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文部科学省 教員の働き方改革に向けた論点整理のためのヒアリング
子どもたちも、教職員も元気な学校づくり
なぜ、いかに進めるか
2017年5月26日
妹尾 昌俊
教育研究家、学校マネジメントコンサルタント
文部科学省 学校業務改善アドバイザー
NPO まちと学校のみらい 理事
senoom879@gmail.com
http://senoom.hateblo.jp
自己紹介 妹尾 昌俊
 徳島県出身、神奈川県逗子市在住。
 4人の子持ち、育児・教育には日々修行中の身です。
 学校づくり、学校マネジメントはライフワークのひとつ。
 前職の野村総合研究所では、学校評価や学校運営、地域とともにある学校づくり(コ
ミュニティスクール等)についての文科省実態調査・グッドプラクティス分析、高校の組
織マネジメントに関する研究等を実施。妹尾はリーダー。
 こうした中で、非常に多くの学校の教職員や教育委員会の方、住民の方のお話をうか
がってきたことが今日お話することにも活きています。
 2016年7月から独立、フリーになり、“学び続ける学校づくりを伴走する”をミッ
ションに、教職員向け研修やコンサル、業務改善支援などを行っています。
 文部科学省の学校マネジメントフォーラム基調講演、教職員支援機構講師、東京都ほ
か多数の教育委員会や校長会、事務職員研究会等で研修講師
 2017年より学校業務改善アドバイザー(文科省委嘱)、スポーツ庁・運動部活動
の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議委員
 イノベーティブな取組や改善がうまく進む学校とそうではない学校の違いは何か、
マネジメントをとらえなおす本『変わる学校、変わらない学校』を出版。
ぜひ手にとってください~!!!
 たまにブログ更新。よかったらFacebookも気軽にメッセージお願いします。
1
本日の内容
1.ファクトから見た現状の課題認識の共有
★学校はだれが、どのくらい忙しいのか(Who? How busy?)
★忙しいとしても、それはよくないことなのか?(So what?)
2.今後の国・地方教育委員会等における施策の提案
★どうしていけばよいのか?何から始めるか?
(What and How?)
2
本日の内容
1.ファクトから見た現状の課題認識の共有
★学校はだれが、どのくらい忙しいのか(Who? How busy?)
★忙しいとしても、それはよくないことなのか?(So what?)
2.今後の国・地方教育委員会等における施策の提案
★どうしていけばよいのか?何から始めるか?
(What and How?)
3
小学校教員の33.5%、中学校教員の57.7%が週60時間以上勤務(過労死ライン超え)
自宅持ち帰りも含むと、この数字は小学校教諭の57.8%、中学校教諭の74.1%か?
4
文科省「教員勤務実態調査」(2016年実施)
ある中学校の記録。200時間近い残業の人も(≒平日8時間、土日3時間の残業)。
5出所:大橋基博・中村茂喜、2016、「教員の長時間労働に拍車をかける部活動顧問制度」『季刊教育法』No. 189)
朝日新聞2017年1月15日
週に60時間以上働く小中学校の先生の割合が70~80%に
上ることが、全国の公立小中学校の教諭約4500人を対象に
した連合のシンクタンク「連合総研」の調査でわかった。
・・・(中略)・・・・
調査は2015年12月、労働組合に入っているかに関係なく、
公立小学校教諭2835人、中学校教諭の1700人を対象に実
施。小学校1903人(回収率67%)、中学校1094人(同6
4%)が回答した。
調査では、週あたりの労働時間を20時間未満から60時間以
上まで5段階に分けた。小学校教諭で週60時間以上働いてい
る割合は73%、中学校は87%。小中とも50時間未満の教諭
はいなかった。 6
平日11時間以上学内勤務(≒月約96時間残業)の人は小学校64.8%、中学校75.0%、
高校54.3%。
高校も無視できない
7出所)愛知教育大学・北海道教育大学・東京学芸大学・大阪教育大学(2016)『教員の仕事と意識に関する調査』
2006年実施の教員勤務実態調査の時点で、長時間労働はほぼ通年(8月除く)であり、
かつ休憩もほとんどとれない実態は分かっていたはず(怒!)
