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92 ヒューマンニュートリション 2016. No.39
第1ステージの検証
アベノミクス第2ステージの“三本の矢”とし
て、①希望を生み出す強い経済、②夢を紡ぐ子
育て支援、③安心につながる社会保障、の3項
目が掲げられた。具体的な数値目標として、14
年度に490兆円だったGDP(国内総生産)を600
兆円とすること、現在1.4程度の出生率を1.8
まで回復させること、家族らの介護を理由に退
職せざるを得ない介護離職をゼロにすること、
とした。最優先課題として、医療・介護分野に
影響する課題が取り上げられたことになる。
そもそもアベノミクスとは、2012年に第2次
安倍内閣が発足した際に掲げられた一連の経済
政策を総称して呼ばれている。当初の三本の矢
は①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③
民間投資を喚起する成長戦略、である(図)。こ
の三本の矢が放たれ、賛否両論はあるが、ある
程度成果が出たとされ、次のステージの目標が
掲げられた。
なお、第1ステージの成果としては、GDPが
成長した、株価が倍増した、有効求人倍率が高
水準となった、過去最高の外国人訪日を達成、
などが挙げられている。医療・介護分野につい
ては、一部具体的な内容で方針が示されたが、
それほど大きな成果が挙がったとは言いにく
い。
たとえば、三本の矢の一つである成長戦略と
して「日本版NIHの創設や先進医療の対象拡大、
一般用医薬品のインターネット販売の解禁、医
療・介護・予防の ICT 化の徹底」などが掲げ
られていた。日本版NIHはモデルとされてい
る米国のNIH(National Institutes of Health:
米国国立衛生研究所)とは比にならないような
小粒な議論となっている。先進医療の拡大も当
初示されていた大きな話ではなく、一部の医療
機関での導入で、実質は既存の先進医療制度の
延長上でしかない。薬のネット販売は規制緩和
されたが、一部対象外の品目が残されている。
ICT化についてはマイナンバーと絡めて、ま
だ実現には至っていない。ほかにも、規制緩和
で敷地内門前薬局や在宅医療専門診療所などで
The Point of View
制度を読み解くキーワード
第2ステージに移った
“三本の矢”戦略
医療・介護分野が最優先課題に
藤井将志 特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長
自民党は9月24日、党本部で両院議員総会を開き、安倍晋三首相の総裁再選を正式に決めた。
首相はこれを受けて党本部で記者会見し「アベノミクスは第2ステージに移る」と経済最優先の政
権運営を進める考えを表明した。
© chris - Fotolia.com
(C) 2016 日本医療企画.
2016. No.39 ヒューマンニュートリション 93
影響は出ているが、“大改革”につながるような
話ではない。しかし、成長戦略に盛り込まれる
ことで、これまでなかなか動かなかった混合診
療や各種規制について見直しが実施されること
は事実である。第2ステージでは医療・介護に
関する目標が前面に出たことで、より強力に推
進されることが考えられる。
第2ステージは期待できるのか
最初の三本の矢で経済的な課題解決を実施
し、続く新三本の矢では社会保障の充実など生
活の質に視点が向けられた。企業の経営改革で
もよく使われるような順番で、まずは止血術を
して赤字を止め、次に質的な側面を高めていき、
抜本的に改革する、という順序である。新三本
の矢で何か新しいことが始まるのか、というと
そうではなさそうだ。実は最初の三本の矢の時
点でいろいろな施策が示されており、今回の第
2ステージでは社会保障などに関連する項目の
優先順位を上げる、といった感じである。
たとえば、「介護離職ゼロ」に関する施策とし
ては、介護職員の確保や、要介護者の受け皿に
なる介護施設の増加策が挙げられている。具体
的には「地域医療介護総合確保基金」の活用とい
うことになる。同基金で新設する介護施設の整
備事業費と人材確保事業に予算がついており、
都道府県を通じて助成させることになる。箱モ
ノについては補助金が出れば次々につくられる
だろうが、人的資源についてはすぐに増えるこ
とにはならないだろう。同基金についても第1
ステージから進められている施策であり、新た
な施策が打ち出されるというより、既存の枠組
みをさらに加速する、というのが今回の新たな
矢の中身である。
つまり、施策の多くは既存の枠組みの中で展
開される内容となるが、抜本的な変革につなが
る可能性を秘めているものもある。たとえば、
先の介護人材については外国人の活用について
も検討が進められている。中途半端な少子化対
策で人口を維持する見通しが見えてこない状況
では、外国人人材の確保でGDP600兆円の目
