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人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)




   知識科学と知識創造ビルディングス

          北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科

                          杉山公造


1. はじめに

  本稿は、知識科学研究科創生という現在進行中の建設現場の一員(理工系企業出
身者)としての体験ノートである。野中(初代研究科長)の「組織的知識創造の経営」
理論[1]は、企業における知識指向経営論であるが、研究科設計の重要な基礎をなす
もののひとつである。知識科学研究科創生は、まさに大学の研究科(という社会的装
置)における「知識科学」を創造するためのマネジメントを意味している。従ってそ
れ自身が組織的知識創造の経営論の  (対象を変えた)実践であり事例となっていると
いう再帰的な構造になっている(国立大学に企業のような経営という観点があるの
かは疑問であるが)。このような観点から見るとき、本稿も、本シンポジウムのテー
マである 「知識マネジメント」研究として位置づけられるのではないかと思われる。
(ただし、全くの私見であることをお断りしておきたい。)


2. 21 世紀は知識がキーワード

 時代は知識社会に向かって動いているというのが基本的認識である。
 知識(人間知)の研究は、人間の歴史と同じくらい古い歴史を持つが、      「知識」が来
世紀を特徴づけるキーワードの一つであることはもはや疑いのないようである。あ
るいは、諸科学の段階が、かつて「物質」「エネルギー」「情報」と進んできたも
                          、      、
のが、こぞって人聞・組織・社会に深く結びついた「知識」に照準を合わせる(最初
の)フェイズに入って来たと言った方が良いかも知れない(もうひとつの流れは「生
命」であろう)。ひとつには、コンピュータサイエンスとして発展してきた情報科学
が、情報処理の時代を経て、いよいよ本来の目的であった「人間活動のあらゆる面
に付随した情報」概念にまともに踏み込まざるを得ない状況になってきていること
である。もうひとつには、経営資源や競争力の源泉としての「知識のマネジメント」
の重要性に関する世界的な関心の高まりである。社会経済学、産業組織論、技術経
営論、経営戦略論、組織論などにおいて知識に基づいた理論化・実践化が進んでい
る。さらに、環境科学におけるように、人類の将来に関わる複雑で大規模な問題解
決のために、人間・社会と科学技術の調和や文系と理系の学間分野の融合を進める
新しい価値体系と方法論が求められている。
 これら三つの(代表的な)流れは、学問としては別々の流れのように見えても実は
同じもの(巨大な世界的な潮流)のそれぞれの側面であることは異論のないところで
あろう(と筆者はひしひしと感ずる)。ここに、      「知識」という概念を核とした統合的
新分野の開拓の必要性と必然性があると考えられる。すなわち知識社会のための科
学の開拓と人材の養成が求められているといえる。このようなものを「知識科学」
と呼ぶとすると、それはどのようにしたら創生されうるのだろうか、また教育・研
究はいかに進めるべきであろうか。どのような既存分野を基礎とすべきか。概念と
しての開発と具体的取り組みをどのようにバランスして行うのか、等々、全ては未
知であるが、大変 challenging な課題である。

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3. 世界初の創設、世界中に動きが広まっている

  北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は、   世界の JAIST を目指して、平成 2 年 10
月に開学された新構想の独立大学院であり、研究・教育の理念として「世界最高水
準の豊かな学問的環境を創出し、その中で次代の科学技術創造の指導的役割を担う
人材を組織的に養成することによって、世界的に最高水準の高等教育機関として文
明の発展に貢献すること」を掲げている。
  このような JAIST に、知識科学研究科が、情報、材料に続く第三の研究科として
1996 年 5 月に設置された(図 1 参照)。「知識科学」を標榜する研究科規模の組織と
しては世界初の試みである(同時期に奈良先端科学技術大学院大学には、情報、物質
創成につづきバイオサイエンスが設置された)。       このような両施策は前節に述べた主
旨から見て、実に諸科学の発展方向を見据えた適切な施策といえよう(但し、知識科
学の方がバイオサイエンスより抽象性が高いだけ立ち上げには時間がかかるように
思える)。

         H8.5    知識科学研究科設置
         H10.3         第Ⅰ棟完成
         H10.4   前期課程第1期生入学
       1 H10.4            知識科学教育研究センター設置
         H11.3         第Ⅱ棟完成
         H11.4   前期2期生入学
       2
         H12.3   前期1期生修了            現在
         H12.4   前期3期生入学、後期1期生入学
       3
         H13.3          第Ⅲ棟完成 センター設備設置
       4
       5 H15.3 学年進行終了

                     図1   知識科学研究科の歩み


 ナレッジマネジメントに対する世界的な関心の高まりとともに、欧米でも知識科
学を標榜する高等教育(大学院)機関設立の動きが盛んである。図 2 に最近の欧州に
おける動向を示す[2]。




                               2
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                    図 2 欧州における動向[2]

4. 理念は壮大、具体的な成功目標は何?

 「知識科学とは何であるか、何を目指すべきであるか」に関して統一的な理解が
明確に得られているわけではない。これらの問いに対する答えは今後実践的に確立
していかなければならない。創設に当たり掲げられた理念は次の通りである。
 『自然、個人、組織および社会の営みとしての「知識創造」という切り口で物質
科学、生命科学、認知科学、情報科学、システム科学から、社会学、組織論や経営
学、経済学にいたるまでの自然科学分野や社会科学分野の学問を再編、融合した教
育研究体制を整備し、知識創造のメカニズムを探求する。同時に、将来の知識社会
を担う問題発見・解決型人材、すなわち「知識社会のパイオニア」(経営のわかるエ
ンジニア、科学技術のわかるマネージャー)を養成することを目標とする。教育研究
対象としては、知識システム、カオスやフラクタルなどの複雑系、組織ダイナミッ
クス、意思決定メカニズム、研究開発プロセス、複合システムなどの領域を中心と
して、新しい社会現象としてのネットワーク社会、サイバースペース、バーチャル・
コーポレーションまでも広く視野に入れる。』
 表現は決して分かりやすいとは言えないが、新しい時代の変化にも対応していく
ということからすれば、理念や目標も変化するし、恒久的な理念が確立するには時
間がかかる。今後、分野外の人にも分かり易い理念の説明と、具体的な成功目標を
整えていかなければならない。
 知識の創造や統合のプロセスやその支援技術を研究するためには、研究者・技術
者だけでなく知識の創造や統合の実践者としての企業家・芸術家・職人等との交流
を通じて研究活動を行うことが必要であり、また知のパイオニアたる教育研究の体
現者である学生諸君の若き創造力とエネルギーが必須である。さらに、世界で初の
知識科学を標樗する研究科という組織であることを踏まえ, 知識科学の研究成果を
                           『
世界へ向けて情報発信し、知識科学の啓蒙にも資する』ことも目指さなければなら
ない。
 これまで異分野交流や異分野融合は、その重要性は良く指摘されてきているが必
ずしも成功していない大変困難な課題である。本研究科はこの困難な課題に知識指
向の観点より挑戦するものであるが、従って、新たな方法論としての『異分野統合・
融合を進めるための研究支援システムの研究開発』もまた研究目標に含まれるべき
である。


5. 研究科の構成、連携講座が充実

 研究科の構成は、2 専攻、各専攻は 6 つの基幹講座と 3 つの連携講座を持つ。さ
らに寄付講座がひとつあり、計 19 講座である。教官は各基幹講座あたり教授 1、助
教授 1、助手 2、連携講座あたり客員教授 2、助教授 1 である。講座名称は次の通り
である。連携講座、寄付講座により産学連携を強めることを意図している。

【知識社会システム学専攻】
基幹講座:
組織ダイナミックス論、意思決定メカニズム論、社会システム構築論、創造性開発
システム論、研究開発プロセス論、複合システム論
連携講座:
産業政策システム論(三菱総合研究所)、企業戦略論(野村総合研究所)、地域システム
論(日本政策投資銀行)

                             3
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【知識システム基礎学専攻】
基幹講座:
知識創造論、知識システム構築論、知識構造論、遺伝子知識システム論、分子知識
システム論、複雑系解析論
連携講座:
高次脳機能システム論(理化学研究所)、ヒューマンインタフェース論(NTT)、知的生
産システム論(日立製作所)
【寄付講座】複雑系の科学(富士通)