8
出所)チーム学校作業部会参考資料(2015年1月20日)
2006年の教員勤務実態調査に見る小中学校教諭の1日当たり労働時間
産業別1週間の労働時間の分布
社会全体や他業種と比べても、学校の過重労働(≒長時間過密労働)は異常
9
建設業 34.4% 52.4% 8.5% 3.1% 1.5% 13.1%
製造業 46.5% 45.2% 6.1% 1.5% 0.7% 8.3%
情報通信業 47.3% 42.5% 6.6% 2.4% 1.2% 10.2%
運輸業、郵便業 33.5% 43.8% 13.5% 6.2% 3.1% 22.7%
卸売業、小売業 44.3% 42.3% 8.7% 3.2% 1.5% 13.4%
金融業、保険業 50.8% 41.8% 5.7% 0.8% 0.8% 7.4%
不動産業、物品賃貸業 48.0% 40.0% 8.0% 2.7% 1.3% 12.0%
学術研究、専門・技術サービス業 46.5% 40.3% 8.2% 3.1% 1.9% 13.2%
宿泊業 39.4% 45.5% 9.1% 3.0% 3.0% 15.2%
飲食店 33.6% 37.9% 14.7% 8.6% 5.2% 28.4%
医療業 55.3% 37.2% 4.3% 2.0% 1.2% 7.5%
社会保険・社会福祉・介護事業 63.3% 33.2% 2.2% 0.9% 0.4% 3.5%
国家公務 63.0% 28.3% 4.3% 2.2% 2.2% 8.7%
地方公務 55.5% 33.6% 5.5% 3.9% 1.6% 10.9%
学校教育 40.5% 40.5% 11.5% 4.7% 2.7% 18.9%
その他の教育、学習支援業 51.4% 37.1% 8.6% 2.9% 0.0% 11.4%
週
約45時間
未満
週
約45~59
時間
週
約60~69
時間
週
約70~79
時間
週
約80時間
以上
約60時間
以上の
割合
小学校教諭(教員勤務実態調査) 0.8% 41.4% 40.7% 14.4% 2.7% 57.8%
中学校教諭(教員勤務実態調査) 0.7% 25.2% 33.5% 24.8% 15.8% 74.1%
※小学校教諭、中学校教諭以外については、月末1週間の就業時間(「労働力調査(2016年度)」に基づく)。
※※小学校教諭、中学校教諭については、2016年実施の「教員勤務実態調査」に基づた1週間の学内勤務時間に、
   平均的な自宅持ち帰り時間(週約5時間)を加えた時間。
週
35~42
時間
週
43~59
時間
週
60~69
時間
週
70~79
時間
週
80時間
以上
60時間
以上の
割合
「労働力調査(2016年
度)」、「教員勤務実態
調査(2016年実施)」
をもとに作成
※週35時間以上勤務
の人のみを集計対象
業務量が多い、忙しい
⇒ ではいったい何に時間を使っているか?
⇒ 授業、授業準備、生徒指導・集団(給食、清掃等)、部活動、成績処理など
10出所)文科省「教員勤務実態調査」(2016年実施)
過重労働の教員は、部活動だけではない。授業準備や採点・添削、事務業務も熱心。
11
日本の中学校教員の1週間の労働時間、内訳 (総労働時間別結果)
出所)OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013をもとに作成
(時間)
仕事時間の
合計
指導
(授業)
授業の計画
や準備
学校内での
同僚との共
同作業や話
し合い
生徒の課題
の採点や添
削
生徒に対す
る教育相談
学校運営業
務
一般的事務
業務
保護者との
連絡や連携
課外活動の
指導
その他の業
務
週30時間以上40時間未満(n=120) 33.1 16.9 5.4 2.4 3.6 1.6 1.4 2.9 1.0 5.7 0.8
週40時間以上60時間未満(n=1,233) 49.7 17.9 7.7 3.4 4.0 2.3 2.4 4.5 1.1 5.6 1.7
週60時間以上75時間未満(n=1,249) 64.3 18.3 9.6 4.4 5.1 3.1 3.4 6.4 1.4 8.7 2.9
週75時間以上(n=372) 81.2 19.2 11.0 5.3 5.8 4.5 4.3 8.5 1.9 13.3 4.5
(日本全体の平均) 53.9 17.7 8.7 3.9 4.6 2.7 3.0 5.5 1.3 7.7 2.9
(調査参加国全体の平均) 38.3 19.3 7.1 2.9 4.9 2.2 1.6 2.9 1.6 2.1 2.0
週60時間以上働いている(≒月残業時間が80時間以上)教員
 授業の準備に時間をかけており(10~11時間)
