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等角加速度回転刺激が VEMP に与える影響
(音刺激耳側後半規管ー対側前半規管刺激による測
定)
1)
藤本千里、 1)
狩野章太郎、 1)
伊藤健、 1)2)
室伏利
久
1) 東京大学耳鼻咽喉科、 2) 東京逓信病院耳鼻咽喉
科
はじめに
• 動物実験において、半規管と耳石器からの入力
が同じ前庭神経核ニューロンに投射する場合が
ある ことが示されている。
• ヒトを対象にした実験では、外側半規管面にお
ける等角加速度回転刺激が、球形嚢由来の前庭
誘発筋電位( VEMP )に与える影響を測定した
報告があり、両者には同時入力時の相互作用が
認められなかった。 (Karino et al. 2005)
• 今回、健常人における VEMP 測定時に、音刺激
耳側後半規管と対側前半規管が水平面となるよ
うな体位をとり、等角加速度回転刺激を加え、
垂直半  規管刺激が球形嚢由来の VEMP に与
える影響を 測定した。
実験方法
【対象】
• 耳科学的・神経学的疾患の既往のない 14 名(右 7 名、左
7 名;男性 12 名、女性 2 名;平均年齢: 31.4 歳;年齢
幅: 25-42 歳)。
【 VEMP 】
• 関電極を胸鎖乳突筋 (SCM) の約 1/2 の筋腹上に、不関電
極を胸骨上縁部、接地電極を前額部においた。
• 刺激音は 500Hz トーンバースト (95dBnHL, rise/fall time
1ms, plateau 2ms) を用い、刺激頻度は 5Hz とした。
• bandpass filter は 20-2000Hz 、解析時間は 100ms
  (-20ms~80ms) とした。
• 刺激前 20ms の背景筋電図を測定し、筋電位の整流積分
の平均振幅を用いて p13-n23 間の振幅を補正した。
CA(corrected amplitude)
= ( p13-n23 の振幅) / ( -20~0ms の筋電位平均振
【回転刺激】
• 音刺激耳側後半規管―対側前半規管が水平面になるように前屈し頚部を
対側に回旋する姿勢(下図)をとった。
( earth vertical axis にほぼ垂直と仮定できるドイツ水平面と約 30° の角
度を持つ外側半規管は、 earth vertical axis から 120° の角度で前屈する
姿勢をとることで、回転面と垂直になる。さらに平行している音刺激耳
側後半規管と対側前半規管が回転面と水平になるように、頚部を 45° 対
側に回旋する。)
• 音刺激中は、暗所開眼を指示した。
45°
Contralateral
rotation
Ipsilateral
rotation
右 VEMP
120°
音刺激耳側
後半規管
トーンバースト
対側前半規管
Ipsilateral rotationContralateral rotation
• 回転刺激は、角加速度 12°/sec2
、最大角速度 180°/sec
を用いた。
• 右耳刺激による右 SCM での VEMP の測定時は、上方か
ら見て、
時計回転: Ipsilateral rotation
反時計回転: Contralateral rotation
と定義した。
• 測定開始前に、 Ipsilateral rotation にて、眼球運動を観
測。上眼瞼向き眼振を確認した。
• VEMP の測定は、
音刺激前静止時→ ipsilateral→ contralateral→
ipsilateral→ contralateral→ 音刺激後静止時
の順に行った。
• 各回転刺激試行の影響が出ないように十分な間隔をとっ
て VEMP を測定した。
評価方法
• 静止時、 ipsilateral
rotation 、 contralateral
rotation 、   各条件に
おけるそれぞれ 2 回の値の
平均をとり、各被検者の
p13 潜時、 n23 潜時、
CA とした。
• 各条件の p13 潜時、 n23
潜時、 CA に関して、統計
学的手法 (one-way
repeated ANOVA) を用い
、検討を行った。
20ms
100μV
0ms (刺激)
整流積分
p13
n23
p13-n23 振幅と背景筋電位との相関 ( 静止
時)
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
0 100 200 300 400 500
p13-n23振幅(μV)
R= 0.82
背景筋電位の平均 (μV)
p< 0.0001
p13-n23 振幅と背景筋電位との相関
(Ipsilateral rotation )
0
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0 50 100 150 200 250 300
p13-n23振幅(μV)
背景筋電図の平均( μV )
R= 0.74
p< 0.0001
p13-n23 振幅と背景筋電位との相関
(Contralateral rotation )
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20
40
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80
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180
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0 50 100 150 200 250 300 350 400
p13-n23振幅(μV)
背景筋電位の平均( μV )
R= 0.84
p< 0.0001
【 p13 潜時】
12
12.2
12.4
12.6
12.8
13
13.2
13.4
13.6
13.8
14
ANOVA: 0.15
静止時 Ipsilateral
rotation
Contralateral
rotation
(ms)
【 n23 潜時】
16.5
17
17.5
18
18.5
19
19.5
20
ANOVA: 0.068
静止時 Ipsilateral
rotation
Contralateral
rotation
(ms)
【 Corrected Amplitude (CA) 】
.8
1
1.2
1.4
1.6
1.8
2
2.2
静止時 Ipsilateral
rotation
Contralateral
rotation
ANOVA: p= 0.0074 ( 検出力 : 0.85)
Bonferroni’s post hoc test
静止時と Ipsilateral: p= 0.0021
Ipsilateral と Contralateral: p= 0.0392
考察
【 Ipsilateral rotation の CA での有意差について】
• 球形嚢刺激により、内側前庭脊髄路 (MVST) 経由で同側 SCM 運動
ニューロンに 2 シナプス性抑制性電位が発生する。 (Kushiro et al.
