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心理学
担当:佐藤勝義
katsuyo0907@gmail.com
第6,7回
適応とは
人間の不適応のメカニズムを知り,
適応するための知識・技能を高める!
環境や自己の変化に応じて行動・思考を
修正し,満足を感じている状態
・環境の変化:引越し,転校,天候など
・自己の変化:発達・加齢に伴う変化
マズローの欲求階層による適応
高いレベルの欲求
生存に必要な欲求 (生理的)
(安全)
(愛情と所属)
(尊重)
(自己実現)
(発達)に合わせた欲求を考えること!
例) 大人が中高生に友達選べは×
欲求は階層性を持ち,低次の欲求が満たされないと,
高次の欲求は充足されない
マズローの欲求階層による適応年齢が増すにつれて上位欲求が発達
※個人差はもちろんある
適応とストレス:ストレス過程のモデル
ストレッサーにうまく認知・対処することで
ストレス反応が生じず,適応できる!
(ストレッサー)
(ストレス源)
(ストレイン)
(ストレス反応)
(認知)
(個人差) (社会的支援)
(対処)
ストレス過程のモデル:ストレッサー
ストレッサーとは?
ストレッサー
・ストレッサーの例 表9-4
・生活上の変化(→急性ストレッサー) 表9-5
社会的適応評定尺度:(結婚が50で基準)
(ライフイベント)のインパクト
変化への再適応のための努力がストレスに
ライフイベントの(連続)が問題
・日常のいらだち尺度 表9-6
(些細)なことだが,その(蓄積)がストレスに
(→慢性ストレッサー)
ストレッサーがないと・・・
刺激のないことはストレス!
(ストレッサーが全くない)のも×
急性ストレッサーと抵抗力(ストレス反応)
ライフイベントが(連続)すると不適応へ
慢性ストレッサーと抵抗力(ストレス反応)
日常のいらだちと(スキル不足)
が(ストレス許容範囲)を狭める
ストレス反応・生理面でも防衛するが・・・
セリエの汎適応症候群 図9-21
警告
反応期
抵抗期
疲憊期
抵
抗
力
抵抗期間の対処で適応!それができないと・・・
慢性的にストレッサーを受け続ける不適応へ
ストレス過程のモデル:認知
ストレッサーをどのよう
に捉えるか
ストレスの認知評価
・・・事象が(脅威的)かの評価
⇒予測可能性
・・・事象が(対処可能)かの評価
⇒制御可能性
・・・ストレッサー評価の調整
体験や新たな情報で修正
ストレスの認知評価
・・・事象が脅威的かの評価
⇒予測可能性
・・・事象が対処可能かの評価
⇒制御可能性
・・・ストレッサー評価の調整
体験や新たな情報で修正
予言のように本当に脅威となるか分
からないものは対処しようがない
ストレスの認知評価
個人の抱えるストレスとは?
・必ず到来するもの
・死,病気,ケガ,家族・別れ・・・時期は不明確
・定年,就職,受験,進学・・・時期は明確
・必ず到来するものではないが
・予測可能・・・天気・台風・大雨などの自然災害
・予測不可能・・・地震・火山噴火などの災害
事件・事故・テロ・失業 等
対処できる可能性有?難しい部分
対処できる可能性有
認知における脅威が全くないと・・・
適切な不安・ストレスレベルへのコントロール
(適度な不安やストレス)は動因として重要
問題は・・・
・過剰な不安・ストレスの問題
・不安・ストレスを感じないことの問題
(ヤーキース・ドットソンの法則)
パフォーマンスには,
適切な動因レベルが必要
動因(不安・ストレス)と
パフォーマンスは(逆U字)関係
過敏型自己愛における脅威と対処可能性
脅威は感じる(評価過敏なため)
・対処可能性(二次評価)は低い
⇒自分で頑張ろうとは思わない
・他者依存の対処可能性が高い
⇒他者がなんとかしてくれる
それが裏切られると ⇒逆切れ!
過敏型自己愛の問題は,
過剰な甘えによる根拠なき楽観⇒逆切れ
(佐藤,2011)
ストレス過程のモデル:対処(コーピング)
ストレッサーに対して
どのように対処するか
対処行動(コーピング)
ストレスに直面した時に生じるイライラや不安など
の情動を沈めるための行動や認知的努力
(問題焦点型対処):問題を解決するための情報を
集め,解決を試みる
(情動焦点型対処):高ぶった感情を抑えようとする
(回避型対処):ストレス事態から注意を逸らし,
関わろうとしない
コーピング(対処)
制御可能なとき効果的
一時的な効果
制御不可能なとき
・問題焦点型対処が本当に有効?
・適合性仮説
制御可能事態・・・問題焦点型対処
制御不可能事態・・・情動焦点型対処
回避型対処
対処の柔軟な採用が大切
(状況に合わせて対処を変える)ことが大事!
いつも問題焦点型対処だと不適応へ
問題解決
可能なら回避,考えを変える,サポートをもらう
ストレス過程のモデル:ストレス反応
ストレス反応
ストレス病
ストレッサーが強すぎたり,それほど強くなくても
長期間続いたり,いくつか重なり合ったりして,
コーピングがとれずにホメオスタシスが崩れや
すい状態になり,健康を維持できなくなった状態
⇒治療として,ストレッサーを減少させたり,コーピン
グスキルを高めたり,ストレス耐性を高めるといっ
た方法がとられる
ストレス反応
認知次元
・主観的な訴え
不安,心配,
イライラ,
ゆううつ感,等
例 SRS-18
Stress
Response
Scale
ストレス反応の認知・行動次元
ストレス反応の認知・行動次元
患者はどちらの型
なのか(観察)すること!
