世代間正義と科学技術倫理


             2012.11.18   総合研究大学院大学
             科学技術社会論学会 ワークショップ
     世代間倫理と共同体――環境と科学技術の倫理と法

 1               吉良 貴之 (法哲学)
                  jj57010@gmail.com
本ワークショップの開催趣旨

「将来世代」にかかわる科学技術倫理について法哲学、

環境倫理学、環境法学などの観点から多角的に考える。


特に3.11以後の日本の言説空間の変容を念頭に置き、
そこにいたる歴史的経緯、その論理構造、および今後
考えうる法的な問題のあり方をテーマとする。



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本ワークショップの流れ (1)

吉良貴之(法哲学)が問題状況を概観し、世代内・世代
吉良貴之
間の「分配」の正義の問題として将来世代問題を考察
する。想像力を涵養するための有用なツールとして、
「世代会計」を紹介。

川瀬貴之(法哲学)が、昨今のリベラル・ナショナリズム
川瀬貴之
論の知見をもとに、「責任」概念の哲学的な整理を行う。
特に「集団としての責任主体」のあり方について。

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本ワークショップの流れ (2)

森下直紀(環境史)が、芦浜原発反対運動を素材に、
森下直紀
具体的な歴史的経緯を追いながら、ある共同体の内部
/外部における各アクターの動きを分析し、そこにおけ
る環境思想の変容を読み解く。

長島光一(民事訴訟法)が、世代間倫理や将来世代問
長島光一
題にかかわる法原理(予防原則など)の、具体的な訴訟
における法的な扱い方について考察し、全体のまとめと
する。                         4
問題状況 (1) 3.11以後の「将来世代」

 民主的政治過程に乗りにくいステークホルダーとしての
 「将来世代」の可視化。

 現在世代のみならず、将来世代をぼんやりと含みこむ共
 同体の「絆」。


→ 世代内・世代間の資源/リスクの分配の正義の問題は
むしろ見えにくくなっているのではないか?

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問題状況 (2) エネルギー政策をめぐって

「予防原則」的な「脱原発」への急速な流れ

「脱貧困」運動との緊張関係

地球温暖化リスクの「証明責任の転換」

「世界正義 (global justice)」問題としての原発輸出

→ 国内・国外の現在世代内の多様性への配慮は
十分になされているか?

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世代間正義論の問題設定

 いまだ存在しない将来世代と、いま存在する現在世代の
 間の規範的な関係を考える。

 将来世代・現在世代(場合によって過去世代)との間の
資源・リスクの分配 の正義のあり方。

→ 「存在しない」人々になぜ配慮する責任があるのか?
→ 正当化   (justification)   根拠の問題

→ 分け合う人数が不確定: 配慮の時間的範囲
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世代間正義論の系譜

John Rawls, A Theory of Justice, 1971
「貯蓄原理 (saving principle)」あたりが火付け役。

その後、Derek Parfit, Reasons and Persons, 1984 で
急速に理論的深化、現在に至るホットイシューに。

日本では、加藤尚武 『応用倫理学のすすめ』(1991年)で
本格的に紹介される。

日本では主に倫理学者によって進められてきた
(なので世代間「倫理」がよく用いられる)。
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科学技術倫理、 『責任という原理』

Hans Jonas, Das Prinzip Verantwortung, 1987

ヨナスによる責任の二分類
  (1) 影響力の射程にともなう責任:
       科学技術はその影響力の時間的範囲を将来にわたって延ばし
       続けており、用いる人々の責任も時間的に拡張される。

  (2) 創始者としての責任:
       親子関係が責任の原型
       親子関係が責任の原型
       存在を「生み出す」ことによって、人々はそれを庇護する責任を
       負うことになる。                               9
将来世代に対する「責任」とは?
 1. 保全
   良好な環境の維持: 持続可能な発展
   枯渇資源の保存: Locke 的但し書き

 2. 是正
   すでになされた環境破壊の回復
   制度的加害論 (Thomas Pogge)

 3. 予防
   予防原則 (precautionary principle)
   世代間平等                            10
責任主体の範囲は?

1. 能力説
    責任を負うことのできる主体が配慮する責任を負う。

    範囲が比較的明確であるが、正当化根拠が弱い。

2. 応益説
    将来世代に影響のある行為から利益を得ていること。

    正当化根拠が強いが、範囲が不明確。

3. ほか、普遍化可能性、功利計算など。
→ 責任主体の同一性問題について、川瀬報告          11
責任と動機付け

 将来世代に対して配慮する責任があるといえるとして、
 それはいかにして実践されるのか?

   将来を配慮する動機
          動機はどこにあるのか?
          動機

   道徳的正当化と動機の内在主義/外在主義: メタ倫理

   正義の実現可能性 (feasibility) の問題


世代「内」の分配でも大きな対立があるにもかかわらず、
将来世代を含む世代「間」の責任は動機調達がより困難
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世代会計というツール

一般的定義:
現在時点での政策を所与とした場合に、過去から
将来世代にわたる各個人の、政府との関係における、
受益と負担のバランスを可視化するもの。

Laurence Kotlikoff (1991) らの研究に始まる。その後、
算出方法など精緻化。.

日本でも内閣府や厚労省、民間シンクタンクなどが
それぞれの計算式で発表。
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世代会計の計算例   この計算では50歳前後が
            損益分岐点になる。




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世代会計の国際比較   日本の世代間不均衡は
            諸外国と比べて大きい。




                2つの図は、加藤久和
                『世代間格差』
                (筑摩書房、2011年)
                より。

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まとめ: 世代間不均衡を可視化する意味

メリット
 若年世代の政治的関心を高める
 老年世代の責任感を高める: 「逃げ切り」防止

デメリット
 世代間対立の激化、それにともなう無力感?
 国単位で算出することのアンビバレンス


                       時間的延長
将来世代への責任の基礎としての想像力の時間的延長
責任主体としての国民国家(ネーション・ステイト)の意義
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2012.11.18 科学技術社会論学会 (総研大)