1999)  これは VEMP を説明しうる経路である。
• 後半規管刺激により、 MVST 経由で同側 SCM 運動ニューロンに 2 シ
ナプス性抑制性電位が発生する。 (Shinoda et al. 1994)
• 球形嚢神経、および後半規管神経から入力のある、下行路が MVST の
前庭脊髄ニューロンのうち、両神経から収束のあるものは、半数以上
を占める。 (Sato et al. 2000)
→
同側の球形嚢神経由来の SCM 運動ニューロン 2 シナプス性抑制性電位
は、同側の球形嚢神経と後半規管神経の両方から収束のある抑制性前
庭脊髄ニューロンにより惹起されるものが多いと考えられる。これは
、両方から収束のある抑制性前庭脊髄ニューロンが、 VEMP の経路に
関与している、即ち、後半規管からの入力が VEMP に影響を与える可
能性を示すものである。今回の結果は、過去の研究結果と矛盾しない
。
• 後半規管神経と球形嚢神
経から単一前庭脊髄
ニューロンへの収束は、
外側半規管神経と球形嚢
神経からの収束に比べ、
数的に優位である。 (Sato
et al. 2000, Zhang et al.
2001)
→Karino et al. 2005 の報告
と同角加速度の回転刺激
を用いた上での今回の結
果は、後半規管と球形嚢
の同時刺激入力時の相互
作用が、外側半規管と球
形嚢の同時刺激に比べ、
起こりやすいことを示唆
する。
excitatory
inhibitory
PC
SAC
単一 VN SCM
MVST
50 %以上
• 前半規管から興奮性に投射された前庭脊髄ニュー
ロンは、対側の SCM 運動ニューロンへ興奮性に
投射する。 (Fukushima et al. 1979)
→ 前半規管由来一次求心性線維の放電頻度は、回転
刺激により影響を受けるが、同側への投射と比べ
、対側への投射は量的に少ないと思われ、 VEMP
に対する対側前半規管の影響は小さいのではない
か?(あるいは、同側後半規管からの収束は前庭
脊髄ニューロンのレベルで起こるが、対側前半規
管からの入力は SCM 運動ニューロンのレベルで
起こる。この違いの影響がある?)
• 半規管刺激により SCM の tonic な変化が起こる
。
→ 背景筋電位による振幅の補正によって、 CA への
影響は少ないと考えられる。
【 Ipsilateral rotation での CA が小さいことにつ
いて】
• 球形嚢神経・後半規管神経から単一前庭脊髄
ニューロンへ投射する入力様式は、両神経からの
単シナプス性興奮性投射が 50% 。抑制性投射に
関与する入力は比較的少数。両神経からの興奮性
投射が数的優位である。 (Sato et al. 2000)
<推察>
刺激耳側後半規管由来一次求心性線維の放電頻度
は、 ipsilateral rotation により増加する。よって、
VEMP 測定中に、 ipsilateral rotation を与えると、
球形嚢神経・後半規管神経から収束のある前庭脊
髄ニューロンへの、両者からの興奮性投射が増大
すると考えられるが、後半規管神経からの興奮性
投射は音刺激に同期しておらず、ノイズになるの
ではないか?即ち、神経回路の興奮あるいは抑制
の同期性を阻害するのではないか?
