「日本におけるオープンデータ」
の系譜学に向けて
庄司 昌彦 Masahiko Shoji
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM) 准教授
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問題意識
• 情報化の進展と(地域)社会の関わりを考えるとき、また情報社会研究や地
域情報化研究、電子行政の研究にとって、オープンデータ関連の動向はどの
ように位置づけることができるか。
• 「オープンデータ」「オープンガバメント」は2009年以降に輸入された概念であり、
政策や市民の活動も米国等の動向に追随することも少なくない。そのため「日本は
遅れている」「日本にはまだ根付いていない」「一過性である」「一過性のブーム
で終わらせてはいけない(三木2014)」などと評価されることがある。
• 遅れは確かにあり、行政機関が国民・民間企業との協力にそれほど積極的で
はないという面も確かにある。
• しかし関連する取組みが存在しているにもかかわらず、これらと現在の動向
の関連付けが弱いために現在起きている事象の理解が遅れていたり、議論が
深まっていなかったりする面が存在するのではないか。
• 本研究はその様な問題意識から、現在の「オープンデータ」や「オープンガ
バメント」をめぐる取り組みや議論・研究と、日本におけるこれまでの取り
組みや諸分野の研究とをこれまで以上に関連づけていくことを提案する。
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オープンデータの系譜学に向けて
• Jonathan Gray
– Open Knowledge
政策・研究ディレクター
– ロンドン大学 ロイヤルホロウェイ
• 3つのアプローチ
– 歴史的:オープンデータの系譜学
– 経験的:オープンデータの社会学
– 理論的:オープンデータの規範分析
Gray, Jonathan. “Towards a Genealogy of Open Data”
http://www.slideshare.net/jwyg/towards-a-genealogy-of-open-data
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By Jonathan Gay, CC-BY-SA
GreyのResearch Questions
• オープンデータのアイディアはどこから来たのか?
• どのように今日の多様な意味体系を形成したか?
• 誰がどう、何のためにコンセプトを用いているか?
• オープンデータのコンセプトは、透明性、説明責任、
民主主義、正義、市民社会と国家について理論化する
広範な試みにどんな役割を果たしているか?
• それが民主政治に何をもたらすのか?
Gray, Jonathan. “Towards a Genealogy of Open Data”
http://www.slideshare.net/jwyg/towards-a-genealogy-of-open-data
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5つのスレッドの提案
• 公共部門の情報、オープンデータと経済成長
– 1990年代-2000年代初頭のPSI政策議論、地理空間情報 等
• イノベーション、見えざる手、プラットフォームとしての政府
– 米国政府(2003)、O’Reily(2010)、Steinbergほか(2007) 等
• 透明性、効率性、公共部門改革とネオリベラリズム
– クリントン・ゴア政権”Reinventing Government”プログラム 等
• オープンソース、オープンアクセスとシビックハッキング
– 地理空間情報、オープンストリートマップ 等
• アドボカシーとジャーナリズムのためのオープンデータ
Gray, Jonathan. “Towards a Genealogy of Open Data”
http://www.slideshare.net/jwyg/towards-a-genealogy-of-open-data
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1. 公共部門の情報、
オープンデータと経済成長
• 1990年代から2000年代初頭に欧米の政府や国際機関を中心として
進んだ公共部門情報の再利用の議論、特に地理空間情報等に関する
議論
• EU:2003年に公共部門情報を営利利用も含め広く再利用に供する
ことを定めた、PSI(Public Sector Information)指令
• 2013年大規模改訂:無償での提供や機械が読める形式での提供な
ど、米国のオープンデータ動向を反映した内容
• Graham Vickeryの試算(2011年):EU圏内の公共データ活用
サービスの市場規模は年間280億ユーロ(約3.8兆円)。
経済波及効果は約1400億ユーロ(約19兆円)
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1. 公共部門の情報、
オープンデータと経済成長
• 2007年に地理空間情報活用推進基本法を定め、いちはやく地理空
間情報の官民での積極的な活用に取り組んできた。
• 2008年のOECD勧告とソウルで行われた閣僚級会合の合意文書
– 公共部門情報の再利用について不要な制限を廃し、公開することで再
利用を促すことができるようにする、という方針
• 「電子行政オープンデータ戦略」による本格化(2012年)
– 2011年の東日本大震災発生時の課題
– 震災復興のための成長戦略
• 2013年G8サミット(主要8か国首脳会議)オープンデータ憲章
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2.イノベーション、見えざる手、
プラットフォームとしての政府
• 政府が広範なイノベーションの基盤や素材提供になるべき
という議論
– 米国政府による気象データの開放
– ティム・オライリー「プラットフォームとしての政府」
• 英国の先進性
– 「Power of Information Review」レポートSteinbergほか(2007)
– 米国よりも早く政府主催の公共データ活用アプリコンテスト
「Show Us A Better Way」を開催
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2.イノベーション、見えざる手、
プラットフォームとしての政府
• 政府保有の統計データの利用促進
– 2007年に統計法の60年ぶりの抜本改正
– 集計の特注(オーダーメード集計)、匿名データの提供
– ただし「学術研究・高等教育の発展に資する場合」等に限定
• 経済産業省
– 電力会社からの電力需給状況データや計画停電情報のオープンデータ提供
– 節電スマートフォンアプリコンテスト
