Copyright 2023, JAIST Naoshi Uchihira.
武蔵大学AIの社会浸透研究会
第1回公開セミナー「AIの社会実装に向けた技術的課題と取り組み」
AIシステム開発の
プロジェクトマネジメント
1
2023/10/18
内平直志(Naoshi Uchihira)
北陸先端科学技術大学院大学
uchihira@jaist.ac.jp
2
講演の内容
AIシステム、特に機械学習システムの開発は、従来のITシステム開
発にはない様々な難しさがある。本講演では、機械学習システム開
発におけるプロジェクトマネジメントの特徴、難しさを整理すると
ともに、具体的な企業の取り組み事例を通じて、困難を乗り越える
ためのポイントを説明する。
•機械学習システム開発の課題・ニーズ
•機械学習システム開発のプロジェクトマネジメント
•機械学習システム開発の事例紹介
– パナソニック
– アイシン
– リクルート
– 東芝
いかに課題を乗り越えたか
3
機械学習システム開発プロジェクトが失敗するパターン
参考:ブレインパッドほか,失敗しない データ分析・AIのビジネス導入,森北出版,2018.
プロジェクトの立ち上げ PoC
(概念検証)
ビジネス適用
ゴール設定 アセスメント 分析設計 実施・評価 実地試験 開発 運用・保守
目的が曖昧
・データから何か見
つけて!
・AI導入が目的化
データが使えな
い
・存在しない
・品質が悪い
数値目標の罠・
機械学習では数値
目標(要求仕様)が
設定できない
ミスが見えない・分析
作業でミスをしていても精
度では分からない場合が
ある
引継ぎ問題
・優秀なエンジニ
アは運用時まで残
らない。
使われない
・実際の業務にフ
ットしてない
環境変化に対
応できない
機械学習システムの開発・運用プロセス
4
機械学習システム開発の課題・ニーズ
■調査報告
・NEDO, “産業分野にお
ける人工知能及びその
内の機械学習の活用状
況及び人工知能技術の
安全性に関する調
査,”2019.
・IPA, “AI白書2019,” 角
川アスキー総合研究所,
2018,など.
■インタビュー
デンソー,パナソニック,
スバル,キオクシア,
キューピー,ブレインパッ
ド,フューチャー,NTT
データ,東芝など.
http://www.jaist.ac.jp/ks/labs/uchihira/mlas-pm-map.html
5
機械学習システム開発の課題とニーズ
カテゴリ 具体的な課題(例)
信頼性・安全性 学習時と運用時のデータの違い、悪意を持ったユーザへの対応、モ
デル洗練化とコストのバランス、どこまで検証すればよいか不明、
帰納(機械学習)と演繹(ルール・物理モデル)との融合。
効率・生産性 適切なモデル・アルゴリズムの選択、タグ付けコストの削減、モデ
ルの再利用、バージョン管理。
プロセス管理 試行錯誤で開発工数が読めない,顧客の期待値のギャップ,AIシ
ステムの品質管理担当者が不在,知識継承・引継ぎ問題,現場との
乖離
人間とAIの関係 AIの結果を顧客に納得してもらう説明性,行動に結び付く結果で
ないと使えない,人間のAIへの適応
ビジネス・経営 PoC(Proof of Concept)貧乏、マネタイズの難しさ,オープンイノベー
ションの推進.
