迫ることができる!
起床時からの軽度の右片麻痺あり、構音障害あり。箸は持てた。発症翌日に
は、朝食時に箸が持てなくなり、症状進行したのでERを受診した。併存症は高
血圧症、脂質異常症。
意識障害はない。失語・失行・失認はない。
case 2
60歳男性、主訴 右不全片麻痺
起床時からの軽度の右片麻痺あり、構音障害あり。箸は持てた。発症翌日に
は、朝食時に箸が持てなくなり、症状進行したのでERを受診した。併存症は高
血圧症、脂質異常症。
意識障害はない。失語・失行・失認はない。
case 2
60歳男性、主訴 右不全片麻痺
安静時発症
血栓性機序
症状進行 麻痺だけ症状(軽症)
皮質症状なし!
【要素抽出】
症状進行 皮質症状発症機序 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
塞栓性
血栓性
血栓性
塞栓性
重症
軽症
中等症
中等症
進行性増悪で→血栓性機序。構音障害・麻痺のみあり→ラクナ症候群。
皮質症状なし→ラクナうたがい。
起床時からの軽度の右片麻痺あり、構音障害あり。箸は持てた。発症翌日に
は、朝食時に箸が持てなくなり、症状進行したのでERを受診した。併存症は高
血圧症、脂質異常症。
意識障害はない。失語・失行・失認はない。
case 2
60歳男性、主訴 右不全片麻痺
起床時からの軽度の右片麻痺あり、構音障害あり。箸は持てた。発症翌日に
は、朝食時に箸が持てなくなり、症状進行したのでERを受診した。併存症は高
血圧症、脂質異常症。
意識障害はない。失語・失行・失認はない。
case 2
60歳男性、主訴 右不全片麻痺診断:ラクナ梗塞
ラクナ症候群を呈している。
中大脳動脈の穿通枝梗塞。
病歴・所見で診断に迫ることができる!
動作緩慢、構音障害で発症。症状は徐々に悪化。発症4日後に近医より紹介され
外来受診。家人からは“いつもとは性格が違うよう”と指摘された。診察所見は、
JCSⅠ-1、疎通性はやや悪い。失語失行失認なし。上肢Barreで左で回内、下垂
はない。下肢Mingazziniで左で軽度下垂。
併存症は高血圧症、脂質異常症。
case 3
75歳男性、元気がない、構音障害
動作緩慢、構音障害で発症。症状は徐々に悪化。発症4日後に近医より紹介され
外来受診。家人からは“いつもとは性格が違うよう”と指摘された。診察所見は、
JCSⅠ-1、疎通性はやや悪い。失語失行失認なし。上肢Barreで左で回内、下垂
はない。下肢Mingazziniで左で軽度下垂。
併存症は高血圧症、脂質異常症。
case 3
75歳男性、元気がない、構音障害
進行性増悪
血栓性機序
意識障害(皮質症状)
右側症状【要素抽出】
症状進行 皮質症状発症機序 重症度
病型診断表
病型
心原性
ラクナ
アテローム(血)
アテローム(塞)
塞栓性
血栓性
血栓性
塞栓性
重症
軽症
中等症
中等症
進行性増悪で→血栓性機序。意識障害あり→皮質症状あり。
血栓性+皮質症状→アテロームうたがい。
動作緩慢、構音障害で発症。症状は徐々に悪化。発症4日後に近医より紹介され
外来受診。家人からは“いつもとは性格が違うよう”と指摘された。診察所見は、
JCSⅠ-1、疎通性はやや悪い。失語失行失認なし。上肢Barreで左で回内、下垂
はない。下肢Mingazziniで左で軽度下垂。
併存症は高血圧症、脂質異常症。
case 3
75歳男性、元気がない、構音障害
動作緩慢、構音障害で発症。症状は徐々に悪化。発症4日後に近医より紹介し外
来受診。家人からは“いつもとは性格が違うよう”と指摘された。診察所見は、
JCSⅠ-1、疎通性はやや悪い。失語失行失認なし。上肢Barreで左で回内、下垂
はない。下肢Mingazziniで左で軽度下垂。
併存症は高血圧症、脂質異常症。
case 3
75歳男性、元気がない、構音障害診断:アテローム血栓性
脳梗塞
右中大脳動脈の狭窄、
それより以遠の多発脳梗塞。
病歴・所見で診断に迫ることができる!
病歴聴取は、ここで学んだ要素を含んでいると、
診断に有用である。
コンサルトするときには、
意識して記載してほしい。
加えて、診察所見としても、皮質症状があるのかどうか?
を評価することが重要であることが、
わかってもらえただろうか。
病歴聴取キーワードのまとめ
発症は突然?
症状は進行?
塞栓性?
血栓性?
皮質症状?
