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佐藤優子
認知機能の障害ともの忘れ
パート2:問診・診断
症例:Aさん 90歳女性 かかりつけ診療所にて
•高血圧、両変形性膝関節症にて1回/月の定期通院のために来院
•予診にて看護師より
「Aさん、血圧が170/95と高かったので『今日は血圧が高いけど何かありました
か?』と伺うと『薬がなかったので今朝は薬を飲まずに来た。』と。前回カルテ
確認しましたが今朝の分まで処方はされていました。」
•指導医
「Aさんは今年に入ってから予約日を間違えることも何回かありました。認知症
が心配ですね。」
パート1
0.いつ認知症を疑うか
• 指導医
「Aさんの認知症の可能性についてアプローチしてみましょう。」
「ご本人からもの忘れの相談があった時には認知機能の評価から
行っても良いのですが、今回はご本人が自覚されていない
可能性もあるので、慎重に進めましょう。
ご家族等、ご本人の普段の様子が分かる方の話も参考に、
何回かかけてアプローチしましょう。」
• 研修医
「長谷川式(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)をすればいいで
すか?」
• 指導医
0. 認知症を疑う
1. 加齢に伴うもの忘れ、せん妄、うつ病を除外
2. 問診・身体診察(生活機能、認知機能、運動障害・自律神経
障害、精神症状・行動障害の評価を含む)(1)
3. 治療可能な認知症の除外
4. 認知症の鑑別診断
症候へのアプローチのイメージ
(1)前野哲博編. Gノート. 羊土社 2014;1(2)
パート1:
鑑別診断へのアプローチを参考に
Aさんのカルテより
• 既存症 : 高血圧症、両変形性膝関節症
• 既往歴 : 特になし
• 内服薬 : インダパミド1mg1T1×朝食後、
アセトアミノフェン200mg2T 疼痛時頓服
• アルコール:機会飲酒
• 喫煙歴:なし
H市中心部
H市山間部
90
家族図
• 研修医
高血圧、両変形性膝関節症の診察を通して、意識レベルは清明ですし、
注意力も問題ないので、せん妄の可能性は低いと思います。
Aさんに内服管理に関して伺ったところ答えがあいまいで、取り繕う様
子も見られました。
付き添いで来院されている娘さんにも話を伺ってみます。
問診
•研修医
娘さんの話では昨年頃から徐々に物忘れが増えていたようです。
日時を間違えることも多く、今朝も本人が定期受診の日であることをすっかり忘れて
いたため、受診に付き添うことにしたそうです。これらのエピソードから病的健忘の
可能性が高いと考えました。
ご本人にうつ病のスクリーニングを行いましたが、うつ病の可能性は低かったです。
ADL(activities of daily living)は自立でした。IADL(instrumental
activities of daily living)はご本人は全部自分でやっています、と話されますが、
娘さんによると昨年頃から徐々に同じものを何度も買ってきてしまったり、家事をお
っくうがられるようになり、娘さんが週2回ほど通ってサポートしているそうです。
パート1:
鑑別診断へのアプローチを参考に
問診・身体診察
•研修医
『もの忘れの検査をしてみませんか?』とお話ししたところ、娘さんの勧めもあ
って了解されたので、改訂長谷川式簡易知能評価スケール を行いました。
結果は18点/30点で、時間の見当識、作業記憶、近時記憶、視覚性記憶の項目で
減点を認めました。
運動障害、自律神経障害は認めませんでした。
精神症状、行動障害について娘さんに伺ったところ特に認めない様子でした。
治療可能な認知症に関して、問診・身体診察上は積極的に疑うものはありません
でしたが、以下の採血検査を行おうと思います。
パート1:
鑑別診断へのアプローチを参考に
血液検査
•採血
血算、腎機能、肝機能、血糖、電解質、甲状腺機能、
ビタミンB1、ビタミンB12 等
パート1:
鑑別診断へのアプローチ
3-0治療可能な認知症
を参考に
(1)前野哲博編. Gノート. 羊土社 2014;1(2)
• 研修医
治療可能な認知症の除外目的に血液検査を行いましたが、特に異常
は認めませんでした。ここまでの問診、身体診察からアルツハイマ
ー型認知症を疑い、後方病院に紹介し頭部MRI施行したところ
側頭葉内側面の萎縮を認め、画像所見上もアルツハイマー型認知症
に矛盾はありませんでした。
画像検査
• 頭部CTでできること
陳旧性の脳血管障害、硬膜下血腫、特発性正常圧水頭症、
脳腫瘍などの除外診断
• 頭部MRIでできること
変性疾患の萎縮部位の評価(VSRAD※1なども可能)
• さらに必要時にはSPECT ※2、
シンチグラフィ等
※1 Voxel-Based Specific RegionalAnalysis System for Alzheimer's Disease
※2 Single photon emission computed tomography
パート1:
鑑別診断へのアプローチ
3-0治療可能な認知症
4 認知症の鑑別診断
を参考に
(1)前野哲博編. Gノート. 羊土社 2014;1(2)
パート2:問診・診断
まとめ
0. 認知症を疑う
1. 加齢に伴うもの忘れ、
せん妄、うつ病を除外
2. 問診・身体診察
(生活機能、認知機能、運動障害・自律神経障害、
精神症状・行動障害の評価を含む)(1)
3. 治療可能な認知症の除外
4. 認知症の鑑別診断
本人だけでなく
家族やケアスタッフの話も
参考に!
認知症であっても、ほとんど
の患者は自分から訴えはしな
い!
(1)前野哲博編. Gノート. 羊土社 2014;1(2)

認知機能障害 パート2 問診・診断