基準の必要性 安全基準・品質保証ガイドラインの必要性、契約時の免責、障害時
の責任。EUのAI規制法(AI Act),G7 生成AIのルール
AIの正しい理解 AIブームに翻弄(AI導入が目的化)、AIの限界の理解不足。
AI人材育成 AIを活用できる経営者・ユーザ・マネジャー・システム開発者の人材
不足。
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
マ
ネ
ジ
メ
ン
ト
6
プロセス管理の課題・ニーズ
• 試行錯誤で開発工数が読めない:試行錯誤のマネジメントが必要
→ パナソニック,アイシン,リクルートの事例
• 顧客の期待値のギャップ:顧客の期待値のギャップが大きいと困難
を生じる。顧客の期待値の管理が重要。官公庁は、AIを使うと予
算が付くが、顧客がAIでどこまでできるか理解していない(総合
ITソリューションベンダー)
• AIシステムの品質管理担当者が不在:AI品質管理担当者を置い
ている部門もある(AIソリューションベンダー)
• 現場との乖離:現場とデータサイエンティストのギャップは結果を
示すことで解消 (現場はAIを信じないが,説明可能性も求めな
い)(ユーザ企業),現場で使えるシステム・運用法開発が重要
(歩留まり新聞)(ユーザ企業)
7
AIと人間の関係の課題・ニーズ
• AIの結果を顧客に納得してもらう説明性:AIを活用した
与信審査において,ステークホルダ(融資を断る顧客)に対
して解釈・説明可能性が求められるが,内部での説明と実際
の顧客への説明は異なる.顧客に納得してもらうための説明
でなければならない.(総合ITソリューションベンダー)
• 行動に結び付く結果でないと使えない:説明可能であっても
、その説明によりアクションに結び付かないと意味がない.
例えば、ソフトウェア開発で、機能の数とバグの数の相関が
わかっても、機能を減らすわけにはいかない(ユーザ企業)
• 人間のAIへの適応:商標の類似検索システムでは、人間が
検索システムに適用している.この場合,精度の視点でAI
を変えると適応している人間が困ることがある.
(総合ITソリューションベンダー)
8
人間とAIの関係
共
感
創
造
判
断
訓
練
説
明
維
持
増
幅
相
互
作
用
具
体
化
ト
ラ
ン
ザ
ク
シ
ョ
ン
反
応
予
測
適
応
人間だけの
活動
マシンだけの
活動
人間とマシンの
ハイブリッド活動
人間による
マシンの
補完
AIによる人間
へのスーパー
パワー付与
ドーアティ,ウィルソン,「人間+マシン AI時代の8つの融合スキル」東洋経済新報社 (2018)
9
可視化
予測
最適化
自律化
人間の役割
機
械
の
役
割
人間と機械の関係は
信頼関係も含めて
安定した状態間を
非連続的に深化する
Okuda, et.al.(2021) Exploitation Pattern for Machine Learning Systems, ITC-CSCC 2021.
機械学習システムにおける人間と機械の関係の深化
各フェーズにフィットした
機械と人間の関係の設計が必要
(自動運転の例)
10
人間と機械(AI)の関係に関するJAISTの博士論文
•白坂一,AIと弁理士の協働による進歩性判断
-先行特許文献調査システムの発明現場への導入-
http://hdl.handle.net/10119/17468
•森俊樹,リスクマネジメントにおける機械学習と知識
創造の統合アプローチ
―機械参加型(machine-in-the-loop)プロセスの提案―
http://hdl.handle.net/10119/16726
•小倉孝裕,複数目的 ・ 複数主体からなる多段階在庫配
置問題の意思決定における人と機械の協働プロセス
http://hdl.handle.net/10119/18402
11
ビジネス・経営の課題・ニーズ
• POCから本格研究への移行へのキャズム:
– AI導入が目的になってしまって、AIならでは の効果や付
加価値の創出を織り込んだビジ ネス提案までたどり着けない
(NEDO報告書)
– POCから本開発に進めるポイントは投資対効果の明確化や実運
用を見越したアーキテクチャ設計やデータの準備
(ITソリューションベンダー)
– モデルの現場への導入にあたっては,F値などの指標で説明
しても理解されない.導入効果を「金額」で示したら理解さ
れ,評価された(ユーザ企業)
知恵を絞ってシミュレーション等で効果を可視化し
経営者の背中を押す材料を提供
(パナソニックの事例)
12
基準の必要性
•品質基準・グレードが欲しい:データ分析の品質保証
のガイドライン(機能要求グレード、品質基準の汎用
的なもの)が欲しい
(ソリューションベンダー)
•AI品質管理システムが必要:既存の会社の品質保証シ
ステムとのAIシステム開発にギャップあり難しさを感
じる.( 総合ITソリューションベンダー)
→自社でのサービスビジネス化で課題解決(東芝の事例)
•トラブル時の責任の所在:トラブルが発生した場合、
AIの判断結果を採用して、実行判断を行ったユーザ
ー側に責任が生じる契約になっていることが多く、そ
れが AI導入の障壁となっている(NEDO報告書)
13
AI主要国で重視されている価値
出典:実積寿也,AIガイドライン,トラスト,ガバナンス,Nextcom, Vol.50,4-12, 2022.