 課題の採点・添削も丁寧(5~6時間)
 事務業務(おそらく分掌業務)もよくこなし(6~8時間)
 部活も熱心(9~13時間)
◆もう一度仕事を選べるとしたら、また教員になりたい
まったく当ては
まらない
当てはまらない 当てはまる
非常に良く当て
はまる
週30時間以上40時間未満 10.0% 31.7% 44.2% 14.2%
週40時間以上60時間未満 7.7% 35.8% 41.1% 15.4%
週60時間以上75時間未満 7.3% 36.3% 41.3% 15.1%
週75時間以上 8.9% 32.2% 40.7% 18.2%
◆現在の学校での仕事を楽しんでいる
まったく当ては
まらない
当てはまらない 当てはまる
非常に良く当て
はまる
週30時間以上40時間未満 7.5% 18.3% 55.8% 18.3%
週40時間以上60時間未満 2.9% 18.6% 60.8% 17.8%
週60時間以上75時間未満 2.3% 20.5% 59.7% 17.5%
週75時間以上 3.3% 19.5% 51.5% 25.7%
◆現在の学校での自分の仕事の成果に満足している
まったく当ては
まらない
当てはまらない 当てはまる
非常に良く当て
はまる
週30時間以上40時間未満 4.2% 42.5% 50.8% 2.5%
週40時間以上60時間未満 4.4% 41.1% 51.2% 3.3%
週60時間以上75時間未満 6.0% 48.1% 42.3% 3.6%
週75時間以上 7.9% 48.0% 39.6% 4.6%
忙しくても、仕事へのモチベーションや満足度は高い人も多い
(そうではない人も一定いる)ことが学校の特徴
12
日本の中学校教員の仕事への満足感等について (総労働時間別結果)
出所)OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013をもとに作成
楽しめている人
⇒
やりがいをもっ
て
よかれと思って
やっている
⇒
歯止めがかか
りづらい
⇒
バーンアウトや
過労死のリスク
大
楽しめていな
い人
⇒
少数派だし、
声には出しづ
らい
⇒
悶々と
ストレスを
ためている
⇒
精神疾患や
早期退職の
リスク大
多忙化の影響は?
多忙な教師、多忙な学校の影響、弊害は
どこにあると思いますか?
「別に好きでやっているからいいやん?」でしょうか?
13
教職員の献身性と高いモチベーションに支えられた(依存した)学校
悲しいことと隣り合わせ NHKニュース2016年12月23日
精神疾患などにかかる公⽴学校の新人教員が急増し続ける中、
この 10年間で、少なくとも20人の 新人教員が自殺していたことが
NHKの取材でわかりました。
教員は新人でも担任をもったり、保護者に対応したりする必要があり、
専門家は「新人教員は即戦力 として扱われ、過度なプレッシャーを
受ける。国は自殺の現状を把握して、改善を図るべきだ」と指摘していま
す。・・・・・・
⽂部科学省によりますと、昨年度、精神疾患などの病気を理由に退職し
た新人教員は 92人で、平成15年度の10人と⽐べて、急激に増えてい
ます。
さらにNHKで、昨年度までの10年間に死亡した新人教員、合わせて46
人の死因 について、取材した結果、少なくとも20人が自殺だったことが
わかりました。
14
熱血教師の過労死
2011年6月6日(月)午前1時頃、堺市立中学校に勤務する26歳
の教師、前田大仁さんが1人暮らしの自宅アパートで突然亡くな
りました 。虚血性心疾患でした。前田先生は「熱血先生」と慕わ
れ、市教育委員会の教員募集ポスターのモデルにもなったことも
ありました。
前田先生は2年目で、2年1組のクラス担任ならびに経験のない
バレー部の顧問を務めていました。理科の教科担当としてプリン
ト等を作成するなど熱心に授業準備を行うとともに、学級通信を
ほぼ毎週発行するなど、教育に情熱をもってあたっていました。
部活動では、部員が記入する個人別のクラブノートに励ましや助
言をびっしりコメントしていました。
発症前6か月間の時間外勤務は月60~70時間前後と過労死認
定基準に満たない時間しか認められませんでしたが、「相当程度
の自宅作業を行っていたことが推認される」として、地方公務員
災害補償基金は2014年に公務上の過労死として認定しました。
15参考)松丸正「運動部顧問の教師、長時間勤務の下での過労死」『季刊教育法』2016年6月、朝日新聞2015年3月5日
細る自己研鑽、自己投資
「長時間労働のもたらしている最大の弊害とは、能力開発の機会喪失である」
(玄田有史東大教授、『働く過剰』)
 連合総研の2015年の調査によると、教員の1日の読書時間は15~30分程度。
