現在の広告におけるジェンダー問題 公共編への話題提供 - 駒澤大学GMS学部 山口 浩
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現在の広告におけるジェンダー問題 公共編への話題提供 - 駒澤大学GMS学部 山口 浩
- 2. • ブログ – ブログ「H-Yamaguchi.net」 http://www.h-yamaguchi.net • Twitter – @HYamaguchi 山口 浩 • 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部 教授 – 国際大学GLOCOM上席客員研究員 • 専門分野：経営学・ファイナンス – リスクマネジメント、ソーシャルメディア、 集合知、仮想世界の経済等 2
- 3. いただいた企画趣旨 • 性的な表現に対して不寛容な空気が醸成さ れている • 公共の場における表現が批判を受け排除さ れる動きが加速している • 「性的に見える女性の表現」は女性の権利を 侵害するのか？ • 過剰な「潔癖」さは多様性を損なうのではな いか？ 3
- 4. ざっくり言うと • 公的な場での表現には一定の制約がある – 近年より厳しい制約を望む声が高まっている – 自由を重んじる立場との間で衝突 • 公的な場では多様性が重んじられる – 多様性の受容は受忍義務を伴う – 異なる主張の「理」を「理解」する必要 • 議論を続けていくことが重要 – 「相手」と「ことば」を選ぶ – 「何のための」に立ち返る 4
- 6. 第5章「広告」 • ネットが広告ビジネスを変えた • 口コミの広告化 • 広告とコンテンツの境界の融解 • ルール間の摩擦 • 広告主の役割 6
- 8. 「メディア」とは • “media” – ━━ n. （pl. me･dia, ～s） 中間; 中庸; 手段, 方法; マスメディア; 媒介（物）, 媒体; 【生物】培 養基; 環境; 生活条件; （絵の具の）展色剤; 霊 媒. • 要するに「間をつなぐもの」 8
- 10. ルール間の摩擦 搾取！ 物質化！ 差別助長！ 10 女性モデル の方が広告 効果高い※ 表現の 自由… 選挙に行こう！ ※Baker&Churchill(1977）. “The Impact of Physically Attractive Models on Advertising Evaluations.” Journal of Marketing Research 14(4): 538-555.
- 11. ジェンダー問題でCMが炎上するケース 11 • 1975年 9月 ハウス食品「私作る人、僕食べる人」 • 1996年 1月 日産スカイライン「男だったら乗ってみな」 • 2012年11月 味の素「日本のお母さん」篇 • 2014年12月 サイボウズ「大丈夫」 • 2015年 1月 サイボウズ「パパにしかできないこと」 • 2015年 3月 ルミネ「働く女性たちを応援」 • 2015年 8月 伊勢志摩市 碧志摩メグ • 2015年10月 AGFブレンディ「旅立ち」 • 2016年 9月 志布志市ふるさと納税「少女U」 • 2016年10月 資生堂インテグレート「今日からあんたは女の子じゃない」 • 2016年10月 東京メトロ「「駅乃みちか (鉄道むすめVer.)」 • 2017年 5月 ユニ・チャームCCHANNEL「生理中の彼女についての彼の本音」 • 2017年 5月 ユニ・チャーム「その時間がいつか宝物になる」 • 2017年 8月 宮城県「涼・宮城の夏」 • 2018年 ５月 キリンビバレッジ「午後ティー女子」 • 2018年12月 資生堂「今日からあんたは女の子じゃない」 • 2019年 2月 LOFT「女の子って楽しい！」 • 2019年10月 日本赤十字社 宇崎ちゃん献血ポスター • 2020年11月 アツギ「#ラブタイツ」キャンペーン • 2021年 3月 テレビ朝日「『ジェンダー平等』とかって 何それ時代遅れって感じ」 • 202２年 ４月 日本経済新聞「月曜日のたわわ」広告 • 2024年 1月 三重交通キャラクター
