日本医療企画ヘルスケア・レストラン

1. 47 ヘルスケア・レストラン 2015.7 2015.7 ヘルスケア・レストラン 46
安倍晋三首相は5月21日、東京都内
で講演し、アジア向けインフラ投融資の
強化策を表明した。日本が最大の出資国
であるアジア開発銀行（ADB）と連携
し、今後５年間で従来より約３割増の総
額約1,100億ドル（約13兆3,000億円）
を投じる。
アジアの経済成長が著しいと言われて
久しく経つ。直近でも2015年に5.6%、
16年も5.5%と堅調な成長が予想され
ている（国際通貨基金発表）。しかし、国
別の人口1人当たり国内総生産（GDP）
をみると、先進国の10分の1以下の国
も多い。まだまだ、発展の余地が残され
ていると言えよう。
経済成長の大きな要素の一つが道路
や建物などのインフラ整備である。インフ
ラ整備そのものが経済活性化につながる
だけでなく、できたインフラを活用すること
で、さらに経済が成長する。こうしたイン
フラ整備について各国の国内資金で対
応はしているが、外国からの資金で整備
していく枠組みも広がっている。その一
つが日本やアメリカが中心に運営してきた
ADBである。数年前までアジア最大の
経済大国として日本は同銀行に最大の出
資をしてきた経緯がある。
その一方で、近年台頭してきた中国が
主導して設立したのがアジアインフラ投
資銀行（AIIB）である。イギリス、ドイ
ツをはじめとするヨーロッパ諸国も参加
をしているが、日本やアメリカは参加を
見合わせている。ガバナンスが明確では
ない、出資の透明性に欠ける、といった
ことが不参加の理由とされるが「自社
（ADB）のライバル会社に出資できる
か」という話であろう。
こうした国際機構だけでなく、日本には
国内に国際協力銀行（JBIC ）や国際協
力機構（JICA ）といった国際投資の仕組
みがある。さまざまな主体が切磋琢磨し
て、アジア諸国のインフラ整備に知恵と資
金を投下することは望ましいことであろう。
筆者もこれまでに日本がインフラ整備
の支援をしてきた国々を訪れたことがあ
る。そこでよく言われたのが「日本は地
域の人たちに還元するようにインフラを
整備してくれている」といったことだ。
よく比較されるのが中国のやり方で、イ
ンフラを整備するがそのインフラをもと
に「華僑（海外でビジネス展開する中国
人）が儲けている」という。確かに、きれ
いに整備された道路のわきにある商店で
は、中華系の人が経営している店が多か
ったのを覚えている。
1980年代後半から拡大してきた日本
の海外投資も、当初は箱モノだけつくっ
て、運営する仕組みを考えていない、な
どと不評を買った時期もある。その後、
ケースによっては建てたあとの仕組みづ
くりまで介入するなど、試行錯誤を繰り
返してきた。その結果、多くの国で感謝
されるようなインフラ整備ができてきた
と言えよう。
医療も含めて日本には世界に誇れるイ
ンフラ（ハードとソフトの仕組み）があ
る。単にお金だけでなく、こうした英知
を合わせて提供することで、アジアの発
展に寄与できるであろう。
政府は5月21日、司法試験の合格者
数を年間1500人以上とする案をまと
め、これにより司法制度改革で3000人
程度とされた目標が半減することにな
った。法律のプロの活動領域が想定よ
りも広がらず、「弁護士余り」による質
の低下が懸念される現状を以下では踏
まえた。
年間3000人弁護士を輩出するという
目標を政府が立てたのが2002年。旧来
の司法試験は06年に改められて、法科
大学院で学ぶことが弁護士になる方法と
なった。毎年3000人の目標までは達し
ないものの、毎年順調に数が増えて01
年に約１万8000人だった弁護士数は15
年に約３万6000人と倍増した。政府も
ここまでは想定の範囲であったが、誤算
は増えた弁護士の“活躍の場”が比例して
増えなかったことである。
弁護士の主たる仕事は裁判である。最
高裁によると、全国の裁判所が扱った刑
事事件や民事訴訟などの総数は03年の
約611万件をピークとして減少基調にあ
る。13年は約361万件とピークに比べ
て4割も減少している。弁護士数が倍増
して、裁判数が半減しているのであるか
ら、人余りは鮮明であろう。結果として、
医師と並んで高年収の代表格であった弁
護士も、14年の新人弁護士の３割が年
額所得400万円未満になったとされる
（日本弁護士連合会調査）。
こうしたことから、年間の目標を
1500人へと半減させたという。そうは
言っても、過去10年で育成された人材
が経験を積んでベテランクラスとなり活
躍する時期が続く。しばらくは弁護士余
りが続くであろう。市場の需給ではなく、
政府のさじ加減で人材供給を掌握する難
しさがわかる事例である。
さて、ここで視点を医師数に転じて
考えてみたい。毎年輩出される医師数
は医学部の定員で決まり、その数も弁
護士と同じように政府が決めている。医
学部が各都道府県に設立された1980年
までは毎年のように増える時代が続き、
ピーク時は毎年8280人の定数枠があっ
た。しかし、80～90年代にかけては医
師が過剰にならないようにと削減され
る方針で2000年代前半までは7625人に
抑えられてきた。しかし、医師不足や
地域医療の崩壊が叫ばれるようになっ
た08年から方針が転換され、毎年のよ
うに増えていき、15年には9135人で過
去最高となった。
こうして急増している医師数ではある
が、弁護士と違うのは需要である患者数
も高齢化に伴い増えていることである。
そのため、いまだに医師が充足してきた
という声を聞く地域は少ない。
しかし、日本の人口は2000年代中頃
に頭打ちしており、医療需要の源泉であ
る65歳以上の人口も45～50年にはピー
クに達すると推定されている。つまり、
あと35年もすると需要も減少し始める
可能性がある。医学部での教育期間が6
年、その後前期研修が2年、後期研修が
3年程度、さらに専門医となるためには
専門研修が必要など数年かかる。専門医
としてある程度キャリアのある医師にな
るまで、医学部入学から15～20年程度
かかる。この時間差を考慮した計画を立
てる必要があるだろう。
もちろん、これから団塊世代の医師が
リタイアしだしたり、医療分野の専門特
化が進みニーズが増えたりすることも考
えられる。しかし、いつまでも供給不足
が続くわけではないことは確かだ。上手
なかじ取りをしないと法曹界の二の舞に
なりかねない。
〈第58回〉
ふじい・まさし◎早稲田大学政
治経済学部を2006年に卒業。
病院向け経営コンサルティング
会社である㈱アイテック、㈱
MMオフィスを経て、12年度か
ら沖縄県立中部病院・経営ア
ドバイザーとして病院経営支援
を行う。診療報酬を駆使した収
益増、医療機器等の費用削
減、業務効率化に携わる。15
年度から特定医療法人谷田
会・谷田病院の事務部長とし
て着任する
Explanation
供給不足やニーズ増を見極めた
人材供給が必須
Explanation
日本が手がける
世界に誇れるインフラ
News One
1,100億ドルを投資
News Two
弁護士余りと医師不足
政府は海外へインフラ投融資を強化していくとした一方で、弁護士の削減も提案。
いずれも医療業界には関係ないようで、つながりはあるものだ。
藤
井
将
志
特
定
医
療
法
人
谷
田
会
谷
田
病
院
事
務
部
長
目
先
の
動
き
や
メ
リ
ッ
ト
だ
け
で
は
な
く
大
局
的
な
流
れ
を
見
る
必
要
性
(C) 2015 日本医療企画.