 ベネッセ教育研究所が実施した「学習指導基本調査」によると、小学校教員が新聞を読んだり、読書したり
する時間(平日の1日)は、1998年は33.4分、2007年は31.5分、2010年は30.7分、2016年は24.7分。
中学校教員では、1998年は33.8分、2007年は32.3分、2010年は31.9分、2016年は23.1分、
高校教員では2010年に40.2分、2016年に33.6分。
※
ちなみに、NHKが2015年に実施した国民生活時間調査によると、勤め人の1日(平日)の新聞を読む時間は
10分、雑誌・マンガ・本を読む時間は9分なので、合計約19分。
 ある市の2016年度実施の教員向けストレスチェック調査によると、小学校の61.5%、中学校の58.8%が
「いつもひどく疲れた」、「しばしばひどく疲れた」と回答し、
小学校の50.2%、中学校の47.1%が「いつもヘトヘトだ」、「しばしばヘトヘトだ」と回答。
 愛知教育大学等の調査(2015年)によると、
仕事の悩みとして「授業の準備をする時間が足りない」と答えた教員は、
小学校94.5%、中学校84.4%、高校77.8%。
「仕事に追われて生活のゆとりがない」という教員も、小学校76.6%、中学校75.3%、高校67.7%。
16
長時間労働の影響、少なくとも3点
⇒ 学校は、教職は、働き方改革の先頭に立たなければならない!
17
1.個人レベルでは、授業準備や自己研鑽の時間が減る。
組織レベルでも学習が減る。
 教職員個人にとっては、読書や趣味、好きなことを追求する時間な
どが減る ⇒ 広い意味での自己研鑽が犠牲となってしまう。
 学校という組織、チーム単位で捉えても、個業が増え、
組織的な改善や学習が進みにくくなる。
⇒その結果、さらに多忙化が進む(悪循環に)。
2.心身ともに疲れる、病気になる。
 バーンアウトやうつ、自殺に発展するケースも。
3.「ともかく長く働けばよい」、「仕事のためには、家庭やプライベートは犠
牲にせざるを得ない」と生産性やワークライフバランスを軽視すること
が子どもへ影響する。 (=隠れたカリキュラムのひとつ)
本日の内容
1.ファクトから見た現状の課題認識の共有
★学校はだれが、どのくらい忙しいのか(Who? How busy?)
★忙しいとしても、それはよくないことなのか?(So what?)
2.今後の国・地方教育委員会等における施策の提案
★どうしていけばよいのか?何から始めるか?
(What and How?)
18
多忙(長時間過密労働)は、なぜ、改善しないのか?
国も、地方教育委員会も、校長も、教職員も、みんな“子どものため”にビルド&ビルド
19
【国(MEXT)】
 意欲的で、学校現場
に高みを求める学習
指導要領
 〇〇計画、△△の推
進等による上乗せ
 地方分権のタテマエ
上、教委や学校に
具体的には言いづら
い
【地方教育委員会】
 教育の重点を示せず
 学校管理職の登用や
評価に、組織マネジメ
ント、労務管理、人材
育成の視点は弱い
 県から見ると、小中の
服務監督は市町村の
役割、市町村から見
ると、予算も人事もな
い中で無理言うな
(責任が曖昧?)
【校長、教職員】
 目の前の子どもたち
のためにも、あれも大
事、これも大事
 ビジョン、戦略を示せ
ず(教育目標は、曖昧
な美辞麗句)
 子どものために一生
懸命が美徳な文化
 自前主義・個業化で
多忙化が加速
だれも悪意はないなか(むしろ、よかれと思って)
教職員のやることを増やしている(ビルド&ビルド)
今後の方針(基本的な考え方)
1.「子どものため」とばかり言うな!
言わなくても、日本のほとんどの教員は子どもたちのために一生懸命。
「子どものためになるから」、「教育効果があるから」というロジック(or魔法の言葉)
では教員の仕事は減らないし、重点も示せるわけがない。
「時間対効果はあるか」といった生産性や「より優先度の高い課題に対してどうか」
という課題起点にもっと価値を置くべき。
2.自分の時間を取り戻そう!働き改革というより、生き方改革
いまの学校や教員に必要なのは「自分のことも大事にできる」、「自分の子どもも
しっかり育てられる仕事にする」こと。それがひいては、教員の魅力や授業や雑談
のタネとなり、児童・生徒のためにもなる。
3.国、地方教委、学校(校長、教職員)のどれかに頼るのでは
なく、また会議ばかりでなく、各自が行動に移す。
計画つくりました、庁内横断的会議をしました、管理職向け研修しました、とポーズ
だけでは、キビシイ現状は解決しない。成果を伴ないと、現場はさらに諦めてしまう。20
論点① 学校教育の“ビルド&ビルド”にストップをかけられるのか?
