１１月１７日〜１９日に行った東北視察のうち、 八戸市の視察報告資料です。 ・市民協働のまちづくり ・中心市街地活性化 ・八戸市ポータルミュージアム「はっち」 について、視察内容・政策を詳しく紹介しています。

1. 東北視察報告書
（八戸市・紫波町・盛岡市・秋田市）
〜八戸市編〜
視察年月日：平成27年11月17日〜１９日
2015年度会派視察
江東区議会 維新・民主・無所属クラブ
作成者：鈴木綾子
写真：八戸市ポータルミュージアム「はっち」（こどもはっち）にて

2. 視察日程

3. 視察目的と概要
視察調査項目と訪問先（青森県八戸市）
１．市民協働のまちづくりについて
２．八戸市中心市街地活性化基本計画について
日時：平成２７年１１月１７日（火）
13:00〜16:00
場所：八戸市ポータルミュージアム
「はっち」（八戸市三日町11-1）
参加者
江東区議会 維新・民主・無所属クラブ
福馬 恵美子議員・鈴木 綾子議員
屋敷田 綾香議員
対応者：まちづくり文化スポーツ観光部 まちづくり文化推進室
松浦陽介主査
①八戸市中心市街地活性化基本計画の概要
【八戸市について】
■人口：236,406人
（201５年３月末現在）
■面積305.54：㎢
■一般会計予算：974億円
■市予算総合計：1903億円
■議員定数：３２人
①市民協働事業の概要
②八戸市学生まちづくり助成金支援制度
③「元気な八戸づくり」市民提案制度
対応者：総合政策部市民連携推進課：安原清友グループリーダー
江東区の区民協働事業の推進や新たな公共施設の運営のあり方を考
えるため、先進地である青森県八戸市を視察。先進事例の事業概要を伺
い、「ポータルミュージアム 『はっち』」の施設を視察。
３．八戸市ポータルミュージアム「はっち」について
①八戸市ポータルミュージアム
「はっち」の概要
②施設内視察
対応者：まちづくりスポーツ観光部
八戸ポータルミュージアム はっち
佐々木 結子館長
八戸市議会事務局 若宮正則主幹

4. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
１．市民協働のまちづくりの経緯とまちづくり事業の変遷
①協働のまちづくり事業の変遷
八戸市では、平成９年の第４次総合計画の中で、市民活動活性化プロジェク
トを掲げ、市民活動促進のための事業を展開。
平成１５年度から本格的に協働のまちづくり事業の地盤づくりに着手し、条例制
定・推進体制の整備・協働の実践を行ってきた。
協働のまちづくり推進施策の策定
②基本理念の策定体制
基本理念の策定については、検討組織として「協働のまちづくり市民会議」を立
ち上げ、「市民による自主的なまちづくりのためのルールづくり」を目指し、全
ての市民がゼロから作り上げるという方針を徹底。事務局は原案やたたき台を一
切提示せず、側面支援として、委員との膝を交えての話し合いに参加。
必要なアンケートやヒアリング、ワークショップなども市民委員自らが実施する
など、積極的な活動を展開。基本理念策定自体が協働の第一歩となった。

5. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
協働まちづくりの基本理念は「協働のまちづくり基本条例」第３条に規定。
「まちづくりは、市民一人ひとりの幸福を目指し、市、市民及び事業者の協働に
行われることを基本」
まちづくりの手法として協働が定義されていることが特徴的である。
①協働の視点：従来から行政が行ってきた市民サービスの分野における協働推
進
②地域コミュニティ振興の視点：地域の課題を住民自らが解決するための地域
力の向上（ソーシャルキャピタルの醸成）
③市民活動・ボランティア活動促進の視点：特定分野の課題解決に専門性を
持って活動している市民活動（NPO）の育成と活動支援。
現在取り組んでいる協働推進施策（主なもの）
■協働のまちづくり推進委員会（年７〜８回）
■協働のまちづくり研修会（市民向け：年２回・職員向け：年１回）
■元気な八戸づくり市民奨励金制度 ■元気な八戸づくり市民提案制度
■住民自治推進懇談会 ■地域コミュニティ計画策定支援事業
■地域担当職員制度 ■ボランティア活動促進事業
■市民活動サポートセンターの運営
■八戸市連合町内会連絡協議会支援事業
■学生まちづくり助成金制度
八戸市の協働のまちづくりの基本理念

6. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
協働推進のまちづくりのための財源「協働のまちづくり推進基金」
出典：八戸市提供資料
市民活動やコミュニティ活動を地域社会全体で支えるための基金を設置して運用
している。市民や事業者の寄付を受け入れ、市でもその寄付に応じた金額を積み
立てるマッチングファンド形式を採用。
地域づくり会議
八戸市では、地域の課題や地域づくりについて話し合う場である「地域づくり会
議」を地域が主体となって開催している。

7. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
協働のまちづくり推進施策
出典：八戸市提供資料
協働のまちづくりを推進するため、地区公民館を核に、地域コミュニティと行政
が協力し合う新たな仕組みを構築。住民自らが地域の課題を解決できるように地
域コミュニティ振興を図っている。
地域と行政のつなぎ役として、地域担当職員を庁内に設置し、２４の公民館の区
域毎におき、地域づくり支援や広報の充実を図るなど、手厚い支援策を実施。

8. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり〜主な施策〜
元気なまちづくり市民奨励金制度
出典：八戸市提供資料
市民活動や地域コミュニティ活動などの市民の自主的な公益性のあるまちづくり
活動を促進し、市民と行政の協働による市民主体のまちづくりを促進するため、
市民活動団体や地域コミュニティ活動団体に奨励金を交付する制度。
平成２６年度実績 初動期支援：２件（交付総額 ２０万円）
まちづくり支援：４件（交付総額 200万円）

9. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
出典：八戸市提供資料
元気なまちづくり市民奨励金制度 事例（平成２６年度）

10. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
「元気な八戸づくり」市民提案制度
まちづくりや地域課題の解決のため、市民活動団体や事業者などから、市民と行
政が協働して取り組むことにより、相乗効果が期待できる事業提案を募集し、採
択した事業を提案者と協力して実施する制度。「市設定テーマ部門」と「自由提
案部門」の２部門がある。
出典：八戸市提供資料
「元気な八戸づくり」市民提案制度 活用事例

11. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
「元気な八戸づくり」市民提案制度 活用事例
出典：八戸市提供資料

12. 参考：江東区の協働事業提案制度
出典：江東区ホームページより抜粋

13. 参考：江東区の区民協働提案制度
出典：江東区ホームページより抜粋

14. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
学生まちづくり助成金制度
学生の地域貢献に対する意識醸成及び活動の促進を図るため、学生が自主的に取
り組む地域振興や、地域貢献に関する事業または活動の企画を公募し、助成金を
交付する制度（上限２０万円）
また、活動実績において、地域の貢献度が最も高い事業等を表彰する。
■対象となる学校：八戸市内の大学・短大・高専（４校）
八戸学院大学・八戸工業大学
八戸学院短期大学・八戸工業高等専門学校
出典：八戸市提供資料

15. 市民活動サポートセンター「ふれあいセンターわいぐ」の運営
出典：八戸市提供資料
青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
市内における市民活動の拠点として、「ふれあいセンターわいぐ」を総合福祉会
館内に平成１４年より設置。八戸市社会福祉協議会が指定管理者として運営。
平成１７年から「有償ボランティア（サポーター）制度」を実施し、平成２７年
３月現在３５名が登録されている。

16. 青森県八戸市：１.市民協働のまちづくり
協働のまちづくりに向けた課題
八戸市の市民協働のまちづくりは、理念の策定の経緯から市民が主体的に参画し、
「まちづくりの手法」として市民活動を定義し、実践的なまちづくり、市政課題
の解決に活かしていることが大きな特徴である。
財源についても、市の通常の財源の他、「元気な八戸づくり市民奨励金制度」
などについては、市民の寄付と市の上乗せ額を活用したマッチングファンド形式
を採用するなど、市民の参画意識を高める仕組みをうまく取り入れている。 学
生の活用に際しては、江東区でも産学連携により、地域のまちづくりに大学との
連携（芝浦工大・武蔵野大学・東京海洋大学）が行われているが、大学の研究
室・ゼミとの連携が多く、八戸市のような「学生まちづくり制度」は制度化され
ていない。区で活動を公募し、助成金を交付することにより学生が主体的にまち
づくりの提案を行い、区内の学校間・自治体間の交流や連携を強めていくことも
重要な視点であると考える。
また、八戸市では、地域担当職員が公民館単位できめ細やかに配置され、地域
コミュニティ活動を積極的に支援していることも特徴的である。
昔ながらの下町と、臨海部など新しい高層マンションエリアなど、地域特性を活
かしたまちづくりを推進するためには、今後住民の主体性を尊重した手厚い地域
コミュニティの活性化支援を区で行うことが重要であると考える。
所感（江東区政へ活かすために）
出典：八戸市提供資料

