英文読解中の文から文への読み戻り
―視線計測を用いた検証―
名畑目 真吾(筑波大学)
全国英語教育学会第45回弘前研究大会
2019年8月17日(土)10:30-10:55@第12室(総合教育棟406)
はじめに
 英文読解中では,前の文に読み戻ることがある。
 なぜ文間の読み戻りは起こるのか?読み戻りは学術的・教育
的にどのように捉えるべきなのか?
先行研究:視線計測と読解研究①
読解研究における視線計測の有用性
 “monitoring eye movements during reading can provide valuable
information regarding moment-to-moment comprehension
processes” (Rayner et al., 2006, p. 241)
 より自然な読解状況下での測定が可能(全文提示,二次タスクが不要)
 「自己ペース読み」は通常の読解よりもペースが遅くなる (Rayner, 1998)
 読解中の「読み戻り」を指標とすることができる
 様々な指標を算出し,理解の初期処理と後期処理を区別できる
(Conklin, Pellicer-Sánchez, & Carrol, 2018; Roberts & Siyanova, 2013)
先行研究:視線計測と読解研究②
読解における視線計測の指標
図1. 読解中の注視,サッケード,逆行 (Adapted from Conklin et al., 2018, Figure 1.3)
 サッケード:ある場所から別の場所への視線の素早い移動
 注視:サッカード間に視線が一定時間停留すること
 逆行:通常とは逆の視線の動き(=右から左)
 単語内を読み戻る短い逆行や,前の文へと読み戻る長い逆行がある
 長い逆行は,文脈など大きな単位での理解の困難を示す
(Conklin et al., 2018; Rayner et al., 2006; Roberts & Siyanova, 2013)
先行研究:視線計測と読解研究②
読解における視線計測の指標
注視時間 (ms) サッケードサイズ 逆行割合 (%)
200-250 2 degrees / 7-9 letters 10-15
表1. 黙読における視線計測指標の平均 (Conklin et al., 2018; Rayner et al., 2006)
 テキストの難易度が高くなるほど / 読解が不得手な読み手ほど,
注視時間は長くなり,サッケードは短くなり,逆行の割合が高
くなる。
先行研究:視線計測と読解研究③
SLA・応用言語学分野における視線計測研究の増加
 L2研究では,読解中の単語処理・文処理(統語処理)を検討し
た研究がほとんどであり,談話処理(文章理解)を検討したものは
ほとんどない。
 Roberts & Siyanova (2013, SSLA)  Conklin et al. (2018)
先行研究:視線計測と読解研究④
文章理解研究への視線計測の応用可能性
 Hyönä et al. (2003)
“eye tracking has been successfully adopted to the study of basic reading
processes and to that of syntactic parsing, but there are surprisingly few
studies where eye tracking is employed to examine global text
processing” (p. 313)
“discuss the potential usefulness of existing eye movement measures
and to suggest new measures capable of reflecting different aspects
of global text processing” (p. 330)
 Rayner et al. (2006)
“the time is ripe for more comprehension studies to use eye movement
data to understand discourse processing.” (p. 252)
先行研究:読解における文の読み戻り①
L1文章理解研究の事例
 Hyönä et al. (2002)
 説明文の読解において,各文の注視時間や文間の読み戻りの頻度によって読
解パターンの個人差を特定  文間の読み戻り頻度における個人差を指摘
 Kaakinen et al. (2002)
 説明文の読解において,読みの目的によって文章中の特定の文への注視や読
み戻りが変化するかを検証
 Rayner et al. (2006)
 (1) 文章の難易度,(2) 照応詞と先行詞の一致・不一致という2つの談話要因が
注視時間や回数,文間の読み戻り (2のみ) に与える影響を検証
 Rinck et al. (2003), van der Schoot et al. (2012)
 物語文の読解において,矛盾する内容を含む2つの文間の読み戻りなどを検証
先行研究:読解における文の読み戻り②
L2文章理解研究の事例
 Nahatame et al. (2015)
 英語学習者の物語文の読解において,予測と実際のテキスト内容が異なる場
合の注視パターンを検討
 文間の読み戻りに関しては,個人差が大きい可能性を指摘
 Ushiro et al. (2019)
 物語文の読解において,登場人物の特徴や因果関係,目標・行動などについ
て矛盾を含む2つの文が注視パターンに与える影響を検証
 特定の情報に関する矛盾は文間の読み戻りを引き起こすことを実証
 英語学習者を対象とした文間の読み戻りの基本情報や,文章の
難易度・学習者要因との関連が不明である
研究の目的
 英文読解中の文から文への読み戻りを視線計測によって検証し,
それがどのような頻度や要因によって起こり得るのかを明らかにする。
 英文読解研究及び読解指導において,既読の文への読み戻りという事
象をどのように扱うべきかについて,本研究の結果に基づいて議論する。
RQ1: 英語学習者の読解において,文から文への読み戻り
はどの程度の頻度で起こるか?
