近年、幼児教育における子どもの遊びの中で、情報機器をどのように活用すべきかが議論されている。幼児教育における情報機器の扱いは、触れる、動かすなどの動作が伴ったり、園の生活に結びつけたりなど、直接的な体験との関連を考慮する必要がある。企業等が提供している情報機器を用いるアプリケーションがいくつも存在するが、集中力の向上や基礎的な知識を得るといった教育的効果がある一方で、自分たちでプログラミングを書き換えることが出来ないため、子どもの発達や、興味関心などに合わせて、その都度内容を変更することが出来ない。近年ではChatGPTなどの生成AIの台頭により、知識がなくてもアプリを作り、子どもの遊びに使用することができる未来が来ると考えられる。以上のことを踏まえ、Processingを使い、子どもの遊びの観察によって保育者自身がプログラムを書き換えていく遊びを実践し、その可能性について検証した。

2. 情報機器の取り扱い
幼児教育では動画などのコンテンツを視聴するだけでは
なく、直接的な体験との関連を考慮する必要がある。
企業による提供
子供向けの教育アプリは一定の教育的効果がある一方で
自分たちでプログラムを書き換えることが出来ない。
（子ども一人ひとりに合わせて書き換えることができない）
問 題
生成ＡＩの台頭により将来的に知識が無
くても遊びのためのアプリを自作出来る
未来を想定し、子どもの遊びを観察した
上で、保育者自身がアプリを作成し、子
どもの発達や興味・関心に合わせプログ
ラムを書き換える遊びの可能性を探る。
目 的
問題と目的 幼児教育における情報機器の活用について

3. 文部科学省 幼稚園教育要領解説 P115
幼児期は直接的な体験が重要であることを踏まえ、
視聴覚教材やコンピュータなど情報機器を活用する
際には、幼稚園生活では得難い体験を補完するなど、
幼児の体験との関連を考慮すること。
第１章 第４節（６）情報機器の活用
引用:文部科学省. 幼稚園教育要領解説.
フレーベル館. 2018，115.

4. 企業による提供例
■株式会社ワオ・コーポレーションが提供。
■0歳児から3歳児向けのスマホ・タブレット専
用の知育アプリのひとつ。
■画面をタッチすることで音が鳴ったり、画面の
映像が変化したりする。
◆タッチ!あそベビー
引用:ワオ・コーポレーション. “タッチ!あそベビー”.
こどもアプリ ワオっち!. https://waochi.wao.ne.jp/asobaby/
（入手 2023-7-28）
■株式会社ベネッセコーポレーションが
幼児向けタブレット学習教材として提供。
■年中（４～５歳）、年⾧（５～６歳）向けの
「こどもちゃれんじタッチ」の受講で使用が可
能。（※「すてっぷタッチ」は年中向け）
■11個のテーマにそった内容をゲーム感覚で学
ぶことが出来る。
◆こどもちゃれんじ「すてっぷタッチ」
引用:ベネッセコーポレーション. “年中さん向け こどもちゃれんじすてっぷ
(4歳・5歳向け)”. Benesse こどもちゃれんじ.
https://shimajiro.benesse.ne.jp/step/（入手 2023-7-28）

5. 方 法
Processingで
プログラム
を組む
体験者※に
遊んで
もらい
観察する①
保護者へ
感想を
聞き取る①
①の結果を
踏まえ
プログラムを
改良する
体験者※に
遊んで
もらい
観察する①
保護者へ
感想を
聞き取る②
Processingでプログラムを組み、作成したアプリとポインターマウスを使った遊びの検証を行った。
※体験者…3歳7ヵ月女児１名

6. 1回目・２回目の検証の要約
2023年7月5日 つどいの広場にて実施
『魔法のステッキ』を製作し、その中にポインターマウ
スを仕込む。
モニター画面へ向かって上下にステッキを振ることでモ
ニター上に茎が１本出現する。
それが伸びていき、やがて花を咲かせるという遊びを
行った。
1回目
2023年7月12日 つどいの広場にて実施
１回目の検証を踏まえ、１回目に製作したポインター
マウスが入った『魔法のステッキ』で花を咲かせる
遊びを２種類行った。
２回目
体験者の反応や保護者の感想等を踏まえ改良

7. 製作について（1回目）
情報機器を使った遊びへ入る前に、導入として魔法のステッキを体験者と製作した。
筒状の容器へ黒い色画用紙を貼り、ポインターマウスを入れて
隠し、魔法のステッキの柄の部分とした
【準備するもの】
・ハート形、星形に切った画用紙
・キラキラしたシール
・筒状の容器
・黒い色画用紙
【手順】
① ハート形もしくは星形のどちらかの画用紙を選ぶ
② ①で選んだものにシールを貼る
③ 黒い色画用紙を貼った筒状の容器に②を貼る

