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オンライン授業の功罪
- 1. 現在（ 6 月）ほとんどの大学は 春学期始業を遅らせた後に導入し たオンライン型遠隔授業の混乱の 中にある。私自身も，新しい授業 方法に慣れない先生方と学生から 来る質問のメイルの処理に忙殺さ れている。一応かなりの事前準備 をし，指針や授業方法を共有する ための FD や説明会も行ったが， 予期せぬ問題が日々起こるため対 処に追われている。 ただ，冷静に 1 か月あまりのオ ンライン授業を振り返ると，新し い発見も多々あった。今回は，オ ンライン授業を通じて改めて気付 かされたこと，考えさせられたこ とについて書いてみたい。 オンライン授業には，基本的に LMS などを利用するオンディマ ンド型とビデオ通信用のアプリケ ーションを利用するライブ型があ る。大きな違いは前者は学生が自 分の予定に合わせて課題をやる非 同期型が主流であり，後者は同期 型であるという点である。つまり， 厳密にいえばオンディマンド型は オフラインでやった課題をオンラ インでアップロードすることが多 いので，完全なオンライン授業で はない。 LMS 型の授業でも， 授業 時間内に課題を与え，テクスト交 信で学生同士の意見交換や教師と の質疑応答を行うことができるが， 同様の活動は非同期でも行える。 学生には当然ビデオ通信型の 「顔の見える」授業が好評であり， 教員にとっても，苦労して動画や 音声教材を作成して LMS にアッ プロードする手間が軽減される。 しかし， 「学びの効果」という側 面では，案外オンディマンド型の 方から様々な気づきが得られた。 Reading&Writing の授業では， Reading は自分で教科書を読ま せて課題で理解度を確認し，Writ- ing は Microsoft Word の校閲機 能などを使って添削したものを返 しているが，各課題に対する評価 やコメントを含む全ての記録が LMS 上に集約されるので， 7 回 目の授業ぐらいで各学生の特性や 能力プロフィールが分かってくる。 通常の対面授業では課題は教室で 一斉返却するので，個々の学生の 様々な下位能力を 1 つの線で繫い で理解するにはかなり時間がかか る。しかし，LMS の評価機能を 使うと，各学生の全課題に対する 数値的評価とコメントなどの質的 評価を一度にまとめて参照できる ので，出席簿に書き残すアナログ 的なメモよりもずっと信頼性の高 い個人記録が得られるのである。 また，LMS 型の授業では，学 生が自ら教材の理解に取り組み， 疑問点についての質問を促すので， 学生の自律性を高める効果もある。 ただ，これは「諸刃の刃」で，モ チベーションの低い学生は，課題 を出すだけで満足して質問をしな いことが多い。そういう学生には， ライブ型の方が，積極的に参加す る他の学生の姿に刺激を受けると 言う点で，より有効かも知れない。 ライブ型の授業は Speaking や Listening の授業に最も有効であ ろう。ただ，学習内容を課題によ る復習などできちんと定着させる 努力をしないと，やりっ放しにな ってしまい「学びの効果」という 点ではあまり成果が期待できない。 一方で，アルバイト先もなくなり， 家に籠りっきりの状態にある学生 にとっては， 1 つの社会的交流の 場にもなっている。作家の 仁成 氏が完全にロックダウンされたパ リから， 「このウィルスは人間と 人間を引き裂く悪魔のようなも の」と発言していたが，ビデオ通 信型の授業は学生に人と触れ合う 貴重な機会を提供してもいるので ある。また，対面授業よりも，各 学生の話す時間や順番などを簡単 にコントロールできるので，対面 だとなかなか声を挙げない学生が 意見を言い易いという利点もある。 ただ，大学教育では実社会での コミュニケーション能力の育成も 目指しているので，相手の表情， 声量，仕草などの非言語的要素も 考慮しつつ，圧倒されてもしっか り自己主張をしたり，うまく会話 に割り込んだりするストラテジー なども本当は教えたい。LMS は 対面授業とうまく組み合わせると 個人の能力特性の把握に今後も役 立つと思うが，ビデオ通信型の授 業はできれば現実に人と人が対話 する授業の代替的な方法であって 欲しいと思う。現在のオンライン 授業の状況としては，LMS とラ イブ型を組み合わせた授業が最も 学習効果を上げているように思わ れる。 （東海大学教授） 40 オンラ イ ン授業の功罪 松本佳穂子 Matsumoto Kahoko