RQ2: 英文読解中の文から文への読み戻りは,文章の読み
やすさ(難易度)と関連しているか?
研究の方法
協力者
 国立大学に通う日本人大学生・大学院生34名
 英検の読解問題に基づくテストの結果,およそ中上級の英語学習
者と推定
実験材料
 英検準2級,2級,準1級の第1問(空所補充問題)より,2文1
組の文章を21組選定して一部改変した。
 これらの文章は,複数の指標 (Flesh-Kincaid Grade Level; The
Coh-Metrix L2 Readability) によってその読みやすさが評価された。
研究の方法
英文 FKGL RDL2
準2級
Frank’s computer broke last week, but he does not have
much money right now. He wishes that he were rich, so he
could buy a new one.
3.36 32.85
2級
When Frank became the sales manager, his boss told him
that he would have to answer for any mistakes that his team
made. Frank agreed to take on this new responsibility.
6.82 21.66
準1級
Frank hated the idea of selling his guitar. However, he
needed the money, so he eventually overcame his reluctance
and put an advertisement in the newspaper.
10.35 13.44
表2. 実験材料の例
注. FKGL = Flesch-Kincaid Grade Level; RDL2 = The Coh-Metrix L2 Readability.
研究の方法
実験材料
 これらの文章は,複数の指標 (Flesh-Kincaid Grade Level; The
Coh-Metrix L2 Readability) によってその読みやすさが評価された。
 Flesch-Kincaid Grade Level (FKGL)
= (0.39 × 文の平均単語数) + (11.8 × 単語の平均音節数) −15.59
 The Coh-Metrix L2 Readability (RDL2)
= −45.032 + (52.230 × 内容語の重複の指標) + (61.306 × 統語的類似
性の指標) + (22.205 × 語彙頻度の指標)
(Crossley et al., 2011)
研究の方法
実験手順
 協力者はコンピューター画面上に提示される文章を読解し,その際の
視線がEyeLink® 1000 Plusによって記録された。
 各文章を読解後,内容に関するT/F 質問に回答した。
研究の方法
分析方法
 各文を分析領域に設定し,2文目から1文目への読み戻りが起こって
いるかを解析
 読み戻りの有無(0,1)を頻度として算出
研究の方法
分析方法
 RQ1: 全試行における読み戻りの割合 (%) を算出。注視継続時間
による区分。
 RQ2: 文章の難易度が読み戻りに与える影響を検証する混合効果
ロジスティック回帰分析 (R & lme4 package)
・従属変数:読み戻りの有無(1,0)
・固定効果:文章の難易度(FKGL or RDL2)
協力者の読解熟達度(テスト得点)  中心化
・変量効果: 協力者,項目
Formula: Regression ~ cFKGL + cPro + (1| Subject) + (1| item)
Formula: Regression ~ cRDL2 + cPro + (1| Subject) + (1| item)
結果と考察
RQ1: 読み戻りの頻度
文から文への読み戻りは全試行の約20~30%で起こっていた。
表3. 文から文への読み戻りの割合(注視継続時間による区分)
N Mean SD SE
Full 685 0.30 0.46 0.02
250ms < 685 0.29 0.45 0.02
500ms < 685 0.27 0.44 0.02
1000ms < 685 0.20 0.40 0.02
結果と考察
RQ2: 文章の難易度の影響
 文から文への読み戻りは,指標の種類にかかわらず文章の難易度
とは関連していなかった。
表4. 混合効果ロジスティック回帰分析の結果 (250ms <)
Random Effects
Fixed Effects By Subject By Items
Parameters Estimate SE z p SD SD
Intercept −1.15 0.26 −4.50 .000 1.02 0.71
cFKGL 0.07 0.08 0.79 .430 ––––– –––––
cPro 0.04 0.06 0.06 .510 ––––– –––––
Random Effects
Fixed Effects By Subject By Items
Parameters Estimate SE z p SD SD
