ゲーム産業の通史を
書くということ
小山友介
(芝浦工業大学)
『ゲームの歴史』の何がダメか
 面倒なことはサッサと終わらせましょう(笑)
1. 「正解」を書いたつもりでいる
 歴史:新事実で常に変化しうるもの
 例:大化の改新(645→646),鎌倉幕府(1192→1185)
 永遠の「作業仮説」を作り続けるのが学者
 そもそも,内容の間違い多数
2. 視点がブレブレ
 産業史なのか,ジャンル史なのか:いずれにせよ稚拙
3. 余計な記述・無関係な記述が多い
 ゲームの定義に関わるような内容
 いきなり入る,意味不明なジョブス推し
行間の端々から滲み出てくる「俺を称えろ!」はとりあえず無視
自己紹介
 小山友介
 芝浦工業大学 教授
 博士(経済学)
 専門:ゲーム産業論
 産業史は必要に迫られて書いたもの
 本当なら、現在を議論したい人
 懐かしトークは好きですが・・・
 今回の招待
 noteの記事がきっかけ
 1週間で16,000アクセス
今回の内容
 ゲーム産業の通史について議論
 ゲームの歴史全体の中での、産業史の通史の位置づけ
 通史をどう書くか(書くべきか)
 実際に,拙著(日本デジタルゲーム産業史)をどう書いたか
 これらを通して,間接的に『ゲームの歴史』を批判
さまざまな歴史のかたち(1)
 ケーススタディ
 いくつかの情報を纏めて,一つの「歴史的な出来
事」について分析したもの
 米国での市場崩壊(1978,1983)はそれぞれがケース
スタディの対象
 ハードウェア開発だと,個々の機種の開発がケースス
タディの対象
 さまざまな歴史:ケーススタディを元に構成
 時代史:特定の時期に起こった現象を説明
 部門史・領域史:比較的狭いトピックの歴史
 ハードウェア,ゲームジャンル,…
 産業史も部門史の一種:かなり範囲の広い部門史
 多くの研究:部門史かつ時代史
さまざまな歴史のかたち(2)
 通史:歴史の始まりから現代までの歴史のこと
 議論の細かさ:ケーススタディ<時代史<通史
 求められる仕事:全体像を描くこと
 同時に求められること:外部との接続・位置づけ
 社会の中でのゲーム,半導体産業発展史の中でのゲーム,…
 求められる能力の比重が異なる
 大きく3種類:歴史の粒度が高まるほど,下の能力が重要に
1. 調査・取材
2. 理論的分析
3. (分析を通じた)全体像の構築
 ケーススタディ:1.と 2.,通史:2.と 3.,が重要
なぜ,ゲームで産業の通史が重要?
 ゲームにとっての産業史=国にとっての政治体制史
 教科書があったら,真っ先に書かれるべき内容
 ○○政権の成立≒ファミコン(PS)が市場支配
 その他の歴史の議論:産業史の知識は前提
 拙著の出版で議論ベースが整ったと言っていいはず
 同時に・・・産業史の理解:部門史の知識が不可欠
 歴史のターニングポイント:さまざま
 キラータイトル,技術的ブレークスルー,社会的規制・・・
 今後のために,一度産業の通史が出る必要があった
通史の書かれ方
 編年史
 「〇〇年に起こったこと」を書き下す
 典型例:Phoenix IV
 米国家庭用ゲーム産業史(800ページ超!)
