Text mining analysis of recovery narratives of people with mental disorder
●本文
【問題】小平・いとう(2012)は、精神障害の体験の語りをメディアの種類に着目して7つに分類し、本研究の分析対象である『こころの元気+』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ出版)を「定期刊行物」に位置づけ、表紙に当事者が素顔で登場し、その語りから病いの経験を知ることができると意義づけた。笠井(2015)は、「リカバリーのプロセスを歩んだ体験者の語り(ナラティブ)から学ぶことが必要」とした。本雑誌は当事者が表紙モデルになり、その経緯を記した記事も掲載され、リカバリーの語りの共有を可能にしている。
【目的】表紙に当事者がモデルとして登場した記事のテキストを分析することで、リカバリーを達成した人の語りの特徴を明らかにする。
【方法】『こころの元気+』2007年3月号(通巻1号)から2015年7月号(通巻101号)に毎号掲載の「私モデルになっちゃいました!」100記事の全文をテキストマイニング分析した。テキストの量的分析にはText Mining Studio Ver.5.2を用いた。単語の出現回数の多い表現を集計し、好評語・不評語分析でポジティブに用いられている単語、ネガティブな単語を抽出した。倫理的配慮:本研究の分析対象は一般に出版・公開されている雑誌であり、著作権に配慮し著者の表現や言葉などを改変せず、引用部分を明示し、出典を明記した。
【結果】出現頻度の多かった形容詞の単語は、「良い」(74)「楽しい」(54)「嬉しい」(33)「強い」(18)「多い」(18)「辛い」(17)「やさしい」(14)「悪い」(14)「苦しい」(11)「新しい」(9)、などであった。好評語は、上位より「経験」「撮影」「人」「笑顔」「気持ち」「時間」「思い出」「体験」「夢」「症状」「生活」「メイク」「写真」など、不評語は、「病気」「気持ち」「具合」「心」「緊張」「調子」「仕事」「経験」などであった。
【考察】記事の内容は、モデルになった経過や理由、撮影中のワクワクした気持ち、これまでの人生の振り返りなどが述べられていた。分析結果より、その話題の特徴から、リカバリーを達成した人は、病いと共に生きる経験をポジティブに捉え、その経験を人々と共有したい思いから、社会に発信している姿が明らかになった。Ridgway(2001)のいう、病いからくる苦労にめげずに自らの体験を残すことが当事者の重要な役割だとする「サバイバー・ミッション」が多くの撮影参加者にみられた。小平・いとう(2010)は当事者が闘病記を書くことにより自分を表現する重要性を指摘している。モデルの表現活動がリカバリーにとって同様の意義をもつと指摘できる。本雑誌は、記事内容のみならず当事者の登場する表紙それ自体、多様な回復のあり方が病名や素顔の開示と共に記述された貴重なものである。
※本研究はJSPS科研費15K11827の助成を受けた。
20. 【これまでの関連研究】(www.itotakehiko.comからダウンロード可能)
●R130 小平朋江・いとうたけひこ・大高庸平(2010).統合失調症の闘病記の分析:古川奈都子『心
を病むってどういうこと?:精神病の体験者より』の構造のテキストマイニング 日本精神保健看護学
会誌 19(2), 10-21.
●小平朋江・いとうたけひこ (2013) 『こころの病を生きる:統合失調症患者と精神科医師の往復書
簡』の当事者と医者の語りのテキストマイニング 第33回日本看護科学学会学術集会講演集,p639.
●G222 小平朋江・いとうたけひこ (2014) 『当事者が語る精神障害とのつきあい方』の5人の統
合失調症を持つ人たちの回復の語りのテキストマイニング第34回日本看護科学学会学術集会
●G232 小平朋江・いとうたけひこ (2015)当事者研究の可視化:テキストマイニングによる探求 第12
回当事者研究全国交流集会 浦河大会
●G239 小平朋江・いとうたけひこ (2015)ある統合失調症闘病記のリカバリーとヘルパー・セラピー
原則 西純一『精神障害を乗り越えて:40歳ピアヘルパーの誕生』の内容分析およびテキストマイニン
グ 日本心理学会第79回大会
●G244 Kodaira, T.,& Ito, T. (2016, March)Visualization of Tojisha Kenkyu studies: A text mining
approach to recovery (and discovery). Poster session presented at the 19th East Asian Forum of
Nursing Scholars (EAFONS 2016), Chiba, Japan.
●G247 Kodaira, T., & Ito, T. (2016, July) Psychological approach to Tojisha Kenkyu studies of people
with mental illness. Poster session presented at ICP2016,Yokohama.
●G259 Ito, T., & Kodaira, T. (2016, October) Soul and science unite in Tojisha Kenkyu studies of people
with mental illness. Poster Session presented at Global Human Caring Conference Wuhan, China
●小平朋江・いとうたけひこ(2017)浦河べてるの家の当事者研究の語りとリカバリー:テキストマイニ
ング分析 心理科学 38(1) (印刷中)
●G264 小平朋江・いとうたけひこ (2017)精神障害当事者の自己開示とリカバリー:メンタルヘルス
マガジン『こころの元気+』表紙モデルの動機と理由および特集タイトルの分析 日本発達心理学会
第28回大会 ←あさって3/27(月)10:00~広島国際会議場にてポスター発表します。 20