– Open Data METI(2013年)クリエイティブ・コモンズライセンス本格採用
• 政府全体のデータカタログサイト「DATA.GO.JP」
– 2013年12月にβ版開設、2014年本格版へと移行
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3.透明性、効率性、公共部門改革と
ネオリベラリズム
• 米国クリントン政権、英国「ニューパブリックマネジメント」
– 政府活動を定量的に把握し効率化等を進める
– オープンデータの推進による政府自身の効率化やコスト削減の効果
• 英国キャメロン政権「大きな社会」推進
– 公共機関が施策活用していたデータを民間に提供し社会活動に役立てる
• 国際組織「オープンガバメント・パートナーシップ(OGP)」
– 2010年に米国、英国、ブラジル、インドネシア、メキシコなど8か国で結成
– 2015年7月現在、 65ヶ国が参加
– ドイツと日本は不参加
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3.透明性、効率性、公共部門改革と
ネオリベラリズム
• 政府の取組みとしては経済活性化よりも重要度は低い
• 情報通信技術を活用した政府機能の向上や効率化
– 2001年のE-JAPAN戦略以来、常に政府のIT戦略の重要
テーマ
– 総務省の2012年版「情報通信白書」:主要な国際指標に
おける日本の評価が高くない原因のひとつ
• 地方自治体
– 人口減少時代の社会課題対応に問題意識
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4.オープンソース、オープンアクセ
スとシビックハッキング
• オープンソースの地理空間ソフトウェアのコミュニティや、
オープンアクセス・フリー/オープンソフトウェア運動の強
い影響
• ティム・バーナーズ=リーとコミュニティ型オープンデータ
「運動」
• e-democracy志向アクティビスト
– 英国mySociety 「FixMyStreet」
– 米国サンライト財団
• Code for Americaなどの「シビックハッカー」
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4.オープンソース、オープンアクセ
スとシビックハッキング
• オープンデータ「運動」
– 日本は世界の中でも有数の活発さ
– オープンナレッジジャパンや、リンクト・オープン・データ・
イニシアティブ、コード・フォー・ジャパンといった自発的な
中間支援団体
– Linked Open Data Challengeやアーバンデータチャレンジ、
マッシュアップアワードといった民間主導のコンテスト
– インターナショナルオープンデータデイ最多会場
– 「税金はどこへ行った?/Where Does My Money Go?」最多
• 2007年地理空間情報活用推進基本法以降、オープンソースの
地理空間ソフトウェアのコミュニティが育っていた
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5.アドボカシーとジャーナリズムの
ためのオープンデータ
• データジャーナリズム(データドリブンジャーナリズム)
– オープンデータの入手や、オープンソースの分析・可視化ツー
ル等の利用が容易になったことを背景
– 英国のGuardian等の報道機関がデータ活用に注力
• オープンデータをリサーチやアドボカシーに役立たせている
市民社会組織
– 社会正義に重点
– この議論の先にはジュリアン・アサンジらのWikileaksや、エド
ワード・スノーデンによる機密情報の公開のようなラディカル
な情報開示活動も連なる
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5.アドボカシーとジャーナリズムの
ためのオープンデータ
• データジャーナリズム
– 2013年日本経済新聞「オープンデータ情報ポータ
ル」開設
– 2013年の朝日新聞「ビリオメディア」プロジェクト
による参議院選挙関連のTwittter分析等
– NHKの取り組み
– ハッカソン開催やデータビジュアライゼーションの
活
• 市民社会組織で大きな動きはまだない?
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追加すべきスレッド
• 「地域情報化」
– インターネット以前(1980年代後半~)のパソコン通信の時代に地域
ごとに運営されていた「草の根BBS(Bulletin Board System:電子掲
示板)」にまで遡る
– テーマは物理的整備、地域内企業のデータベース整備や物販サイト運
営など、情報交換や情報提供に推移
– ソーシャルメディアの普及とともに地域SNS等の活用
– 現在のオープンデータ活用と人的つながりあり
– 可視化し、影響関係等を説明した研究はまだないのではないか
• Linked Open Dataに代表される技術研究コミュニティ
– このコミュニティがどのような活動や知識を蓄積し現在につながって
いるかを明らかにしていく必要もある
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参考文献
1) 三木浩平(2014):オープンデータの利活用戦略,『クリエイティブ房総』88号,
pp.8-11.
2) Gray, Jonathan. (2014): “Towards a Genealogy of Open Data”, the General
Conference of the European Consortium for Political Research in Glasgow, 3-6th
September 2014.. Available at SSRN: http://ssrn.com/abstract=2605828
3) 西田亮介・塚越健司(2011), 『統治を創造する 新しい公共/オープンガバメント/
リーク社会』、春秋社。
4)庄司昌彦(2010):オープンガバメントの国内外最新事例 (特集 オープンガバメント)、
『行政&情報システム』46(6), pp18-24.
5)守谷学(2010):開かれた政府を目指すオープンガバメントラボについて(特集 オープ
ンガバメント)、 『行政&情報システム』46(6), pp14-20.
6) Noveck, Beth Simone (2009). Wiki Government: How Technology Can Make
Government Better, Democracy Stronger, and Citizens More Powerful. Brookings
Institution Press.
7) 奥村裕一[2010]「オバマのオープンガバメントの意味するもの」『季刊 政策・経営
研究』Vol.4、三菱UFJリサーチ&コンサルティング
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