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49 ヘルスケア・レストラン 2016.1 2016.1 ヘルスケア・レストラン 48
政府は2015年10月22日、投資や知的
財産など環太平洋経済連携協定(TPP)
全31分野の詳細を公表した。日米など参
加する12カ国は、政府などによる公共調
達の市場を互いに開放するなど、域内の
投資ルールに共通の原則を設ける。
本稿でTPPをテーマとして取り上げる
のは今回で3度目になる。初めて取り上げ
たのが2010年11月なので、かれこれ5
年が経過したことになる。その間に政権
も民主党から自民党へと変わり、首相も
安倍晋三首相で3人目である。これだけ
の月日をかけて、ようやく決着しそうだ。
協定の締結により私たちの生活に最も
影響があるのは関税の撤廃である。国内
の産業を保護する目的で日本に限らず世
界中の国で、外国の製品を輸入する際は
税金をかけている。たとえば、日本に輸
入する牛肉には現在38. 5%の関税がかけ
られている。つまり、1, 385円の輸入牛
肉を買った場合、そのうち1, 000円分が
牛肉、385円分は税金による費用といえる。
こうした関税を全貿易品目(9018品目)の
うち95 .1%について、最終的に撤廃する
こととなった。先の牛肉の例でいうと、段
階的に削減され、16年経過すると9 %に
なる。これにより輸入牛肉が大幅に安くな
る可能性がある。
輸入したものだけではなく、日本から
輸出するものにも相手国の関税がかけら
れており、それも撤廃に向けて協定に盛
り込まれている。たとえば、現在はベト
ナムに輸出される乗用車は83 %もの関
税がかけられており、同じ車でも日本で
売る場合のほぼ倍の値段となってしま
う。それが13 年目に撤廃されることと
なる。現地の人からすると13年後には
日本車が8割引きで買えるのであるから、
価格破壊が起こるようなものであろう。
TPPの中には関税に関すること以外に
も、ビジネス関係者が外国で一時的に滞
在する期間の延長や金融機関やコンビニ
の参入規制の緩和など、ビジネスを外国
で展開する際の規制緩和が盛り込まれて
いる。医療に直接関係することといえば、
医薬品の特許による保護期間が8年間と
なったことであろう。メガファーマ(巨大製
薬企業)を多く抱える米国は、特許期間が
長いほうが有利であり、12年間を求めて
いたが、最終的には8年間で決着した。
今後は新薬の発売後、より短期間で後発
品を販売することができる可能性が高い。
そのほか、医療や介護、福祉、保険に関
する直接的な内容は含まれてはいない。
さて、視点をTPPという言葉が初め
てニュースに登場した5年前にさかのぼ
ってみる。TPPを批准すると、国民皆保
険が崩壊する、株式会社による病院経営
が認められる、混合診療の解禁が要求さ
れる、なんてことが叫ばれた。医療の専
門誌でもTPPは医療業界への黒船のよ
うに書き立てられていた。この間に行な
われた選挙の際にも、TPP批准は医療崩
壊へとつながるから断固反対、のような
スローガンを掲げた候補者も散見され
た。振り返ると、いかに本筋からずれて
いる議論だったかがわかるであろう。
TPPの根幹はあくまで貿易品の輸出入関
税の撤廃にむけた協定なのだ。出来事の
枝葉末節に振り回されるのではなく、大
局を見極める目を持っていきたい。
病気へのかかりやすさや体質などを判
定する消費者向けの遺伝子検査ビジネス
を手掛ける企業でつくる個人遺伝情報取
扱協議会(CPIGI)が、一定の基準を満
たした業者を自主的に認定する制度を創
設し、2015年10月26日から認定申請の
受け付けを始めた。検査への信頼性を高
める狙いがあり、16年3月に第1陣の
認定企業を公表する予定だ。
ヤフーやDeNAといった医療業界と
は結びつかないような企業が遺伝子検査
を手掛け始めている。実際に「ヤフーヘ
ルスケア」というサイトを見てみると、