・認知的対処
事態への接近ー回避
ストレッサーまで
Lv > La
Iv < Ia
インパクト時
ストレス反応の行動次元
行動次元
・作業の乱れやミスの増大
・声の調子が変化
・相手との距離が空く
・自己刺激行動の増加
患者さんの反応をよく観察すること!
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
・(身体的健康) ・(自己効力感)
・(問題解決スキル) ・(社会的スキル)
(ソーシャルサポート)
(自己効力感)
①成功体験
②代理経験
自分で行動し、何かを成し遂げたという
達成感を持つ。小さなことでOK
周りの人が成功している状況を見て、
「自分にもできそう」という気持ちをもつ
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
③言語的説得
④生理的情緒的高揚
少しでもできたら褒め言葉を
かけると、気分が高揚してくる
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
自己効力感
「あなたならできる」と繰り返し説得される。
ただし、それだけでは長続きしない。
(スモールステップの着実な成功体験)
(社会的スキル)
対人関係を良好に保つための技術。
周囲の人と適切に対応し,円滑に
コミュニケーションをはかるために必要な能力
例) 自己開示,自己主張(アサーション)
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
(例)人に何か物を貸してと頼まれた時
• 「今ごろ来るなんて非常識じゃないか,貸せ
ないよ」(攻撃的)
• 貸すと自分の仕事に支障をきたすのを承知
の上で「いいよ」(非主張的)
• 「これは今日私が使うから貸せないけど,次
からはもう少し早く言ってくれれば貸せると思
う」(アサーション)
援助を仕事にしている人などに有効(森川, 1996)
社会的スキル:アサーション
(非合理的な思い込み)(認知の歪み)
例:人は誰からも愛され,常に受け入れなければ
ならない
「人に好かれるにこしたことはないが,必ず
好かれるとは限らないし,まして好かれなけ
ればならないことはない」と
考え方を変えることが重要
社会的スキル:アサーション(認知面)
⇔自分の意見を言わずに,相手の気に入るよう
な行動をとり,相手によっては行動を変えたり,
人との接触を避けたりするようになってしまう
• 自分を知らせる
• 積極的に相手に耳を傾ける
• 否定的なことをなるべく言わない
• 言語的な面で伝えるメッセージと非言語
的な面(視線,表情,姿勢,相手との距離,
声の大きさ,話す速さなど)で伝えるメッ
セージを一致させる
社会的スキル:アサーション(言語・非言語面)
・こんな時、どうしたら?
患者にプライベートな質問をされる
患者に交際を申し込まれる
→「役割関係を超えた行動」
社会的スキル:看護師への応用
構造化の必要
構造化とは、その場面で何をすればよいのかを
理解し、安心・自立して行動できるように、環境
を整理・再構成・明確化すること
二者間の関係が、多くの「決まり事」を伴った
役割関係であることを、様々な場面で繰り返
し示すことで理解してもらう
①お互いの役割関係を明確にする
社会的スキル:看護師への応用
看護師…患者さんの治療のために、
お世話をしている
患者…病気を治すために治療している
• 「時間」の構造化
例) 用件が済んだら、立ち去る
• 「行動」の構造化
例) いつも通りに挨拶する
• 「方法」の構造化
例) 個人的な質問には答えない
言葉づかいを崩さない
② 構造化を守る
社会的スキル:看護師への応用
(ソーシャルサポート)
(道具的サポート):問題解決に結びつく具体的・
実際的な援助
例)ものや力を貸してくれる
(情緒的サポート):慰めや励ましといった心の支え
例)励ましてくれる、共感してくれる
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
(サポート内容)と(相手)をきちんと選択すること
例) 仕事は上司・部下,恋愛は家族や親密他者
ソーシャルサポート
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
ストレッサーの程度
サポートしてもらえ
る!と思える人
⇒(ストレッサー)が
多くても,(ストレス
反応)が生じない
ソーシャルサポート
ストレス過程のモデル:ストレス対処資源
(サポートしてもらえる!と思える)だけで効果あり
ストレスをコントロールするためには
(認知の歪みを修正)
:認知再構成法
(対処スキルを増加)
:社会的スキル訓練
(危険因子を除去)
(親密他者関係を変容)
例として,認知行動療法と対人関係療法
行動論 精神分析
対処行動を獲得
するメカニズム
⇒防衛機制⇒学習
学派
対処行動を獲得
するメカニズム
より具体的な
防衛機制の中身
⇒否認,退行
ストレスモデル
ストレスモデルの
具体的対処行動
・問題焦点型
・情動焦点型 内容は一緒だが
否認や退行のほうが具体的
学習で言うなら“回避”
行動論(ストレスモデル)と精神分析
(防衛機制):
ストレスの原因というよりは、不快の緩和
に焦点を当て,自分自身を不安や不快
から守り,現実に適応しようとするメカニ
ズム
⇒防衛が過剰、不十分な場合は、症状や
問題が生じる
防衛機制
防衛機制の種類
防衛機制の種類
(フロイト):
• 精神科医で、精神分析の創始者
• 神経症の治療と研究を通じて理論化した体系
が精神分析
• これを心理治療の方法とした精神分析療法は,
心理療法の中で最も歴史が古い
⇒心の中に無意識の領域が存在し、日常生活に
影響を及ぼしていることを指摘し、心にはエス、
自我、超自我の心的装置が働いている
防衛機制の背景
意識
前意識
水面
無意識
(超自我)
(自我)
防衛機制の背景 快楽と道徳規範の戦い
(エス)
自我が平行性を
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