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(Vol.48)新しい戦略で「古き良き」を守る
Gartner エグゼクティブプログラム(EXP)のワークショップでは、年に一回、ちょっと変わったところを訪問します。

一昨年は鹿児島の AZ スーパー・マキオ、昨年は広島のメガネ21でした。そして今年は九州国立博物館を訪問して、
聞学芸部博物館科学課長、本田光子氏のお話をき、博物館の裏側を覗いてきました。

九州国立博物館は 東京、奈良、京都に次いでの4番目の国立博物館として 2005 年に福岡に開設されました。国
立博物館が新設されたのは実に 108 年ぶりとのこと。太宰府天満宮の隣にあり、長いエレベーターとトンネルで境内
と繋がっている、非常にモダンな建物です。


                                            太宰府天満宮




お話を伺った本田さんは 2003 年に博物館設立準備室主幹に招聘され、2005 年の開館時から現職です。
それまでの経歴は、

    明治大学文学部史学地理学科考古学専攻卒業
    東京芸術大学大学院美術研究科保存科学専攻修士課程修了
    九州歴史資料館、福岡市埋蔵文化財センター
    別府大学文学部文化財学科助教授(のちに教授)
と、文化財一筋です。

博物館のロビーで迎えてくれた本田さんは久留米絣姿で、いきなり我々
を驚かせてくれました。久留米絣も後生に残すべき重要な文化財で、お客様をお迎えするときにはこれを着ることが
多いんです、とのこと。

博物館の一番の目的は文化財を収集保管し、次の世代に伝えていくこと。展示されているのはほんの一部で、保管
庫や研究室、修復施設などのバックヤードの方が圧倒的に大きいのです。九州国立博物館のユニークなところは、
このバックヤードを積極的に一般の人に公開していることと、文化財の整理、館内の環境整備など、専門家にしかで
きないと思われていた分野の仕事に市民参加の道を開き、「協同」のシステムを構築していることです。

何事も「裏側」を見せるのは勇気がいることで、当時は反対も多かったようですが、今や九博のバックヤードツアーは
人気のプログラムの一つになりました。




                              1
博物館の広大な保管庫には約 2m×1.5m の窓が2つあり
ますが、この窓を作るのがとにかく大変だったとか。中に
は仏像もあるから覗かせるのは不謹慎だとか、窓がある
と結露するとか、文化庁の建築規定では保管庫に窓は
つけてはいけないことになっているとか、それはそれは
いろんな反対に遭ったのだとか。おまけに建物はすでに
建築が始まっている。二重窓にして周辺温度の管理を
徹底するとか、間にブラインドが降りるようにして必要な
時には目隠しができるようにするとか、とにかく「土下座
するぐらいの勢いで」頼み込んで、なんとか窓を作ってもらったそうです。

文化財の大敵は埃、湿気、温度変化、虫、カビなどで、巨
大な保管庫と周辺施設の環境を保つのは大変なことです。
九博は、このような仕事にも市民ボランティアを採用してい
ます。仕事をうまく細分化して、ボランティアの人でも専門
性を生かせるようにシステム化すると、プロの業者に頼まな
くてもできてしまう。九博では空調メーカー、計測器メーカ
ー、電力会社などの技術者 OB や、趣味で昆虫を研究し
てきた人などが、自分の出番だとばかり喜々として働いて
くれているとのことです。一見単なるゴミ掃除でも、そのゴミ
を分析すると昆虫の侵入経路やカビの発生パターンなど
がわかるようで、まるで宝物のようにゴミを集めて顕微鏡で
調べている人もいるとか。

このような舞台裏を市民に公開し、積極的に仕事に参画してもらうことで市民の文化財保護の意識を高め、博物館
の活動(と予算)への理解を深めてもらうのが目的だということです。

さて、この本田さん、お子さんが5人いて、お孫さんが4人いるというから驚き。どう見てもそんな風には見えません。
明るく元気に皆を引っ張っている。それと、お話がなぜかすごく響いてくる。