- 14. • 1975年 9月 ハウス食品「私作る人、僕食べる人」 • 1996年 1月 日産スカイライン「男だったら乗ってみな」 • 2012年11月 味の素「日本のお母さん」篇 • 2014年12月 サイボウズ「大丈夫」 • 2015年 1月 サイボウズ「パパにしかできないこと」 • 2015年 3月 ルミネ「働く女性たちを応援」 →配信中止 • 2015年 8月 伊勢志摩市 碧志摩メグ→公認撤回 • 2015年10月 AGFブレンディ「旅立ち」 • 2016年 9月 志布志市ふるさと納税「少女U」→配信中止 • 2016年10月 資生堂インテグレート「今日からあんたは女の子じゃない」 →放映中止 • 2016年10月 東京メトロ「「駅乃みちか (鉄道むすめVer.)」 →デザイン修正 • 2017年 5月 ユニ・チャームCCHANNEL「生理中の彼女についての彼の本音」 →配信中止 • 2017年 5月 ユニ・チャーム「その時間がいつか宝物になる」 • 2017年 8月 宮城県「涼・宮城の夏」 →配信中止 • 2018年 ５月 キリンビバレッジ「午後ティー女子」→投稿削除 • 2018年12月 資生堂「今日からあんたは女の子じゃない」→放映中止 • 2019年 2月 LOFT「女の子って楽しい！」 →配信中止 • 2019年10月 日本赤十字社 宇崎ちゃん献血ポスター • 2020年11月 アツギ「#ラブタイツ」キャンペーン→キャンペーン中止 • 2021年 3月 テレビ朝日「『ジェンダー平等』とかって 何それ時代遅れって感じ」 →放映中止 • 202２年 ４月 日本経済新聞「月曜日のたわわ」広告 • 2024年 1月 三重交通キャラクター ジェンダー問題でCMが炎上するケース 14
- 16. 公共の場におけるジェンダー表象 • 性的な表現に対して不寛容な空気が醸成さ れている • 公共の場における表現が批判を受け排除さ れる動きが加速している • 「性的に見える女性の表現」は女性の権利を 侵害するのか？ • 過剰な「潔癖」さは多様性を損なうのではな いか？ 16
- 17. 炎上には背景がある 17
- 18. 山口真一（2021）「ネット炎上｢少数の意見｣ が社会の声に見える訳」 • ごく一部の「超極端な人」が、炎上の大部分を占める – 過去1年以内に1度でも炎上に書き込んだことのある人―つ まり「現役の炎上参加者」―は、ネットユーザーのわずか 0.5%（200人に1人） – 炎上1件当たりにネットユーザーのおよそ0.0015%が書き込 んでいる計算 • 実際にはマスメディアが最も広く拡散させて、炎上に参 加するような一部の「極端な人」に情報を届けている – 炎上を知る経路として最も多かったのはテレビのバラエティ番 組（58.8%）だった一方、ツイッターは23.2% 18 https://toyokeizai.net/articles/-/409471
- 19. 「ごく一部」の意見ではない • 女性差別、女性への性加害は歴史的事実 • 徐々に改善されつつ現在もある • 度重なる炎上の背景 – 積み重なった怒りが可視化 – 発言できる立場・力 19
- 21. 痴漢被害の状況 • 東京都在住および東京都へ通勤・ 通学する16～69歳の方で、生涯 に痴漢被害を経験した方の比率 （＝痴漢被害率）は29.9％ • そのうち、電車に関連して生じてい る被害（電車内もしくは／及び駅 構内での被害）率は27.1％ – 女性41.1％ – 男性7.8％ – ノンバイナリー／Xジェンダー33.9％ 21 令和５年度 痴漢被害実態把握調査 https://www.seikatubunka.metro.tokyo.lg.jp/0000002189/R5chikan_summary.pdf
- 23. Gender wage gap 23 日 本 ス ウ ェ ー デ ン ス イ ス 英 国 ノ ル ウ ェ ー ド イ ツ 米 国 フ ィ ン ラ ン ド OECD, Gender Wage Gap https://data.oecd.org/earnwage/gender-wage-gap.htm フ ラ ン ス
- 24. Mean femicide rate per 100,000 population females 2003–2014 by country 24 日 本 ス ウ ェ ー デ ン ス イ ス 英 国 ノ ル ウ ェ ー ド イ ツ 米 国 フ ィ ン ラ ン ド Richard Whittington, Alina Haines-Delmont & Johan Håkon Bjørngaard (2023) Femicide trends at the start of the 21st. century: Prevalence, risk factors and national public health actions, Global Public Health, 18:1, DOI: 10.1080/17441692.2023.2225576