17. 青森県八戸市：２.中心市街地活性化
八戸市の中心市街地について
①歴史的経緯
八戸市のまちづくりは１８３０年に始まったとされ、八戸城（現在の八戸市
庁）の南側に城下町が形成され、当時の町の骨格が現在までほぼ変わることなく
存続している。八戸市の中心市街地は、市民の商業や文化、生活の場であること
はもちろん、八戸三社の大祭や、八戸えんぶりなどの東東北を代表する歳事が開
催されるなど、伝統を受け継ぐ八戸の顔としても機能してきた。
しかし、平成に入ってからは、郊外型ショッピングセンターや大型店の中心市
街地からの撤退、人口減少等の要因により、中心市街地が衰退傾向にあった。
②中心市街地活性化基本計画の策定
八戸市は、中心市街地の活性化を図るべく、平成１２年に旧中心市街地活性化
法にもとづく計画を策定したほか、平成２０年には現中心市街地法に基づく第一
期八戸市中心市街地活性化基本計画を策定し、八戸市ポータルミュージアム
「はっち」を整備するなど官民が一体となって活性化を推進した。
中心市街地を単なる買い物の場ではなく、郊外のショッピングセンターとの共
存を意識し、人々が活躍し、出会う場として活用することにつとめた。「コンパ
クトシティ」から一歩進み、「コンパクトアンドシティネットワーク」を意識し、
「まち」「ひと」「しごと」の創生に努めたこともポイントである。
その結果、これまでの衰退傾向に歯止めがかかると同時に、民間事業者による
空きビルの再開発の計画が発表されるなど活性化に向けた明るい兆しが見られる。
八戸市では、明るい兆しが確実になるよう、平成２５年５月から平成３０年３
月までを計画期間とする、第２期八戸市中心市街地活性化計画を策定し、引き続
き官民が一体となって活性化に取り組んでいる。

18. 青森県八戸市：２.中心市街地活性化
参考：八戸市の中心市街地について
出典：八戸市提供資料

19. 青森県八戸市：２.中心市街地活性化
「第１期八戸市中心市街地活性化基本計画」の主な取り組み
第１期八戸市中心市街地活性化基本計画では、基本方針として「文化交流」「観
光」「商業」「居住」「交通」の５分野において活性化に資する４７の事業を位
置づけ、官民が一体となって計画に取り組んだ。
出典：八戸市提供資料

20. 青森県八戸市：２.中心市街地活性化
「第２期八戸市中心市街地活性化基本計画」の主な取り組み
第２期八戸市中心市街地活性化基本計画（期間：平成２５年４月〜平成３０年３
月）では、「テーマ」「メインターゲット」を明確にした上で、「都市機能」
「文化・観光」「居住」「交通」の４つの分野毎に基本方針を掲げ、また計画を
推進することによって目指すべき目標を下記の通り設定し活性化を推進している。
出典：八戸市提供資料

21. 青森県八戸市：３. ポータルミュージアム「はっち」
八戸市ポータルミュージアム「はっち」の概要
「はっち」は新たな交流と創造の拠点として、賑わいの創出や、観光と地域文化
の振興を図ることで、中心市街地と八戸市全体の活性化するため整備。2011年2
月11日にオープンした。
八戸の玄関口という意味があり、八戸の情報を手に入れて、まちなかや観光地
に誘う役目を有している。愛称の「はっち」は公募から生まれた。八戸の「は
ち」を親しみやすくしたものと、卵のふ化や出入口などを意味する「hatch」にも
ちなんでいる。
「はっち」は気軽に立ち寄れる場所として、また、文化・芸能活動の拠点とし
て多くの市民に利用され、開館１年目の入場者数は当初の予定（６５万人）を大
きく上回る、８８万人となった。開館４年後となった平成２７年６月には、来館
者が４００万人（人口は２３万６千人）を達成し、中心新市街地の新規事業所数
が８０事業所となるなど、八戸市の中心市街地活性化のシンボルともなっている。
単なる「賑わいの場」「観光・文化の拠点」だけでなく、ものづくりや産業振興など
事業を支援し、収益を生み出す場、雇用創出にもつながっていることがポイント。
写真：視察時に撮影

22. 青森県八戸市：３. ポータルミュージアム「はっち」
八戸市ポータルミュージアム「はっち」施設概要
出典：八戸市提供資料

23. 青森県八戸市：３. ポータルミュージアム「はっち」
八戸市ポータルミュージアム「はっち」館内の様子
はっち１階の広場では「のど自慢」大会が開催されていた。
市民が集まり、交流できる場としての運営を心がけている。
八戸市の文化を代表する「山車」の展示。「はっち」は当初
は「山車会館」及び地域間高交流施設として開設される構
想があった。
八戸の文化や食などを紹介するコーナー。
展示は、「地域の資源を大切に思いながら新しい魅力をつ
くりだすことをモットーとして行っている。
カフェや食堂などが館内に設置されている。運営事業者育成支援も兼ね、テナント料は低廉に設定されている。
館内にあるショップスペース。
起業家支援・育成の意味もあり、スペースは賃料が低廉
に設定されている。

