(ニュース)
衆議院の議員定数を10削減するとともに、1票の格差の是正に向け、4年後の国勢調査に基づいて「アダムズ方式」と呼ばれる計算式で都道府県ごとの小選挙区の数を見直すなどとした法律が、5月20日の参議院本会議で可決・成立した。
(解説)
ある1000人の集団の代表者が1名、別の集団は100人しかいないのに同じ1名の代表者。それら代表者によって、それぞれの集団のさまざまなことが決まるとしたら、1000人の集団は不平等さを感じるでしょう。それなら単純に集団の人数に比例させて、100人の代表者は1名のままで、1000人の代表者は10名にしたらどうか。より平等になった気がするだろう。
しかし、この集団に特性を持たせたらどうでしょうか。例えば、病院の組織に置き換えてみて、看護部1000人の代表者を10名、リハビリテーション部100人の代表者を1名、栄養科などその他のコメディカルは合わせて100人で1名、医局100名、事務100名も代表者はそれぞれ1名、それらの14人の代表者で病院の運営を決める。なんてことになったら、きっと看護部の意見で全てが決まってしまいかねないと、懸念されることでしょう。
日本の人口も都心部と地方で偏在しており、人口比例にすると同じような問題が生じる。東京の人口は1335万人(2014年5月)で日本の人口1.273億人の約1割を占めている。隣接する神奈川県(912万人)埼玉県(726万人)千葉県(622万人)を含めると総人口の3割弱を占めてしまう。そこに大阪・神戸、愛知、福岡といった地方でも人口が群を抜いている大都市圏で総人口の半数を占める。その他の地域は見向きもされない規模となる。これで、日本のことを決めていっていいのでしょうか。
一票の格差が生じることと、人口が少ない地域の意見が反映されにくくなること、という大きく分けて2つの問題に対して検討がなされ、6年後の2022年以降に導入される制度が決定した。端的に言うと、衆議院の議席数を人口比に近い形で配分されるようになり、一票の格差が小さくなる。単純に人口に比例させるだけではなく、人口が少ないところは地域を合わせて代表者を出す、という仕組みも導入する。例えば、鳥取と島根、徳島と高知、などである。個別だと人口が少なすぎるので、合わせてしまって代表者を選出する、という考え方である。しかし、地域ごとに経済状況や歴史、文化が異なるのに、他県の候補者を代表者とすることへの抵抗感は残る。
医療政策においても「都市部ばかり目が向いており、地方の現状が分かっていない」という話はよく聞かれる。しかし、全体で見ると都市部の問題が医療の大きな問題になっていることも事実である。逆の言い方をすると、都市部の医療の問題が解決すると、日本の医療の問題の多くが改善することも間違えない。こうした結果、地方よりも都市部に目線がいってしまう。結局のところ、都市部の問題も地方の問題も対応していかなければならず、幅広い範囲で制度改革が行われることとなる。今後、場合によっては都市部と地方とで診療報酬のあり方も変えていく必要もあるかもしれない。1000戸を超える1つのタワーマンション群と1000世帯の地方町村が同じルールというわけにもいかないだろう。
(ニュース)
東京・兜町などの証券街で長らく営業してきた中堅・中小証券が苦境にある。「地場証券」と呼ばれる各社は自前のお金を運用する自己売買で利ざやを稼いできた。ところが証券取引の高速化が進み、人の目と手では太刀打ちできなくなりつつある。
(解説)
証券取引の高速化、と言っても、株式投資などをしていない人にとってはよく分からない話であろう。簡単にいうと、これまで人間が株式の売買を指示していたのが、最近は自動化されており、システムが売買するようになっている。さらに、その注文の間隔が数秒という単位から1000分の1秒という人間業ではない領域になっている。こうしたことを背景に一昔前には花型とされていた証券会社のディーラー部門が次々に閉鎖されているという。例えば、極東証券という会社では、全盛期には1人で1億円を稼ぐディーラーを何人も抱えていたが、今年の3月末にディーリング部を大幅に縮小した。この“全盛期”という時期が何十年も前の話ではなく、リーマンショック後(2008年)の話なのだから、ここ5,6年のことである。たった数年で花型部門が縮小や削減の対象になってしまった、というわけである。
少し前になるが野村総合研究所が15年12月に発表した研究レポートでは「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」なると予測されている。この研究のおおもとになっているのは英オックスフォード大学のオズボーン准教授の研究であり、その米国でのランキングでは小売店販売員、会計士、一般事務員の順で、機械が職を奪うと予測された。消えゆく対象職種に証券会社のディーラーという分類はなかったが、実際にコンピュータに代替されてしまっている。
こうした職種が今後ますます増えていくことが考えられる。想像しやすい職業でいうと、商店のレジ打ち(同ランキング7位)は大型スーパーにセルフレジがあるのが普通になっているので、将来はセフレジが人対応のレジと逆転してもおかしくない。コールセンターの案内係(11位)は日本でもスーパーコンピュータが電話対応をする準備をいくつかの金融機関が始めている。タクシーの運転手(12位)も、自動運転技術がここ数年で急速に発展しており、市場に出回るのも時間の問題となっている現状から、無くなるのが想像に固くない。
病院運営に関する職種で、人工知能やロボット等による代替可能性が高い職種に挙げられているのが、医療事務員、給食調理人、警備員、診療情報管理士、などである。リストになくても人工知能が治療方針をアドバイスしたり、放射線画像を読影したりといった、これまで考えてもいなかった領域の実験も進んでいる。医療の場合は法律が絡んでくるので、証券ディーラーのように数年で激変するようなことは考えにくい。しかし、10年などの時間軸で考えると変わっていくことは確かであろう。少し先の未来を想像しながら、日々の業務に取り組んでいきたい。