14
DXが進まない理由:関係者間の様々なギャップ
100年に
一度の
経済革命
経営者
DX推進部門
ミドルマネジャー
現場
危機感
指示
施策
コンサル入れ
て試行錯誤
DXわかって
ないけど対応
直近の課題
解決に興味
実行
具体的イメージはあいまい
成果が出やすいところから
すぐに役立たないとNG
モチベーションなし
対
話
対
話
対
話
価値創造がリアルから
バーチャルに移行
「DX=100年に一度の変革」と「DX=カイゼン」の認識ギャップ
様
々
な
ギ
ャ
ッ
プ
を
埋
め
る
対
話
ツ
ー
ル
が
必
要
15
DX推進プロジェクトの関係者にインタビュー
企業属性 部署
A 電機メーカー DX推進部門
B 電機メーカー 研究開発部門
C 素材メーカー DX推進部門
D 電子商取引部門 社内システム開発部門
E AIシステムベンダー 経営者
F 医療系アウトソーシン
グサービス企業
情報システム部門
日本企業6社のDXプロジェクトに携わる専門家6名を対象に、1〜2時間
の半構造化オンラインインタビューを実施.DXプロジェクトの阻害要因
を分類・分析.
16
7つの困難パターン
1. 現在の業務が優先され、DXに割く時間がない。
(事業運営部門×DX推進部門)
2. 投資に対するリターンが説明できない。
(事業運営部門×DX推進部門)
3. 経営トップやDX推進本部の意向が業務部門に伝わっていない。
(経営者・DX推進部門×事業運営部門)
4. データサイエンティストは、ビジネスオペレーションで何が起こ
っているのか知らない。(DX推進技術部門×業務部門)
5. 顧客は自分のデータをITベンダーに渡したくないと思っている。
(ITベンダー×業務部門)
6. 業務部門は、現状のプロセスに満足している。
(DX推進部門×業務運営部門)
7. AIブームをきっかけとしたAI導入の目的の不明確さ。
(ITベンダー×業務部門)
17
ステークホルダ間の協働を阻害するギャップ
ギャップ名 説明 例
情報
(形式知)
情報(伝達可能な形式知)の非対
称性によるギャップ。
DX推進部門が持っている最新のAI技術
に関する情報を現場は知らない。
経験
(暗黙知)
関係者の過去の経験(暗黙知)に
基づく知識のギャップ。
DX推進部門やITベンダーが現場の実態を
知らずに理想論でDXを推進しようとする。
将来認識 DXの目的や将来の方向性や道筋に
関する認識の違い。
経営者はDXを推進しないと会社の将来は
ないと危機感を持っているが、現場は今
の延長でも問題ないと思っている。
評価基準 それぞれの部門の評価基準・優先
度の違い。
DX推進部門はDXを進めたいが現場は直近
の業務の着実な遂行を優先する。
利害 部門間で利害が相反する。 ITベンダーにとって顧客企業データをす
べて欲しいが、顧客企業とってノウハウ
をITベンダーに提供したくない。
相互信頼 部門間の信頼がないと、不確実な
将来に対してネガティブになる。
DXが本当にうまくいくのかわからない
が、DX部門の信頼できる人が言うので
ついていく。
取組ペース 部門間でDX推進のペースが合わな
い。
DX推進部門と従来型の現場では取り組み
のペースが異なる。
ギャップを解消するマネジメントが必要
18
機械学習システム開発のプロジェクトマネジメントの特徴
機械学習システム開発プロジェクトでは、段階的かつ継続的に
「不確実性」と「試行錯誤」のマネジメントを行うことが重要
出典:産業技術総合研究所,機械学習品質マネジメントガイドライン 第2版, 2021.
構想 システム定義
リスク分
析
要求定義
データ検
討・準備
機械学
習・訓練
品質検査
訓練・実
験
結果検討
PoC段階
試行錯誤
データ準
備・整理
開発段階
試行錯誤
総合検査
運用 性能監視 利用終了
要求の変更を
と伴う改修
運用時
データ収集
追加学習・
修正
品質検査
システム
更新
運用改善段階
試行錯誤
19
機械学習システム開発の成功要因
小西と本村 は産総研が企業と取り組んだ28件の機械学
習システムのプロジェクトを分析し成功の要因を抽出.