まとめ
• 健常人における VEMP 測定時に、音刺激耳側後
半規管と対側前半規管が水平面となるような体
位をとり、等角加速度回転刺激を加え、垂直半
規管刺激が球形嚢由来の VEMP に与える影響を
測定した。
• p13 潜時、 n23 潜時に関しては、回転刺激によ
る有意な変化は認められなかった。
• Ipsilateral rotation における CA が、静止時・
Contralateral rotation に比べ有意に小さかった
。
• 後半規管と球形嚢の同時刺激入力時の相互作用
の存在が示唆された。

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等角加速度回転刺激がVEMPに与える影響

  • 1. 等角加速度回転刺激が VEMP に与える影響 (音刺激耳側後半規管ー対側前半規管刺激による測 定) 1) 藤本千里、 1) 狩野章太郎、 1) 伊藤健、 1)2) 室伏利 久 1) 東京大学耳鼻咽喉科、 2) 東京逓信病院耳鼻咽喉 科
  • 2. はじめに • 動物実験において、半規管と耳石器からの入力 が同じ前庭神経核ニューロンに投射する場合が ある ことが示されている。 • ヒトを対象にした実験では、外側半規管面にお ける等角加速度回転刺激が、球形嚢由来の前庭 誘発筋電位( VEMP )に与える影響を測定した 報告があり、両者には同時入力時の相互作用が 認められなかった。 (Karino et al. 2005) • 今回、健常人における VEMP 測定時に、音刺激 耳側後半規管と対側前半規管が水平面となるよ うな体位をとり、等角加速度回転刺激を加え、 垂直半  規管刺激が球形嚢由来の VEMP に与 える影響を 測定した。
  • 3. 実験方法 【対象】 • 耳科学的・神経学的疾患の既往のない 14 名(右 7 名、左 7 名;男性 12 名、女性 2 名;平均年齢: 31.4 歳;年齢 幅: 25-42 歳)。 【 VEMP 】 • 関電極を胸鎖乳突筋 (SCM) の約 1/2 の筋腹上に、不関電 極を胸骨上縁部、接地電極を前額部においた。 • 刺激音は 500Hz トーンバースト (95dBnHL, rise/fall time 1ms, plateau 2ms) を用い、刺激頻度は 5Hz とした。 • bandpass filter は 20-2000Hz 、解析時間は 100ms   (-20ms~80ms) とした。 • 刺激前 20ms の背景筋電図を測定し、筋電位の整流積分 の平均振幅を用いて p13-n23 間の振幅を補正した。 CA(corrected amplitude) = ( p13-n23 の振幅) / ( -20~0ms の筋電位平均振
  • 4. 【回転刺激】 • 音刺激耳側後半規管―対側前半規管が水平面になるように前屈し頚部を 対側に回旋する姿勢(下図)をとった。 ( earth vertical axis にほぼ垂直と仮定できるドイツ水平面と約 30° の角 度を持つ外側半規管は、 earth vertical axis から 120° の角度で前屈する 姿勢をとることで、回転面と垂直になる。さらに平行している音刺激耳 側後半規管と対側前半規管が回転面と水平になるように、頚部を 45° 対 側に回旋する。) • 音刺激中は、暗所開眼を指示した。 45° Contralateral rotation Ipsilateral rotation 右 VEMP 120° 音刺激耳側 後半規管 トーンバースト 対側前半規管 Ipsilateral rotationContralateral rotation
  • 5. • 回転刺激は、角加速度 12°/sec2 、最大角速度 180°/sec を用いた。 • 右耳刺激による右 SCM での VEMP の測定時は、上方か ら見て、 時計回転: Ipsilateral rotation 反時計回転: Contralateral rotation と定義した。 • 測定開始前に、 Ipsilateral rotation にて、眼球運動を観 測。上眼瞼向き眼振を確認した。 • VEMP の測定は、 音刺激前静止時→ ipsilateral→ contralateral→ ipsilateral→ contralateral→ 音刺激後静止時 の順に行った。 • 各回転刺激試行の影響が出ないように十分な間隔をとっ て VEMP を測定した。
  • 6. 評価方法 • 静止時、 ipsilateral rotation 、 contralateral rotation 、   各条件に おけるそれぞれ 2 回の値の 平均をとり、各被検者の p13 潜時、 n23 潜時、 CA とした。 • 各条件の p13 潜時、 n23 潜時、 CA に関して、統計 学的手法 (one-way repeated ANOVA) を用い 、検討を行った。 20ms 100μV 0ms (刺激) 整流積分 p13 n23
  • 7. p13-n23 振幅と背景筋電位との相関 ( 静止 時) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 100 200 300 400 500 p13-n23振幅(μV) R= 0.82 背景筋電位の平均 (μV) p< 0.0001
  • 8. p13-n23 振幅と背景筋電位との相関 (Ipsilateral rotation ) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 0 50 100 150 200 250 300 p13-n23振幅(μV) 背景筋電図の平均( μV ) R= 0.74 p< 0.0001