どうしてだろう、と思って私なりに分析してみました。

1. .明確なビジョンと“Why”がある。

 ビジョンは「いいものを後世に残したい」と、シンプルで明確。このビジョンが響くのは、以下のような具体的な
 “Why”を持っているから。

     いいものを見るのが好き。京都・神護寺で、源頼朝像の現物を間近に見て感激した。
     例えば再生紙は100年程度しか持たないのに、和紙は1,300年以上持つ。日本にはこんなにいいものが
     いっぱいあるのに、みなその価値を認識していない
     孫たち(=次の世代)にもいいものをたくさん見せてあげたい。

2.   ビジョンに基づいた戦略・戦術がある
     九州国立博物館からの招聘を受諾したのは、「いいものを後世に残す」ためのハコとして最適だから。
     その博物館の活動が支持されるために、バックヤードツアーなど、オープン化戦略を選んだ。(これは、企業
     経営でも重要。とにかく隠さないこと)

                                2
3. ”モチベーション3.0”を引き出している

   ボランティアの人たちの多彩な経験と技能を生かして、人間本来が持つ「自分の能力を発揮したい」「人の役
   に立ちたい」「成長したい」というモチベーションをうまく引き出している。

4. 武勇伝がある

   保管庫に開けた窓は、保守的な博物館文化への突破口。本田さんの考えを表す非常にシンボリックなものに
   なった。窓から見えるのはただの棚と箱。しかし、木目の方向や棚の構造などの話を聞いていると、「いいもの
   を後世に残す」ための日本人の情熱と知恵が伝わってくる。「目に見えるもの」を通じて「目に見えないものの
   大切さ」を伝えたかったのではないか。

バックヤード見学後の懇親会には副館長の森田さんも参加いただき、文化財談義でさらに盛り上がりました。IT の活
用はまだまだできていないとの事でしたが、そこは CIO の集まりである EXP プログラム、いろいろと面白いアイディア
が出て来ました。

  (1) 展示品の説明

   a. 電子ペーパーを使う(液晶ディスプレイは発熱の問題で断念した経緯あり)
   b. 超指向性スピーカーで、多言語で解説する
   c. スマートフォンやニンテンドーDS からアプリをダウンロードし、解説機として使う
   d. Augmented Reality を使って、展示品に説明をオーバーレイする

  (2) 収蔵品の研究、分析
   a. 例えば曼荼羅を10センチ四方のブロックに分けてインターネット上に開示し、使われている模様の数を数
      えてもらうなど、手間のかかる研究にクラウドソーシングを活用する。

  (3) 寄付金の受付

   a. Pay Pal などインターネット送金の仕組みを使い、100 円、1,000 円といった少額でも受け付ける。
   b. 収蔵品の一覧をネットに掲載し、いいね!ボタンを押すと 10 円が寄付される仕組みを作る。
     ※現在は1万円単位で、寄付申込書を請求するか PDF でダウンロードし、記入して FAX で送って銀行振
      り込みという手順になっている。
まだまだいろいろなアイディアがありそうです。皆さんもぜひ考えて見てください。。




                                 3
(バックヤード見学の模様)