① プロジェクトの目的や活用シナリオが明確で、目標と
なる指標(KPI)が設定できる。
② 現場のニーズが強くモチベーションが高く協力が得ら
れる。
③ 必要なデータが低コストで持続的かつ拡張的に収集で
きる。
④ 社内体制が構築でき運用と改善が継続できる。
出典:小西葉子, 本村陽一,AI 技術の社会実装への取り組みと課題~ 産総研 AI プロ
ジェクトから学ぶ. RIETI Policy Discussion Paper Series 17-P-012, 2017.
20
関係者の積極的な協力を得るためには
• 機械学習システムによる人間の業務の自動化においては、必要な
データの収集のためには現場の担当者の協力が不可欠.
• 現場の担当者にとっては本来業務でない余計な作業であり、さら
に自動化によって自分の仕事がなくなるという危惧もあり、協力
を得るのは簡単ではない.
• 田中と久保は、データの整備やモデルの評価・調整に多くの現場
関係者の本来業務以外の協力が不可欠であり、関係者の積極的な
協力を得るためには、「ありのままの姿」から「あるべき姿」へ
の「優れたシナリオ」が有効だとし、それをP2Mに基づき考察.
• P2Mでは、「あるべき姿」を複数のプロジェクト群で実現する。
「優れたシナリオ」には、「あるべき姿」が実現できるという「
根拠」と「あるべき姿」が自分たちにとってもメリットになると
いう「魅力」が必要。
出典:田中 裕子, 久保 裕史,"人工知能を活用した業務自動化における
P2M 理論の適用," 国際P2M学会誌, vol.12, no.2, pp.1-16, 2018.
21
Step1:顧客と提供価値の明確化
Step2: IoT/AIによる提供価値実現
Step3: エコシステムの戦略策定
Step4:デジタル・イノベーションに
特有のリスクマネジメント
価値創造
キャンバス
SCAIグラフ
オープン&
クローズ
キャンバス
プロジェクトFMEA
価値設計
戦略設計
プロジェクト
設計
システム
設計
関係者間のギャップを解消する手法
デジタルイノベーションデザイン手法(JAIST)
日立製作所:顧客協創方法論「NEXPERIENCE」
NEC:デジタルエクスペリエンスデザイン,
戦略技術ロードマッピング,など
出典:内平直志. "IoT 時代のイノベーション・デザイン." 研究 技術 計画 33.4 (2018): 334-344.
22
AIプロジェクトマネジメント事例
 事例1:AIを活用した工場の生産設備の予知保全
(パナソニック)
 事例2:機械学習による画像からの製品の欠陥検知
(アイシン)
 事例3:ネットサービスにおけるAIを活用した利用体験の最適化
(リクルート)
 事例4:電力需要予測のための機械学習システム開発
(東芝)
ポイント:
1. 試行錯誤のマネジメント
2. 投資対効果の捻出
3. 品質保証問題の解決
23
事例1:AIを活用した工場の生産設備の予知保全(パナソニック)
•機械学習による故障予測モデルを活用した製造設備のダ
ウンタイムの削減(予知保全)のプロジェクト.
•工場の現場および生産技術部門とAI技術の専門部門が連
携により実施.
製造設備
(経年劣化)
不具合
発生
修理
(ダウンタイム)
故障予測モデル
による予知保全
ダウンタイム回避
24
事例1:AIを活用した工場の生産設備の予知保全(パナソニック)
•本プロジェクトの課題
①予測モデルの構築は、試行錯誤で行うので工数
が事前に読めず、進捗管理も難しい.
②投資対効果を含む機械学習システムの評価が難
しい.
③予測モデルの構築に必要な、生産設備の故障に
関するデータが少ない.
④工場の生産設備のデータは機密性が高く、取り
扱いに制約がある.
25
事例1:AIを活用した工場の生産設備の予知保全(パナソニック)
• 機械学習モデル構築の試行錯誤のプロセスの可視化と進捗管理
– プロジェクトの最終目標とそれを達成するための課題および候補
となる方法と優先順位をKPIツリーとして整理.
