D論発表用
- 1. 「日本型環境倫理における
風土論の可能性」
The Possibility of Fudo Theory in Japanese Environmental Ethics
連合農学研究科
農林共生社会科学専攻
農林共生社会科学大講座
太田和彦
- 2. 本論の章構成
• 序章 研究背景の整理
• 第1章 戦後日本の環境運動
• 第2章 20世紀の北米の環境運動
• 第3章 再帰性のみで社会を設計すること、
およびその弊害
• 第4章 風土の構造、風土論の射程
• おわりに
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- 3. 現在の日本で敷衍されている
環境倫理の理論 序章 研究背景の整理
環境倫理学 日本的自然観、仏教的自然観
(environmental ethics)
「自然物の客観的内在的価値」 「多神教的性格」
「動物の権利」 「生命平等観・不殺生思想」
「スチュワードシップ」… 「欲望主義からの脱却」…
いずれも日本の環境運動の現場と乖離しているという批判がある
環境プラグマティズム
(environmental pragmatism)
「収束仮説」
「自然/人間の二元論の否定」
「道徳的多元主義」…
本論は乖離の解消のための環境倫理の理論の導出を試みた
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- 4. 本論の流れ
1. 戦後日本の環境運動史を概観することで、日
本の環境運動が、地域の生活環境保全と関連
せざるをえないものであることを確認した。
2. 現在の日本の環境運動が抱える問題の一因を、
個人及び組織の「再帰性」が前提としている、
世界や他者への「信頼」の喪失として位置づけ
た。
3. 環境倫理の理論のなかに、再帰性が前提とす
る「信頼」を支える要素を位置づけることを目指
した。
4. この要素として「儀礼」(E.ゴフマン)に着目した。
そして地域の儀礼を、日本の環境倫理の理論
として位置づけるうえで「風土」の有効性を提起
した。 4
- 5. 日本と北米の環境運動の対比
• (序章の図)
日本 北米
中心的役割 地方自治体 > NPO、NGO 巨大NPO、NGO
を果たす主体 (ex.「ビッグ・テン」)
環境運動の 保全(conservation) 保存(preservation)
方針
環境運動の ・公害問題、乱開発への反対運動 ・森林や希少な生物の保護、国立
出発点 (急激な産業化、変容を余儀なくさ 公園の設置
れる地域) ・「動物の権利」論
環境運動の ・公害反対運動は、労働運動、消 ・フロンティアの消滅と開拓者精神
歴史 費者運動でもあり、しばしば国家と の涵養。
の対立のなかで行われた。 ・公民権運動に代表される、権利
範囲の拡大。
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- 7. 戦後日本の環境運動史の概観
第1章 戦後日本の環境運動
長谷川(2003)など
時期 典型事例
50、60年代 • 四大公害問題
公害告発期 • コンビナート建設 「防衛型」
70年代、80年代前半 • 高速交通公害
生活環境期
80年代後半、90年代 • 反原発運動
「新しい社会運動」期
90年代
「地球環境」期 「環境倫理学」の紹介
90年代後半、2000年代 • グリーン電力
事業化・制度化期 「予防型」
日本で環境運動から環境倫理を導こうとすると、
地域問題と関連せざるを得ない。
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- 8. 戦後日本の環境運動の特徴
「利害当事者としての地域〈住民〉を中心とする生活防衛的
な住民運動がまずあって、その後、良心的構成員としての
〈市民〉が普遍的な価値の防衛をめざして参入する、という
形をとりやすい」
(長谷川、2003)
• このような、〈住民〉/〈市民〉の区別は、欧米には見られない。
(cf.船橋、1988)
→戦後日本の環境運動においては〈地域自治体の単位で、
生活空間としての環境を保全する〉運動のための環境倫理
の理論が必要。
• 80年代「新しい環境運動」期から、環境運動と、参加者の自
己アイデンティティとの関連が強まる。
→地域単位での「フレーミング」(運動の主観的意味づけ)
の重要性。
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- 9. 「フレーミング」とは何か
(社会運動分析の三角形 長谷川、2003)
新しい社会運動論
社会運動の参加主体
の主観的意味づけ。 変革志向性
(Snow, 1986) 政治的
機会構造
フレーミング
参加者の生活意識、文化、世界観と
密接に関連している。
(cf.巻町の住民投票)
不満 集団行為
集合行動論 資源動員論
動員構造
「環境倫理学」、「環境プラグマティズム」は
日本の環境運動においてフレーミングに寄与するか? 9
- 10. 第2章 20世紀の北米の環境運動
「環境倫理学」
・生態系生態学への反動
・キリスト教的創造説という文化的土壌
北米の環境運動の成果と問題点のフィードバック
・政治ロビー活動への回帰
・保全生態学の興隆
「環境プラグマティズム」
文化的背景、環境運動の出発点、歴史が異な
るため、困難。
日本の環境運動のフレーミングの基礎となる理論は、
日本的自然観、仏教的自然観で十分か?