Intercept −1.15 0.26 −4.49 .000 1.02 0.71
cRDL2 −0.02 0.02 −0.74 .460 ––––– –––––
cPro 0.04 0.06 0.06 .510 ––––– –––––
結果と考察
RQ2: 文章の難易度の影響
 文間の読み戻りの頻度は,学習者によって大きく異なっていた。
図2. 協力者個人ごとの読み戻りの割合 (250ms <)
文から文への読み戻りの割合(%)
 文間の読み戻りは,テキスト要因よりもむしろ学習者の個人差
要因に関わる事象である可能性 (Hyönä et al., 2002)
結果と考察
RQ2: 文章の難易度の影響
 実験材料(英文)の難易度の妥当性
 文間の読み戻りと理解度 (T/F質問正答率) の関連
 r = −0.03, p = .350
 文間の読み戻りの有無は,文章の理解度と関連していない
 注視時間に対しては,文章の難易度の影響が明確に見られた
結論と示唆
 英文読解中の文から文への読み戻り頻度は20-30%で,テキス
ト要因よりも学習者の個人差の影響が強い。
 文から文への読み戻りは必ずしも不足した理解を補うためでなく,
個人の読解スタイルの特徴の1つともいえる。(Hyönä et al., 2002)
 読解研究において文間の読み戻りを指標とする際は,個人差
が大きいことに留意する必要がある。
 読解指導においては,文間の読み戻りの多さを必ずしも読解が
苦手であることや不十分な理解へと結び付けず,慎重な読みを
行う学習者である可能性を考える。
限界点と今後の課題
 テキスト要因の細分化
 語彙・文(統語)・結束性の特徴に特化した評価 (Kyle et al.,
2018; Crossley et al., 2019);特に結束性の影響を見る必要性
 統計モデルの精緻化
 変量傾き (random slopes) を含めたモデルの構築
 読解する文章の長さ
 2文ではなく,より長い文章 (extended discourse) での検証
 他の視線計測指標と文章難易度の関わり
 注視時間,サッケード長,逆行割合などへの影響
引用文献
Conklin, K., Pellicer-Sánchez, A., & Carrol, G. (2018). Eye-tracking: A guide for applied linguistics research. Cambridge
University Press.
Crossley, S. A., Kyle, K., & Dascalu, M. (2019). The tool for the automatic analysis of cohesion 2.0: Integrating semantic
similarity and text overlap. Behavioral Research Methods, 50, 1030–1046.
Hyönä, J., Lorch, R. F. Jr., & Kaakinen, J. K. (2002). Individual differences in reading to summarize expository text: Evidence
from eye fixation patterns. Journal of Educational Psychology, 94, 44–55.
Hyönä, J., Lorch, R. F., Jr., & Rinck, M. (2003). Eye movement measures to study global text processing. In J. Hyönä, R. Radach,
& H. Deubel (Eds.), The mind’s eye: Cognitive and applied aspects of eye movement research (pp. 313–334). Amsterdam,
Netherlands: Elsevier Science.
Kaakinen, J. K., Hyönä, J., & Keenan, J. M. (2002). Perspective effects on on-line text processing. Discourse Processes, 33,
159–173. doi:10.1207/S15326950DP3302_03
Kyle, K., Crossley, S., & Berger, C. (2018). The tool for the automatic analysis of lexical sophistication (TAALES): version
2.0. Behavior Research Methods, 50, 1030–1046.
Nahatame, S. (2015). Revision of predictive inferences and Japanese EFL learners’ text comprehension processes: A study of eye
movements during reading. ARELE, 26, 45–60.