– プロジェクトの推進構造と進捗状況を可視化.
プロジェクト
の最終目標
(KGI)
解決課題A
(KPI)
解決課題B
(KPI)
解決方法A1
解決方法A2
解決方法B1
解決方法B2
解決課題A1A
(KPI)
解決方法A1A1
解決方法A1A2
出典:浜田伸一郎 吉岡信和 内平直志,KPIツリーを用いた機械学習プロジェクト管理
フレームワーク,日本ソフトウェア科学会第38 回大会(2021 年度) 講演論文集,2021.
26
事例1:AIを活用した工場の生産設備の予知保全(パナソニック)
•機械学習システムの段階的評価
– 機械学習システムの効果を事前に予想するのは難しい.
– 「鶏が先か卵が先か」問題をシミュレーションも活用した段階的評価で解決.
– 「利用シナリオ」と「保全・故障のコストモデル」から、総合的なコストシミ
ュレーションを行い、効果を金額で示す.
– シミュレーションでは、多くの仮定を置く必要があるが、効果を「金額」で示
すことにより、経営者の意思決定を促すことができた.
•生産設備の故障に関するデータを補完的に作成
– 生産設備の状態(故障を含む)に関するログデータは記録されていなかった.
– ログデータに含まれている単位時間当たりの製品不良数に注目し、そこから生
産設備の状態のラベル付けを行い課題を解決.
•工場の生産設備のデータは機密性への対応
– 機械学習モデルは社内の専門家が行った.外部の専門家に委託する場合は大き
な障壁となることが予想される.
27
事例2:機械学習による画像からの製品の欠陥検知(アイシン)
Duy, Truong Vinh Truong, and Naotake Natori. "Efficient Defect Detection
from Consecutive Monocular Images by Deep Learning." 2020 19th IEEE
International Conference on Machine Learning and Applications (ICMLA).
IEEE, 2020.
機械学習を活用した製品の品質検査の自動化プロジェクト
28
事例2:機械学習による画像からの製品の欠陥検知(アイシン)
•製品の品質検査の対象は、自動車部品として使われる
鋳造品.従来は人手で外観検査していたコストを削減
することが目的.切粉や油などの付着汚れは欠陥では
ないが、判別は難しい.
•高精度の専用センサであれば判別可能であるが、高価
かつ大型で検査にも時間がかかるので現実的でない.
→ 汎用カメラで判別するモデルの開発
本プロジェクトのポイント:
機械学習モデル構築の試行錯誤プロセスの可視化
プロセスにおける現場と連携した柔軟な目標・前提条
件の設定・変更.
29
機械学習モデル構築の試行錯誤プロセス
ベースラインの設定と予備実験
課題・ニーズ調査
ベースラインの機械学習の課題抽出
改良機械学習手法の開発と適用
前提条件変更
目標精度達成
フォローアップ
YES
NO
30
機械学習モデル構築の試行錯誤プロセス
• 課題・ニーズ調査
PJメンバーが、現場の課題・ニーズを丹念に聞き、真のニーズを引き出す.
• ベースラインの設定と予備実験・課題抽出
技術調査で使えそうな手法(ベースライン)を選択し、適用上の課題を抽出し
、改善することで、実用化までのリードタイムを短縮.本事例では、ベースラ
イン手法が、欠陥検出に必要なミリオーダーの精度は出ず,対策を抽出し、構
造化し、予想導入効果と開発期間を考慮して優先順位をつけた.
• 改良手法の検討と前提条件変更
優先順位に基づき、様々な手法を試行錯誤で実施.様々な手法を適用してみた
ものの、目標精度を実現できなかったが、前提条件としていた「カメラのフレ
ームレート」を変更することで、精度が向上する可能性があり、現場との交渉
を行い、認められた.現場の真のニーズの把握に基づく柔軟な発想、現場との
信頼関係、交渉術が必要.
• 導入後のフォローアップ
「コンセプトドリフトへの対応」「クレームに即対応」「現場への導入教育や
定期講習」「ドキュメントやマニュアル整備」「現場が自立化できるよう調整
や校正のツール(再学習・追加学習・能動学習)の用意」などを実施.
