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オランダのプロ投資家って?
その質問、 slowsteps がお答えします
ヨーロッパの投資家って
ヨーロッパには有名な UCITS (Undertaking for
Collective Investments for Transferrable Securities –
EU域内での公募規制)や AIFMD (Alternative
Investment Fund Management Directive – EU域内
でのオルタナ/私募ファンド関する規制)があり、そ
れさえ守れば(って、それも大変な作業ですが)EU
域内で好き勝手にファンドが売れる、かの如く思わ
れますが。。。
実際にEUはそれぞれの国が集まっているので
そんなに簡単な話じゃないんですよ。
話を始める前に、いつものお断り
今回の話は、思いっきりオランダ国内の法律に絡む話をします。
ということは。。。
一般論を話すのはいいけれども、
個別案件に関する検討・助言・書類作成などをすると現地の弁護士法など
に抵触する
という、ちょっとやっかいな話が待っていますので、いつものことながらご自分の取り組まれている案
件に対してはこれを読んだだけの場合には
自己責任、もしくは適切な弁護士さんと相談の上で
ということで。まぁ、当社とコンサル契約をいただいているお客様については当方で責任を持って適切
な対応しますので、別途ご相談ください。
ということで、ヨーロッパでも
何故か、オランダのプロ投資家とか私募の話
をします。
なぜかって?
それはたまたま著者がその法律に触れてウン
ウン唸る機会があったから(笑)
まず、オランダの法律周りを。。。
オランダにも当然、証券を取り扱う法律がありまして、英語で「Act on Financial
Supervision」、オランダ語で「Wet op het financieel toezicht」というのが 2006年に制定
され、証券取引やファンドなどの規制等を定めているそうです。
ちなみに、本プレゼンはそのunofficial English translation を元に書いていますので例
によってオランダ語 英語 日本語による lost in translation や著者の英語能力の
無さによる解釈間違いがあってもしりませんからねっ
で、その法律によると
いわゆるプロ投資家 – professional investor –の定義は次の通り、
といって16種類もあるので順番にグループごとに紹介すると
a. management company of a collective investment scheme;
b. management company of a pension fund or of a comparable
legal person or company;
c. collective investment scheme:
d. investment firm;
といった、ファンドやその管理会社(management company)、投資
運用会社(investment firm)が出てきます。
ここで興味深いのが、collective investment scheme の定義に
“investment company or unit trust” と会社型か契約型のファンドだ
けが含まれるという点です。
で、その法律によると(続き)
いわゆるプロ投資家 – professional investor –の定義の続きですが
a. national or regional government body, or government body administering the
public debt;
b. central bank;
c. financial institution;
d. international or supranational organisation governed by public law or
comparable international organisation;
e. credit institution;
f. market maker;
g. enterprise whose main activity is investing in financial instruments,
implementing securitisation programmes or other financial transactions;
h. pension fund or comparable legal person or company;
と、政府や政府の認可を受けた、いわゆる金融機関、年金、といった、まぁ、プロよね、
という顔ぶれです。面白いのが、そこに証券化プログラムや金融取引を専門に行う
ビークルも含まれている、というところです。
で、その法律によると(まだまだ)
いわゆるプロ投資家 – professional investor –の定義の最後のグループは
a. person or company trading for its own account in commodities and derivatives
on commodities;
b. local firm;
c. legal person or company that satisfies two of the following magnitude
requirements:
1. a balance sheet total of € 20,000,000 or more;
2. net turnover of € 40,000,000 or more;
3. equity capital of € 2,000,000 or more;
d. insurer;
最後の保険はさておき、商品取引や商品デリバをする個人とか総資産、純売上もしく
は資本金が一定水準以上の法人、そして、local firm は単純な翻訳通りではなく、
ちゃんと定義があって、オランダ国内に事務所がって金融デリバティブやその参照資
産をカバー目的で、自己勘定もしくは投資会社の勘定科目で取引所経由での取引し、
決済する目的のビークル、要はずいぶん昔に流行った(高格付けの)トレーディング
ハウス、なんかが当てはまります。
こうしてみると
日本の適格機関投資家にある、投資事業有限責任組合、のような組
合スキームは入らないことがわかります。
ちなみに、これのおかげでオランダ籍のファンド「への」投資が大変
だった、とだけ言っておきましょう。。。
ヨーロッパ(ジャージー島やガンジー島は除くと)で組合スキームが盛
り上がっているのは実際のところ近年なので、その意味では馴染み
の薄いスキーム、だからprofessional investor 扱いされないのかもし
れません。
実際、このAct on Financial SupervisionではCollective Investment
