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拡張する概念
- 投資のパフォーマンス計測の裏側を数学的に考えると -
投資のパフォーマンス計測って
単純に、いくら儲かったか、損したか、は投資の
結果から見れば大事。
だけど、それだけだと、実際のところいい投資
だったのか、ダメな投資だったのか、という評価
が出来ません。
手始めに、二つの投資を同時に始めて、両方とも結果
的に倍になったけど。。。
同じ倍でも。。。
A) 一方は6ヶ月で倍になり 、
B) もう一方は2年で倍になった。
さて、どちらがいい投資だったか、問われれば直感で
「3ヶ月!(をい)」と答えたいですよね。でもその理由
は?
6month
2years
A)
B)
2 times
2 times
これを評価 - 比較する方法は
A) 一方は6ヶ月で倍になり 、
B) もう一方は2年で倍になった。
直感以外で評価するとすれば、時間を揃えてどれくら
い増えたかを比較する方が分かりやすい。
6month
2years
A)
B)
1year
1year
4 times
1.41 times
ちなみに。。。
A) 一方は6ヶ月で倍になり 、
B) もう一方は2年で倍になった。
常に、何倍になったか、という話ばかりではないので、
投資元本に対する増減の年率換算を使うのが一般的。
6month
2years
A)
B)
1year
1year
300% p.a.
41 % p.a.
同じ年率のリターンでも。。。
同じ年率の増加率を出す投資ならばどれも一緒か?
といえば当然違って、話を単純にするために
A) 冷蔵庫に磁石で1万円を貼り付けたのと同じくらい
一年通じて全く値動きしない (下図赤線)
B) 毎月元本の1%相当を上下して一年後結果元本に
戻った(下図緑線)
という年率0%(笑)という結果は同じだけど見るからに
異なる二つの投資についてどう評価するのでしょう。
6month 1year
リスク、という指標
「赤のように増減率の変動がない投資より緑のよう
に増減率の変動のある投資の方がリスクがある」
と、言うように、増減率の変動 – 標準偏差 - で比較
することでこの二つの投資の違いを評価します(こ
の場合、月次で赤は 0%、緑は 1% という計算結果
に - 分かりやすい例ですねw)。
投資の世界ではこの標準偏差をリスクとなぜか呼
ぶことが多いです。(世の中には他にもリスクがあ
るのに。。。)
6month 1year
と言うことは
投資のパフォーマンス計測って、あえて専門用語ちっく
な言葉を使うならば
• 投資倍率(どれだけ増えたか)
• 年率リターン(1年間平均でどれだけ増えたか)
• リスク(リターンのブレ幅はどれくらいか)
を見れば色々な投資の比較が出来そう、な気がします
ね。でも、これには色々と落とし穴があるのです。
このスライドは、その落とし穴を概念の拡張という形で解
消していくか、が目的で、実はここまではただの話の枕、
でしかなかったのです(!)
キャッシュフロー、という落とし穴
今までの例では、投資対象となる資産は、金の延べ棒
やビットコインのように途中でキャッシュフローを生み
出さない資産を単純に買って売るので、その資産の価
値の変動を計算するにはちょうど良かった。
のですが、株式は配当金が支払われることがあり、投
資信託も分配金が支払われ、債券も利金が支払われ
るものがあります。例えばこんな2年債的な感じ↓
こうなると今までのような変動率の計算が出来なくなり
ますよね。
2years1year
そこで、概念の拡張のための準備
の前に、このようなキャッシュフローの商品の「値
段」を決めるロジックを見て参考にしてみましょう。
ゼロクーポン債、って知っていますか?
取得してから償還するまで間利金が発生しない債
券なのですが、その性質上、償還までの期間の金
利で償還額を割り引いた額が取得時の価格になる、
という金利と時間の要素だけで決まる関係にあり
ます。(これを将来のキャッシュフローの現在価値、
とも言います。)
1year 2years
債券価格
さらに準備。。。
では利付債の債券価格の計算はどうするかと
いうと。。。
複数のゼロクーポン債の塊、として将来の
キャッシュフローの現在価値の合計としてこの
利付債の債券価格が決まります。
2years1year
でも、将来のキャッシュフローがわからない投
資を、過去に振り返って評価するには?