標を達成せざるを得ない、という話になれば、
外国人活用に関する施策がどんどん進む可能性
もある。また、ヘルスケアポイントなど医療予
防事業についても、既存の医療保険とは違う枠
組みで施策が動き出している。成果が出だして、
診療報酬で評価されることになると画期的な変
化となる。
そのほかに、医療のICT化についてもさま
ざまな施策が提示されている。その多くは既存
の電子カルテシステムなどのシステムにお金を
補助して普及させる、といった類である。しか
し本来、公が推進しないとならないのは、現状
でメーカーやシステム間でデータ構造がバラバ
ラで紐づけができないものを統一化する方針を
示すことであろう。それが実現すればビッグデ
ータがいろいろと結び付けられ、さまざまな分
析に応用することができる。さらに、システム
や機器の相互接続や乗り換えが安易にできるよ
うになり、メリットは甚大である。このように
大改革につながる施策もないわけではない。し
かし、既存の枠組みに比べると割り当てられて
いる予算も小さく、可能性は決して高くない。
小さな変化が大きな改革へつながるか注視した
い。
第一の矢
大胆な金融政策
第二の矢
機動的な財政政策
第三の矢
民間投資を喚起する成長戦略
希望を生み出す強い経済 夢を紡ぐ子育て支援 安心につながる社会保障
藤井将志 特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長
ふじい・まさし◎早稲田大学政治経済学部を2006年に卒業。病院向け経
営コンサルティング会社である(株)アイテック、(株)MMオフィスを経て、12年
度から沖縄県立中部病院・経営アドバイザーとして病院経営支援を行なう。
診療報酬を駆使した収益増、医療機器等の費用削減、業務効率化に携わ
る。15年度から特定医療法人谷田会・谷田病院の事務部長として着任する
図 アベノミクス三本の矢(上)と新三本の矢(下)
(C) 2016 日本医療企画.

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  • 1. 92 ヒューマンニュートリション 2016. No.39 第1ステージの検証 アベノミクス第2ステージの“三本の矢”とし て、①希望を生み出す強い経済、②夢を紡ぐ子 育て支援、③安心につながる社会保障、の3項 目が掲げられた。具体的な数値目標として、14 年度に490兆円だったGDP(国内総生産)を600 兆円とすること、現在1.4程度の出生率を1.8 まで回復させること、家族らの介護を理由に退 職せざるを得ない介護離職をゼロにすること、 とした。最優先課題として、医療・介護分野に 影響する課題が取り上げられたことになる。 そもそもアベノミクスとは、2012年に第2次 安倍内閣が発足した際に掲げられた一連の経済 政策を総称して呼ばれている。当初の三本の矢 は①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③ 民間投資を喚起する成長戦略、である(図)。こ の三本の矢が放たれ、賛否両論はあるが、ある 程度成果が出たとされ、次のステージの目標が 掲げられた。 なお、第1ステージの成果としては、GDPが 成長した、株価が倍増した、有効求人倍率が高 水準となった、過去最高の外国人訪日を達成、 などが挙げられている。医療・介護分野につい ては、一部具体的な内容で方針が示されたが、 それほど大きな成果が挙がったとは言いにく い。 たとえば、三本の矢の一つである成長戦略と して「日本版NIHの創設や先進医療の対象拡大、 一般用医薬品のインターネット販売の解禁、医 療・介護・予防の ICT 化の徹底」などが掲げ られていた。日本版NIHはモデルとされてい る米国のNIH(National Institutes of Health: 米国国立衛生研究所)とは比にならないような 小粒な議論となっている。先進医療の拡大も当 初示されていた大きな話ではなく、一部の医療 機関での導入で、実質は既存の先進医療制度の 延長上でしかない。薬のネット販売は規制緩和 されたが、一部対象外の品目が残されている。 ICT化についてはマイナンバーと絡めて、ま だ実現には至っていない。ほかにも、規制緩和 で敷地内門前薬局や在宅医療専門診療所などで The Point of View 制度を読み解くキーワード 第2ステージに移った “三本の矢”戦略 医療・介護分野が最優先課題に 藤井将志 特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長 自民党は9月24日、党本部で両院議員総会を開き、安倍晋三首相の総裁再選を正式に決めた。 首相はこれを受けて党本部で記者会見し「アベノミクスは第2ステージに移る」と経済最優先の政 権運営を進める考えを表明した。 © chris - Fotolia.com (C) 2016 日本医療企画.