- 26. 「助長するおそれ」は根拠が薄い • 成人の性犯罪者がそれ以外の集団よりもポルノ グラフィの使用が多い • ポルノグラフィの使用や暴露と性犯罪の因果関 係は（相関関係も）認められない • 家族関係が脆弱な青年の場合には、ポルノグラ フィの使用と性的攻撃的行動との間に正の相関 • 家族の支援や友人の存在といった要因が、ポル ノグラフィと性的攻撃行動との関係の緩衝要因 26 高岸幸弘・池上駿（２０２３）「ポルノグラフィの使用・暴露と青少年の性的問題行動との関連」『熊本大学教育学部紀要72: 161-168.
- 27. 東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件 • 1988～89年に発生、猟奇的な手口で社会に衝撃 • マンガやビデオがあふれる自室が報じられ、その後 有害コミック規制やオタクバッシングにつながった • 実際には所持品の大半は一般的な作品だった 27 部屋の隅には、数十冊の雑誌の山があり ました。 どんな雑誌かももちろん確認しました。大 半は、「ＧＯＲＯ」「スコラ」です。２０代の男 性としては、ごくごく普通でしょう。 その中に「若奥様の生下着」という漫画が １冊ありました。ある民放のカメラクルーが それを抜き取って、一番上に重ねて撮影し たのです。 それで、あの雑誌の山が全部、さらにビデ オもほとんどがそういう類のものだという、 誤ったイメージが流れてしまったのです。
- 29. 女性向けの性表現もたくさん • 東京都青少年健全育成条例 – 過激な性描写のある漫画などを 「不健全図書」に指定し、18歳 未満への店頭販売を禁止 • 2022年不健全図書に指定さ れた13冊は全てがBL漫画 29 三崎尚人 @nmisaki https://twitter.com/nmisaki/status/931484933159190528
- 30. Albert EllisのABCモデル • 論理療法 – 人が感じる心理的な問題は、「何が起きたか」ではな く「それをどのように解釈したか」によって起こりうるも のである、とする考え方 30 A（できごと） Activation Event B（信念） Belief C（結果） Consequence
- 31. Albert EllisのABCモデル • 論理療法 – 人が感じる心理的な問題は、「何が起きたか」ではな く「それをどのように解釈したか」によって起こりうるも のである、とする考え方 31 できごと 公共の場に 性表現が出回る 信念 性表現に触れた 男性は性差別・ 性加害をするだ ろう 結果 性表現を 規制すべき
- 32. Albert EllisのABCモデル • 論理療法 – 人が感じる心理的な問題は、「何が起きたか」ではな く「それをどのように解釈したか」によって起こりうるも のである、とする考え方 32 できごと 公共の場に 性表現が出回る 信念 性表現に触れた 男性は性差別・ 性加害をするだ ろう 結果 性表現を 規制すべき
- 33. 公共の場におけるジェンダー表象 • 性的な表現に対して不寛容な空気が醸成さ れている • 公共の場における表現が批判を受け排除さ れる動きが加速している • 「性的に見える女性の表現」は女性の権利を 侵害するのか？ • →性差別や性被害との関連は不明確 残るのは「不快」 • 過剰な「潔癖」さは多様性を損なうのではな いか？ 33 控えめに言っても
- 34. 公共の場に ふさわしいか？ 34