8. プログラムについて（1回目）
 マウスの座標を取得し、ポインターマウスを
上下に振ることで、茎の⾧さの変数が増えて
いくプログラムを作成した。
 茎の位置が一定の高さになると、葉っぱや花
の画像が表示される仕組み。
 花が咲いた後は、画面をリセットすることで
再び遊ぶことができる（咲く花は1本のみ）。

9. 検証の結果（1回目）
子どもの様子
 導入で興味を引き出せなかったこともあり、
遊びに対してあまり反応が見られなかった。
 『魔法のステッキ』の製作は自分から進んで
行っていた。
 情報機器を使った遊びの場面では、最初は保
護者と一緒に振っていたが、だんだんと自分
で振るようになっていった。
 自分なりに考えて、手首を使いながら小さく
振っている様子も見られた。
保護者への聞き取り
ビーズで遊んだり絵を
描いたりしている。
▶
子どもの普段の家庭での
遊びについて。
・咲く花の色を増やす
・咲いた花を毎回消す
のではなく、画面
に残す。
▶
検証した遊びのアプリに
ついて、自分の子どもに
合わせてプログラムを書
き換えるとしたらどのよ
うにするか。

10. 製作について（２回目）
導入として、1回目に使用した魔法のステッキを「パワーアップさせる」という名目で体験者と装飾を施した。
事前に折り紙で折ったものを3種類用意。
体験者が好きなものを選び、ステッキに貼る。
青、緑、黄色の3色のスズラン
テープを用意。
好きな色を選び、割いたあとに
ステッキの先端に貼る。

11. プログラムについて（２回目）
１回目の結果と保護者からの回答等を基に
２つのプログラムを作成した。
 花の色を４色に増やす。
 花が咲いた後も振り続けることで画面
いっぱいに花を咲かせることが可能。
 茎の始点や⾧さ、花の咲く位置や色が
ランダムに表示されるよう設定。
 画面をリセットして再び遊ぶことが可能。
①１回目のプログラムを改良したもの
1回目の検証の後に保護者から聞き取った
意見を反映させたプログラムを組んだ

12. プログラムについて（２回目）
１回目の結果と保護者からの回答等を基に
２つのプログラムを作成した。
体験者が造形を好んでいると推察し、お絵かき遊び
に近いプログラムを組んだ。
 ステッキを上下左右に動かすことにより、マウ
スの座標が変化し、その軌跡どおりに画面上に
花が出現する仕組み。
 花の色は①と同様にランダムに出現。
 一定数の花が出現すると終了音が鳴り、それ以
降、花は出現しない。
 画面をリセットすることで再び遊ぶことが可能。
②体験者の好みを推察し、新たに作成したもの

13. 検証の結果（２回目）
子どもの様子
 スズランテープを選んで割いたり、リボンを
選んだりする場面では、自分から進んで選ん
でいる様子が見られた。
 情報機器を使った遊びの場面では、１回目の
検証時よりも、ステッキを大きく振っていた。
 振るとその軌跡に沿って花が咲く②の遊びで
は、自分がステッキを動かしたことと画面の
花が連動していることに気づいたのか、動か
さずに止める場面も見られた。
保護者への聞き取り
前回よりは進んで
ステッキを振っていた。
▶
一度目と比較し子どもの
反応に変化は見られたか。
前回よりは近づいてい
たと思う。
▶
前回と比較し、子どもの
好みに近づいたと思うか。

14. 考察①～1回目と２回目の比較
2回目
1回目
体験者の好みを推測し
新たに作成
保護者の意見と結果を
踏まえて改良
体験者の好みを把握せず
作成
プログラム
・１回目の検証時よりも、ステッキを大きく振っていた。
・①より②の方が体験者の反応が良かった。
最初は保護者と一緒に
振っていたが、だんだん
と自分で振るようになっ
ていった。
子どもの
様子
① ②
子ども自身の好みや発達を把握した上でプログラムを作成することで、
子どもの興味や発達をさらに促すことが期待される

15. 考察②～デジタルとアナログの親和性
『魔法のステッキ』がもたらした効果
 マウスポインタの無機質な印象を消す。
 子ども自身が飾り付けすることにより
愛着を持つ。
 遊びの世界へのスムーズな移行。
◆デジタルだけでは想像しにくい部分を、製作
物などアナログなものを絡めることで、それ
を補うことが可能だという、デジタルとアナ
ログの親和性。
◆アナログな教材はすぐに作り替えることがで
きるため、そのような点でもプログラムを書
き換えることができれば、アナログな教材と
の相乗効果がより生まれやすい。

16. 考察③～保育の未来
 今回の教材開発でProcessingを学び、専門知識が無くても、構造さえ理
解すれば想像以上に容易に作成できるものもあることがわかった。
 ChatGPTなどの生成AIが台頭し、今後さらに高性能化が進み、誰でも簡
単にプログラムを組むことができるようになることが予想される。
 保育者自身が子どもの興味や発達に応じて、生成AIを用いてアプリを作
成し、効果的に情報機器を幼児教育の中に取り入れるという時代がそう
遠くない未来に訪れるのではないか。