  • 2. 2016. No.39 ヒューマンニュートリション 93 影響は出ているが、“大改革”につながるような 話ではない。しかし、成長戦略に盛り込まれる ことで、これまでなかなか動かなかった混合診 療や各種規制について見直しが実施されること は事実である。第2ステージでは医療・介護に 関する目標が前面に出たことで、より強力に推 進されることが考えられる。 第2ステージは期待できるのか 最初の三本の矢で経済的な課題解決を実施 し、続く新三本の矢では社会保障の充実など生 活の質に視点が向けられた。企業の経営改革で もよく使われるような順番で、まずは止血術を して赤字を止め、次に質的な側面を高めていき、 抜本的に改革する、という順序である。新三本 の矢で何か新しいことが始まるのか、というと そうではなさそうだ。実は最初の三本の矢の時 点でいろいろな施策が示されており、今回の第 2ステージでは社会保障などに関連する項目の 優先順位を上げる、といった感じである。 たとえば、「介護離職ゼロ」に関する施策とし ては、介護職員の確保や、要介護者の受け皿に なる介護施設の増加策が挙げられている。具体 的には「地域医療介護総合確保基金」の活用とい うことになる。同基金で新設する介護施設の整 備事業費と人材確保事業に予算がついており、 都道府県を通じて助成させることになる。箱モ ノについては補助金が出れば次々につくられる だろうが、人的資源についてはすぐに増えるこ とにはならないだろう。同基金についても第1 ステージから進められている施策であり、新た な施策が打ち出されるというより、既存の枠組 みをさらに加速する、というのが今回の新たな 矢の中身である。 つまり、施策の多くは既存の枠組みの中で展 開される内容となるが、抜本的な変革につなが る可能性を秘めているものもある。たとえば、 先の介護人材については外国人の活用について も検討が進められている。中途半端な少子化対 策で人口を維持する見通しが見えてこない状況 では、外国人人材の確保でGDP600兆円の目 標を達成せざるを得ない、という話になれば、 外国人活用に関する施策がどんどん進む可能性 もある。また、ヘルスケアポイントなど医療予 防事業についても、既存の医療保険とは違う枠 組みで施策が動き出している。成果が出だして、 診療報酬で評価されることになると画期的な変 化となる。 そのほかに、医療のICT化についてもさま ざまな施策が提示されている。その多くは既存 の電子カルテシステムなどのシステムにお金を 補助して普及させる、といった類である。しか し本来、公が推進しないとならないのは、現状 でメーカーやシステム間でデータ構造がバラバ ラで紐づけができないものを統一化する方針を 示すことであろう。それが実現すればビッグデ ータがいろいろと結び付けられ、さまざまな分 析に応用することができる。さらに、システム や機器の相互接続や乗り換えが安易にできるよ うになり、メリットは甚大である。このように 大改革につながる施策もないわけではない。し かし、既存の枠組みに比べると割り当てられて いる予算も小さく、可能性は決して高くない。 小さな変化が大きな改革へつながるか注視した い。 第一の矢 大胆な金融政策 第二の矢 機動的な財政政策 第三の矢 民間投資を喚起する成長戦略 希望を生み出す強い経済 夢を紡ぐ子育て支援 安心につながる社会保障 藤井将志 特定医療法人谷田会 谷田病院 事務部長 ふじい・まさし◎早稲田大学政治経済学部を2006年に卒業。病院向け経 営コンサルティング会社である(株)アイテック、(株)MMオフィスを経て、12年 度から沖縄県立中部病院・経営アドバイザーとして病院経営支援を行なう。 診療報酬を駆使した収益増、医療機器等の費用削減、業務効率化に携わ る。15年度から特定医療法人谷田会・谷田病院の事務部長として着任する 図 アベノミクス三本の矢(上)と新三本の矢(下) (C) 2016 日本医療企画.