Scheme (会社型もしくは契約型ファンド)の募集の記述はありますが、
組合スキームに関する規制が明言されていないのです。
あと、募集絡みでいうならば
オランダ国内の公募の規定で参照されるのがqualified investor の資格で、こちらは、といえば
a. legal person or company that holds a licence or is otherwise regulated to be active on the financial markets;
b. legal person or company that does not hold a licence or is not otherwise regulated to be active on the
financial markets and whose only corporate object is to invest in securities;
c. national or regional government body, central bank, international or supranational financial organisation or
other similar international institution;
d. legal person or company having its registered office in the Netherlands that:
1. is classified as a small enterprise under rules to be laid down by Decree; and
2. was registered by the Authority for the Financial Markets as a qualified investor at its own request;
e. legal person or company, not being a legal person or company as referred to in Subsection (d), opening words
and under 1°;
f. natural person residing in the Netherlands who satisfies the rules to be laid down by Decree and who was
registered by the Authority for the Financial Markets as a qualified investor at his own request; or
g. natural person or enterprise classified as a qualified investor in another Member State as referred to in Article
2(1)(e)(iv) and (v) respectively of the Prospectus Directive;
まぁ、最後の 他のEU加盟国のqualified investor に属する個人や法人はわかるものの、そのほかは、金融市場関係
のライセンスを持っているか、会社の設立目的が証券投資か、政府関連か、法令に基づいて金融当局に届出した
個人もしくは法人、と案外厳しいのか緩いのかわかりませんが。。。
じゃあ、募集まわり、行ってみよー
まず、ファンド関係で、「Act on Financial Supervision」のファンド関連の条項
の対象外となるには
Section 1:12 によると
• 100人未満のNon-Qualified Investorに対する、もしくは
• Qualified Investor限定の
募集、だそうな。前者はプロ私募、後者は少人数私募、って感じですな。
で、何から解放されるか、というと
じゃあ、その適用外になる条項、についてみると。。
Section 3.7 は “Bank” という言葉の利用の制限、ってなんで?wって感じです
が、
その他は
Chapter 5.1: 公募の定義(オランダ民法にも参照してますが、1人以上への
募集を含めています)に始める、有価証券全般の公募の関する規定
Chapter 5.3: 持分の議決権や資本、保有に関する開示規定
Chapter 5.4: 有価証券の市場取引や不正行為に関する規定
Chapter 5.5: 公開買付けに関する規定
というところですので、いわゆる私募に対する証券としての取扱の適用を解
除するというものですので、なんとなく納得です。
ちょっと待って
これ以外の条文は適用になるので、ここで安心してはいけません。
一番大きいのは、集団投資スキームの募集関連(Part 2.2.7)からは逃れられ
ません。言い換えると、ここでUCITSは当然のこと、AIFMで募集を期待する
EU域外のファンドマネジャーのライセンス関連を規定しています。
この中で、EU域内の他の参加国の金融当局からの通知があった場合には
その国で運営されている集団投資スキーム(契約型か会社型、という定義
でしたね)を、そのオランダの支店を通じて募集を行うことができる、というパ
スポートルールが明言されています。
また、一定の国の監督下にあるファンドについても取り扱いが可能、とされ
ています。ちなみに一定の国、とはジャージー島、ガンジー島、アメリカ、そ
して香港、です。
ということは。。。
ということは、オランダに持ち込めるEU域外のAIFはこれら4つの法域のもの
しかない、ということです。
シンガポールのVCCでも、日本の投資信託もダメ、ということです。
さらに、組合関係の定義がこの Act on Financial Supervisionにない、と書き
ましたよね。これを組み合わせると何が起きるか、というと。。。
オランダに金融ライセンスを受けた支店を立てても組合スキームを持ち込
むことが難しい、のです。もともと組合スキームに慣れていない投資家の国、
と思えば当然、といえば当然ですが。。。
まとめ
こう読んで行くと、私募であっても現地拠点は必要ですし(実際、
ファンドの運用やその説明責任を果たす、なら子会社をおいてコ
ミットせよ、というのはもっとも、ですよね)、UCITSなりAIFMDなり
の規制に従った体制を求めないと私募すら許さない、というのが
ヨーロッパらしいガチガチ、というのが見えてきます。
しかし、組合型投資がない世界って、どうなんでしょうね。
いや、日本においても投資信託しかしたことない人には、この柔
軟さは理解できないでしょうけどね。。。
Slowsteps Inc.
your ambitions, through power of finance

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