6. これまでの歩みを駆け足で

 1998 年 4 月に初めて博士前期課程の学生(定員 90 名)を受け入れ、本年 3 月に修
了生を送り出すとともに、4 月には博士後期課程の学生(定員 30 名)を迎えたところ
であり、研究科完成時までの 5 年のうち、後 2 年数ヶ月を残している。本研究科の
創設からこれまでの約 2 年半は、研究の観点から見ると本格的な研究を開始するた
めの準備期問であった。研究科の通常の研究施設・設備の整備や個々の研究室の研
究環境の立ち上げを行い、知識科学の開拓創生のための国際調査[3]、セミナー、シ
ンポジウムなどの実施の体制を充実させるとともに、異分野から集まった研究者が
それぞれの専門分野から知識科学へどのようにして踏み込むかの試行を手探りで進
めてきた。来年度初頭には、第 3 棟が完成し、知識科学教育研究センター関連の設
備も導入されて知識創造のためのインフラストラクチャーも整備される予定であり、
ようやく施設・設備の一応の完成をみる(図 3 参照)。また本研究科のコースで育っ
た学生も今年から後期課程に入学し、そろそろ新しい知識科学研究の担い手として
力を発揮してくれる段階になってきている。さらに異分野から集まった研究者もお
互いに気心が知れてきており、知識科学開拓創生への体系的な取り組みへの気運も
生まれて来ている。このように、本研究科は、準備期問を経ていよいよ本格的な研
究へ踏み出す時期に来ているといえる。




                                    知識科学




    バーチャルJAIST
                    図 3 知識科学全棟完成予想図



                              4
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7. 組織的知識創造の理論とは

 研究科の基本コンセブトである組織的知識創造の理論を紹介しておこう。この理
論は企業活動研究を中心として開発されてきた。理論は 4 つの要素から成り立って
いる。すなわち、
 (1) SECI モデル 暗黙知と形式知の交流と変換による知識の創造プロセスモデル
              :
     (図 4 参照)
 (2) 場:知識創造のための共有する文脈
 (3) 知識資産:知識創造プロセスにおける入力と出力
 (4) 知識リーダシッブ:知識創造のブロセスを起動するための条件
である。これらの要素が互いに関連しあって連続的増幅的に知識創造スパイラルが
引き起こされる。

                         暗黙知
               共同化                   表出化

               創発場                   対話場
         感情、経験、メンタル・モデル            多元性と個別性の
     暗   (価値観)の共有                  相互作用(対話)         形
     黙               知識創造スパイラル                      式
               内面化                   連結化
     知                                              知
               実践場                   総合場
                                 形式知の相互作用(編集)
         行動を通じての統合(学習)
                                 による形式知の増幅


                         形式知
              図 4 SECI モデルと知識創造スパイラル


 要素問の関連は図 5 に示されている[4]。この知識科学の基礎となる理論は、人文
社会系から出ているところが特徴であるが、計算機科学から始まった知識科学の体
系化の試み[5](図 6 参照)と比較してみると興味深い。前者は哲学、人間、社会とい
う深い考察に基づいたコンセプトの体系化であるのに対し、後者はやはり技術的課
題の体系化という視点に傾斜している。後者は直接技術者に具体的技術的課題を与
えるが、前者は具体的な技術的課題は何も与えない。しかし前者は人のものの考え
方といった間接的、抽象的な次元ではあっても、経営者から技術者などより広範な
社会的影響力を持つ(これが世界的にこの理論が広まった原因であろう)。どちらが
有用ということではなく、両者次元が異なるということである。理系で育った筆者
には、このような文系のアプローチは新鮮であったが、コンセプト以外(形而下)の
サジェッションが殆どないことにも技術畑で育ったものとしては驚きがあった。た
だし技術系が自分達の仕事のバックグランドとして利用しやすく、多くの示唆が得
られるものである(この例は後述)。




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                                          (from Nonaka et al. 2000)

                  図 5 知識創造要素の関連図[4]




                  図 6 情報科学からの体系化[5]




8. 知識科学教育は文武両道、MD? ID?

 外国には、文系・理系といった言葉はなく、日本特有のものだそうである[6]。こ
れまでは、文系・理系の専門分野で、それぞれ様々な問題解決がなされてきた。し
かし、今起こっている複合領域の問題は、文系・理系それぞれの分野のみでは解決

                             6
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できない問題に発展してきており、その解決に向けて必然的に両者が融合するか、
あるいは両者を背景として境界領域を創造していくことによってしか解決できない。
我が研究科に与えられた課題は、このような融合教育あるいは創造教育を「知識創
造」という切り口でどのようにして行うかである。博士前期(修士)課程では主に融
合教育を、後期(博士)課程では主に創造教育をということになるであろうか。
 知識科学研究科に入学する学生は、様々な分野、学部卒業生/社会人経験者、企業
派遣者、20 代から 50 代までと幅広い特徴を持っている。研究科の性格上、予想さ
れた結果である。このような入学者に対する組織的カリキュラムとして、次のよう
な工夫をしている。

 (1)   文系、情報系、複雑系/システム系の科目をバランス良く行う
 (2)   入門科目を設定し導入や移行を容易にする
 (3)   同一の科目に対しても背景知識により文系向き、理系向きの内容を工夫する
 (4)   主テーマ、副テーマを必修とし、それぞれ異なる分野で行うように指導する
 (5)   修士論文、博士論文は「知識」に関連するテーマを選択するよう指導する
 (6)   グローバルコミュニケーションや情報技術の基本能力向上させる
 (7)   博士課程の授業は英語で行う

などである。
 融合教育の手法は大きく分けるとマルチディシプリナリ(mu1ti-disciplinary)と
インターディシプリナリ(inter-disciplinary)がある(図 7 参照[6])。前者は、複数の
学間の専門分野を学生が学び、学生自身の中で融合されるものであり、後者は、複
数の学問の専門分野が相互作用し、      新しい構造の知識体系の構築がなされたもの(融
合や創造がなされたもの)を学生が学ぶものである。現状は、マルチディシプリナリ
教育を実施している。
 文系学生にとって、自然、情報の一つを修得するだけでも本人の将来にとって大
いにプラス、自然、情報の基礎教育を受けたことによる利点は計り知れない。理系
の学生にとって他方の理系科学を学び、これらをツールとして人文・社会科学の問
題発見と問題解決に関する研究テーマに取り組めば文理融合の新しい展開が期待さ
れる。
 個々の授業では、文科系の知と理科系の知の連結を目指した試みが行われだして
いる(例えば「知識処理方法論 B」では、Serve1et や XML、RDB などの技術を使
って JA1ST で役に立つ社会派 Web アプリケーションを作るというテーマで授業と
実習が行われている)。また、ようやく知識科学シリーズといったものを共同で作る
機運が生まれてきている。




               図 7 マルチディシプリナリとインターディシプリナリ

                                 7
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9. 文理(異分野)融合の三段階モデル

 研究科という組織における知識創造ブロセスのマネジメントをどのように考えた
らよいであろうか。文献[1]では、経営プロセスについての支配的なモデルとして、
トップダウン・モデルとボトムアップ・モデルを検討し、どちらも組織知の創造に
必要なダイナミックな相互作用を促進するにはものたりないとし、新たにミドル・
アッブダウンと呼ぶモデルを提案している。大学の場合は、強い階層構造がそもそ
も存在しないのでマネジメントというよりはコーディネーションという方が適切か
もしれない。
 筆者は、異分野融合の研究プロセスモデルとして、図 8 のような三段階モデルを
考えている(英国ラフボロー大のエドモンド教授とのディスカッションがヒントと
なっている)。あわてないで環境を整え、醸成を待つモデルといってよいであろう。
                                                            pp
                                         Now here                          Interdisciplinary
  Three Phases Model                                                           Products
                                                         Products in IS
                     Products in SS

                                                            Difficult!
         SS     IS                    SS            IS                    SS           IS

           NS
                                            NS                                 NS
                                                          Interdisciplinary            Interdisciplinary
                                                              Products                     Products

    Distinguished                                Products in NS
    researchers gather
                                      Results affected                    In the final phase
    from different fields
                                      by other fields                     interdisciplinary
    in the same place
                                      are produced in                     fusions occur in
    physically.
                                      each original field.                many directions.
   Mutual understanding
   Exchange tacit knowledge