Rayner, K. (1998). Eye movements in reading and information processing: 20 years of research. Psychological Bulletin, 124,
372–422. doi:10.1037/0033-2909.124.3.372
Rayner, K., Chace, K., Slattery, T. J., & Ashby, J. (2006). Eye movements as reflections of comprehension processes in
reading. Scientific Studies of Reading, 10, 241–255. doi: 10.1207/s1532799xssr1003_3
Rinck, M., Gamez, E., Diaz, J. M., & de Vega, M. (2003). Processing of temporal information: Evidence from eye
movements. Memory & Cognition, 31, 77–86. doi: 10.3758/BF03196084
Roberts, L., & Siyanova-Chanturia, A. (2013). Using eye-tracking to investigate topics in L2 acquisition and L2
processing. Studies in Second Language Acquisition, 35, 213–235. doi: 10.1017/S0272263112000861
Ushiro, Y., Ogiso, T.,Hosoda, M., Nahatame, S., Kamimura, K., Sasaki, Y., Kessoku, M., & Sekine, T. (2019). How EFL
readers understand the protagonist, causal, and intentional links of narratives: An eye-tracking study. ARELE, 30, 161–176.
van der Schoot, M., Reijntjes, A., & van Lieshout, E. C. D. M. (2012). How do children deal with inconsistencies in text? An eye
fixation and self-paced reading study in good and poor reading comprehenders. Reading and Writing, 25, 1665–1690. doi:
10.1007/s11145-011-9337-4

20190816 jasele

Editor's Notes

  • #2 はじめに~先行研究:9分 研究方法:5分(14分) 結果と考察~最後:6分(20分)
  • #3 はじめに~先行研究:9分 研究方法:5分(14分) 結果と考察~最後:6分(20分)
  • #4 2017年公示の学習指導要領 (文部科学省,2017) によって小学校高学年において外国語が教科化され,それに伴って児童は高学年において英語の読み書きを学習することになった。 また,小学校段階での英語の読むことの導入に伴い,小学校での英語の読み指導を中学校へと発展・接続することも重要となるだろう。 中学校では,「書かれた内容や文章の構成を考えながら黙読したり,その内容を表現するよう音読したりする活動」などが想定されている。 小学校で読むことの導入や中学校への接続という点を踏まえれば,小学生から中学生程度までの年少英語学習者を対象とした読み物教材はこれから需要が増すことが予想される。 Kim and Goto (2017) では,年少英語学習者を5歳から13歳程度に想定
  • #5  2017年公示の学習指導要領においても,英語の「読むこと」の内容の1つとして「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を,絵本などの中から識別する」(文部科学省,2017,p. 105) とあるように,小学校での「読むこと」の指導に絵本の活用が想定されている。 また,ホールランゲージアプローチと呼ばれるリーディング指導においては,意味は個々の単語や文ではなく全体の中にあると考えられ,自然な環境の中で文脈を通してことばを学ぶために子どもが本を読むことが推奨されている (アレン玉井,2010) 。 畑江 (2012) も小学校段階での「読むこと」の導入に絵本が役立つとし,低学年では教員またはCDによる読み聞かせ,中学年では全員で音声中心の読み合い,高学年では「音声・意味・文字」を提示したなぞり読みをし,中学校では音声と意味理解を伴った読み方で1人読みができるようにするという指導を提案している。このような段階的な指導により,中学生の英語を読むことへの抵抗感を減らすことができ,小中の英語学習の円滑な接続に寄与するとしている。 小学校高学年から中学校初期にかけてのなぞり読みや1人読み,そしてそれ以降における英語の読むことの学習においては,簡単な英語圏の絵本や本を「楽しみながら読む」といういわゆる多読が効果的な方法の1つである (畑江,2019 )。畑江 (2019) は,速読・多読指導は文字や音素への気付きの学びを経てきた子どもを次の段階にステップアップさせるための有効な手段になると述べている。 多読学習において頻繁に用いられる教材には大きくLeveled ReadersとGraded Readers があり,Leveled Readersは英語母語話者の子ども向けに書かれた英語習得用の段階別・学習絵本であり,小学校または中学校の英語導入時期に使用するのに適しているとされている(高瀬,2010)。一方,Graded Readersは英語母語話者ではない学習者向けに書かれたものであり,語彙や構文などが制限された教材である。  高瀬(2010)によると,Children Booksやmangaなども含まれている。LRを最初に読んで,GRのやさしめのもの,そしてCBという順番が推奨されているようである(本研究ではLRとGRを並列に扱うため,この点には言及しない)