- 37. 日本民間放送連盟 放送基準 • 第1章 人権 – (5) 人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない。 • 第3章 児童および青少年への配慮 – (16) 児童向け番組は、健全な社会通念に基づき、児童の品性を損なうような言葉や表現は避 けなければならない。 – (18) 放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する。 – (21) 児童を出演させる場合には、児童としてふさわしくないことはさせない。特に報酬または賞 品を伴う児童参加番組においては、過度に射幸心を起こさせてはならない。 • 第8章 表現上の配慮 – (48) 不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける。 • 第11章 性表現 – (73) 性に関する事柄は、視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意する。 – (75) 一般作品はもちろんのこと、たとえ芸術作品でも過度に官能的刺激を与えないように注意 する。 – (76) 性的犯罪や変態性欲・性的倒錯を表現する場合は、過度に刺激的であってはならない。 – (77) 性的少数者を取り上げる場合は、その人権に十分配慮する。 – (78) 全裸は原則として取り扱わない。肉体の一部を表現する時は、下品・卑わいの感を与えな いように特に注意する。 – (79) 出演者の言葉・動作・姿勢・衣装などによって、卑わいな感じを与えないように注意する。 • 第15章 広告の表現 – (123) 視聴者に不快な感情を与える表現は避ける。 37
- 39. 街のモニュメントなぜ女性の裸体？ 「公共の場にこれほど多いのは日本だけ」 • 神戸新聞2021/5/2 • 三宮のフラワーロード、三宮駅北側から東遊園地東側に かけて３５の彫刻作品が点在、うち女性裸体像は１３点、 男性裸体像は１点 • １９６０年代後半以降、「彫刻の街」を目指した • 戦前の軍人像に代わって歴史性、政治性の薄い「乙女 の像」 • 欧州では少女の裸体像は美術館などの屋内や庭園な ど私的空間に限られる（亜細亜大国際関係学部高山陽 子教授（文化人類学）） 39
- 40. 人魚像（コペンハーゲン） • 1913年 設置 • 1961年 下着を描かれた • 196３年 全身を赤く塗られた • 1964年 頭部を切断された • 19７３年 頭からペンキをかけられた • 1976年 全身を赤く塗られた • 1984年 右腕を切断された • 1990年 頭部を切断された • 1998年 頭部を切断された（ラディカルフェミニスト） • 200３年 台座を爆破され海中に • 2004年 ブルカをかぶせられた（トルコEU加盟） • 2006年 手にディルドーを持たされペンキをかけられる（国際女性デー） • 2007年 ペンキを2回かけられる • 2007年 イスラム装束がかけられ頭にスカーフが巻かれた • 2017年 全身を赤く塗られ近くに「鯨を守れ」と書かれた文字が置かれた • 2017年 ペンキをかけられた • 2020年 「FREE HONG KONG」と落書き • 2020年 「RACIST FISH」と落書き（リトルマーメイド関連？） • 2022年 デンマーク国旗の色をした帽子をかぶせられ、「カタールでは1万5000人が死亡し た。ワールドカップ万歳」と書かれたプラカードを持たされた 40 西日本新聞2018/8/16
- 42. 田中辰雄「月曜日のたわわ」を人々はどう 見るか（2022） • この広告に問題を感じているのは女性のうち3割強である。5 割程度は表現の自由として容認している。 • 年齢が若くなるほど容認派が増える。20代女性で問題を感じ る人は40代以上の女性の半分程度にとどまっている。 • 一方、広告を問題視する人が多いのは、既婚者、クリエイター、 痴漢に厳罰を求める人、フェミニズム賛同者である。 • 古くからある正義vs言論・表現の自由の対立軸がここでも働 いている。一般論として正義を重視する人が広告を批判し、言 論・表現の自由を重視する人が広告を容認している。 42 https://synodos.jp/opinion/society/27932/
- 43. 「たいていのものごとは人による」 • そもそも人は多様 – あらゆる表現が誰かの地雷 – 全員に許容される表現は存在しない • 多様性の受容は「不快の受忍」 – 表現には「届けたい相手」がいる – 「not for me」は必ずある – 少数派を黙らせていいのか 43
- 44. ゾーニングで解決する？ 44