                              図 8 異分野融合の三段階モデル


 第一のフェイズは、優秀な研究者が同じミッションの下に物理的に集まり日常的
に接触を始める段階である。研究科が出来て集まってしまうとあまり気がつかない
が、日常的に異分野の人と接触している状況を意図的に作り出したということが、
マネジメントとしてはまず最も重要なことで、研究者はもっと強烈にこのことを意
識している必要がある。このフェイズのプロダクトはまだ各分野のプロダクトに留
まっている。第二のフェイズは、それぞれの分野の研究者が他分野の知見や方法論
を自分のもともとの分野に取り入れ、それぞれの分野のプロダクトとして発表し出
す段階である。第三のフェイズは、前フェイズが十分進み、研究プロダクトが蓄積
されて来ると、いままで明確には把握できなかった新分野が自ずから意識されだし、
コンセブトもはっきり捉えられ、こうなれば雪達磨式に新しいプロダクトが急速に
生み出されていく段階である。現段階は、後述するように、そろそろ第二フェイズ
に差し掛かったところであろうか。
 第二フェーズの成功例を示しておこう。情報分野へ文系の知(組織的知識創造理
論)の取り込みである(図 9 参照)[7]。従来の情報分野における知識創造支援ツールの
研究は、連結化支援ツールの研究が主であり、最近、表出化/文節化ツールの研究が
盛んになりだしていた。前出の SECI モデルにより、工学者が共同化/社会化支援ツ

                                             8
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ールや内面化支援ツールという重要で未開なドメインの存在に明確に気づき、新た
な研究が動き出している。これなどは文系の知と理系の知の融合の分かりやすい例
である。




                    図 9 知識創造支援ツール[7]




10. 知識科学研究科のグランドデザインは?

 研究科設立のときに知識創造理論を援用したデザインという考え方が明白にあっ
たかは疑問である。ただし暗黙的にはあった筈である。筆者は創設以前の作業には
参加していないが、赴任後知識科学センター一長として研究科のグランドデザイン
は何かを考える必要に迫られ、筆者が暗黙的に感じたものを組み立てて研究科のグ
ランドデザインというものを作成するという作業を行った。つまりポスト・グラン
ドデザインであるが、それを「知識創造ビルディングス」と呼んでいる(今見てみる
とやはり理工系的発想が出過ぎているような気もする)。社会的意味付けをもっと強
調したネ一ミングを考えたい。


11. 知識創造ビルディングス

 「知識科学のキーワードは何であるか?」 そのキーワードを実現する仕掛けはど
                    、
                    「
のようなものであるか?」という風に考え、知識創造ビルディングスというコンセプ
トで体系化してみた。キーワードである「知識創造スパイラル」「複雑な問題に対
                              、
する問題発見・解決」「文理(異分野)融合」「場」「組織的経営」などを踏まえた
          、          、 、
研究教育のための多次元空間として設計されている。
 ドイツの研究者が唱える「コーポレーティブビルディングス」[8]という考え方を
参考にした。これは、人々の協調作業を支援する「グループウェア」というコンセ
プトを拡張し、
      「ルームウェア」を経て「コーポレーティブビルディングス」にまで
押し進めたものである。企業や大学という知識創造空間を、物理的、認知的、社会
的、情報的諸空聞の複合体として捉え、未来のオフィスのあり方を模索するために
提唱されている。

                             9
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                グランドデザイン
             「知識創造ビルディングス」
                         異分野融合の場
                ディシプリン コラボレーションスペース ディシプリン
                オリエンテッド             オリエンテッド

      問   人社系    知識社会          問題提起              知識
                                                           情報系
      題   情報系    システム          知識収集
                               仮説生成
                                                システム
                                                           自然系
                  学                             基礎学
      解           専攻
                               モデリング
                               シミュレーション          専攻
      決




                                                                 場
      の         知識科学教育研究センター(エンジン)




                                                                の
      場




                                                            流
                                                           ・交
                   I棟    中間棟    II棟       中間棟   III棟




                                                       携
                                                       連
                   知識創造スパイラル

                   図 10 研究科のグランドデザイン




                        図 11 研究科 6 階平面図



 図 10 は「知の創造の研究教育のためのコーポレーティブビルディングスはいか
にあるべきか」という課題に対する知識科学研究科のグランドデザイン(立面図)を
示している。ここでは、知識科学研究科を次のような 3 つの研究教育の場としてと
らえている。
 (a) 文理(異分野)融合の場(X 軸):建物を水平に見ると、社会科学系の研究室は左
     の I 棟に、自然科学(複雑/システム)系は右の III 棟に、情報科学系は、両者を
     つなぐものとして、I、Ⅲ棟の両方に配置され、中問のⅡ棟は文理融合を図る
     ためのコラボレーションスペースとしてデザインされている。 11 に平面図
                                        図
     を示す。
 (b) 問題解決の場(Y 軸):建物を垂直に見ると、各階は、問題提起、知識収集、仮
     説生成、  モデリング、シミュレーションという問題解決のプロセスに対応し、
     各ステップに適した専用の電子会議室・実験室が配置され研究開発される。

                                10
人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)


     学生は、階上から階下へ辿ることにより、問題解決の全プロセスの実習を通
     じて体験できる。
 (c) 連携交流の場(Z 軸):外部との人的あるいは電子的な連係交流のための機能を
     最大限実現し、開かれた知識創造の場とする。このような連携を通じて知識
     創造理論の具体的展開場面を得ることができる。  また情報発信の場にもなり、
     知識科学という新規分野の社会的認知を高めることにも繋げることができる。
     地縁・知縁・学(会)縁など縁を結ぶ契機になる。



      認知的空間                                 社会的空間
                         知識創造
                          コラボ
                    ?   問題解決の場


                  知識創造エア
     知識創造                                   知識創造
    フュージョン              知識創造
                                             アーク
     文理融合の場             エンジン
                                           連携交流の場
                  知識創造ライブラリー   知識創造レクチャー
                  知識創造スタジオ     知識創造フィールド
                  知識創造リビング


                    知識創造スパイラル

      情報的空間                                  物理的空間

                   図 12 知識創造支援システム



 上記の場を用いて知識創造のスパイラルを巻き起こそうというのがこのグランド
デザインである。本構想を実現するには、様々な技術を研究開発し統合することが
必要となる。新しいコンセプトには新しい言葉をということで、次のような新造語
を用いて新しい機能や仕組みのアイデアを模索している(図 12、図 13 参照)[9]。最
も重点を置くのは、トランスペアレンシーである。

 (a) 知識創造エア:あらゆる空間を知識リ造の場にするための仕組み(モバイル、
     ウェラブル、ユビキタスなど)を実現する。
 (b) 知識創造スタジオ:各ステップ専用の部屋を最先端技術で実現する。
 (c) 知識創造エンジン:高機能サーバー類により知識べ一ス、知識処理、シミュ
     レーションなどの機能を実現する。問題解決や知的生産のためのツール類も
     どこからでもアクセス可能な形で提供される。
 (d) 知識創造アーク:遠隔会議やインターネット上のサーチエンジンなど運係交
     流機能を実現する。地緑・知縁・学(会)縁など縁結び、情報発信としても大変
     重要な機能である。
 (e) 知識創造フユージョン:異分野融合を促進するための仕組みを実現する。
 (f) 知識創造レクチャー:授業風景をどこからでも見られる仕組みを実現し、知
     の共有を図る。VOD によりあとからいつでも授業を再度みることもできる。


                               11
人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)


 来年 1 月に機器が一斉に納入される。知識科学研究科の完成年度である 2002 年
には、世界に発信できるモデルケースとして仕立て上げられればと考えている。


                                                           知識創造
   社会に開かれた先導的
   知識創造センターとして     知識創造アーク        知識創造支援システムの核となる部分
                                                                                各種実験室
   産学連携での
                                  フロントエンドサブシステムがユーザ
                                  との会話を行い,他のサブシステムと         スタジ オ              (VRルーム・
   教育環境を提供                        連携或いは制御することによって,                               ロボティクスルーム・
                                  知識創造のサイクルをまわす                                  ブレインストーミング
  マルチメディア講義室                                                                     ルームetc.)
  ・会議室システム                                                                      に必要な機器を
  遠隔講義システム                         大規模データベース/ライブラリデータベース                        整備し、エンジン
  VOD配信システム                        フロントエンドシステム             バーチャルリアリティシステム       との連携によって
  マルチメディア蓄積システム                    モデリング・シミュレーションシステム      マルチメディア編集・蓄積/VOD配信   マルチメディア情報・
  ダイヤルアップシステム                      可視化システム                 マルチメディア講義室・会議室システム   収集・編集・利用する
                                   高速ネットワークシステム            音声認識システム
                                                           環境ロボット支援システム


