雑音負荷時の子音聴取－信号音源と雑音音源の空間的配置との関連 第３報 2014

1. 雑音負荷時の子音聴取－信号音源と雑音音源の空間的配置との関連 第３報
東京大学医学部附属病院耳鼻咽喉科
亀田総合病院耳鼻咽喉科
狩野章太郎 赤松裕介 越智篤 山岨達也
目的
騒音下の環境では、声がどちらの方向からきこえてくるかを判定し、その内容をききとることが必要である。日常の生
活環境のように雑音が様々な方向から負荷されると、特に日本語の子音の聴取が健聴者および両側感音難聴の患者で
どの程度困難になるかについて調べた。
方法
人工内耳装用者用の語音聴取評価検査 CI-2004（試案）１）２）（以下 CI-2004 と略す）の１４種類の子音検査（前
後に母音の/a/を配した VCV の形式）を用いた。１４子音がランダムに４回ずつ、計５６回呈示される。CI-2004 に付属
の加重不規則雑音を雑音負荷として使用した。無響室内で、着席した健聴者の正面、被験者から見て左８０度あるいは
４０度、被験者から見て右８０度あるいは４０度に配置したスピーカを使用した。信号音は閾値上 30dB で呈示し、雑音
の音圧は正答率が 0-100%の間で広い範囲に分布するように、３－４種類に設定した。感音難聴被験者は１４子音から
選択して自ら回答用紙に記載して回答した。感音難聴患者では常用している補聴器を装用して測定した。
結果と考察
健聴者では語音がマスカーから空間的に分離されると同じ方向の場合に比べて 12dB ほど聴取閾値が改善する
（Spatial release from masking: SRM）３）４）が、今回の計測でも同程度の SRM が確認された。信号音源と雑音音
源の位置を入れ替えると、S/N 比と正答率の関係が変化した。信号が正面でマスカーが側方からの場合よりも、マスカ
ーが正面で信号が側方からの場合の方が正答率が高かった。空間的配置の影響の大きさは子音の種類によって異なっ
ており、健聴者では、破裂音、半母音、弾音では SRM が比較的大きく、摩擦音では SRM が小さかった。破裂音、半母音、
弾音は後続母音のフォルマントの移動パタンが利用可能で、両耳聴による音脈文擬(Auditory segregation）が使いや
すいためと推測される。高音部に感音難聴がある被験者では、摩擦音や通鼻音では SRM がみられなかったが、破裂音、
半母音、弾音では SRM が観察された。感音難聴があると SRM の被験者間のばらつきも大きかった。

2. 図１ 健聴者における子音での正答率。F_F は信号・雑音とも正面からを表す。雑音が正面からで信号が左８０度
(L80_F)あるいは左４０度(L40_F)になると、主に破裂音・半母音・弾音で正答率が改善し、SRM が生じていることを
示す。
文献
１）氏田直子、他：人工内耳聴取評価法の開発と臨床応用（成人用） Audiology Japan 43(5): 547-548, 2000
２）城間将江、他：人工内耳聴取評価法の開発（成人用）：第二報 Audiology Japan 44(5): 465-466, 2001
３）Freyman RL, et al. The role of perceived spatial separation in the unmasking of speech. J Acoust Soc Am.
1999;106:3578-88.
４）Arbogast TL, et al. The effect of spatial separation on informational masking of speech in normal-hearing
and hearing-impaired listeners. J Acoust Soc Am. 2005;117:2169-80.