  3D スキャナで展示物をスキャンし、3D プリンタで印刷すると、簡単に「触れるレプリカ」ができてしまう




修復室は一転してお茶の間の雰囲気。              床下にある巨大な免震装置




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  • 2. 博物館の広大な保管庫には約 2m×1.5m の窓が2つあり ますが、この窓を作るのがとにかく大変だったとか。中に は仏像もあるから覗かせるのは不謹慎だとか、窓がある と結露するとか、文化庁の建築規定では保管庫に窓は つけてはいけないことになっているとか、それはそれは いろんな反対に遭ったのだとか。おまけに建物はすでに 建築が始まっている。二重窓にして周辺温度の管理を 徹底するとか、間にブラインドが降りるようにして必要な 時には目隠しができるようにするとか、とにかく「土下座 するぐらいの勢いで」頼み込んで、なんとか窓を作ってもらったそうです。 文化財の大敵は埃、湿気、温度変化、虫、カビなどで、巨 大な保管庫と周辺施設の環境を保つのは大変なことです。 九博は、このような仕事にも市民ボランティアを採用してい ます。仕事をうまく細分化して、ボランティアの人でも専門 性を生かせるようにシステム化すると、プロの業者に頼まな くてもできてしまう。九博では空調メーカー、計測器メーカ ー、電力会社などの技術者 OB や、趣味で昆虫を研究し てきた人などが、自分の出番だとばかり喜々として働いて くれているとのことです。一見単なるゴミ掃除でも、そのゴミ を分析すると昆虫の侵入経路やカビの発生パターンなど がわかるようで、まるで宝物のようにゴミを集めて顕微鏡で 調べている人もいるとか。 このような舞台裏を市民に公開し、積極的に仕事に参画してもらうことで市民の文化財保護の意識を高め、博物館 の活動(と予算)への理解を深めてもらうのが目的だということです。 さて、この本田さん、お子さんが5人いて、お孫さんが4人いるというから驚き。どう見てもそんな風には見えません。 明るく元気に皆を引っ張っている。それと、お話がなぜかすごく響いてくる。 どうしてだろう、と思って私なりに分析してみました。 1. .明確なビジョンと“Why”がある。 ビジョンは「いいものを後世に残したい」と、シンプルで明確。このビジョンが響くのは、以下のような具体的な “Why”を持っているから。 いいものを見るのが好き。京都・神護寺で、源頼朝像の現物を間近に見て感激した。 例えば再生紙は100年程度しか持たないのに、和紙は1,300年以上持つ。日本にはこんなにいいものが いっぱいあるのに、みなその価値を認識していない 孫たち(=次の世代)にもいいものをたくさん見せてあげたい。 2. ビジョンに基づいた戦略・戦術がある 九州国立博物館からの招聘を受諾したのは、「いいものを後世に残す」ためのハコとして最適だから。 その博物館の活動が支持されるために、バックヤードツアーなど、オープン化戦略を選んだ。(これは、企業 経営でも重要。とにかく隠さないこと) 2
  • 3. 3. ”モチベーション3.0”を引き出している ボランティアの人たちの多彩な経験と技能を生かして、人間本来が持つ「自分の能力を発揮したい」「人の役 に立ちたい」「成長したい」というモチベーションをうまく引き出している。 4. 武勇伝がある 保管庫に開けた窓は、保守的な博物館文化への突破口。本田さんの考えを表す非常にシンボリックなものに なった。窓から見えるのはただの棚と箱。しかし、木目の方向や棚の構造などの話を聞いていると、「いいもの を後世に残す」ための日本人の情熱と知恵が伝わってくる。「目に見えるもの」を通じて「目に見えないものの 大切さ」を伝えたかったのではないか。 バックヤード見学後の懇親会には副館長の森田さんも参加いただき、文化財談義でさらに盛り上がりました。IT の活 用はまだまだできていないとの事でしたが、そこは CIO の集まりである EXP プログラム、いろいろと面白いアイディア が出て来ました。 (1) 展示品の説明 a. 電子ペーパーを使う(液晶ディスプレイは発熱の問題で断念した経緯あり) b. 超指向性スピーカーで、多言語で解説する c. スマートフォンやニンテンドーDS からアプリをダウンロードし、解説機として使う d. Augmented Reality を使って、展示品に説明をオーバーレイする (2) 収蔵品の研究、分析 a. 例えば曼荼羅を10センチ四方のブロックに分けてインターネット上に開示し、使われている模様の数を数 えてもらうなど、手間のかかる研究にクラウドソーシングを活用する。 (3) 寄付金の受付 a. Pay Pal などインターネット送金の仕組みを使い、100 円、1,000 円といった少額でも受け付ける。 b. 収蔵品の一覧をネットに掲載し、いいね!ボタンを押すと 10 円が寄付される仕組みを作る。 ※現在は1万円単位で、寄付申込書を請求するか PDF でダウンロードし、記入して FAX で送って銀行振 り込みという手順になっている。 まだまだいろいろなアイディアがありそうです。皆さんもぜひ考えて見てください。。 3
  • 4. (バックヤード見学の模様) 3D スキャナで展示物をスキャンし、3D プリンタで印刷すると、簡単に「触れるレプリカ」ができてしまう 修復室は一転してお茶の間の雰囲気。 床下にある巨大な免震装置 4