            知識創造エ ア
                                                                     知識創造フィールド
      関連データは
       ○△□
                       ひらめいた!                                                        学内での
                                                                                     取材した


  無線LANシステム
                                  知識創造エンジ ン                                         情報を知識
                                                                                     システムに
                                                                                     取り込む
  学内掲示板システム            いつでもどこでも                                                      インタフェース
  装着型コンピュータシステム        知識創造支援                                    マルチメディア編集・蓄積システム    提供
  ユーザ位置検出システム          システムを利用                                   ダイヤルアップシステム
  声紋認証                                                           モバイルラボ



        知識創造レ ク                                                                  知識創造
                                  知識創造ライブ ラリ                                    フュージ ョン
                                             データや知識を
                                             利用・加工・蓄積
                     講義室などの機器を
                                             する環境を                                文系・理系の
                     整備し、高度な教育・
                                             提供                                   コミュニケー
                     研究環境を提供
                                                                                  ション促進する
                                   ライブラリデータベースシステム
                                                                                  ための環境の
        マルチメディア講義室・会議室システム         マルチメディア編集・蓄積システム               テレビ電話システム       提供
        マルチメディア編集・蓄積システム           マルチメディアデータベース検索システム            簡易型テレビ会議システム
        VOD配信システム                  VOD配信システム                      VOD配信システム


                             図 13 知識創造支援システムの評価




12. 組織的知識創造理論により研究科を検証する

 以上述べた研究科の歩みを組織的知識創造理論により検証してみよう。まず、リ
ーダシップである。これは前学長と前研究科長により遺憾なく発揮されたと考えら
れる。ただし十分に立ち上がる前にそのポジションを引かれたこと、従って暗黙知
が十分云わる、あるいは研究科経営の知が形式知として醸成されるまでには至らな
かったことが残念である。今後、リーダシップ機能をいずれに求めるかは課題であ
る。企業と異なり大学におけるリーダシップ論という分野はあるのだろうか。大学
の場合はリーダシップよりミッションという形で明確化することが重要であろう。
知識科学のような分野の創生はメンバーに強いミッション意識がないとそもそも成
立しないという性格を持っている。
 次に、知識資産である。これはまず教官という人材であろう。これは幅広い分野
から有能な人材が集まっておりこの点で心配はない。今後はこれらの異分野の知を
意識的に如何にして融合させていくかが重要な課題である。図 14 に教官の知のド
メインマップを示す。中国からも東洋的意思決理論[10]の教授を招聰するなど、知
を異文化的視点から捉える努力もしている。
 さらに SECI モデルと場に関してはどうであろうか。我々の研究科では、ミッシ
ョン(知識科学の創生という目的)を同じくする異分野の教官が物理的に常時近接し
て居住しており、食事やお酒(北陸は魚も酒もうまい)の場なども共有しやすいとい
う状況は達成されている。ときどき集まる学際研究などよりは密接に接する機会が
多い。つまり物理的に異分野の教官を(学生も)集めてしまったということが、SECI
モデルで最も重要な社会化(暗黙知の共有のモードに有効に働いていることになる。
今後は、生産性に結びつくような表出化や連結化のモードを含めて如何に仕掛けら
れるか(マネージできるか)が課題であろう。このモードに関して気づいたことをあ

                                        12
人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)


げておこう。




                     図 14 知のドメインマップ


•   文系の人たちは社会、人間に非常に強い関心があり(当然か?) 、社会の動きに関
    する情報も常に仕入れる努力を怠りなくしている。理系で育った私などには弱
    い点であり大変刺激を受ける。
•   理系からみると文系の人たちは研究になるとは考えられないようなテーマでも
    果敢に研究テーマとして選んでいる。問題発見がうまいといえるだろう。これ
    も大変刺激になる。

                               13
人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)


•   しかし、人文・社会科学分野を対象にした方法論(モデリンゲ、解析、設計、意
    思決定支援等の方法論)の進歩は遅く、問題解決に強い理系出身者との共同研究
    により発展が期待される。その成果は、今後ますます変貌する社会に現れる諸
    問題の発見と問題解決に対して大きく貢献するであろう。

 企業と異なり大学においてはこのようなプロセスは自然発生的であることが好ま
しいが、交流が自然であるようなオフィスの設計等が大学においても十分に考えら
れなければならない。このような目的のために、IT 先端技術を用いて知識創造プロ
セスをサポートする知識創造ビルディングス構想をじっくりと仕上げていくことが
重要である。さらに、知識科学を発展させるには、具体的な問題を展開できる場が
ぜひとも必要である。


13. 知識科学らしい研究アクテイビテイー

  まず、企業研究を主としてきた組織的知識創造理論やナレッジマネジメントの枠
組みの中での研究の発展方向として、 地域産業における暗黙知の研究として、            「酒造
業における知識表現と利用の効果」(菊姫、万歳楽など北陸には有名な蔵元がある)
などがある。また概念モデルとして提出されていた組織的知識創造理論の実証研究
(優良企業とそうでない企業へのアンケートに基づいた主成分分析などによる計量
化)や知識創造の数学的モデル化の研究、技術マネジメントの研究などが始まってい
る。組織における知識創造支援の研究もこの範疇に入るだろう。
  次に興味深いのは、知識創造の考え方を企業研究という狭い枠組みを抜けだし、
もっと他の領域に拡大して適用し研究に結びつけようとする動きが見られる。自治
体への適用(「知識創造自治体」研究や「政策知創造プロセス」の研究など)、環境
問題への適用(「環境ビジネス活性化のための知識創造システム」の研究など)、大
学への適用(知識創造ビルディングスや本稿など)、伝統技芸への適用(「能技能にお
けるコラボレーションの仕組みと相伝のメカニズム」)などである。その他の特色あ
る研究アクテイビティーとして、知識科学創生コーディネーション、東洋の特色を
持った意思決定、知識の認識論的な定義、知の空間の数理モデルなどがある。多様
な研究が始まっているので、 一度研究科のホームページ http://www.jaist.ac.jp/を覗
いていただきたい。


14. むすび

 本稿をまとめるにあたって研究科というのものは実に多様な要素により構成され
ていることにあらためて驚かされた。その中にはもちろん様々な制約も含まれてい
る。研究科や大学だけで意思決定ができるわけではないが、今後大学においても知
識マネジメントの考え方がますます重要になっていくものと思われる。理系と文系
を融合した知識科学研究科が目指す学問は、今後大きく発展する要素を含んでいる
ということは、多くの識者の指摘するところである。今後、知識科学を創生するた
めの研究協力体制の確立(研究科内の協力、学内の協力に留まることなく、日本国内、
あるいは世界的な範囲での研究者による協力)がぜひ必要である。また、連携講座、
近くのサイエンスパークの企業や近隣の企業との連携によるインターネット等の情
報ネットワークによる遠隔指導なども必要である。




                                 14
人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15)


[参考文献]

[1]野中・竹内:知識創造企業、東洋経済新聞社,1996.
[2]Wilkens,U.: Towards a European Perspective of Knowledge Societeies, Talk in
JAIST, Oct. 2000.
[3]知識科学研究科編:欧米における知識科学研究の最新動向調査,平成 10 年度科学
研究費補助金国際学術研究(学術調査)研究調査報告書,1999,
[4]Umemoto,K.: Managing existing knowledge is not enowgh: Knowledge
management theory and practice in Japan, Draft, 2000.
[5] 日本学術会議情報工学研究連絡委員会作業部会編:知識科学の体系とカリキュ
ラム,最終報告書,1995.
[6] 科学技術政策研究所編:大学における新構想型学部に関する実態調査,調査資
料・データ 53.1998.
[7] 北陸先端科学技術大学院大学編:世界の JAJST を目指して一最先端の大学院大
学の構想,自己点検・評価報告書,2000.
[7]国藤:オフイスにおける知的生産性向上のための知識創造方法論と知識創造支援
ツール,人工知能学会誌,14(1),50-57.1999.
[8] Streitz, N. A. et al.: Roomwarefor collaborative buildings; Integrated design
of architectural spaces and information spaces, Cooperative Buildings, LNCS
1370, Springer, 4-21, 1998.
[9] 西本・山下・杉山:知識創造支援システムの構築構想,情報処理学会・マルチメデ
ィア、分散、協調とモバイル(DICOMO2000)シンポジウム,256-264.2000.
[10] http://www.jaist.ac.jp/ks/labs/socio-tech/gu-lab