  • #6  2017年公示の学習指導要領においても,英語の「読むこと」の内容の1つとして「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を,絵本などの中から識別する」(文部科学省,2017,p. 105) とあるように,小学校での「読むこと」の指導に絵本の活用が想定されている。 また,ホールランゲージアプローチと呼ばれるリーディング指導においては,意味は個々の単語や文ではなく全体の中にあると考えられ,自然な環境の中で文脈を通してことばを学ぶために子どもが本を読むことが推奨されている (アレン玉井,2010) 。 畑江 (2012) も小学校段階での「読むこと」の導入に絵本が役立つとし,低学年では教員またはCDによる読み聞かせ,中学年では全員で音声中心の読み合い,高学年では「音声・意味・文字」を提示したなぞり読みをし,中学校では音声と意味理解を伴った読み方で1人読みができるようにするという指導を提案している。このような段階的な指導により,中学生の英語を読むことへの抵抗感を減らすことができ,小中の英語学習の円滑な接続に寄与するとしている。 小学校高学年から中学校初期にかけてのなぞり読みや1人読み,そしてそれ以降における英語の読むことの学習においては,簡単な英語圏の絵本や本を「楽しみながら読む」といういわゆる多読が効果的な方法の1つである (畑江,2019 )。畑江 (2019) は,速読・多読指導は文字や音素への気付きの学びを経てきた子どもを次の段階にステップアップさせるための有効な手段になると述べている。 多読学習において頻繁に用いられる教材には大きくLeveled ReadersとGraded Readers があり,Leveled Readersは英語母語話者の子ども向けに書かれた英語習得用の段階別・学習絵本であり,小学校または中学校の英語導入時期に使用するのに適しているとされている(高瀬,2010)。一方,Graded Readersは英語母語話者ではない学習者向けに書かれたものであり,語彙や構文などが制限された教材である。  高瀬(2010)によると,Children Booksやmangaなども含まれている。LRを最初に読んで,GRのやさしめのもの,そしてCBという順番が推奨されているようである(本研究ではLRとGRを並列に扱うため,この点には言及しない)
  • #7  2017年公示の学習指導要領においても,英語の「読むこと」の内容の1つとして「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を,絵本などの中から識別する」(文部科学省,2017,p. 105) とあるように,小学校での「読むこと」の指導に絵本の活用が想定されている。 また,ホールランゲージアプローチと呼ばれるリーディング指導においては,意味は個々の単語や文ではなく全体の中にあると考えられ,自然な環境の中で文脈を通してことばを学ぶために子どもが本を読むことが推奨されている (アレン玉井,2010) 。 畑江 (2012) も小学校段階での「読むこと」の導入に絵本が役立つとし,低学年では教員またはCDによる読み聞かせ,中学年では全員で音声中心の読み合い,高学年では「音声・意味・文字」を提示したなぞり読みをし,中学校では音声と意味理解を伴った読み方で1人読みができるようにするという指導を提案している。このような段階的な指導により,中学生の英語を読むことへの抵抗感を減らすことができ,小中の英語学習の円滑な接続に寄与するとしている。 小学校高学年から中学校初期にかけてのなぞり読みや1人読み,そしてそれ以降における英語の読むことの学習においては,簡単な英語圏の絵本や本を「楽しみながら読む」といういわゆる多読が効果的な方法の1つである (畑江,2019 )。畑江 (2019) は,速読・多読指導は文字や音素への気付きの学びを経てきた子どもを次の段階にステップアップさせるための有効な手段になると述べている。 多読学習において頻繁に用いられる教材には大きくLeveled ReadersとGraded Readers があり,Leveled Readersは英語母語話者の子ども向けに書かれた英語習得用の段階別・学習絵本であり,小学校または中学校の英語導入時期に使用するのに適しているとされている(高瀬,2010)。一方,Graded Readersは英語母語話者ではない学習者向けに書かれたものであり,語彙や構文などが制限された教材である。  高瀬(2010)によると,Children Booksやmangaなども含まれている。LRを最初に読んで,GRのやさしめのもの,そしてCBという順番が推奨されているようである(本研究ではLRとGRを並列に扱うため,この点には言及しない)