最後に演習問題で
理解を深めてください。
21時 歯磨きをしている途中で何度か歯ブラシを落とすエピソードあり。
ひげ剃りをしたが、右手でカミソリがうまく使えなかった。症状は20分程度
で改善あり。
発症翌日、症状進行なく医療機関へ受診に至った。
演習問題 1
急にカミソリが使えなくなった。
21時 歯磨きをしている途中で何度か歯ブラシを落とすエピソードあり。
ひげ剃りをしたが、右手でカミソリがうまく使えなかった。症状は20分程度
で改善あり。
発症翌日、症状進行なく医療機関へ受診に至った。
演習問題 1
急にカミソリが使えなくなった。
【評価】活動時突発発症で、「塞栓性機序」の脳梗塞を疑う。症状進行もな
く、塞栓性機序に支持的。道具が使えなくなったエピソードは「失行」を疑
う。左大脳の皮質症状疑い。以上より、塞栓性機序+皮質症状であり、1
)心原性脳塞栓症、もしくは、2)アテローム血栓性脳梗塞<動脈原性塞栓
症>を疑う。
演習問題 1
急にカミソリが使えなくなった。
DWI(拡散強調画像)で左大脳皮質を含
む病変あり。画像上も塞栓性機序を疑う
梗塞病変であった。心電図で心房細動
が指摘されたので、最終診断は心原性
脳塞栓症とした。
起床後6時からの構音障害の自覚あり、進行性増悪あり。近医受診し、
ERへ紹介に至った。
ER受診時、問診票記載時に、軽度の書字困難もあり。
演習問題 2
構音障害+書字困難が増悪した。
起床後6時からの構音障害の自覚あり、進行性増悪あり。近医受診し、
ERへ紹介に至った。
ER受診時、問診票記載時に、軽度の書字困難もあり。
演習問題 2
構音障害+書字困難が増悪した。
【評価】症状進行性増悪で、「血栓性機序」を疑う。皮質症状なく、また麻
痺症状だけの症候で、ラクナ梗塞うたがい。詳しくは、ラクナ症候群の
Dysarthria clumsy hand syndrome. (構音障害と一側の巧緻運動障害)で
ある。
DWIでは、左内包後脚、左中大脳動脈
の穿通枝梗塞で、ラクナ梗塞評価に
至った。
演習問題 2
構音障害+書字困難が増悪した。
急性心不全(DCM背景)で循環器内科入院中。最終健常確認時間は前
日就寝時。朝、起床時から話し方がおかしい、発語がうまくできなかった
ため病棟から報告を受けた。
演習問題 3
心不全治療中に発症した失語症。
急性心不全(DCM背景)で循環器内科入院中。最終健常確認時間は前
日就寝時。朝、起床時から話し方がおかしい、発語がうまくできなかった
ため病棟から報告を受けた。
演習問題 3
心不全治療中に発症した失語症。
【評価】低心機能の背景あり。また、心不全治療中の発症で、心原性脳塞
栓症疑い。失語症を疑う所見あり、左側大脳皮質障害を疑う。
DWIで左側島皮質の高信号変化あり。最
終的にも、心原性脳塞栓症の診断。
演習問題 3
心不全治療中に発症した失語症。
11:20 台所で娘と会話中に急に構音障害の出現あり。麻痺はなし。
11:35 救急隊現着時には構音障害の改善あり。
11:50 初診時には明らかな構音障害は消失。
演習問題 4
急に出現し、消失した構音障害。
11:20 台所で娘と会話中に急に構音障害の出現あり。麻痺はなし。
11:35 救急隊現着時には構音障害の改善あり。
11:50 初診時には明らかな構音障害は消失。
演習問題 4
急に出現し、消失した構音障害。
【評価】情報が少なく、評価は悩ましい。明確な発症時間があり、活動時
突発発症なので、「塞栓性機序」の梗塞うたがい。塞栓性機序なので、演
習問題1同様、1)心原性脳塞栓症、もしくは、2)アテローム血栓性脳梗
塞<動脈原性塞栓症>を疑う。
DWIでは右中大脳動脈領域に散
在性点状梗塞病変あり。MRAで
は右中大脳動脈の途絶像あり、
狭窄性病変があり、血管が描出
されていないと考えた。最終診断
は、アテローム血栓性脳梗塞<
動脈原性塞栓症>とした。
演習問題 4
急に出現し、消失した構音障害。
19:30歩行器で歩行している途中に急に左上下肢の運動障害と構音障害
を自覚し、歩けなくなってしまった。19:51救急要請。
20:54病着。来院時には麻痺症状は改善していた。
演習問題 5
突発発症の左上下肢麻痺と構音障害。その後改善。
19:30歩行器で歩行している途中に急に左上下肢の運動障害と構音障害
を自覚し、歩けなくなってしまった。19:51救急要請。
20:54病着。来院時には麻痺症状は改善していた。
演習問題 5
突発発症の左上下肢麻痺と構音障害。その後改善。
【評価】情報が少なく、評価は悩ましい。明確な発症時間があり、活動時
突発発症なので、「塞栓性機序」の梗塞うたがい。塞栓性機序なので、演
習問題1同様、1)心原性脳塞栓症、もしくは、2)アテローム血栓性脳梗
塞<動脈原性塞栓症>を疑う。ただし、3)ラクナ梗塞の「症状動揺性」をみ
ている可能性も考えられる。
来院時には症状なし。DWIでは右
中大脳動脈領域に散在性の梗塞
病変あり。MRAでは血管途絶像
は明らかではない。来院時心電
図で心房細動指摘あり。最終診
断は心原性脳塞栓症。
経過からは、血管の自然再開通
を来たした可能性が考慮された。
演習問題 5
突発発症の左上下肢麻痺と構音障害。その後改善。
このスライドで示されていることは、古典的でありますが、
ずっと色あせない基本的な内容です。
ロジカルに病歴を理解することで、
脳梗塞の基本病型診断が、MRIを施行しなくとも
概ね可能であります。
脳梗塞全体を理解する上でも、重要なコンセプトです。
脳梗塞初期対応の際、コンサルテーションの際、
これらの知識で病歴聴取、診察を進めましょう!
TAKE HOME MESSAGE!

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