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  • 1. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 知識科学と知識創造ビルディングス 北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科 杉山公造 1. はじめに 本稿は、知識科学研究科創生という現在進行中の建設現場の一員(理工系企業出 身者)としての体験ノートである。野中(初代研究科長)の「組織的知識創造の経営」 理論[1]は、企業における知識指向経営論であるが、研究科設計の重要な基礎をなす もののひとつである。知識科学研究科創生は、まさに大学の研究科(という社会的装 置)における「知識科学」を創造するためのマネジメントを意味している。従ってそ れ自身が組織的知識創造の経営論の (対象を変えた)実践であり事例となっていると いう再帰的な構造になっている(国立大学に企業のような経営という観点があるの かは疑問であるが)。このような観点から見るとき、本稿も、本シンポジウムのテー マである 「知識マネジメント」研究として位置づけられるのではないかと思われる。 (ただし、全くの私見であることをお断りしておきたい。) 2. 21 世紀は知識がキーワード 時代は知識社会に向かって動いているというのが基本的認識である。 知識(人間知)の研究は、人間の歴史と同じくらい古い歴史を持つが、 「知識」が来 世紀を特徴づけるキーワードの一つであることはもはや疑いのないようである。あ るいは、諸科学の段階が、かつて「物質」「エネルギー」「情報」と進んできたも 、 、 のが、こぞって人聞・組織・社会に深く結びついた「知識」に照準を合わせる(最初 の)フェイズに入って来たと言った方が良いかも知れない(もうひとつの流れは「生 命」であろう)。ひとつには、コンピュータサイエンスとして発展してきた情報科学 が、情報処理の時代を経て、いよいよ本来の目的であった「人間活動のあらゆる面 に付随した情報」概念にまともに踏み込まざるを得ない状況になってきていること である。もうひとつには、経営資源や競争力の源泉としての「知識のマネジメント」 の重要性に関する世界的な関心の高まりである。社会経済学、産業組織論、技術経 営論、経営戦略論、組織論などにおいて知識に基づいた理論化・実践化が進んでい る。さらに、環境科学におけるように、人類の将来に関わる複雑で大規模な問題解 決のために、人間・社会と科学技術の調和や文系と理系の学間分野の融合を進める 新しい価値体系と方法論が求められている。 これら三つの(代表的な)流れは、学問としては別々の流れのように見えても実は 同じもの(巨大な世界的な潮流)のそれぞれの側面であることは異論のないところで あろう(と筆者はひしひしと感ずる)。ここに、 「知識」という概念を核とした統合的 新分野の開拓の必要性と必然性があると考えられる。すなわち知識社会のための科 学の開拓と人材の養成が求められているといえる。このようなものを「知識科学」 と呼ぶとすると、それはどのようにしたら創生されうるのだろうか、また教育・研 究はいかに進めるべきであろうか。どのような既存分野を基礎とすべきか。概念と しての開発と具体的取り組みをどのようにバランスして行うのか、等々、全ては未 知であるが、大変 challenging な課題である。 1
  • 2. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 3. 世界初の創設、世界中に動きが広まっている 北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)は、 世界の JAIST を目指して、平成 2 年 10 月に開学された新構想の独立大学院であり、研究・教育の理念として「世界最高水 準の豊かな学問的環境を創出し、その中で次代の科学技術創造の指導的役割を担う 人材を組織的に養成することによって、世界的に最高水準の高等教育機関として文 明の発展に貢献すること」を掲げている。 このような JAIST に、知識科学研究科が、情報、材料に続く第三の研究科として 1996 年 5 月に設置された(図 1 参照)。「知識科学」を標榜する研究科規模の組織と しては世界初の試みである(同時期に奈良先端科学技術大学院大学には、情報、物質 創成につづきバイオサイエンスが設置された)。 このような両施策は前節に述べた主 旨から見て、実に諸科学の発展方向を見据えた適切な施策といえよう(但し、知識科 学の方がバイオサイエンスより抽象性が高いだけ立ち上げには時間がかかるように 思える)。 H8.5 知識科学研究科設置 H10.3 第Ⅰ棟完成 H10.4 前期課程第1期生入学 1 H10.4 知識科学教育研究センター設置 H11.3 第Ⅱ棟完成 H11.4 前期2期生入学 2 H12.3 前期1期生修了 現在 H12.4 前期3期生入学、後期1期生入学 3 H13.3 第Ⅲ棟完成 センター設備設置 4 5 H15.3 学年進行終了 図1 知識科学研究科の歩み ナレッジマネジメントに対する世界的な関心の高まりとともに、欧米でも知識科 学を標榜する高等教育(大学院)機関設立の動きが盛んである。図 2 に最近の欧州に おける動向を示す[2]。 2
  • 3. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 図 2 欧州における動向[2] 4. 理念は壮大、具体的な成功目標は何? 「知識科学とは何であるか、何を目指すべきであるか」に関して統一的な理解が 明確に得られているわけではない。これらの問いに対する答えは今後実践的に確立 していかなければならない。創設に当たり掲げられた理念は次の通りである。 『自然、個人、組織および社会の営みとしての「知識創造」という切り口で物質 科学、生命科学、認知科学、情報科学、システム科学から、社会学、組織論や経営 学、経済学にいたるまでの自然科学分野や社会科学分野の学問を再編、融合した教 育研究体制を整備し、知識創造のメカニズムを探求する。同時に、将来の知識社会 を担う問題発見・解決型人材、すなわち「知識社会のパイオニア」(経営のわかるエ ンジニア、科学技術のわかるマネージャー)を養成することを目標とする。教育研究 対象としては、知識システム、カオスやフラクタルなどの複雑系、組織ダイナミッ クス、意思決定メカニズム、研究開発プロセス、複合システムなどの領域を中心と して、新しい社会現象としてのネットワーク社会、サイバースペース、バーチャル・ コーポレーションまでも広く視野に入れる。』 表現は決して分かりやすいとは言えないが、新しい時代の変化にも対応していく ということからすれば、理念や目標も変化するし、恒久的な理念が確立するには時 間がかかる。今後、分野外の人にも分かり易い理念の説明と、具体的な成功目標を 整えていかなければならない。 知識の創造や統合のプロセスやその支援技術を研究するためには、研究者・技術 者だけでなく知識の創造や統合の実践者としての企業家・芸術家・職人等との交流 を通じて研究活動を行うことが必要であり、また知のパイオニアたる教育研究の体 現者である学生諸君の若き創造力とエネルギーが必須である。さらに、世界で初の 知識科学を標樗する研究科という組織であることを踏まえ, 知識科学の研究成果を 『 世界へ向けて情報発信し、知識科学の啓蒙にも資する』ことも目指さなければなら ない。 これまで異分野交流や異分野融合は、その重要性は良く指摘されてきているが必 ずしも成功していない大変困難な課題である。本研究科はこの困難な課題に知識指 向の観点より挑戦するものであるが、従って、新たな方法論としての『異分野統合・ 融合を進めるための研究支援システムの研究開発』もまた研究目標に含まれるべき である。 5. 研究科の構成、連携講座が充実 研究科の構成は、2 専攻、各専攻は 6 つの基幹講座と 3 つの連携講座を持つ。さ らに寄付講座がひとつあり、計 19 講座である。教官は各基幹講座あたり教授 1、助 教授 1、助手 2、連携講座あたり客員教授 2、助教授 1 である。講座名称は次の通り である。連携講座、寄付講座により産学連携を強めることを意図している。 【知識社会システム学専攻】 基幹講座: 組織ダイナミックス論、意思決定メカニズム論、社会システム構築論、創造性開発 システム論、研究開発プロセス論、複合システム論 連携講座: 産業政策システム論(三菱総合研究所)、企業戦略論(野村総合研究所)、地域システム 論(日本政策投資銀行) 3