プライベート投資、特にバイアウトファンドあたりのキャッ
シュフローというと、こんな感じ:
しかも、投資の始まる時点で将来の投資がそもそも決まってい
ないので利付債の債券価格のような計算方法を投資開始時に
入れることが出来ない。
ので、このキャッシュフローを評価する方法を考えないといけな
いことになりますが。。。
とりあえず、年収益率の平均値で計ろうと思っ
た – 内部収益率
こうなると、いつが良くていつが悪いかなんて言えないわけですから、
最初から最後までの年収益率を平均したものがずっと続いた、という
前提で評価しよう、というのが内部収益率、のざっくりとした考え方。
これは、上記のキャッシュフローのそれぞれを同じ収益率で(ゼロクーポン債のように)現在
価値(開始時点)に引き戻して、支払い(上記の絵だと時間軸の下にあるもの)の合計額と
受け取り(同じく時間軸の上にあるもの)の合計額が一致する、という収益率を探す、という
意味。
数学的には多元多項方程式の解を解くことになるので実数解がない場合だってありそうで
すが、今時はExcel の Solver を使うと0を中心にして何かしらの解が一つくらい出てくるので
その絶対値で最小のものがその解、ということになっています。
リターンをIRRに拡張したはいいけど
そうしたら、IRRと投資資金がどれくらい増えたか
(何倍になった?というのをTotal Value per
Investment – TVPIと専門用語的に言いますが)の
二つだけで比較したら世の中のファンドの評価がで
きるのでしょうか?
言い換えると、同じIRRと同じTVPIのファンドならば
いつ投資しても同じ投資リスクだったのでしょう
か?
こんなケースを考えてみてください
この二つのファンド、IRR もTVPI も全く一緒ですが、どちらが
市場環境をうまく乗り切ったと思いますか?
ぱっと見はわからないけど。。。
2010
2013
2015
2018
Fund A
Fund B
肌感覚的にはわかるけど
確かに上場市場との相関性が低いとはいえども、
上場市場から感じる相場観とどうしても照らし合わ
せてしまいます。
Fund A Fund B
肌感覚を数値化する
肌感覚を数値化すればより、比較がしやすくなるわけ
ですので、如何にしてプライベート資産をパブリック市
場に置き換えて対比できるかが鍵になりそうです。
その一つの考え方が
「もしパブリック市場の投資でプライベート資産の生み
出すキャッシュフローを複製したら最後は勝てるの
か?」
- Public Market Equivalent (PME)の発想です。
上場市場でプライベート資産を模倣する
プライベート資産を買うのと同じタイミングで同額の株式指数を買い、プ
ライベート資産を売るのと同じタイミングで同額の株式指数を売ったら、
同じだけの株式指数のポジションの評価額が残るか(下記のチャートで
青い棒線がその上の赤い線より長いか)どうかで検証しよう、というのが
PME の元々の考え方です。
Fund A Fund B
Fund A
(PME)
Fund B
(PME)
PMEの限界
PMEは、(時間軸すら異なる)複数のプライベート資産投資
をパブリック市場のベンチマークを介して比較したり、そもそ
もパブリック市場と対比することができる意味で、評価ツー
ルとしてはとても優秀。
でも、パブリック市場が大きく動く場合に、擬似的にファンド
のキャッシュフローを作ろうとしても途中で株式指数持分を
全部売っても足りない状況に陥り計算が破綻するケースが
ある。これを回避する方法として補正を加えることが考えら
れたものの、補正値の決め方が一意ではなく、また比較検
証に使うパラメーターが複数になるので簡単な比較になら
なくなってしまったのです。簡単がいいよね。
PMEを拡張する - DAM の誕生
単純に株式指数の持分の売り買いでキャッシュフローを置き換えるので
はなく、もしそれぞれのキャッシュフローを金利の割引のようにある一時
点を基準にして株式指数で割引いたらどうなるか?
- PME のような破綻を回避することが出来る!
Fund A Fund B
Fund A
(DAM)
Fund B
(PME)
PMEを拡張する - DAM の誕生 (続き)
一時点を基準にして株式指数で割引いたキャッシュフローで IRRを計算
すると。。。実はざっくりとした言い方ですが、株式指数に対する超過収
益率 – いわゆるアルファ – が計算できて出来てしまうのです。
その証拠に、単純にある時点で株式指数を買って、別の時点で株式指
数を売ったというキャッシュフローにこの株式指数での割引とIRR計算を
当てはめると。。。 IRR は 0%になります。そりゃそうだ。
まとめ – 概念の拡張とその結果のツール
ということで、このDAM – Direct Alpha Method はその名の示す通り、実
はベンチマーク – ベータ – に対する超過収益率を計算できる、多分今手
軽に使えるファンドの収益測定のベストなツール、と言えるのですが
この誕生には、単純な単利の概念を拡張し続けた IRR に金利ではなく
株式指数でキャッシュフローを割り引くという拡張を掛け合わせたことで、
ベンチマークに対する超過収益率、という比較ツールが生まれたとも言
えるのです。
って書くと、なんとなく数学っぽいでしょ?w
Slowsteps Inc.
your ambitions, through power of finance

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