モデルを通じて
心と社会を理解する
小杉考司(山口大学教育学部)
文系学生に対する心理統計教育
〜回帰分析の授業について考える〜
お品書き
• 自己紹介と報告者のフィールドについて
• 実践事例
• 展望〜まとめにかえて
自己紹介
• 所属;山口大学教育学部小学校コース心理学選修
• 専門;社会心理学
• 担当講義;心理学統計法,心理データ処理法(情報
処理演習),社会心理学,グループダイナミックス
,心理学実験,心理学研究演習
本学での(旧)カリキュラ
ム
H27度より養成課程一本化に
あわせてカリキュラムのスリム化
(教職関係科目が増えたため)
基本的な枠組みは変えてません
基本的な考え方
• 1年次;心理学実験,研究法
• 2年次;心理学統計法,心理データ処理法
• 3年次;心理学研究演習(ミニ卒論)
• 4年次;卒業研究
理論+方法
実践
心理学統計法(前期)
データ処理法(後期)
受講対象
• 受講生は心理を専攻する学生10名+α
• ただし,後期は「情報」免許との関係で履修する
学生数名が含まれる(現行はより顕著に)
• 学生のほとんどが臨床系志望
• 上級生が再受講しにくることも少なくない
ねらい
• 統計「モデル」という考え方を伝える
• 前期は概念的に,後期は作業的に
• 統計であれ,社会であれ,臨床であれ,「心理学
はモデルを作ってデータで検証する学問」という
メッセージ
統計の世界の展開
• 新しくて優れた分析方法が次々世に出ている
• 基本をおろそかにしてはいけないが,レガシーに足
を取られて前が見えなくなるようでも困る
• (重)回帰分析,因子分析まででいいのか。SEMとい
う大きな枠組みがあるのに。
• GLM, GLMMといった回帰モデルの展開
• ベイズ統計学は◯◯分析を不要にする?
教える側の希望
• 心理統計を楽しんで欲しい
• 新しくて面白い技術をたくさん紹介したい
• SEMなどより一般的な枠組みでとらえればよく,
かつての苦労を学生に強いる必要はない
• その分,より自由な発想をしてもらいたい
!!Caution!!
• 次々と新しいモデル,技術を投入する危険性
• 学生の理解が追いつかない(誤解・誤用?)
• 細部まで教えきれない(偏相関,残差分析など)
• 自分で分析ができるようになるか???
• こうした欠点は3年次に個別事例を介してフォロー
することで許してください。それよりまずモデリン
グの楽しさを知ってもらいたい。
実践事例
使用する環境
• 学生は一人一台のノートPCを持っている
• CUIという取り付きにくさがあるが,CUIならでは
の利点=再現性,コードと結果の一対一対応,とい
う点で教育効果が高いと考えている。
と
教育上の工夫
• 環境を導入するための時間を用意する(1コマ)
• R,RStudioのインストール,プロジェクト管理
など利用法の説明
• Web(Rpubs)を使ってソースコードの提供
• コピペでOK
• サイトが残っている限りいつでも復習できる
用いるデータ
• 最近よく使うのは「プロ野球選手のデータ」
• 身長,体重,成績,年俸など
• 長所;イメージしやすい,様々な分布のデータ(
正規分布するもの,歪むもの,離散変数)がある
• 短所;人によってはイメージしにくい,データが
1年前のものになってしまう
プロットを重視する
群ごとの色分け,
記号を変える,
分割表示など
回帰分析から
正規分布するデータもあるので使いやすい
重回帰へ拡張する
formula(モデル)を
意識させる。重回帰と単回帰
は名前が違っても関数は同じ
一般化線形モデルに拡張する
モデル
「関数名が違うだけ」
→どこが変わったのか?
データの分布に合わせた
HLMにも自然に拡張
モデル
関数
因子分析にも拡張する
• 「パス解析」として,ストーリー(データの文脈を
説明するモデル)を検証できる,とする
• 回帰分析の繰り返しでできることを示す
• SEMで一回でできることを示す
• 「潜在変数を含んだパス解析」として因子分析へ
• SEMの記法で統一されたモデルの拡張
回帰分析の
反復
SEMで
ひとつの
モデルとして
潜在変数を
含んだモデル
として
長所
• 「モデル」という枠組みで統一的に語る
• 回帰分析を軸に,徐々に拡張していくことで様々
な表現方法を紹介できる
• 推定値,モデル評価がどう変わったか,というと
ころに注目させる
• 因子命名の重要性に気づかせることができる
因子命名がはらむ問題
• 潜在変数を置いたモデルを作成;潜在変数に命名
• 【腕力因子】by 安打数,HR数,四球数,体重
• 【脚力因子】by 盗塁数,犠打数,体重
• モデルを改良していくときに自分でつけた変数名に引
っ張られる
• 【腕力】と盗塁数にパスを引くと改良できる=腕で
走る?!
因子の名前に引っ張られる誤謬
探索的因子分析の時は知らず知らずにこの誤謬を犯していないか?
余談
短所
• 偏相関,偏回帰係数,標準化偏回帰係数,重相関係
数等々,論文を読むときにまだまだ使われる用語が
理解されにくい。
• 探索的因子分析の解説がストーリーに入りにくい
• 本来は「心理測定法」「テスト理論」として語る
べき領域。信頼性,妥当性などの話が欠ける。
展望〜まとめにかえて
心理統計教育に必要なもの
• 心理統計にかけられる時間はいつも不足している
• 質と量のトレードオフ
• 実はもう一コマあったのが改組でなくなりました
• 理想的には心理統計だけで4コマぐらい欲しい
• 理論,実験計画(検定),多変量解析,測定法
心理学と統計法の関係
• 心理統計は「不射之射」を目指すべき
• もちろんそのためには熟練するための訓練量が
• 心を研究するとはどういうことか
• 潜在変数で回帰することの意味=測定法
• 人間社会という環境で適応するゲームのパラメタ
を推測する,という説明は学生に通じやすい
モデルを通じて
心と社会を理解する
小杉考司(山口大学教育学部)
文系学生に対する心理統計教育
〜回帰分析の授業について考える〜
人生は神ゲーか?クソゲー
か?
• 我々はゲームで遊ぶとき,どこかにクリエイター,
あるいはエージェントがいることを考えている
• その上でクリアするために考え,行動する
• 我々は人生で人に出会う時,その人が「主体性を持
ったエージェント」だと考えている(心の理論)
• その上で幸せになるため考え,行動する
社会心理学2015 講義スライドより
ゲームのパラメータを推測しよう
データ(応答変数)
デートに誘って振られた回数n
魅力変数X
ポアソン分布
平均成功回数λ
切片の差
(配られたカードで
戦うしかないのさ)
傾きの差
(ただしイケメンに限る)
前世の徳
カードのシャ
ッフル
神様の悪戯
最初は白紙
社会心理学2015 講義スライドより

日本教育心理学会2016WSスライド