  • 9. p13-n23 振幅と背景筋電位との相関 (Contralateral rotation ) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 0 50 100 150 200 250 300 350 400 p13-n23振幅(μV) 背景筋電位の平均( μV ) R= 0.84 p< 0.0001
  • 10. 【 p13 潜時】 12 12.2 12.4 12.6 12.8 13 13.2 13.4 13.6 13.8 14 ANOVA: 0.15 静止時 Ipsilateral rotation Contralateral rotation (ms)
  • 11. 【 n23 潜時】 16.5 17 17.5 18 18.5 19 19.5 20 ANOVA: 0.068 静止時 Ipsilateral rotation Contralateral rotation (ms)
  • 12. 【 Corrected Amplitude (CA) 】 .8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 静止時 Ipsilateral rotation Contralateral rotation ANOVA: p= 0.0074 ( 検出力 : 0.85) Bonferroni’s post hoc test 静止時と Ipsilateral: p= 0.0021 Ipsilateral と Contralateral: p= 0.0392
  • 13. 考察 【 Ipsilateral rotation の CA での有意差について】 • 球形嚢刺激により、内側前庭脊髄路 (MVST) 経由で同側 SCM 運動 ニューロンに 2 シナプス性抑制性電位が発生する。 (Kushiro et al. 1999)  これは VEMP を説明しうる経路である。 • 後半規管刺激により、 MVST 経由で同側 SCM 運動ニューロンに 2 シ ナプス性抑制性電位が発生する。 (Shinoda et al. 1994) • 球形嚢神経、および後半規管神経から入力のある、下行路が MVST の 前庭脊髄ニューロンのうち、両神経から収束のあるものは、半数以上 を占める。 (Sato et al. 2000) → 同側の球形嚢神経由来の SCM 運動ニューロン 2 シナプス性抑制性電位 は、同側の球形嚢神経と後半規管神経の両方から収束のある抑制性前 庭脊髄ニューロンにより惹起されるものが多いと考えられる。これは 、両方から収束のある抑制性前庭脊髄ニューロンが、 VEMP の経路に 関与している、即ち、後半規管からの入力が VEMP に影響を与える可 能性を示すものである。今回の結果は、過去の研究結果と矛盾しない 。
  • 14. • 後半規管神経と球形嚢神 経から単一前庭脊髄 ニューロンへの収束は、 外側半規管神経と球形嚢 神経からの収束に比べ、 数的に優位である。 (Sato et al. 2000, Zhang et al. 2001) →Karino et al. 2005 の報告 と同角加速度の回転刺激 を用いた上での今回の結 果は、後半規管と球形嚢 の同時刺激入力時の相互 作用が、外側半規管と球 形嚢の同時刺激に比べ、 起こりやすいことを示唆 する。 excitatory inhibitory PC SAC 単一 VN SCM MVST 50 %以上
  • 15. • 前半規管から興奮性に投射された前庭脊髄ニュー ロンは、対側の SCM 運動ニューロンへ興奮性に 投射する。 (Fukushima et al. 1979) → 前半規管由来一次求心性線維の放電頻度は、回転 刺激により影響を受けるが、同側への投射と比べ 、対側への投射は量的に少ないと思われ、 VEMP に対する対側前半規管の影響は小さいのではない か?(あるいは、同側後半規管からの収束は前庭 脊髄ニューロンのレベルで起こるが、対側前半規 管からの入力は SCM 運動ニューロンのレベルで 起こる。この違いの影響がある?) • 半規管刺激により SCM の tonic な変化が起こる 。 → 背景筋電位による振幅の補正によって、 CA への 影響は少ないと考えられる。
  • 16. 【 Ipsilateral rotation での CA が小さいことにつ いて】 • 球形嚢神経・後半規管神経から単一前庭脊髄 ニューロンへ投射する入力様式は、両神経からの 単シナプス性興奮性投射が 50% 。抑制性投射に 関与する入力は比較的少数。両神経からの興奮性 投射が数的優位である。 (Sato et al. 2000) <推察> 刺激耳側後半規管由来一次求心性線維の放電頻度 は、 ipsilateral rotation により増加する。よって、 VEMP 測定中に、 ipsilateral rotation を与えると、 球形嚢神経・後半規管神経から収束のある前庭脊 髄ニューロンへの、両者からの興奮性投射が増大 すると考えられるが、後半規管神経からの興奮性 投射は音刺激に同期しておらず、ノイズになるの ではないか?即ち、神経回路の興奮あるいは抑制 の同期性を阻害するのではないか?
  • 17. まとめ • 健常人における VEMP 測定時に、音刺激耳側後 半規管と対側前半規管が水平面となるような体 位をとり、等角加速度回転刺激を加え、垂直半 規管刺激が球形嚢由来の VEMP に与える影響を 測定した。 • p13 潜時、 n23 潜時に関しては、回転刺激によ る有意な変化は認められなかった。 • Ipsilateral rotation における CA が、静止時・ Contralateral rotation に比べ有意に小さかった 。 • 後半規管と球形嚢の同時刺激入力時の相互作用 の存在が示唆された。