 時代史+部門史
 時代区分・トピックを設定し,整理して書き下す
 典型例:The Video Games Textbook
 歴史を通じてゲーム産業を学ぶ本
 PCやスマホも触れられている
 日本デジタルゲーム産業史:時代史+部門史
 時代区分を設定,プラットフォームごとに歴史
Leonard Herman, Phoenix IV: The History of the Videogame Industry, Rolenta Press, 2017
Brian J. Wardyga, The Video Games Textbook: History(2nd edition) • Business • Technology, CRC Press,2023
日本デジタルゲーム産業史でやったこと
 基本的に既存文献の再構成
 全て公開情報から構成
 あえて言うなら:草稿をFBに投稿した際のコメントが業界関係者か
らの(未公開な)情報
 この本のために新たな調査:文献調査のみ
 インタビューやアンケートは行っていない
 究極的には,誰でも書ける(はず)
 ゲームだけでなく,経済学の知識も必要ですが・・・
 それぞれの章で行ったこと
 既存の情報を(再)整理し,見通しを提供する
 ゲーム産業を見る/考えるための視点の提供
もう少し具体的に書くと・・・
 議論の根拠を具体的に示す
 産業史で一番重要なのは売上の数字
 ビジネス雑誌,(少し怪しい)ビジネス書まで探しまくる
 ありきたりの資料を集めるだけでは不十分
→様々な資料からデータを作り出す
 蘇るPC-8801伝説,大技林,DQシリーズのエンディング動画
日経エレクトロニクスのハードウェア分解記事
 わかりやすく整理して示す←年表にはしたくなかった
 作成した図表:100以上
 ビジョンを示す
 1章の時代区分,9章の開発とビジネスの激変提示
16章の「パッケージからサービスへ」という議論
参考:第2章を書くときの主な元ネタ
最初の産業以前のゲームはThe Golden Age of Video Games をほとんどそのまま。
アタリショックは論文+日本語の本。Before The Crashはそれ以外の部分で多用。
余談:ゲームの歴史をどこから始める?
 遡るとキリがない
 それ以降より研究者の関心も薄く,記述が甘くなりがち
 ここで無駄・余計なツッコミを入れられたくない
 拙著の場合:既存文献(一種の権威)そのまま
 ゲームの誕生:既出の海外の本をベース
 国内:ジュークボックス&エレメカ,PC誕生,テレビテニス
 ゲームの場合,そもそも資料が少ない
 記録を残してない中小企業(さらには個人)が多い
 大企業も社史が少ない
 著作権管理がテキトーだったこともあり,あまり掘りたくない可能性
 黒歴史扱い?
著者にとっての日本デジタルゲーム産業史
 執筆目的:産業論のための産業史
 ゲーム産業:単一の市場では無く,複数市場
 ある種の生態系のように議論したかった
 成り立ち,相互影響,変遷・・・
 外部も含めた広義の産業史として述べたかった
 背景:既存研究への不満
 経済学者・経営学者の過去研究
 ゲーム産業=家庭用ゲームだけのような扱いが多い
 近年だと,スマホゲームだけ見たものとか・・・
 理由:ゲーム(産業)を知らない
 個別タイトルも無知だが,何よりも産業の全体像イメージがない
→自分で書くしか無かった
産業論と産業史の関係
ゲーム産業論
• ゲーム産業の実態を議論
• 根拠の無い議論ではダメ
ゲーム産業史
• ゲーム産業の歴史を議論
• 単なる事実の羅列ではダメ
「何を見るべきか」
を提供
「主張の根拠」
を提供
車輪の両輪的関係
日本デジタルゲーム産業史の位置づけ
 研究者による,日本のゲーム産業全体の通史(初)
 好事家・実務家による歴史は存在
 全体の歴史はない:特定ハードウェアの同時代史は多数
 統計データ:不十分なものが多い
 1国のゲーム産業全体の通史:非常に少ない
 中村彰憲,『中国ゲーム産業史』(2018)があるぐらい
 米国の研究(後で紹介)も近いが、アーケードがない
 今後,世界ゲーム産業史が書かれることがあるなら,
1つの(重要な)部品となるはず
 私はとても書けませんが・・・
まとめ
 ゲーム産業の通史
 産業を見る見通しを提供
 他の歴史のための基礎
 取材は必ずしも必要ではない
 数多くのケーススタディがベース
 優良な既存資料を整理して,流れを作ればOK
 拙著:どう使うかは自由
 自分自身:産業論を議論するベースのため
 教育や執筆の参考文献にしてもらえれば本望です

SF大会「ゲームの歴史」セッションで話すはずだったもの