  • #8  2017年公示の学習指導要領においても,英語の「読むこと」の内容の1つとして「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を,絵本などの中から識別する」(文部科学省,2017,p. 105) とあるように,小学校での「読むこと」の指導に絵本の活用が想定されている。 また,ホールランゲージアプローチと呼ばれるリーディング指導においては,意味は個々の単語や文ではなく全体の中にあると考えられ,自然な環境の中で文脈を通してことばを学ぶために子どもが本を読むことが推奨されている (アレン玉井,2010) 。 畑江 (2012) も小学校段階での「読むこと」の導入に絵本が役立つとし,低学年では教員またはCDによる読み聞かせ,中学年では全員で音声中心の読み合い,高学年では「音声・意味・文字」を提示したなぞり読みをし,中学校では音声と意味理解を伴った読み方で1人読みができるようにするという指導を提案している。このような段階的な指導により,中学生の英語を読むことへの抵抗感を減らすことができ,小中の英語学習の円滑な接続に寄与するとしている。 小学校高学年から中学校初期にかけてのなぞり読みや1人読み,そしてそれ以降における英語の読むことの学習においては,簡単な英語圏の絵本や本を「楽しみながら読む」といういわゆる多読が効果的な方法の1つである (畑江,2019 )。畑江 (2019) は,速読・多読指導は文字や音素への気付きの学びを経てきた子どもを次の段階にステップアップさせるための有効な手段になると述べている。 多読学習において頻繁に用いられる教材には大きくLeveled ReadersとGraded Readers があり,Leveled Readersは英語母語話者の子ども向けに書かれた英語習得用の段階別・学習絵本であり,小学校または中学校の英語導入時期に使用するのに適しているとされている(高瀬,2010)。一方,Graded Readersは英語母語話者ではない学習者向けに書かれたものであり,語彙や構文などが制限された教材である。  高瀬(2010)によると,Children Booksやmangaなども含まれている。LRを最初に読んで,GRのやさしめのもの,そしてCBという順番が推奨されているようである(本研究ではLRとGRを並列に扱うため,この点には言及しない)
  • #9  2017年公示の学習指導要領においても,英語の「読むこと」の内容の1つとして「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現を,絵本などの中から識別する」(文部科学省,2017,p. 105) とあるように,小学校での「読むこと」の指導に絵本の活用が想定されている。 また,ホールランゲージアプローチと呼ばれるリーディング指導においては,意味は個々の単語や文ではなく全体の中にあると考えられ,自然な環境の中で文脈を通してことばを学ぶために子どもが本を読むことが推奨されている (アレン玉井,2010) 。 畑江 (2012) も小学校段階での「読むこと」の導入に絵本が役立つとし,低学年では教員またはCDによる読み聞かせ,中学年では全員で音声中心の読み合い,高学年では「音声・意味・文字」を提示したなぞり読みをし,中学校では音声と意味理解を伴った読み方で1人読みができるようにするという指導を提案している。このような段階的な指導により,中学生の英語を読むことへの抵抗感を減らすことができ,小中の英語学習の円滑な接続に寄与するとしている。 小学校高学年から中学校初期にかけてのなぞり読みや1人読み,そしてそれ以降における英語の読むことの学習においては,簡単な英語圏の絵本や本を「楽しみながら読む」といういわゆる多読が効果的な方法の1つである (畑江,2019 )。畑江 (2019) は,速読・多読指導は文字や音素への気付きの学びを経てきた子どもを次の段階にステップアップさせるための有効な手段になると述べている。 多読学習において頻繁に用いられる教材には大きくLeveled ReadersとGraded Readers があり,Leveled Readersは英語母語話者の子ども向けに書かれた英語習得用の段階別・学習絵本であり,小学校または中学校の英語導入時期に使用するのに適しているとされている(高瀬,2010)。一方,Graded Readersは英語母語話者ではない学習者向けに書かれたものであり,語彙や構文などが制限された教材である。  高瀬(2010)によると,Children Booksやmangaなども含まれている。LRを最初に読んで,GRのやさしめのもの,そしてCBという順番が推奨されているようである(本研究ではLRとGRを並列に扱うため,この点には言及しない)
  • #10 Rayner et al. (2006) that longer regressions largely reflect comprehension failures. The relative rarity of long-distance regressions suggests that readers avoid looking very far back in the text unless it is absolutely necessary. When readers do make long regressions, they are fairly accurate in finding that portion of the text where their understanding went astray (see Frazier & Rayner, 1982; Meseguer, Carreiras, & Clifton, 2002)
  • #11 Kaakinen et al. (2003) 説明文の読解において,読みの目的によって文章中の特定の情報への注視パターンが変化するかを検証 Kaakinen, J. K., Hyönä, J., & Keenan, J. M. (2002).  Perspective effects on on-line text processing. Discourse Processes, 33, 159–173.