24. 八戸市ポータルミュージアムはっち「こどもはっち」
青森県八戸市：３. ポータルミュージアム「はっち」
「こどもはっち 」は子どもと大人の交流の場として、「はっち」４階に設置。
育児支援機能も備えた遊び場である。 木のぬくもりを感じながら、笑顔溢れる楽
しい時間を過ごせるような明るい場づくりを心がけている。親子遊びや季節のイ
ベント、子育てに関する相談・情報の提供・講習なども実施している。
開設時間：9時30分から16時30分 休場日：第二火曜日、年末年始（12月29日から
1月1日） 入場料：1人100円（乳幼児は無料）
【館内の様子】木をふんだんに取り入れた施設。ボールプールのある木育広場や、
授乳室、遊び場スペースが充実しており、親子連れに親しまれている。
「こどもはっち」入り口にて 館内に設けられた「ボールプール」
館内に設けられた「ボールプール」木をふんだんに取り入れたこどもはっち
授乳室木に親しめる「木育ひろば」木をふんだんに取り入れ、デザイン性もある空間。

25. 青森県八戸市：３. ポータルミュージアム「はっち」
八戸市ポータルミュージアム「はっち」運営経費
出典：八戸市提供資料
歳入約2,900万円に対して、歳出が約２億8,400万円となっており、一般財源か
ら約２億5,000万円を充当しているが、中心市街地及び市全体の活性を目的である
施設であることを考えると、施設利用料を高く設定する事や、事業を減らして事
業費を抑制する事を優先するのではなく、市民や市外からの来館者が利用しやす
い環境づくり、新たな興味関心を喚起して、中心街に足を運びたくなるような事
業の実施を第一線に考え、その実現につとめている。
歳入：施設利用に伴う使用料が収入の半分以上を占めるほか、自主事業の実施に
当たって補助金や助成金などの財源確保につとめている。
歳出：維持管理経費のほか、多様な自主事業の実施経費、イベントの企画運営及
び貸し館受付やサポートなどを賄う人件費が主なものである。

26. 青森県八戸市：中心市街地活性化と「はっち」
質疑応答
所感
■中心市街地活性化について
Q.計画を策定する上で、議会との関係はどうだったのか。
A.計画自体は、市と商工会議所、民間企業が協議会をつくる形で、八戸市と商
工会議所。事業者が協議会をつくる形をとった。
案に対して議会では意見を頂くという形。なお、計画策定は、コンサルティ
ング会社には投げていない。
■はっちについて
Q.ミュージアムショップやカフェの運営について
月額２万円で事業者に貸している。4階にはものづくりスタジオ、レンタルス
ペースをおいている。
はっちのスペースは、起業家支援として役立て、本格的に巣立っていくため
にテナント料、施設使用料は安く設定している。
「はっち」は中心市街地活性化事業の核として整備された施設であり、単なる
箱ものではなく、文化、観光、産業振興、市民協働、起業家支援などあらゆる
要素を盛り込んで、しっかりとしたコンセプトをもとにつくられた大変素晴ら
しい施設であった。
また、デザイン性も大変富んでおり、館内のしつらえや展示についても、八
戸市の文化、観光などをわかりやすく、そしておしゃれに見せるための工夫が
なされていた。展示については市民作家や市民学芸員などによる製作とのこと
で、市民とともに八戸市を盛り上げ、活性化しようという思いが伝わってきた。
館内の運営についても、指定管理者などではなく、八戸市が直営で、市民協
働の視点をふんだんに取り入れていることが分かった。
「こどもはっち」についても単なる子育て支援の場ではなく、「親子が一緒に
遊びたくなる、楽しめる場」としての設計がなされていると感じた。
館長の話からも、八戸市への誇り、地域活性化への熱意が伝わってきた。
「はっち」の開設により、八戸市の中心市街地に人が集まるようになり、空き
テナントの解消や、人口も微増に転じている事など成果が上がっている。
八戸市がこれまで培っていた市民協働によるまちづくりの集大成としても大
きく評価できる。江東区においても人口急増やオリンピックに向けた新しいイ
ンフラ整備が求められており、新たな施設需要も続いているが、計画段階にお
ける区民参加（現在は施設によっては、整備に関するワークショップや地域懇
談会などを実施）を更に進め、運営についても区民協働の視点を盛り込んでい
くことが今後必要になる。江東区の施設整備における提案にも学んだ事を活か
していきたい。