  • 4. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 【知識システム基礎学専攻】 基幹講座: 知識創造論、知識システム構築論、知識構造論、遺伝子知識システム論、分子知識 システム論、複雑系解析論 連携講座: 高次脳機能システム論(理化学研究所)、ヒューマンインタフェース論(NTT)、知的生 産システム論(日立製作所) 【寄付講座】複雑系の科学(富士通) 6. これまでの歩みを駆け足で 1998 年 4 月に初めて博士前期課程の学生(定員 90 名)を受け入れ、本年 3 月に修 了生を送り出すとともに、4 月には博士後期課程の学生(定員 30 名)を迎えたところ であり、研究科完成時までの 5 年のうち、後 2 年数ヶ月を残している。本研究科の 創設からこれまでの約 2 年半は、研究の観点から見ると本格的な研究を開始するた めの準備期問であった。研究科の通常の研究施設・設備の整備や個々の研究室の研 究環境の立ち上げを行い、知識科学の開拓創生のための国際調査[3]、セミナー、シ ンポジウムなどの実施の体制を充実させるとともに、異分野から集まった研究者が それぞれの専門分野から知識科学へどのようにして踏み込むかの試行を手探りで進 めてきた。来年度初頭には、第 3 棟が完成し、知識科学教育研究センター関連の設 備も導入されて知識創造のためのインフラストラクチャーも整備される予定であり、 ようやく施設・設備の一応の完成をみる(図 3 参照)。また本研究科のコースで育っ た学生も今年から後期課程に入学し、そろそろ新しい知識科学研究の担い手として 力を発揮してくれる段階になってきている。さらに異分野から集まった研究者もお 互いに気心が知れてきており、知識科学開拓創生への体系的な取り組みへの気運も 生まれて来ている。このように、本研究科は、準備期問を経ていよいよ本格的な研 究へ踏み出す時期に来ているといえる。 知識科学 バーチャルJAIST 図 3 知識科学全棟完成予想図 4
  • 5. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 7. 組織的知識創造の理論とは 研究科の基本コンセブトである組織的知識創造の理論を紹介しておこう。この理 論は企業活動研究を中心として開発されてきた。理論は 4 つの要素から成り立って いる。すなわち、 (1) SECI モデル 暗黙知と形式知の交流と変換による知識の創造プロセスモデル : (図 4 参照) (2) 場:知識創造のための共有する文脈 (3) 知識資産:知識創造プロセスにおける入力と出力 (4) 知識リーダシッブ:知識創造のブロセスを起動するための条件 である。これらの要素が互いに関連しあって連続的増幅的に知識創造スパイラルが 引き起こされる。 暗黙知 共同化 表出化 創発場 対話場 感情、経験、メンタル・モデル 多元性と個別性の 暗 (価値観)の共有 相互作用(対話) 形 黙 知識創造スパイラル 式 内面化 連結化 知 知 実践場 総合場 形式知の相互作用(編集) 行動を通じての統合(学習) による形式知の増幅 形式知 図 4 SECI モデルと知識創造スパイラル 要素問の関連は図 5 に示されている[4]。この知識科学の基礎となる理論は、人文 社会系から出ているところが特徴であるが、計算機科学から始まった知識科学の体 系化の試み[5](図 6 参照)と比較してみると興味深い。前者は哲学、人間、社会とい う深い考察に基づいたコンセプトの体系化であるのに対し、後者はやはり技術的課 題の体系化という視点に傾斜している。後者は直接技術者に具体的技術的課題を与 えるが、前者は具体的な技術的課題は何も与えない。しかし前者は人のものの考え 方といった間接的、抽象的な次元ではあっても、経営者から技術者などより広範な 社会的影響力を持つ(これが世界的にこの理論が広まった原因であろう)。どちらが 有用ということではなく、両者次元が異なるということである。理系で育った筆者 には、このような文系のアプローチは新鮮であったが、コンセプト以外(形而下)の サジェッションが殆どないことにも技術畑で育ったものとしては驚きがあった。た だし技術系が自分達の仕事のバックグランドとして利用しやすく、多くの示唆が得 られるものである(この例は後述)。 5
  • 6. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) (from Nonaka et al. 2000) 図 5 知識創造要素の関連図[4] 図 6 情報科学からの体系化[5] 8. 知識科学教育は文武両道、MD? ID? 外国には、文系・理系といった言葉はなく、日本特有のものだそうである[6]。こ れまでは、文系・理系の専門分野で、それぞれ様々な問題解決がなされてきた。し かし、今起こっている複合領域の問題は、文系・理系それぞれの分野のみでは解決 6
  • 7. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) できない問題に発展してきており、その解決に向けて必然的に両者が融合するか、 あるいは両者を背景として境界領域を創造していくことによってしか解決できない。 我が研究科に与えられた課題は、このような融合教育あるいは創造教育を「知識創 造」という切り口でどのようにして行うかである。博士前期(修士)課程では主に融 合教育を、後期(博士)課程では主に創造教育をということになるであろうか。 知識科学研究科に入学する学生は、様々な分野、学部卒業生/社会人経験者、企業 派遣者、20 代から 50 代までと幅広い特徴を持っている。研究科の性格上、予想さ れた結果である。このような入学者に対する組織的カリキュラムとして、次のよう な工夫をしている。 (1) 文系、情報系、複雑系/システム系の科目をバランス良く行う (2) 入門科目を設定し導入や移行を容易にする (3) 同一の科目に対しても背景知識により文系向き、理系向きの内容を工夫する (4) 主テーマ、副テーマを必修とし、それぞれ異なる分野で行うように指導する (5) 修士論文、博士論文は「知識」に関連するテーマを選択するよう指導する (6) グローバルコミュニケーションや情報技術の基本能力向上させる (7) 博士課程の授業は英語で行う などである。 融合教育の手法は大きく分けるとマルチディシプリナリ(mu1ti-disciplinary)と インターディシプリナリ(inter-disciplinary)がある(図 7 参照[6])。前者は、複数の 学間の専門分野を学生が学び、学生自身の中で融合されるものであり、後者は、複 数の学問の専門分野が相互作用し、 新しい構造の知識体系の構築がなされたもの(融 合や創造がなされたもの)を学生が学ぶものである。現状は、マルチディシプリナリ 教育を実施している。 文系学生にとって、自然、情報の一つを修得するだけでも本人の将来にとって大 いにプラス、自然、情報の基礎教育を受けたことによる利点は計り知れない。理系 の学生にとって他方の理系科学を学び、これらをツールとして人文・社会科学の問 題発見と問題解決に関する研究テーマに取り組めば文理融合の新しい展開が期待さ れる。 個々の授業では、文科系の知と理科系の知の連結を目指した試みが行われだして いる(例えば「知識処理方法論 B」では、Serve1et や XML、RDB などの技術を使 って JA1ST で役に立つ社会派 Web アプリケーションを作るというテーマで授業と 実習が行われている)。また、ようやく知識科学シリーズといったものを共同で作る 機運が生まれてきている。 図 7 マルチディシプリナリとインターディシプリナリ 7
  • 8. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 9. 文理(異分野)融合の三段階モデル 研究科という組織における知識創造ブロセスのマネジメントをどのように考えた らよいであろうか。文献[1]では、経営プロセスについての支配的なモデルとして、 トップダウン・モデルとボトムアップ・モデルを検討し、どちらも組織知の創造に 必要なダイナミックな相互作用を促進するにはものたりないとし、新たにミドル・ アッブダウンと呼ぶモデルを提案している。大学の場合は、強い階層構造がそもそ も存在しないのでマネジメントというよりはコーディネーションという方が適切か もしれない。 筆者は、異分野融合の研究プロセスモデルとして、図 8 のような三段階モデルを 考えている(英国ラフボロー大のエドモンド教授とのディスカッションがヒントと なっている)。あわてないで環境を整え、醸成を待つモデルといってよいであろう。 pp Now here Interdisciplinary Three Phases Model Products Products in IS Products in SS Difficult! SS IS SS IS SS IS NS NS NS Interdisciplinary Interdisciplinary Products Products Distinguished Products in NS researchers gather Results affected In the final phase from different fields by other fields interdisciplinary in the same place are produced in fusions occur in physically. each original field. many directions. Mutual understanding Exchange tacit knowledge 図 8 異分野融合の三段階モデル 第一のフェイズは、優秀な研究者が同じミッションの下に物理的に集まり日常的 に接触を始める段階である。