31
事例3:ネットサービスにおけるAIを活用した利用体験の最適化(リクルート)
• リクルート社のサービスの多くは、個人と企業のニーズをマッ
チングさせるサービスモデルであり,レコメンドやパーソナラ
イズといった形で機械学習を活用.
出典:https://www.onecareer.jp/articles/2348
32
事例3:ネットサービスにおけるAIを活用した利用体験の最適化(リクルート)
• ネットサービスの利用者である個人と企業にはそれぞれのニー
ズがあり、それを満たすためのバランスをとる設計が難しい。
• 良い結果を出すためには、単体の機械学習モデルではなく、課
題を部分問題に分割して、その組み合わせで結果を出す必要が
あるが、部分問題への分割設計なども難しい。また、過去デー
タがたまってない場合は、人間の経験値から推定してモデル化
する必要もある。
• これらの開発は、本質的に試行錯誤が重要であるが、インター
ネットサービスでは、本番環境での試行錯誤を行う点が、スマ
ートファクトリと大きく異なる。
⇒AI技術者の試行錯誤のプロセスを高速化・効率化する
ためのマネジメント
33
AI技術者の試行錯誤を効率化するAIプロジェクトマネジメント
1. 試行錯誤フィールドの設定段階
① ビジネスやサービスのKPIがAIの目的変数に設定可能かを確認し、AI化との
相性を判断(例えば、○○サイトの○○率)。
② AI技術者の実環境での試行錯誤フィールドを設計.システム全体の中のAIコ
ンポーネントとして独立性高く切り出し、システムに対するコンポーネン
トの入力/出力をうまく設計。
③ 試行錯誤フィールドを支えるアーキテクチャ(箱)設計
• AI技術者がAI技術以外の雑事(外部との調整等)から解放されること
• 複数モデルの並列実験が可能であること
• 本番環境で試行が失敗しても致命的な問題にならないこと
④ アーキテクチャ(箱)の情報システム開発を行う。この開発は、ウオータ
ーフォール型.
⑤ 試行錯誤フィールドへの要求は、ビジネスの大目標を達成するためのAI
コンポーネントのKPI、NGゾーンの提示、ガバナンスの設計を行う。KPIと
しては、クリック率、契約率などのポジティブKPIのほかに、偏差などのネ
ガティブKPIもある。
34
ネットサービスシステムの中の試行錯誤フィールド
ネットサービスシステム
試行錯誤フィールド
AI
コン
ポーネ
ント
AI
コン
ポーネ
ント
AI
コン
ポーネ
ント
疎結合(試行錯誤の影響を最小化)
アジャイル開発・運用
ウオーターフォール開発・運用
35
AI技術者の試行錯誤を効率化するAIプロジェクトマネジメント
2. 試行錯誤の実施段階
① この段階では、マネジメントは実現手段を指示せずに、AI
技術者が試行錯誤を繰り返し、良い結果を出すことに集中で
きるようにする.
実際、データを見てみないとわからないので、データを見る
前に行う実現手段の指示や、実現手段の計画策定は邪魔とな
る場合が多い.
ここでAIコンポーネントの開発者は少数精鋭である。
② この段階の、AIコンポーネントの性能向上は、実運用しな
がら定常業務的に実施する。
③ 試行錯誤のAIコンポーネントが失敗した(性能が出ない)
場合、即座に既存システムに切り替えて問題を最小化.
参考文献:大島將義, 内平直志,インターネットサービスにおける アジャイル開発が持つ
不確実性の低下メカニズム,第33回 国際P2M学会春季研究発表大会174-189, 2022.
36
事例4:電力需要予測のための機械学習システム開発(東芝)
•太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入加速は喫
緊の課題.太陽光発電は天気に左右され、高精度な需
要予測が不可欠.
•東芝では研究所と事業部門
が連携し、機械学習を用い
た高精度な電力需要予測
システムを開発.
•電力需要予測モデルの特徴
は気象データの活用.
•気象データは膨大であり、
それを使いこなすための
スパースモデリングが効果を適用.