遺伝子検査キットを購入するページがす
ぐに見つかる。送られてくるキットで唾
液を採取して返送するだけで約290項目
が解析されるようだ。項目の内容として
は2型糖尿病や関節リウマチといった健
康リスクから、95歳以上まで生きる可
能性や痛みの感じやすさといった体質に
かかわることまでわかるとか。近年の遺
伝子に関する研究の進歩で、この種のサ
ービスが新しく生まれてきている。
解析の結果は確定診断を下すものでは
なく、同じ遺伝子の型を持つ集団の病気
のリスクを比較して予測するものであ
る。具体的にはAさんの遺伝子検査の
結果は、2型糖尿病となるリスクが日本
人の平均に比べて○倍となっている、
といった内容となる。現時点でその病気
になっているわけではないので、健診の
採血検査の結果のように異常値が出てい
るので要精査が必要、というのとも異な
る位置づけの検査となる。こうした性質
から、医療機関や医療業界で積極的に提
供するサービスではなく、民間企業が医
療とは異なるアプローチで販売している
のが現状である。
そうなると、誰もが自由に遺伝子検査
を販売することができ、検査の質を担保
することが難しくなる。いい加減なサー
ビスが横行すると、きちんとした基準を
もとに提供しているサービスまで評判を
落とすことになりかねない。そこで、関
連団体からなる個人遺伝情報取扱協議会
というNPO法人が認定制度を開始した。
そもそも、この団体自体が公的なもので
はなく、理事長はヤフーに所属しており、
そのほかの理事や監事もすべて関連する
民間企業に所属している職員である。自
分で自分を認定するという域は脱しない
が、野放図状態よりはましだろう。
審査委員には法医学の専門家、法律・
倫理、分子疫学、情報セキュリティー
などの専門家に消費者代表が加わるよ
うだ。しかし、いわゆる医療業界で提
供されている薬剤、診療材料、医療機
器のような治験の実施や厳しい審査基
準があるわけではない。現時点では民
間のヘルスサービスの域を超えるもの
ではなかろう。
近年、ヘルスバンドなど健康に関する
情報を収集する領域にもIT企業が中心
に進出してきている。遺伝子検査キット
も含めて、医療保険外の自費サービスで
あるため比較的自由にサービスを展開す
ることができる。こうしたもののほとん
どは、医療で提供されているものに比べ
信ぴょう性の点で劣っている。しかし、
世界中で急速に、かつ膨大な量の関連デ
ータが収集することができる。集まって
きたビッグデータの解析が進むことで、
医療に匹敵するような信頼性を担保する
ことができるかもしれない。病院で1時
間待って3分の診療を受けるより、精度
の高い個別のアドバイスをヤフーの画面
で受ける方が、的を射た指摘を受けられ、
健康を維持するための行動変容に結びつ
く、なんて日が来るかもしれない。
〈第64回〉
ふじい・まさし◎早稲田大学政
治経済学部を2006年に卒業。
病院向け経営コンサルティング
会社である㈱アイテック、㈱
MMオフィスを経て、12年度か
ら沖縄県立中部病院・経営ア
ドバイザーとして病院経営支援
を行なう。診療報酬を駆使した
収益増、医療機器等の費用削
減、業務効率化に携わる。15
年度から特定医療法人谷田
会・谷田病院の事務部長とし
て着任する
Explanation
医療業界外から始まる
遺伝子ビジネス
Explanation
あれから5年
TPPの本質とは何か
News One
輸入牛肉が安くなる!?
News Two
遺伝子検査の認定制度
TPPや遺伝子ビジネスなど、これまでにない動きが出ている。
新年を迎え、何が起こっているのか再確認しよう。
藤
井
将
志
特
定
医
療
法
人
谷
田
会
谷
田
病
院
事
務
部
長
大
局
を
見
据
え
な
が
ら
新
し
い
一
歩
を
踏
み
出
す
(C) 2016 日本医療企画.

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