研究科が出来て集まってしまうとあまり気がつかない が、日常的に異分野の人と接触している状況を意図的に作り出したということが、 マネジメントとしてはまず最も重要なことで、研究者はもっと強烈にこのことを意 識している必要がある。このフェイズのプロダクトはまだ各分野のプロダクトに留 まっている。第二のフェイズは、それぞれの分野の研究者が他分野の知見や方法論 を自分のもともとの分野に取り入れ、それぞれの分野のプロダクトとして発表し出 す段階である。第三のフェイズは、前フェイズが十分進み、研究プロダクトが蓄積 されて来ると、いままで明確には把握できなかった新分野が自ずから意識されだし、 コンセブトもはっきり捉えられ、こうなれば雪達磨式に新しいプロダクトが急速に 生み出されていく段階である。現段階は、後述するように、そろそろ第二フェイズ に差し掛かったところであろうか。 第二フェーズの成功例を示しておこう。情報分野へ文系の知(組織的知識創造理 論)の取り込みである(図 9 参照)[7]。従来の情報分野における知識創造支援ツールの 研究は、連結化支援ツールの研究が主であり、最近、表出化/文節化ツールの研究が 盛んになりだしていた。前出の SECI モデルにより、工学者が共同化/社会化支援ツ 8
  • 9. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) ールや内面化支援ツールという重要で未開なドメインの存在に明確に気づき、新た な研究が動き出している。これなどは文系の知と理系の知の融合の分かりやすい例 である。 図 9 知識創造支援ツール[7] 10. 知識科学研究科のグランドデザインは? 研究科設立のときに知識創造理論を援用したデザインという考え方が明白にあっ たかは疑問である。ただし暗黙的にはあった筈である。筆者は創設以前の作業には 参加していないが、赴任後知識科学センター一長として研究科のグランドデザイン は何かを考える必要に迫られ、筆者が暗黙的に感じたものを組み立てて研究科のグ ランドデザインというものを作成するという作業を行った。つまりポスト・グラン ドデザインであるが、それを「知識創造ビルディングス」と呼んでいる(今見てみる とやはり理工系的発想が出過ぎているような気もする)。社会的意味付けをもっと強 調したネ一ミングを考えたい。 11. 知識創造ビルディングス 「知識科学のキーワードは何であるか?」 そのキーワードを実現する仕掛けはど 、 「 のようなものであるか?」という風に考え、知識創造ビルディングスというコンセプ トで体系化してみた。キーワードである「知識創造スパイラル」「複雑な問題に対 、 する問題発見・解決」「文理(異分野)融合」「場」「組織的経営」などを踏まえた 、 、 、 研究教育のための多次元空間として設計されている。 ドイツの研究者が唱える「コーポレーティブビルディングス」[8]という考え方を 参考にした。これは、人々の協調作業を支援する「グループウェア」というコンセ プトを拡張し、 「ルームウェア」を経て「コーポレーティブビルディングス」にまで 押し進めたものである。企業や大学という知識創造空間を、物理的、認知的、社会 的、情報的諸空聞の複合体として捉え、未来のオフィスのあり方を模索するために 提唱されている。 9
  • 10. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) グランドデザイン 「知識創造ビルディングス」 異分野融合の場 ディシプリン コラボレーションスペース ディシプリン オリエンテッド オリエンテッド 問 人社系 知識社会 問題提起 知識 情報系 題 情報系 システム 知識収集 仮説生成 システム 自然系 学 基礎学 解 専攻 モデリング シミュレーション 専攻 決 場 の 知識科学教育研究センター(エンジン) の 場 流 ・交 I棟 中間棟 II棟 中間棟 III棟 携 連 知識創造スパイラル 図 10 研究科のグランドデザイン 図 11 研究科 6 階平面図 図 10 は「知の創造の研究教育のためのコーポレーティブビルディングスはいか にあるべきか」という課題に対する知識科学研究科のグランドデザイン(立面図)を 示している。ここでは、知識科学研究科を次のような 3 つの研究教育の場としてと らえている。 (a) 文理(異分野)融合の場(X 軸):建物を水平に見ると、社会科学系の研究室は左 の I 棟に、自然科学(複雑/システム)系は右の III 棟に、情報科学系は、両者を つなぐものとして、I、Ⅲ棟の両方に配置され、中問のⅡ棟は文理融合を図る ためのコラボレーションスペースとしてデザインされている。 11 に平面図 図 を示す。 (b) 問題解決の場(Y 軸):建物を垂直に見ると、各階は、問題提起、知識収集、仮 説生成、 モデリング、シミュレーションという問題解決のプロセスに対応し、 各ステップに適した専用の電子会議室・実験室が配置され研究開発される。 10
  • 11. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 学生は、階上から階下へ辿ることにより、問題解決の全プロセスの実習を通 じて体験できる。 (c) 連携交流の場(Z 軸):外部との人的あるいは電子的な連係交流のための機能を 最大限実現し、開かれた知識創造の場とする。このような連携を通じて知識 創造理論の具体的展開場面を得ることができる。 また情報発信の場にもなり、 知識科学という新規分野の社会的認知を高めることにも繋げることができる。 地縁・知縁・学(会)縁など縁を結ぶ契機になる。 認知的空間 社会的空間 知識創造 コラボ ? 問題解決の場 知識創造エア 知識創造 知識創造 フュージョン 知識創造 アーク 文理融合の場 エンジン 連携交流の場 知識創造ライブラリー 知識創造レクチャー 知識創造スタジオ 知識創造フィールド 知識創造リビング 知識創造スパイラル 情報的空間 物理的空間 図 12 知識創造支援システム 上記の場を用いて知識創造のスパイラルを巻き起こそうというのがこのグランド デザインである。本構想を実現するには、様々な技術を研究開発し統合することが 必要となる。新しいコンセプトには新しい言葉をということで、次のような新造語 を用いて新しい機能や仕組みのアイデアを模索している(図 12、図 13 参照)[9]。最 も重点を置くのは、トランスペアレンシーである。 (a) 知識創造エア:あらゆる空間を知識リ造の場にするための仕組み(モバイル、 ウェラブル、ユビキタスなど)を実現する。 (b) 知識創造スタジオ:各ステップ専用の部屋を最先端技術で実現する。 (c) 知識創造エンジン:高機能サーバー類により知識べ一ス、知識処理、シミュ レーションなどの機能を実現する。問題解決や知的生産のためのツール類も どこからでもアクセス可能な形で提供される。 (d) 知識創造アーク:遠隔会議やインターネット上のサーチエンジンなど運係交 流機能を実現する。地緑・知縁・学(会)縁など縁結び、情報発信としても大変 重要な機能である。 (e) 知識創造フユージョン:異分野融合を促進するための仕組みを実現する。 (f) 知識創造レクチャー:授業風景をどこからでも見られる仕組みを実現し、知 の共有を図る。VOD によりあとからいつでも授業を再度みることもできる。 11
  • 12. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) 来年 1 月に機器が一斉に納入される。知識科学研究科の完成年度である 2002 年 には、世界に発信できるモデルケースとして仕立て上げられればと考えている。 知識創造 社会に開かれた先導的 知識創造センターとして 知識創造アーク 知識創造支援システムの核となる部分 各種実験室 産学連携での フロントエンドサブシステムがユーザ との会話を行い,他のサブシステムと スタジ オ (VRルーム・ 教育環境を提供 連携或いは制御することによって,  ロボティクスルーム・ 知識創造のサイクルをまわす  ブレインストーミング マルチメディア講義室  ルームetc.) ・会議室システム に必要な機器を 遠隔講義システム 大規模データベース/ライブラリデータベース 整備し、エンジン VOD配信システム フロントエンドシステム バーチャルリアリティシステム との連携によって マルチメディア蓄積システム モデリング・シミュレーションシステム マルチメディア編集・蓄積/VOD配信 マルチメディア情報・ ダイヤルアップシステム 可視化システム マルチメディア講義室・会議室システム 収集・編集・利用する 高速ネットワークシステム 音声認識システム 環境ロボット支援システム 知識創造エ ア 知識創造フィールド 関連データは ○△□ ひらめいた! 