進 博正・志賀慶明・市川良一,気象予測データ
と機械学習を用いた高精度な電力需要予測手
法,東芝レビュー,74-5(2019年9月)
37
事例4:電力需要予測のための機械学習システム開発(東芝)
本プロジェクトの大きな課題は、機械学習システムの品質保証
 電力会社からシステムとして受注し、納品する場合は出荷のため
の品質保証が必要.
 機械学習システムにおいては従来型の「品質保証」は難しい.
 運用時には、人間が最終確認することもあり機械学習の結果が完
璧である必要はないが、顧客に「納品」となると従来の「出荷判
定基準」が適用されてしまう.
顧客(ユーザ)
開発企業
納
品
製
品
品
質
保
証
機械学習応用
サブシステム
機械学習応用
サブシステム
製品 製品
開発 運用
38
機械学習システムの品質問題を解決
•このような状況で、電力需要予測モデルを組み込んだ受
注型のシステム開発ビジネスは頓挫しかかったが、経産
省のFIP制度(Feed-in Premium)導入で風向きが変化.
•FIP制度では、小規模な再エネ電源をたばねて蓄電池シ
ステムなどとも組み合わせた需給管理を行い、市場取引
を代行する「アグリゲーション・ビジネス」の可能性。
•従来型のシステム開発から自社クラウド型サービス開発
へと転換.機械学習による「太陽光発電量予測」と「電
力需要予測」をクラウド型サービスとして提供.
•顧客にシステムを納品するのではなく、自社のサービス
として提供すれば、人間系も含めて「品質保証」に柔軟
に対応できる.
39
Toshiba VPP as a Service(電力需要予測)
https://www.global.toshiba/jp/news/energy/2020/12/news-20201204-01.html
バーチャルパワープラント(VPP)に関するサブスクリプション方式のサービスとして、発電事業者
および小売事業者向けに「PV発電量」および「電力需要」の2種類の予測機能のサービス提供
40
顧客(ユーザ)
開発者
納
品
製
品
品
質
保
証
機械学習
応用サブ
システム
顧客(ユーザ)
開発者
サ
ー
ビ
ス
提
供
サ
ー
ビ
ス
品
質
保
証
クラウド型サービス
機械学習
応用サブ
システム
機械学習
応用サブ
システム
製品 製品
開発 運用
製品
運用
開発&運用
自社のクラウド型サービスビジネスと
することで,納品時の品質保証の問題
や運用開始後の「コンセプトドリフト」の
問題を回避.ただし,これができるの
は、事業ドメインのノウハウを自社でも
長年蓄積してきた企業に限られる.
機械学習システムの品質問題を解決
41
機械学習システム開発プロジェクトマネジメントの課題と解決策
機械学習システム開
発プロジェクト
プロジェクトマネジメント
の課題
解決策
工場の生産設備の予
知保全
(パナソニック)
・試行錯誤の工数が読めず
進捗管理も困難。
・投資対効果の評価が困難。
・故障データが少ない。
・データの機密性が高く、
取り扱いに制約。
・試行錯誤のプロセスの可視化と
進捗管理。
・シミュレーションも活用した段
階的投資対効果の評価。
・故障データの補完的作成。
・社内の専門家で実施。
画像からの製品の欠
陥検知
(アイシン)
・試行錯誤のプロセスを管
理できない。
・目標未達の場合の対応。
・特性要因図で原因・対策を構造
化し開発の優先順位付け。
・現場と連携した柔軟な目標・前
提条件の設定・変更。
ネットサービスにお
けるUIの最適化
(リクルート)
AI技術者が機械学習モデル
の試行錯誤に集中できず、
効率が悪い。
独立性の高い試行錯誤フィールド
の切り分けによる試行錯誤プロセ
スを高速化・効率化
電力需要予測のため
のシステム開発
(東芝)
既存の受注型システムの品
質保証が適用できない。
従来型のシステム開発から自社の
クラウド型サービス開発への転換
42
講演のまとめ
•機械学習システム開発の
課題・ニーズ
•機械学習システム開発の
プロジェクトマネジメント
•機械学習システム開発
の事例紹介
いかに課題を乗り越えたか
– パナソニック
– アイシン
– リクルート
– 東芝
43
ご清聴ありがとうございました。

AIシステム開発のプロジェクトマネジメント