  • #13 2文1組にしたのは (a) 文間の読み戻りを測定する基礎段階として,最小単位のテキストを用いたため, (b) 項目数を多くすることでデータの信頼性を高めることができるため
  • #22 これらの指標は全て難易度の主効果が有意であり,Holmの方法による多重比較では,動詞の意味的重複を除くすべての指標において各難易度間で有意差がみられた。動詞の意味的重複においては,初級と中級,初級と上級の間には有意差があったが (p = .003; p < .001),中級と上級の間の差は有意傾向に留まった (p = .083)。本結果から,これらの言語的特徴は年少学習向けの教材において難易度によって大きく異なる特徴であるといえる。以下では,大人の英語学習者向けの教材を対象に同様のアプローチで分析を行ったCrossley et al. (2012) の結果とも比較しながら,これらの言語的特徴と難易度の関わりについて詳細に述べていく。
  • #23 文章理解の4つのレベルに基づいて教材の言語的特徴を分析した結果,語彙の獲得年齢,文の統語的類似性,語彙的多様性,動詞の意味的な重複の4つの特徴が教材の難易度によって大きく異なっていた。具体的には,教材の難易度が上がるにつれて獲得年齢が高い語彙や様々な統語構造を持つ文が多く含まれるようになり,語彙の繰り返しが減る代わりに多様性が高まり,動詞の意味的な関連度が低くなっていることが示された。これらの言語的特徴と教材の難易度の関係は,大人向けの教材を分析した先行研究と共通するものもあれば,年少学習者向けの教材に特有のものも含まれていた。さらに,これらの言語的特徴に基づけば,高い精度で年少学習者向けの英語読み物教材の難易度を推定できることが示された。 これまで英語学習者向けの教材の難易度は語彙や文構造のリストに基づいて調整されてきたものの,開発者・作成者の直感的なアプローチに依拠してきた部分も大きい。本研究の結果からは,語彙や文,文章の特徴に関する客観的なデータに基づけば,教材開発段階における難易度調整をさらに効果的・客観的に行うことが可能であるといえる。さらに,本研究で得られた判別式を用いれば,既存の教材が語彙,文,文章の特徴から初級・中級・上級のどのレベルに属するのかを推定することもできる。このようなアプローチを用いれば,より学習者の発達段階や英語に対する習熟度に合わせた教材の選定が可能となるであろう。 
  • #24 本研究は探索的な性質を持つものであり,それゆえいくつかの限界点と今後の研究における課題を含んでいる。1つ目に,本研究で扱った教材の数に関することである。本研究では60を超える教材を扱っているものの,先行研究と比べるとその数は少ないと言わざるを得ない。これには大人の教材と比較して年少英語学習者向けの教材の数が限られているということもあるが,分析対象となる教材の数を増やすことができれば,統計分析に含めることができる言語的特徴の指標の数も増やすことができ,結果的により安定した難易度の推定が可能になるだろう。今後,さらに分析対象の教材数を増やしていくことが課題である。 2つ目に,教材に含まれる文章のジャンル,及びLeveled Readers / Graded Readersなどの違いについてである。年少英語学習者向けの読み物教材では物語文(ストーリー)が圧倒的に多く,本研究で扱った教材でもその大半が物語文であったため,本研究では文章のジャンルは要因にしていなかった。また,本研究ではLeveled Readers / Graded Readersのどちらも英語学習者の児童生徒に頻繁に広く用いられることから,分析における区別をしていなかった。しかしながら,文章のジャンル(例えば物語文と説明文)やLeveled / Graded Readersという違いによって,言語的特徴と難易度の関わりが異なる可能性は否定できず,この点は今後の研究おいて検証される必要があるだろう。繰り返しになるが,この課題を検証するにあたっても,分析対象となる教材の数を増やすことが必要となる。 3つ目に,教材における言語的特徴以外の要因についてである。本研究では先行研究のアプローチに基づいて言語的特徴から教材の難易度を推定したが,特に年少学習者向けの教材では読み物教材であってもイラストなどが含まれていることが多い。そのような視覚的な情報も教材の難易度に影響を与え得るため,実際の教材の評価や選定にはそのような観点を含めることが必要である。今後の研究では,そのような言語的特徴以外の要因も踏まえた難易度推定のモデルを構築することが課題である。