⇒多忙化対策の本丸は、学校の課題とビジョンを重点化すること
21
目指す子ども像
(or目指す地域の姿と、
そのなかでの大人と子どもの姿)
その学校での教育の重点
(学校のビジョンと戦略)
カリキュラム
マネジメント
や特色ある
学校づくりに
向けた取組
負担軽減
業務改善
地域学校
協働活動
バラバラではなく、つながりをもって実践する
学校の重点課題
 何を伸ばすのか
 何が足りないのか
 本校で大事なこと
3つは何か 等
(具体例)
早く正解にたどり着く力だけでなく、正解
のない問いにも粘り強く考え抜く子を育
てたい。今の教育活動ではそこが弱い。
たとえば、「走れメロス」で王様の視点に
立つとどうか、考えられる授業をしたい。
狭い意味だけの業務改善(=方法改善)では、限界があるのは明らか
22
狭い意味での業務改善
いまある仕事の仕方を見直す
=方法改善
(例)
 部活の休養日の設定
 会議や行事の進め方の改善
 校務支援システムによる情
報共有と手続きの効率化
広い意味での業務改善
いまある仕事をやめる、減らす、
統合する
=仕分けと精選
(例)
 部活数の縮小
 会議や行事の精選(整理・統
合・廃止)
 教師業務アシスタントの活用
一般的な改善効果 大小
学校の重点課題とビジョンをもとに判断
論点② 教員定数を改善できたら、多忙は解消するのか?
⇒教員数(常勤のみ)は少子化の割には減っていないが、多忙化は加速
23
50.0
60.0
70.0
80.0
90.0
100.0
110.0
1991年
1992年
1993年
1994年
1995年
1996年
1997年
1998年
1999年
2000年
2001年
2002年
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
2015年
2016年
小学校児童数 小学校教員数
中学校生徒数 中学校教員数
小学校、中学校の児童生徒数と本務教員数の推移(1991年=100としたとき)
出所)文部科学統計要覧(平成29年版)をもとに作成
ファクトから見た現状の課題認識を踏まえて・・・国への提案
定数改善について
1. 教員が人間らしく活き活きと働ける労働環境の整備としての教員定数改善。
あまりにも過酷な労務環境をどうするか、健康経営の観点から、定数改善を。
平たくいえば、せめて、まともな休憩時間をとれる学校にしましょう、自分の子どもの面倒も
みれる仕事にしましょう。
文科省と財務省はご存じですか?“部活未亡人”という言葉や膀胱炎が教師の職業病と
言われていること。
仮に、教員定数改善がむずかしい場合、教師業務アシスタント(岡山県等の先行事例あり)
の拡充や事務職員加配等による学校運営の強化を図るべき。
※教職員の業務調整を行う職員室コーディネーターとして事務職員が活躍してほしい。
育児等の短時間勤務の柔軟な運用や拡充も検討。
2. 21世紀を生きる力を育てるために、授業をよりよくしていくための定数改善。
小学校は、1人の担任が10~11教科教え、生活指導や家庭へのケアまで行うのは、授業
の質の向上の点でも、限界? 複数教科の担任制(2~3人で学級担任)としては?
小中校ともに、各教員がもつ授業コマ数を調査⇒授業準備ができるコマ数へ上限規制を。
小中高とも、教科指導を行わない、生活指導(生徒指導)専任と進路指導・キャリア教育専
任を拡充できないか?今は一人があらゆることをやっている。 24
ファクトから見た現状の課題認識を踏まえて・・・国への提案
定数改善とともに実施する優先度の高い施策について
3. とはいえ、定数改善だけでは多忙は解決しない。
劣後順位(優先順位が低いもの)のガイドとその実施に向けた財源的な支援を。
たとえば、給食指導、清掃指導など、なんでも「指導」という名のもとに教員しかできないふう
に現場は思い込んでいる。⇒責任感が強いのはいいことである反面、多忙は改善しない。
必ずしも教員がやらなくてもよい仕事やもっと簡素化できる業務のガイドを出したい。
たとえば、給食は、アレルギー対応や特に支援の必要な子へのケアは、
栄養教諭+一般の教諭で対応せざるを得ないだろうが、そのほかは、
地域住民の支援をもらう等。 指導要録と通知表ももっと簡素化できないか?