- 45. 表現の不自由展・その後（2019） • あいちトリエンナーレ2019で企画 – 企画テーマ「慰安婦」問題、天皇と戦争、植民地 支配、憲法9条、政権批判など」 – 慰安婦像や「昭和天皇の写真を燃やし、灰を踏 みつける映像」などを展示 – ゾーニングのうえ写真撮影・SNS投稿禁止 – テロ予告等もあり開催3日目で中止決定 – 再開を求める声を受け会期末に展示再開 – 文化庁が補助金全額不交付→減額交付決定 – 名古屋市が補助金残額不払い→敗訴し交付 45
- 46. 埼玉県営プール水着撮影会（2023） • 6月に予定された有料水着撮影会に対し、直 前に埼玉県公園緑地協会が一時中止を要請 • 日本共産党埼玉県委員会ジェンダー平等委 員会と日本共産党埼玉県議会議員団がルー ルに違反しているとして貸出禁止を県に申し 入れ、これを受けて協会が他のイベントも貸し 出し禁止 • 違反していない団体の撮影会も中止に • 県知事が中止要請撤回を求める指示 46
- 49. 女性向けの性表現 • 東京都青少年健全育成条例 – 過激な性描写のある漫画などを 「不健全図書」に指定し、18歳 未満への店頭販売を禁止 • 2022年不健全図書に指定さ れた13冊は全てがBL漫画 49 三崎尚人 @nmisaki https://twitter.com/nmisaki/status/931484933159190528 ゾーニング自体が 事実上の検閲になりうる
- 50. 広告 • 「商業上の目的で、商品やサービス、事業など の情報を積極的に世間に広く宣伝すること。ま た、そのための文書や放送など」 • 広く受け入れられる表現をめざすのは当然 50 Attention Interest Desire Memory Action 広告の役割 目的はここ 国家の検閲より私企業による「検閲」の方が広範囲
- 51. 民間企業による事実上の検閲 • 国家の検閲より私企業による「検閲」の方が 広範囲で影響が大きい – 公表以前に機会そのものが奪われる • 海外プラットフォーム企業の本国ルールの制 約を受ける – ウェブのプラットフォーム型サービス – クレジットカードなどの決済サービス 51 ここにも「ルール間の摩擦」
- 63. 誰が弱者か • 誰もが声を上げられることにより「強者⇔弱者」 の関係の複雑さがあきらかに 63 所得 職業 居住地 性指向・性自認 宗教 白人男性 白人女性 黒人男性 黒人女性 アジア人男性 アジア人女性 ？ ？ ？ ？ ？ ？ 趣味 ？ ？ 疾病・障害 容姿 ？ ？ 年齢 世代 ？ IT 知識 育児
- 65. 『ゼクシィ』広告（2023年） • 「あなたが幸せなら、それでいい。」 – 多様なあり方に寄り添う姿勢とも見えるが・・・ • 性的少数者からの批判 – 「同性カップルは結婚を選べない」 65 https://www.businessinsider.jp/post-279241
- 66. J.K.Rowlingの「炎上」（2020） • “So I want trans women to be safe. At the same time, I do not want to make natal girls and women less safe. When you throw open the doors of bathrooms and changing rooms to any man who believes or feels he’s a woman – and, as I’ve said, gender confirmation certificates may now be granted without any need for surgery or hormones – then you open the door to any and all men who wish to come inside. That is the simple truth.” 66 https://www.jkrowling.com/opinions/j-k-rowling-writes-about-her-reasons-for-speaking-out-on-sex-and-gender-issues/