情緒主義、態度主義化の可能性 10
- 11. 本論の流れ
1. 戦後日本の環境運動史を概観することで、日
本の環境運動が、地域の生活環境保全と関連
せざるをえないものであることを確認した。
2. 現在の日本の環境運動が抱える問題の一因を、
個人及び組織の「再帰性」が前提としている、
世界や他者への「信頼」の喪失として位置づけ
た。
3. 環境倫理の理論のなかに、再帰性が前提とす
る「信頼」を支える要素を位置づけることを目指
した。
4. この要素として「儀礼」(E.ゴフマン)に着目した。
そして地域の儀礼を、日本の環境倫理の理論
として位置づけるうえで「風土」の有効性を提起
した。 11
- 12. 現代の日本の環境運動が
抱える問題とその原因
第3章 再帰性のみで社会を設計すること、およびその弊害
「情緒主義、態度主義」化にいたる、
文化・伝統の無前提な擁護はなぜ起こるのか?
●ギデンズの「ポスト伝統社会」論
• 現代は、伝統を維持することが自明なものとは見なされなくなった
ポスト伝統社会である。(「伝統が失われた」のではなく、「伝統の
特権性が失われた」社会)
• ポスト伝統社会において、人々の行為を型にはめ込むことは、そ
れが社会や制度の変容の過程と連動していない場合、無意味とな
る。個人及び組織には、自分自身の行為を分析するために自分
自身の行為を振り返る「再帰性」が求められる度合が増える。
• しかし再帰的行為は、世界や他者への「信頼」を前提としている。
• 文化・伝統の無前提な擁護は、ポスト伝統社会における、信頼・同
化の強要として起こる。
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- 13. 伝統社会
「時空間の分離」
時間や空間がニュアンスを失い、
客観的で空白的で均一的になる。
「象徴的通標」の創造 「専門家システム」の確立
(ex.貨幣) (ex.弁護士、建築家、医師の知識)
「脱埋め込みメカニズム」
ポスト
伝統社会
象徴的通評、専門家システムの共通点は、 「信頼」(trust)
「信頼の対義語は『不信(mistrust) 』ではない。
『生きる上での不安(existential angst: 実存的不安)』である」
ギデンズ、1993
個人・制度において必要とされる 「再帰性」(reflexivity)の、増大。
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- 15. ポスト
「見さかいなく働く」再帰性の影響 伝統社会
「道徳の無関連化」
(バウマン、2001)
○○は、○○であるがゆえに価値をもつ、ということは
想定できない。同様に、地縁・血縁などを、人と人の間
の親密さの、無条件の前提にはできない。
「親密な関係の変容」
しかし、無条件に信じられるものに人は魅かれる。
組織内に「親密さ」を無条件でもたらすために、無条件に
「原理主義」化は 価値のあるものをおく。日本においては、文化・伝統の純
ポスト伝統社会と 粋性の強調、無前提な擁護にもとづく、情緒主義、態度主
義として表出する可能性が高い。
深く関連
→集団内部の統制はとれるが、外部との交流は希薄化。
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- 16. 本論の流れ
1. 戦後日本の環境運動史を概観することで、日
本の環境運動が、地域の生活環境保全と関連
せざるをえないものであることを確認した。
2. 現在の日本の環境運動が抱える問題の一因を、
個人及び組織の「再帰性」が前提としている、
世界や他者への「信頼」の喪失として位置づけ
た。
3. 環境倫理の理論のなかに、再帰性が前提とす
る「信頼」を支える要素を位置づけることを目指
した。
4. この要素として「儀礼」(E.ゴフマン)に着目した。
そして地域の儀礼を、日本の環境倫理の理論
として位置づけるうえで「風土」の有効性を提起
した。 16
- 17. 世界や他者に対する人々の「信頼」は
どのようにして維持されているのか
日々の決まりきった「ルーティン」によって、人々は世界や他
者に対する存在論的不安を忘れる。またルーティンを介して、
人や事物についての現実を共有する。
(ギデンズ、1990=93)