学内での 取材した 無線LANシステム 知識創造エンジ ン 情報を知識 システムに 取り込む 学内掲示板システム いつでもどこでも インタフェース 装着型コンピュータシステム 知識創造支援 マルチメディア編集・蓄積システム 提供 ユーザ位置検出システム システムを利用 ダイヤルアップシステム 声紋認証 モバイルラボ 知識創造レ ク 知識創造 知識創造ライブ ラリ フュージ ョン データや知識を 利用・加工・蓄積 講義室などの機器を する環境を 文系・理系の 整備し、高度な教育・ 提供 コミュニケー 研究環境を提供 ション促進する ライブラリデータベースシステム ための環境の マルチメディア講義室・会議室システム マルチメディア編集・蓄積システム テレビ電話システム 提供 マルチメディア編集・蓄積システム マルチメディアデータベース検索システム 簡易型テレビ会議システム VOD配信システム VOD配信システム VOD配信システム 図 13 知識創造支援システムの評価 12. 組織的知識創造理論により研究科を検証する 以上述べた研究科の歩みを組織的知識創造理論により検証してみよう。まず、リ ーダシップである。これは前学長と前研究科長により遺憾なく発揮されたと考えら れる。ただし十分に立ち上がる前にそのポジションを引かれたこと、従って暗黙知 が十分云わる、あるいは研究科経営の知が形式知として醸成されるまでには至らな かったことが残念である。今後、リーダシップ機能をいずれに求めるかは課題であ る。企業と異なり大学におけるリーダシップ論という分野はあるのだろうか。大学 の場合はリーダシップよりミッションという形で明確化することが重要であろう。 知識科学のような分野の創生はメンバーに強いミッション意識がないとそもそも成 立しないという性格を持っている。 次に、知識資産である。これはまず教官という人材であろう。これは幅広い分野 から有能な人材が集まっておりこの点で心配はない。今後はこれらの異分野の知を 意識的に如何にして融合させていくかが重要な課題である。図 14 に教官の知のド メインマップを示す。中国からも東洋的意思決理論[10]の教授を招聰するなど、知 を異文化的視点から捉える努力もしている。 さらに SECI モデルと場に関してはどうであろうか。我々の研究科では、ミッシ ョン(知識科学の創生という目的)を同じくする異分野の教官が物理的に常時近接し て居住しており、食事やお酒(北陸は魚も酒もうまい)の場なども共有しやすいとい う状況は達成されている。ときどき集まる学際研究などよりは密接に接する機会が 多い。つまり物理的に異分野の教官を(学生も)集めてしまったということが、SECI モデルで最も重要な社会化(暗黙知の共有のモードに有効に働いていることになる。 今後は、生産性に結びつくような表出化や連結化のモードを含めて如何に仕掛けら れるか(マネージできるか)が課題であろう。このモードに関して気づいたことをあ 12
  • 13. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) げておこう。 図 14 知のドメインマップ • 文系の人たちは社会、人間に非常に強い関心があり(当然か?) 、社会の動きに関 する情報も常に仕入れる努力を怠りなくしている。理系で育った私などには弱 い点であり大変刺激を受ける。 • 理系からみると文系の人たちは研究になるとは考えられないようなテーマでも 果敢に研究テーマとして選んでいる。問題発見がうまいといえるだろう。これ も大変刺激になる。 13
  • 14. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) • しかし、人文・社会科学分野を対象にした方法論(モデリンゲ、解析、設計、意 思決定支援等の方法論)の進歩は遅く、問題解決に強い理系出身者との共同研究 により発展が期待される。その成果は、今後ますます変貌する社会に現れる諸 問題の発見と問題解決に対して大きく貢献するであろう。 企業と異なり大学においてはこのようなプロセスは自然発生的であることが好ま しいが、交流が自然であるようなオフィスの設計等が大学においても十分に考えら れなければならない。このような目的のために、IT 先端技術を用いて知識創造プロ セスをサポートする知識創造ビルディングス構想をじっくりと仕上げていくことが 重要である。さらに、知識科学を発展させるには、具体的な問題を展開できる場が ぜひとも必要である。 13. 知識科学らしい研究アクテイビテイー まず、企業研究を主としてきた組織的知識創造理論やナレッジマネジメントの枠 組みの中での研究の発展方向として、 地域産業における暗黙知の研究として、 「酒造 業における知識表現と利用の効果」(菊姫、万歳楽など北陸には有名な蔵元がある) などがある。また概念モデルとして提出されていた組織的知識創造理論の実証研究 (優良企業とそうでない企業へのアンケートに基づいた主成分分析などによる計量 化)や知識創造の数学的モデル化の研究、技術マネジメントの研究などが始まってい る。組織における知識創造支援の研究もこの範疇に入るだろう。 次に興味深いのは、知識創造の考え方を企業研究という狭い枠組みを抜けだし、 もっと他の領域に拡大して適用し研究に結びつけようとする動きが見られる。自治 体への適用(「知識創造自治体」研究や「政策知創造プロセス」の研究など)、環境 問題への適用(「環境ビジネス活性化のための知識創造システム」の研究など)、大 学への適用(知識創造ビルディングスや本稿など)、伝統技芸への適用(「能技能にお けるコラボレーションの仕組みと相伝のメカニズム」)などである。その他の特色あ る研究アクテイビティーとして、知識科学創生コーディネーション、東洋の特色を 持った意思決定、知識の認識論的な定義、知の空間の数理モデルなどがある。多様 な研究が始まっているので、 一度研究科のホームページ http://www.jaist.ac.jp/を覗 いていただきたい。 14. むすび 本稿をまとめるにあたって研究科というのものは実に多様な要素により構成され ていることにあらためて驚かされた。その中にはもちろん様々な制約も含まれてい る。研究科や大学だけで意思決定ができるわけではないが、今後大学においても知 識マネジメントの考え方がますます重要になっていくものと思われる。理系と文系 を融合した知識科学研究科が目指す学問は、今後大きく発展する要素を含んでいる ということは、多くの識者の指摘するところである。今後、知識科学を創生するた めの研究協力体制の確立(研究科内の協力、学内の協力に留まることなく、日本国内、 あるいは世界的な範囲での研究者による協力)がぜひ必要である。また、連携講座、 近くのサイエンスパークの企業や近隣の企業との連携によるインターネット等の情 報ネットワークによる遠隔指導なども必要である。 14
  • 15. 人工知能学会 AI シンポジウム 2000(基調講演),人工知能学会研究会資料 SIG-J-A003-3(12/15) [参考文献] [1]野中・竹内:知識創造企業、東洋経済新聞社,1996. [2]Wilkens,U.: Towards a European Perspective of Knowledge Societeies, Talk in JAIST, Oct. 2000. [3]知識科学研究科編:欧米における知識科学研究の最新動向調査,平成 10 年度科学 研究費補助金国際学術研究(学術調査)研究調査報告書,1999, [4]Umemoto,K.: Managing existing knowledge is not enowgh: Knowledge management theory and practice in Japan, Draft, 2000. [5] 日本学術会議情報工学研究連絡委員会作業部会編:知識科学の体系とカリキュ ラム,最終報告書,1995. [6] 科学技術政策研究所編:大学における新構想型学部に関する実態調査,調査資 料・データ 53.1998. [7] 北陸先端科学技術大学院大学編:世界の JAJST を目指して一最先端の大学院大 学の構想,自己点検・評価報告書,2000. [7]国藤:オフイスにおける知的生産性向上のための知識創造方法論と知識創造支援 ツール,人工知能学会誌,14(1),50-57.1999. [8] Streitz, N. A. et al.: Roomwarefor collaborative buildings; Integrated design of architectural spaces and information spaces, Cooperative Buildings, LNCS 1370, Springer, 4-21, 1998. [9] 西本・山下・杉山:知識創造支援システムの構築構想,情報処理学会・マルチメデ ィア、分散、協調とモバイル(DICOMO2000)シンポジウム,256-264.2000. [10] http://www.jaist.ac.jp/ks/labs/socio-tech/gu-lab 15