4. ビートルズの時代から変化のない残業手当なしの制度は限界では?
今の教職調整額(4%)は昭和41年(1966)度調査をもとにしている。
これはビートルズが来日公演をした年であり、そこからほとんど制度改革はないまま。
調整額を増額させる、または時間外労働に応じた手当(一般の行政職と同様に)にする。
5. 教員も、もう少し同一労働同一賃金に近づけては?(負の影響もあるので要検討)
増加する非正規教員 ⇒ 常勤講師は正規とほぼ仕事同じ。
年齢がどうであれ、同じ学級担任ならば、そう仕事の性質は変わらないのでは?
25
ファクトから見た現状の課題認識を踏まえて・・・国への提案
6. 「次世代の学校」として、ブレンディッド・ラーニングを全国に。
40人学級であれば、学習意欲や習熟度、個性、発達障害の有無などは40通り。
ICTやインターネットを活用して、児童生徒の個別の課題や強み、ポテンシャルに応じた教
育を拡充。
アクティブ・ラーニング型の授業のように、対話的、協働的な学びはリアルの場も重要。
ゆえに、リアルかネットかというどちらかではなく、ブレンドすることが大事。
いまの学校は提出物の採点・チェック等でも多大な時間。時間があれば丁寧にやればよい
が、時間対効果は低いとの研究結果もあるらしい。PCやAIにもっと任せよう。
いつまでも全国学力・学習状況調査を紙でやらない。CBTやタブレット利用であれば、すぐ
に採点ができ、弱点等を教えてくれる、全国的な傾向と比べたアドバイスを児童生徒個別に
もらえる、ビッグデータ解析をして学校や教科担任ごとにもフィードバックもできる。
7. 教職員の声を教育行政や管理職育成に活用できる仕組みを。
校長等の労務管理が悪くても、教職員にとっては安心して言える場が少ない。都道府県の
人事委員会は敷居が高いし、少ない人員でどこまで対応できるか疑問。
市区町村教委では報復措置を恐れる人も。
管理職人事に反映しなくてよいので、教職員の声を管理職や教育委員会等に届ける
フィードバックの仕組みを。 26
多忙化の問題は、タイムマネジメントや狭い意味での業務改善だけでは解決しない。
あなたはどちらの生き方をしたいですか?
27
A先生:
教師になって10年。児童からも、同僚からも熱心な先生という評判である。毎週手書きで心のこもった学級
通信を出していて、保護者もけっこう読んでくれているようだ。宿題や児童の日誌へのコメント書きも丁寧で、
休み時間や放課後だけでは終わらないので、21時すぎにいったん帰宅した後、自宅で残りをこなすことも多
い。独身ということもあり、アパートは平日はほとんど寝るだけで、とても読書なんてする気力はない。週末
はたまに友人とおしゃべりをしたり、ショッピングに行ったりもするが、授業準備にも土日とも数時間とる。週
明けは、どうも疲れが残ってしまうときもある。まだ若いうちだし、まあいいかなと思っている。
B先生:
さすがに毎日とはいかないが、週3はほぼ定時帰宅。仕事のあとはヨガか読書の時間だ。学級通信は毎
週出しているが、30分でできるまでと自分で決めている。写真を使うとそのくらいの時間でもできるように
なった。宿題のコメントは、いいね!、すばらしい!、もっとがんばろうね!など一言、二言にしている。そう
しないと、残業が増えてしまうからだし、子どもにも「1人5分だと3時間、8分だと5時間以上かかっちゃうん
だ。だからコメントは簡単だけど、ちゃんとみんな読んでいるからね」と最初に言っておいた。
教師の仕事は好きだが、趣味の時間も好きだ。大学のときに落研に入っていたこともあり、最近は毎月の
ように寄席に通っている。最初からそう意識したわけではないが、落語家の話術は、授業でも参考になるこ
とが多い。たまにだが、週末は外部の勉強会に出ることもある。熱心な友人が全国に増えてきて、最近楽
しくなってきた。
気軽にコンタクトください
ご意見、研修会・勉強会なども歓迎です~
妹尾 昌俊
学校マネジメントコンサルタント
senoom879@gmail.com
★Facebook
★ブログ:妹尾昌俊アイデアノート
http://senoom.hateblo.jp
★書評サイト Books for Teachers
http://bookfort.hatenablog.com/
★オンラインゼミ(交流サロン)
元気な学校づくりゼミ
https://synapse.am/contents/monthly/
senoom
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