- 67. トランスジェンダーに関する法制 • LGBT理解増進法 – 2023年6月成立 – 反対論が根強く紆余曲折 • LGBTに対する差別意識 • 「性自認」への懸念 • 最決令2(ク)993 – 性同一性障害特例法の手 術要件は違憲 – 外観要件は差戻審で 67 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/539518 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC1000000068 https://abema.tv/video/episode/89-71_s10_p5615 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92527
- 68. トランスジェンダーに関する議論 • 自分が利用するトイレを、トランスジェ ンダーが自身の性自認に沿って利用 することについて聞いたところ、「抵 抗はない」と回答した女性は22年は 42.3％で、17年から10ポイント以 上増加。「どちらかといえば抵抗はな い」を含めると7割に上った。 – 男性も22年の調査で、「抵抗はない 」「どちらかといえば抵抗はない」を 合わせて7割 • トランスジェンダーの選手の大会参 加について、パリオリンピックで行 われる32競技、合わせて33の国 内競技団体にアンケートを実施 – トランスジェンダーの選手の大会参加に ついて40％を超える団体が「議論を行 っている」、または「行う予定」 – 「行う予定はない」、「検討を行っていな い」と答えたのは全体の55％ 68 https://www.tokyo-np.co.jp/article/257158 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240125/k10014331 431000.html
- 71. 公共の場におけるジェンダー表象 • 性的な表現に対して不寛容な空気が醸成さ れている • 公共の場における表現が批判を受け排除さ れる動きが加速している • 「性的に見える女性の表現」は女性の権利を 侵害するのか？ • 過剰な「潔癖」さは多様性を損なうのではな いか？ • →「多様性を損なう」→他の権利を侵害 71
- 73. 目的を達成するための戦略 • ×相手を抹殺したい • △相手を黙らせたい • ◎望ましい状態を実現したい 73 性差別・性加害 がある どこを変えれば いい？ 性差別・性加害 を減らす 現状 戦略 望ましい状態 性表現規制では 目的を達成できない 他の権利も侵害する
- 74. 目的を達成するための戦略 • ×相手を抹殺したい • △相手を黙らせたい • ◎望ましい状態を実現したい 74 性差別・性加害 がある どこを変えれば いい？ 性差別・性加害 を減らす 自由と多様性が 守られる 性表現規制が 強化されそう どこを変えれば いい？ 現状 戦略 望ましい状態 バランス すり合わせ
- 75. 「たいていのものごとは人による」 • 外集団同質性バイアス – 自分の所属する集団に比べて他の集団の同質性を 高いものとみなす認知バイアス – 外集団に対するステレオタイプ的な判断を過大評価 75 男性も女性も（その他の属性も）人は一様ではない 二分法思考（Yes or No / 女 vs. 男）に陥らない
- 77. 異なる主張に耳を傾ける • たいていの主張にはそれなりの「理」がある • 対立点はどこか、「イシュー」は何か • 共有できる価値観、協力できる余地はないか 77
- 78. 多数者に向かって語りかける • 目的は「批判者を論破」ではなく 「賛同者を増やす」 • 賛同する人＋賛同してくれそうな人 • どのグループにもいる「アレな人」は 相手にしない 78
- 79. 議論を続ける • 「唯一の正解」も「銀の弾丸」もない • できることとできないことを区別する • 相手を選べ • ことばを選べ • 「そもそも何のために」に立ち返る 79 メディアの役割は こうした議論の場を作ること
- 80. まとめ • 公的な場での表現には一定の制約がある – 近年より厳しい制約を望む声が高まっている – 自由を重んじる立場との間で衝突 • 公的な場では多様性が重んじられる – 多様性の受容は受忍義務を伴う – 異なる主張の「理」を「理解」する必要 • 議論を続けていくことが重要 – 「相手」と「ことば」を選ぶ – 「何のための」に立ち返る 80