着目 反論
あらゆるルーティンが信頼を支えるのではない。神や超越
的なものとの交流を象徴するような機能をもつ宗教的ルー
ティンこそが、人々の世界や他者に対する信頼を支えてい
るのではないか。
(樫村、2009 )
着目
挨拶のような日常的な相互行為を、宗教的ルーティンとして位
置づける。
(ゴフマン、1967=2002) 17
ゴフマンの議論を環境倫理の理論に位置づける。
- 18. 本論の流れ
1. 戦後日本の環境運動史を概観することで、日
本の環境運動が、地域の生活環境保全と関連
せざるをえないものであることを確認した。
2. 現在の日本の環境運動が抱える問題の一因を、
個人及び組織の「再帰性」が前提としている、
世界や他者への「信頼」の喪失として位置づけ
た。
3. 環境倫理の理論のなかに、再帰性が前提とす
る「信頼」を支える要素を位置づけることを目指
した。
4. この要素として「儀礼」(E.ゴフマン)に着目した。
そして地域の儀礼を、日本の環境倫理の理論
として位置づけるうえで「風土」の有効性を提起
した。 18
- 19. 日本型環境倫理における、
「風土」概念を介した儀礼の位置づけ
第4章 風土の構造、風土論の射程
亀山、2005 風土論において、儀礼は
「b.共同関係・文化」である
と同時に、
地域の「a.生活的自然」と
の「c.身体的関わり」でもあ
る。
地域の産業・生業・生活行
為の様態と変化のなかで、
儀礼は調整される。
ある儀礼の画一的な押し
つけによる態度主義化を
回避。 19
- 20. 日本型環境倫理の理論しての
風土論の課題
• 都市化・市街化が進み、風土性が喪失した地域
においてはどう対処するのか。
→複合的な生業の形成と同時進行で、風土性の
回復を見込める。(亀山、2005)
• 「単一の風土」という国家主義的なイメージをも
つ風土概念は、地域単位での環境保全運動に
援用できるか?
→「日本人論としての風土論」との区別。
→風土を実体的な対象として扱わないための理
路を、和辻の仏教研究と風土論の関連性から析
出することによって対処できる。
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- 21. 日本型環境倫理の理論としての
風土論の展望
• 「複合的な生業の形成と同時進行で、風土性の回
復を見込める」のはなぜか?
→ 「c.身体的関わり」 のなかでも「技術的関係」が風
土の個性・型を基礎的に規定するから。(亀山、2005)
ハイデッガーの道具論を、
複層的な所有の原理として読み替えたのが、
和辻の風土論であるから。(太田、2013)
複層的な「存在=所有」を肯定し、
世界観として理論づける視角としての風土論。
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- 22. 配布資料中の参考文献
• 太田和彦(2013)「ハイデッガー道具論と和辻風土論 〈最適動線〉概念の
導入」『比較思想研究』39巻、1号(印刷中)
• 樫村愛子(2007)『ネオリベラリズムの精神分析 なぜ伝統や文化が求め
られるのか』光文社
• 亀山純生(2005)『環境倫理と風土 日本的自然観の現代化の視座』大月
書店
• ギデンズ・A(1993)『近代とはいかなる時代か? モダニティの帰結』松尾
精文/小幡正敏訳、而立書房
• ゴフマン・E(1986)『儀礼としての相互行為 対面行動の社会学』浅野敏夫
訳、法政大学出版局
• バウマン・Z(2001)『リキッド・モダニティ 液状化する社会』森田典正訳、
大月書店
• 長谷川公一(2003)『環境運動と新しい公共圏 環境社会学のパースペク
ティブ』有斐閣
• 舩橋晴俊(1988)「構造的緊張の連鎖的転移」船橋晴俊他『高速文明の
地域問題 東北新幹線の建設・紛争と社会的影響』有斐閣、155‐187頁
• Snow,A.,et al,1986,"Frame Alignment Processes, Micromobilizationand
Movement Participation" American sociological Review,51:464‐81.
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